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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-73】強襲! ホウライサン議会議事堂!(中編)

 ホウライサン議会議事堂の構造をある程度把握しているレンカの先導の下、スターライガ保安部及びオリエント国防海兵隊は屋上非常階段扉より建物内へ侵入。

防衛戦力の待ち伏せに注意しながら目的地を目指して進んでいた。

「進路クリア……前進」

下の階層に繋がる階段へ最短距離で向かえる通路の安全を確認すると、レンカたちは死角からの奇襲を警戒しつつ慎重に前進していく。

「議会議事堂は地上3階・地下1階の構造となっており、目標である第一議会場は2階の中央部に存在しています」

彼女の記憶が正しければ議会議事堂は広めの床面積を持つ4層構造で、作戦目標の議会場へ向かうには下のフロアへ降りなければならない。

エレベーターは戦力を移動させる手段としては難があるため、実際には2か所に設けられている階段を使うことになるだろう。

「最短ルートで向かえば――いや、敵戦力次第では難しいかもしれん」

3階に敵の気配が無いと感じたフランシスは"交戦せずに進めるかもしれない"と楽観視するが、同時に2階以下に敵兵が集結している可能性も考慮し気を引き締める。

「そうでもないかもしれません。オリヒメ様は昔から民衆の政治参加を好く思っておらず、議会についても規模縮小ないし廃止を公言しておりました」

一方、白兵戦要員たちに周囲をガードされているヨルハは状況を前向きに捉えていた。

その根拠はオリヒメの政治的スタンスであり、かつての旧友が議会――あるいは民主主義その物を軽視していることを知っていたからだ。

「彼女にとって議会議事堂は取るに足らない存在なのです」

「つまり、この施設に兵力はほとんど割いていないというわけですね」

旧体制の遺物を守るつもりなどオリヒメには無く、防衛戦力もあまり配置していない――。

ヨルハの発言をスターライガ保安部サブリーダーのアンナ=カーリン・グランクヴィストはこう解釈していた。

「そもそも、ルナサリアンは明らかに水際での首都防衛を意識していた。都市内で防衛戦を展開すること自体が既に想定外なのかもしれないわね」

それについてはレンカも概ね肯定し、ルナサリアンは本土決戦の見積もりが甘かったのではないかと私見を述べる。

「(さっき逃がした歩兵たちの動向が気になる。まだ近くに隠れているか、あるいは逃げ出したか……)」

彼女としては屋外での戦闘の際に地対空ミサイルで迎撃した後、建物内へ撤退した敵兵たちの方が気になっていたが……。

「ん? 何だ……停電か!?」

「電力を落としたんだ! 司令部に通報されたんだわ!」

どうやら、その懸念は悪い意味で正しかったらしい。

通路の明かりが突然消灯した瞬間、フランシスとレンカはこれが人為的な停電だと見抜くのであった。


 同じ頃、こちらは議会議事堂地下の一室に設けられている特設指令室――。

この部屋も停電の影響を受けているようだが、非常用電源があるのか電子機器などは正常に稼働し続けていた。

「館内の全電力の遮断完了!」

レンカたちの予想通り、電力供給の停止は特設指令室から意図的に行われた操作だった。

「くそッ……観光名所を守るだけの閑職だと思っていたら、まさか地球人御一行がやって来るとはな」

それを指示したであろう指揮官らしき人物は、厄介な敵の"来館"に分かりやすい悪態を()く。

重要拠点の防衛ではない簡単な任務だと高を括っていたらこれだ。

「(監視撮影機の映像に映っている敵戦力は多数……何のためにあれほどの戦力を投入したんだ?)」

両腕を組み、足で床を叩きながら監視カメラの映像を見守る指揮官。

議会議事堂の制圧が目的にしてはやけに重装備で、戦力も過剰なように思える。

「総員、戦闘準備! これより我々は侵入者を撃退する!」

一目で分かるほど面倒そうな敵の相手などやりたくないが、高い給料を貰っている職業軍人としてはサボるわけにもいかない。

指揮官は指令室内の全員に対し戦闘準備を命ずる。

「敵戦力は屋上より施設内へ侵入し、下の階層を目指しているものと推測される」

彼女はホワイトボードに貼られている見取り図に赤ペンで敵戦力の通過が確定した場所を明記し、そこから予想される侵入経路を書き足していく。

屋上から侵入した敵はほぼ最短ルートで階段へと向かっていた。

「敵の目的は不明ながら、我々は作戦指令書に従い議会議事堂を防衛しなければならない」

特に目ぼしい政治機能など持たない議会議事堂が狙われる理由はまだ断定できない。

しかし、作戦指令書の内容に"議会議事堂の防衛"と書いてあれば、それに従わなければならないのが軍人の難しいところだ。

「予備役や訓練課程から急遽招集された貴様らには期待していないが、今はそうも言ってられん。使える兵は使わせてもらうぞ」

ただ、作戦指令書を出したわりに軍上層部は議会議事堂のことをあまり重要視していないのか、正規の訓練を受けてきた指揮官に寄越された戦力は予備役や訓練兵といった頼りない連中であった。

「第二班と第三班を向かわせる! 敵戦力を偵察し作戦目標を突き止めろ! 必要であれば交戦も許可する!」

手始めに指揮官は前述の面々を中心に構成される二つの分隊を敵戦力の予想ルート上へ向かわせる。

「本当は特殊工作員たる私も同行したいが、唯一の高級将校として指揮を執らねばならないからな……」

指揮系統において最上位となる彼女――ヤエヅキは特殊工作員ゆえ極めて高い戦闘能力を誇っているものの、同時に指揮能力を有する高級将校でもあるため指令室を離れることはできなかった。


