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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-78】望まぬ再戦

 月面都市全域に敵味方問わず流されたヨルハの演説は、確かに少なくない月の民の心を突き動かした。

「(……権力争いのことを考えている場合じゃない。首都を守るため今は戦闘に集中しなければ)」

だが、サキモリ部隊を率いるウサミヅキのように、軍人たちの多くは職業倫理に基づき戦い続けるつもりであった。

「隊形を崩すな! 撃ち方始めッ!」

「この戦い方……くそッ、相手を知ってるとこうも戦いづらいとは!」

ウサミヅキのツクヨミ指揮官仕様を先頭とするサキモリ部隊はリリカのνベーゼンドルファーに狙いを絞り、まずは統制の取れた一斉射撃で牽制を試みる。

機体性能は間違い無くリリカの方が上だが、彼女は一時休戦したことがある相手に対し本気を出せないでいた。

「あの機体……地球近海で一時協力してくれた連中か!」

一方のウサミヅキもイタリアンレッドのMFを視認できる交戦距離に入った瞬間、ようやく友軍救出の際に一時協力した相手であることに気付く。

「そこのサキモリのドライバー! お前たちがこれ以上血を流すことをヨルハさんは望んでいない! 投降しろ!」

イノセンス能力により確信を抱いたリリカは、何を思ったのか通信回線をオープンチャンネルに切り替えると、ウサミヅキに向けて突如降伏を呼び掛ける。

「リリカさん!?」

「国家存亡の危機を前に誰か好き好んで投降するものか!」

この突拍子の無い行動に対する敵味方の反応は共に否定的で、レカミエは名前しか出てこないほど驚愕し、ウサミヅキは降伏勧告をハッキリと突っぱねていた。

「はぁ……そうだよな。立場が逆だったら、私も同じことを言う」

今のリリカは明らかに様子がおかしい。

口では(ウサミヅキ)に同意するような正論を述べているにもかかわらず、彼女のνベーゼンドルファーは単独行動を取ろうとしていたのだ。

「リリカ! 気持ちは分かるが、この乱戦で説得は無謀だ!」

妹が荒ぶる理由について一定の理解は示しつつも、現状でそれは困難だとして自重を求めるルナール。

しかし、長女の制止だけではリリカを止めるには至らなかった。

「どうするのよ!?」

「仕方あるまい! 手が掛かる妹のフォローに回るぞ!」

味方側――よりにもよって自分たちの妹の問題行動に慌てるメルリンを落ち着かせ、ルナールはその妹と(はぐ)れないよう編隊を組み直して追従する。

「(彼女は本来優しい気質をしている……しかし、今はそれが悪い方向に出ているな)」

リリカの行動は本来の性格とイノセンス能力が意図せずして増幅し合った一時的なモノ――。

多くの能力者(イノセンティア)と人間関係を持つことで図らずも理解が深まっていたルナールは、妹が冷静さを取り戻すまでサポートに徹するべきだと判断するのだった。


「隊長! 敵部隊が接近してきます!」

「降伏勧告に従わなかったから、力尽くで押さえるつもりというわけか!」

単機突出したνベーゼンドルファーを先頭とする敵部隊の接近を僚機から告げられ、一見すると矛盾に満ちた行為に眉をひそめるウサミヅキ。

「各機、散開し自由戦闘へ移行! ただし単独戦闘は禁じる! 一騎討ちで勝てる相手ではない!」

それでも彼女は冷静に僚機たちへ指示を飛ばし、散開する前に2機1組での連携を周知徹底させておく。

「2番機は私の直掩に入れ!」

「了解!」

ウサミヅキは最も信頼を置いている2番機に直掩を任せ、機体性能で勝る相手とのドッグファイトに備えるが……。

「この戦いが無益だとなぜ分からない!?」

「速い!? 本気で狙われてたらやられてた……!」

先手を打ったのはリリカのνベーゼンドルファーだった。

あくまでも説得を試みようとするイタリアンレッドのMFの攻撃は威嚇射撃にすぎなかったが、ミリ単位での"手加減"とすれ違いざまのスピードはウサミヅキ隊のエイシを怯ませるのに必要十分な内容といえた。

「私たちの戦いは無駄じゃない! お前たちの侵略から祖国を守るためならば……!」

自分たちが繰り広げている戦いの意義を叫びつつ、ウサミヅキは格上の相手を恐れること無く連射攻撃を仕掛ける。

「それは違う……! 我々はただ、この戦争を終わらせに来ただけなんだ!」

本来ならば容易にかわせる蒼い光弾をあえて実体シールドで全て受け流し、"戦争を終わらせたい"という想いを必死に伝えようとするリリカ。

「じゃあ地球で首脳会談を行った時に休戦協定を結べばよかったのに!」

「でもお前たちはこうやって市街地を戦場にしている! 結局、私たちを滅ぼして火事場泥棒をするつもりだろうが!」

しかし、ウサミヅキ隊のエイシたちの答えは数々の罵倒と殺意に満ちた反撃であった。

これでは何をやってもリリカの言葉が受け入れられる可能性は無いだろう。

「リリカ……残念だけど、あちらの人たちの言い分の方が正しそうね」

状況を見て回避運動を取れるだけの理性が残っている妹のカバーに入るメルリンだったが、その指摘はいつもよりも少しだけ冷たかった。


 戦線が徐々にホウライサン中心部へ移動していく中、戦争の狂気がついに月面都市を包み込む。

「こちらシューフィッター、市街地の様子が変だ! 火災範囲が一気に広がった!」

「市街地でか!?」

最初に異変に気付いたのはレカミエだった。

彼女の報告を聞いたルナールがまさかと思い周囲を見渡すと、左手の方角に広がる市街地から火災が原因と考えられる赤黒い煙が上がっていた。

「我々の気を引いているうちに無差別攻撃とは……あの光景がお前たちの本性を表している!」

異常事態の発生を受けウサミヅキもさすがに戦闘を一時中断するが、その声はオープンチャンネルの無線越しでも分かるほど怒りに震えている。

「あそこは……日米中心の多国籍軍が担当している戦域よ!」

嫌な予感を抱いたメルリンはすぐに無線装置の周波数を切り替え、主にアメリカ軍が使用している無線の傍受を試みる。

「...The attack, please focus on a range than accuracy...(――攻撃は正確性よりも範囲を重視せよ――)」

「Destroy all it. Our country was done like that...!(奴らの全てを焼き払え。俺たちの国がそうされたように……!)」

