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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-76】拮抗する実力者

 あれほどまでに鳴り響いていた銃声が止み、弾痕だらけの特設指令室に不気味な沈黙が訪れる。

「何と言ってるか分からんが、やる気なのは確かなようだな……!」

ルナサリア語による会話をフランシスは完全には理解できない。

ただ、投降を促す交渉が破談したこと――敵が徹底抗戦するつもりであることは分かった。

「あなたたちは手出ししないで! あの女との決着は私が付ける!」

ところが、銃を構え直し臨戦態勢に入った彼女ら保安部員をレンカは制止し、同業者との決着は自分自身で付けると宣言する。

「……了解した。私たちは戦闘不能になった敵兵の武装解除をしておく」

本来ならば無茶をしないよう説得するべきだが、レンカの覚悟を察したフランシスは素直に指示を聞き入れた。

「もし私が負けた時は……後は任せるわよ」

「へッ、嫌だね」

一騎討ちの邪魔にならないよう特設指令室から離脱する直前、レンカは万が一の際の対応をフランシスに託す。

もっとも、ハッキリと拒否するフランシスの表情からは"レンカが負けるわけが無い"という信頼が見て取れた。

「部下との今生の別れは済んだか?」

ルナサリアンゆえの武士道精神なのか、ヤエヅキは外野の撤退を確認してから銃を向ける。

「特殊工作員は常に危険と隣り合わせ――いつ死んでも悔やまない生き方が信条でしょう?」

対するレンカも地球での日々で学んだ騎士道精神に則り、あえて遮蔽物から身をさらけ出し特殊工作員の合言葉を返す。

「その通りだ……全く別の出会い方をしていればな!」

自分と同レベルの同業者の言葉に少しだけ微笑んだ直後、先手を打って"サマ-10 個人防衛火器"のトリガーを引くヤエヅキ。

「どうしたの? あなたが学んだのはそんな大雑把な射撃なのかしら?」

その動きを予測していたレンカは即座に遮蔽物へ身を隠しつつ、特殊工作員の先輩らしい挑発で揺さぶりを仕掛けるのだった。


「先任特殊工作員の射撃技術、見せてあげる!」

射撃が途切れるタイミングを見計らってからレンカは反撃態勢へ移行。

障害物が多く暗い室内という悪条件の中、その宣言に偽り無い正確な射撃でヤエヅキが隠れている場所に至近弾を当てていく。

もう少し条件が良ければ障害物越しにヘッドショットという芸当もできたはずだ。

「サマ-9でこの精度とはやる……! 貴様、狙撃兵課程の修了者か!」

レンカがルナサリアン兵士から奪って使っている"サマ-9 短機関銃"は設計上の問題で振動が激しく、特にフルオート射撃時の命中精度に難がある。

にもかかわらずミリ単位の狙い澄ました射撃でプレッシャーを掛けてくる相手の技量にヤエヅキは危機感を覚えた。

狙撃兵課程とは基礎能力をマスターしたうえで追加修得が認められる専門分野の一つで、狙撃を含めた射撃戦全般のエキスパートのことだ。

「その観察眼は特筆に値するわね……あなたは将校課程選択者と見た!」

一方、レンカも戦闘行動を見ただけで自らの経歴を言い当てたことには感心しており、それができるのは高度な戦況分析を学ぶ将校課程の修了者に違いないと指摘する。

「分析力には自信があるのでな! 貴様の動きは見切らせてもらった!」

「くッ……!」

相手の一挙手一投足から戦闘時の癖を見抜けるヤエヅキの分析力は本物であり、その言葉通りレンカの行動パターンを予測し所謂"置きエイム"で彼女の左肩に至近弾を掠めさせてみせた。