 暗視装置で視界を確保しつつ進んでいたレンカたちは、やがて広めの階段がある場所へと辿り着く。

「(下へ降りられるルートは二つ。屋内階段か、それとも屋外を通る非常階段か……)」

通路の角から視認できる屋内階段は幅が広く通りやすい。

一方、もう少し先に位置する非常階段は屋外に設けられた大回りルートだ。

「(この大所帯なら屋内階段を通るべきだけど、それは敵も同じことを考えているはず)」

内部構造を把握しているレンカは当初屋内階段を抜けるルートを検討していたが、現場を見た瞬間"あまりにも安直過ぎるかもしれない"と一旦考え直す。

既に監視カメラで自分たちの人数を把握されている以上、それだけの大所帯がスムーズに通過できる屋内階段は真っ先に押さえられると思った方が良い。

「(狭い屋外階段は通過に手間取る。ただ、逆に言えば敵の裏を掻くことができるかもしれない)」

一瞬だけ通路の奥の非常階段扉を見やるレンカ。

距離、幅員、戦闘中の屋外に身を晒すリスク――懸念事項は決して少なくないが、彼女はあえて賭けに出ることを決断した。

「アンナ、あなたはC班、D班、海兵隊を連れて屋内階段から下のフロアへ向かって。敵の待ち伏せが予想されるから、その場合は制圧をお願い」

「了解」

まずレンカは通る予定が無い屋内階段を使うルートにアンナ率いる2個分隊と海兵隊を向かわせる。

主力部隊のように見える戦力を送り込み、敵の防衛部隊を撹乱(かくらん)ないし返り討ちにするのが目的だ。

「フランシス以下A班及びB班は私に付いてきて。この先にある非常階段から遠回りで2階へ降りた後、ここの真下にあたる位置で味方と合流する」

「了解、姫様のエスコートは任せてくれ」

そして、彼女自身はフランシス指揮下の2個分隊と共に非常階段経由で2階に向かう。

護衛対象の姫様(ヨルハ)はこちらの方に同行してもらう。

「総員、行動開始! 敵が集まって来る前に目的地まで突っ走る!」

最後にもう一度だけ周囲の安全を確認し、細心の注意を払いながらレンカは前進の指示を出す。

「(あちらが敵を引き付けてくれれば多少は楽に動ける。銃撃戦になった時は頼んだわよ、アンナ……!)」

散開行動を開始するアンナたち別働隊をハンドサインで激励しつつ、レンカたち"本隊"は非常階段へと繋がる防火扉を目指すのだった。


 金属製の防火扉を慎重に開けると、その先には月面都市ホウライサンの摩天楼が広がっていた。

「……敵の姿は無し。前進開始」

周囲の安全を確認したレンカは後続の保安部員たちに合図を送り、足音を最小限に抑えつつ階段を下りていく。

「外の連中も頑張ってるな――おおっと!」

ホウライサン上空で繰り広げられている戦闘を暢気に眺めていたその時、フランシスはすぐ近くを通過していった航空機の風に煽られてしまう。

幸いにも彼女は手すりに支えられたことで難を逃れたが、ここが断崖絶壁だったら間違い無く転落していただろう。

「きゃっ!?」

「大丈夫ですか!」

同じく風に煽られ転倒しそうになるヨルハの身体をステファニーは咄嗟の判断で受け止める。

「建物の真横を掠めていくのはウチのエースかゲイル隊に決まってる!」

「流れ弾が飛んで来る前に建物内へ入るわよ!」

無茶な飛行をするMF(おそらく味方機)に保安部員の一人が文句を付ける中、それに巻き込まれる可能性を危惧したレンカは再突入の指示を出す。

「ッ! 銃声!? 今のは屋内からだ!」

しかし、建物内の方から断続的に銃声が聞こえ始めたことで彼女たちは突入中止を余儀無くされる。

「始まったか……私の読み通り、敵は向こうに食い付いたわね」

「大味な魚に釣られたってわけだな。本当に狙うべき獲物はこちらにいるというのに」

同胞の性格及び戦闘経験を熟知したレンカの戦術に感嘆の声を上げるフランシス。

その卓越した能力から"一人特殊部隊"とも評される元ルナサリアン特殊工作員の経歴は伊達ではなかった。

「戦争ならば致し方ありません。ただし、可能であれば手加減をお願いします」

「最善は尽くしますが……ヨルハ様を狙う敵がいれば、私は躊躇い無く撃ち殺します」

安全確保のためには敵兵の殺傷もやむを得ない――。

それでも被害は最小限に留めてほしいというヨルハの願いに対し、"あくまでも主を守ることを最優先とする"とだけ答えるレンカ。

「(よし……敵は完全に別働隊に気を取られている。これならば挟撃で一気に制圧できる)」

防火扉を少しだけ開けたレンカは2階の様子を窺う。

彼女が真っ先に視認できたのは銃撃戦のものと思われるマズルフラッシュの照り返し。

そして、屋内階段付近で戦闘中の敵兵たちは別働隊との撃ち合いに集中していた。

「突入開始、同士討ちには気を付けるように」

これを好機と見たレンカは今度こそ突入を決断。

敵兵の手元を確実に狙い撃てる距離まで一気に忍び寄るのであった。

【特殊工作員】

大規模戦闘から平時の諜報活動まで、あらゆる任務に対応するべく特別な訓練を受けてきたルナサリアンの精鋭兵士。

その戦闘能力は"一人特殊部隊"と評されるほど高く、元工作員であるレンカ(狙撃)のような特定分野のエキスパートも少なくない。

なお、基本的には単独または極少人数で任務に当たる存在だが、指揮系統では高級将校(佐官)に相当するため、場合によっては下士官以下を指揮下に入れることが認められている。

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