アメリカ軍の通信は英語が使われているので完全な聞き取りは難しいものの、憎悪に満ちた声色と物騒な語句が内容を物語っていた。

「くそッ、くそッ! 憎しみは憎しみを呼ぶだけなんだぞ……!」

無線共有で同じ音声を耳にしたリリカは"余計なことをしてくれた"と言わんばかりに顔をしかめる。

「その憎しみを運んで来た悪魔はお前たちだ!」

「いや、我々は作戦開始前に『軍事施設以外への攻撃は禁じる』と全軍一致で決めた! あの攻撃は作戦内容には含まれていない!」

戦闘行動を再開したウサミヅキのツクヨミからの攻撃をかわしつつ、市街地に対する無差別攻撃は自分たちにとっても想定外だと釈明するルナール。

良識派の軍人であるサビーヌ中将が指揮権を握っているならば、このような非道を認めるはずが無いのだ。

「同じ地球人なら連帯責任を持てよ! 私たちにとってはあんたもあっちのクズ野郎共も、同じ敵の異星人なんだよ!」

もっとも、ウサミヅキ隊のエイシから見たら"地球人の戦争犯罪"という事実に変わりは無い。

「地球人が一枚岩でないことは知っているが……そちらの内部事情は関係無い。あなたたちの同胞の非人道的行為が全てだ」

上官のウサミヅキ自身も地球側の特殊な事情を考慮したうえで、この地で起きている出来事が全てだと吐き捨てる。

「全機、第三十二区の救援へ向かう! 民間人の大半は疎開しているとはいえ、市街地を焼き払う戦争犯罪は見過ごせない!」

組織ぐるみで戦争犯罪を行う集団の仲間には付き合っていられないのだろう。

ウサミヅキは散開行動中の部隊を再集結させると、火元と思われる地区に向けて飛び去って行くのだった。


 状況整理と補給のため、ルナールたちε(エプシロン)小隊は母艦スカーレット・ワルキューレへ一時帰艦する。

「リリカッ!」

機体から降りるや否やルナールはリリカの所へ駆け寄り、真剣な表情で妹の胸倉を乱暴に掴む。

「……すまない」

「謝るぐらいなら、初めから私たちを心配させなければいいだろう」

数秒間の沈黙の(のち)、ヘルメットのバイザーを上げながら一言だけ謝罪の言葉を呟くリリカ。

それを聞いたルナールは妹の胸倉から手を放し、ようやくいつも通りの余裕ある笑みを浮かべる。

「まさか、一時的にとはいえ協力した相手と本気で刃を交えることになるとは……運命とは残酷なモノだな」

戦闘中は冷徹な対応に終始していたが、ウサミヅキとの再戦及び友軍による無差別攻撃の発生はルナールにとっても懸案となっていた。

「姉さん、リリカ! 大変なことになっているみたいよ!」

そして、姉妹の話し合いが落ち着くのを見計らったかのように戻って来たメルリンに急かされ、ルナールたちは格納庫内の搭乗員待機室へと向かう。

「ああ、君たちも戻っていたのか」

彼女が勢い良く待機室のドアを開けると、そこには既に先客――少し前に帰艦していたΔ(デルタ)小隊の面々が集まっていた。

「ルナールさん! これを見てください!」

「こいつは……本当の地獄が開いたかのようだ。先ほど確認した火災はこれが原因らしい」

ミノリカに手を引っ張られ待機室備え付けのテレビモニターの映像を目の当たりにしたルナールは、その光景を単刀直入に"地獄"と形容する。

「チクショウ! やられたらやり返すにしても、限度ってモンがあるだろうが!」

「ワシントンが核の炎に包まれたのは、アメリカンにとっては屈辱以外の何物でもないんだ」

アメリカ軍が主犯格と思われる行き過ぎた報復行為に憤るルミアを宥め、これをするだけの理由が彼らにはあると冷静に諭すリゲル。

「……そして、その責任の一端は私たちスターライガにもある」

レカミエが指摘している通り、不本意ながらアメリカの首都ワシントンD.C.壊滅時に現地にいたのはスターライガチームだ。

「そんなことを言うなよ! そりゃ私たちの力不足は認めるが、あの時一番不甲斐無かったのはアメリカ軍だろ!」

一方、自分自身を責めるような発言にシズハは猛反発し、責任所在は防衛戦に参加しなかったアメリカ軍にあると反論する。

「自国領土の最低限の防衛さえ放棄したうえ、その報復として全く同じことをやり返す連中に同情する必要は無い!」

戦力の最適配分を理由に首都防衛を押し付けた挙句、それに失敗したらSNSやマスメディアによる徹底批判を展開。

そこまでなら甘んじて受け入れられたが、被害者意識に基づく今回の報復行為だけはさすがに擁護できない――。

シズハはそう断言するのであった。

【Tips】

ホウライサンは月面都市の中で最も広大なため、12の"地域"と150以上の"地区"により細かく区分けされている。

ちなみに、栄えある第一区はホウライサン議会議事堂周辺の区画である。

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