直撃弾でなかったのは残念だが、それでもレンカが痛がる素振りを見せるほどには惜しい一撃だった。

「どうした? 落ち着いて射撃できなければ狙撃兵は弱いか?」

均衡する戦況を自分有利に引き寄せたことで精神的余裕が生まれたのか、先ほど受けた挑発をそのまま返すように煽ってくるヤエヅキ。

これが心理戦の一種であることは明白だ。

「(この部屋の配置を把握されている以上、こちらが不利か……何かしらの方法で隙を作らないと)」

下らない挑発に乗ることはせず、遮蔽物に身を潜めて打開策を練るレンカ。

特設指令室は大部屋だが屋外よりは遥かに狭く、逃げ場はほとんど無いと言っていい。

しかも、ここは事実上敵のホームステージである。

「(ハンドガンの残弾は2発。これはもう必要無いわね)」

彼女に残された装備は弾数が少ないサマ-9と使い所が無くガンホルダーに収めているハンドガンのみ。

だが、レンカは特殊工作員の訓練で"装備が限られている状況下での戦い方"をしっかりと学んでいた。


「儲物檀ごと撃ち抜いてやる!」

相手が背にしていると思われるロッカーに向けて執拗な銃撃を行うヤエヅキ。

頑張れば貫通できないこともないが、正確には耐えかねて飛び出してきたところを仕留める魂胆だ。

「(目の良さが命取りになるといいんだけど……!)」

ロッカーが壊れる前に横方向へのローリングで別の場所に移り、そこから短機関銃とハンドガンの二丁持ちで応戦するレンカ。

そして、左手に握るハンドガンの弾が尽きたところでそれを宙に向かって放り投げる。

「(よし! 一瞬だけ視線が逸れた!)」

ヤエヅキの視線がハンドガンに移ったコンマ数秒の隙を突き、遮蔽物から身を乗り出したレンカは短機関銃で銃撃を浴びせる。

「チッ……! 任務遂行のためならばどんな手でも使うか!」

すぐに異変に気付いたヤエヅキはその場に伏せるが、上着の左肩付近には赤黒い染みが広がり始めていた。

「人道に反しない範囲であらゆる手段を尽くさせてもらう!」

自分はスターライガチームの人たちのように綺麗な戦い方はできないが、それでも人としての最低限のラインだけは守る――。

その信念があるからこそレンカはあえて一騎討ちに臨んだのだ。

ただ勝ちたいだけならば、初めから数の暴力で蜂の巣にしている。

「それが私の戦い方よ!」

それを体現するかのように彼女は弾を撃ち尽くした短機関銃を投げ捨てると、代わって取り出したスペツナズ・ナイフの刀身部分を飛ばしながらバックステップで後退する。

「投げ小刀……いや違う! 刀身部分だけを射出する方式だと!?」

正確に狙いを付けられなかったためヤエヅキには当たらなかったが、コンソールパネルの台座に突き刺さるほどの威力で怯ませることはできた。

「(ドアストッパー代わりにした"ニック・ガン"にはまだ弾が残っている。ほんの数発だけど、急所に撃ち込めるなら一発で事足りる)」

レンカが目指しているのは中途半端に開いたままのドア。

そこには彼女自身がドアを閉めさせないために滑り込ませた"ニック・ガン"ことC29カービンが放置されていた。

「(取りに行くなら怯んでいる今しかない!)」

遮蔽物として置かれている机や椅子を持ち前の身体能力で全て飛び越え、レンカは最短ルートでドアの前へと辿り着く。

「くそッ! 逃がすものかッ!」

「ッ――!」

集中力を取り戻したヤエヅキがサマ-10のトリガーを引くのと、ギリギリ間に合ったレンカがC29カービンを拾い上げたのは、奇しくも全く同じタイミングであった。


 特設指令室に響き渡る二発分の銃声――。

「くッ……見事……だ……!」

「……そちらの射撃の腕も大したものね」

一発はヤエヅキの胸部を、もう一発はレンカの右大腿部をそれぞれ撃ち抜いていた。

「敵を直接目視せずに狙い撃てる相手ならば……負けを認めるしかあるまい……」

当たり所という観点では心臓付近に命中弾を受けた時点でヤエヅキの負けだが、それ以上に彼女はレンカの卓越した射撃技術に敬服していた。

なぜならば、レンカはC29カービンを拾った瞬間後ろを振り向くこと無くトリガーを引いていたのだ。

そんな超人的な相手にはとてもじゃないが射撃で勝てるとは思えない。

「あなたが力尽きる前に頼みたいことがある。議会議事堂の電力を全面復旧してくれないかしら?」

右脚の傷口を押さえながらゆっくりと立ち上がり、虫の息のヤエヅキに対して電力供給の復活を要求するレンカ。

「ある人の声を月面都市全域へ届けるため、この施設の放送能力を利用したいの」

本当ならヤエヅキにトドメを刺して自分でやるべきだが、パスワードやブービートラップの存在を警戒するレンカはあえて慎重な行動に徹していた。

「ある人……だと?」

「フユヅキ・ヨルハ」

「……! 了解した……個人的にはアキヅキ家はあまり好きじゃないからな……!」

"ある人"の名前をレンカから聞かされたヤエヅキは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべると、最期の力を振り絞りコンソールパネルを操作し始める。

「照明が……!」

「ここまでしてやったんだ……必ずこの戦争を終わらせてほしい……」

明るくなった部屋を見渡すレンカの方を向き、もう握る必要が無いサマ-10を手放すヤエヅキ。

「一足先に……冥府にて……待つ……」

この言葉を最後に彼女は座り込んでしまい、そして二度と立ち上がることは無かった。

「(最後にあなたの本音を聞けてよかった……今は安らかに眠れ)」

特殊工作員としてはあまりにも潔すぎた同胞の死を慎み、レンカはルナサリアン式の敬礼でその遺志に応えるのだった。


 同じ頃、こちらは議会議事堂2階中央部に位置する第一議会場――。

「何だ? 電力が戻ったのか?」

「――える!? 私よ! レンカ・イナバウアーよ!」

暗い室内で放送機材の準備を進めていたアンナが明るさに眩惑しながら顔を上げた直後、議会場に複数設置されているスピーカーから随分と馴染みのある声が流れてくる。

「レンカ! きっと大丈夫だと信じていたわ……!」

その声を聞いたヨルハは"やっぱり心配無用だった"と胸を撫で下ろす。

「私たちは地下の特設指令室を制圧し、そこから全館の状況をモニタリングしている!」

特殊工作員同士の一騎討ちを制したレンカはそのまま特設指令室の機能も完全掌握し、監視カメラの映像越しに議会場の様子を確認していた。

「放送システムの調整はこちらで済ませるけど、そちらに置いてある放送機材の方はどう?」

彼女は放送システム自体の操作は指令室側で行うと伝えたうえで、議会場側の準備はできているのかと尋ねる。

「これ、こっちの声は向こうに聞こえるのかな?」

「さあ……?」

相手(レンカ)の声は大音量でよく聞こえているが、その逆は可能なのか分からず互いに顔を見合わせるアンナとステファニー。

「放送機材の準備は既に完了しています! いつでも始められますよ!」

「了解! 手際が良くて助かるわね!」

声と大袈裟なジェスチャーで準備完了の旨を伝えるアンナの姿を確認すると、レンカは監視カメラを手動制御し今回の主役へとピントを合わせる。

「……ヨルハ様、我々は最善を尽くしたつもりです。後は貴女の声が月の民たちを動かすことに期待します」

彼女たちにできるのは演説のお膳立てまでだ。

ここから先はヨルハ自身のアジテーションに懸かっている。

「任されたわ! 皆さんの想いと努力……そして、外で戦っている人たちの奮闘は決して無駄にしない!」

自分を月へ連れて来てくれた人々の期待に応えたいという決意を示すヨルハ。

「(お父様、お母様……(わたくし)の声が人々の心へ届くよう、少しだけ力をお貸し下さい……!)」

そして、かつて月の指導者だった父と同じように議会場中心部の演壇へと登るのであった。

【Tips】

レンカが使用しているスペツナズ・ナイフは彼女の個人所有品であり、スターライガが採用している装備ではない。

ちなみに、スペツナズ・ナイフは「ロシア軍の特殊部隊が使っていた」という理由からこの名で呼ばれているが、実際にはナイフ型消音拳銃の誤認だったことが判明している。

それでもコレクターズアイテムや特殊武器として一定の需要が存在するのか、実用的な製品もごく少数ながら流通しているようである。

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