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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-72】強襲! ホウライサン議会議事堂!(前編)

 ホウライサン議会議事堂――。

かつては皇族と一般国民の代理人として政治に参加する"議員"が意見を交わす貴重な場であったが、アキヅキ家による言論統制が始まると議会が開かれることは無くなり、今では首都のランドマークの一つに変わり果てていた。

スターライガの目的はこの議会議事堂を白兵戦で制圧し、施設内に残されている放送システムを掌握すること。

全ての月面都市をカバーできる同システムによってヨルハの声を国民たちに届けるのだ。

「こちらフライング・ダッチマン1、LZ(ランディングゾーン)の安全確保はできているのか?」

スターライガの白兵戦要員を乗せた2隻の艦載艇は議会議事堂屋上に設定されたポイントへ着陸後、オリエント国防海軍軽空母"クルーゼ"より発艦した別の艦載艇に乗るオリエント国防海兵隊との合流を予定している。

それ自体は何ら問題無いのだが、艦載艇の片割れ"フライング・ダッチマン1"を操縦する保安部員のステファニーはLZの状況について懸念を示す。

「アマテラスよりダッチマン1、議会議事堂屋上に対空機関砲を確認した。これより速やかに排除する」

「対空兵器の制圧は頼んだぞ。蜂の巣にはされたくないからな」

それについて議事堂周辺を偵察していたアンドラから"対空兵器あり"の報告を受けると、制圧作戦を指揮するためフライング・ダッチマン1に搭乗しているフランシスはMF部隊に航空支援を依頼する。

艦載艇は非武装なうえに運動性も高くないため、対空砲火に晒されながらの強行着陸は困難であった。


 議会議事堂屋上に確認できる敵戦力は銃手を必要とする旧式対空機関砲1基に加え、運用要員と思われる3名の歩兵。

この程度の戦力ならば遠距離から射撃武装を使えば容易に排除できるだろう。

「これから侵入することを考えると、建物に流れ弾は当てたくないわね……でも、やるしかないか!」

しかし、それはあくまでも通常戦闘時の話だ。

議事堂の内部構造を把握している者として白兵戦要員に合流予定のレンカは、LZ付近を損壊させること無く敵戦力だけを排除しなければならない。

頑張り過ぎて建物自体を崩壊させるなどもってのほかである。

「ターゲティングの誘引は私に任せてよ!」

何やら妙案を思い付いたのか、コマージは"囮役は任せてほしい"と告げると小隊長(レンカ)の許可が下りるよりも先に愛機クオリアを加速させる。

「対空ミサイル……! CF(チャフ・フレア)散布!」

黒と緑の可変型MFの接近に気付いた敵歩兵たちは携帯用地対空ミサイルランチャーによる迎撃を試みるが、それを予想していたコマージは最小限の回避運動とデコイの散布によって更に距離を詰めていく。

「今だレンカ! 銃座はこっちに気を取られている!」

そう、彼女の狙いは連射が利かないミサイルを無駄撃ちさせたうえで、対空機関砲の銃口を上空へ逃げる自分に向けさせることだった。

「ええ! カルディア、私とLZの間を横切るようにCF散布!」

「分かった……やってみる……!」

僚機の意図を察したレンカはその策を確実なモノとするべく、フリーで動ける状態のカルディアに対してなかなか無茶なアシストを命じる。

少し前までのカルディアの技量では難しかったかもしれないが、今の実力ならば問題無いと判断したからだ。

「CF散布……!」

極めて簡潔だった指示を的確に理解し、カルディアのクオーレはレンカ機の予想進路上を横切りながらチャフ及びフレアを撒き散らしていく。

「(予想通り! ミサイルが逸れてくれた!)」

その直後に準備が間に合った地対空ミサイルが複数発射されたものの、先に散布したデコイの効果が残っていたのでレンカのルーナ・レプスは難無く攻撃をかわすことができていた。


 クオリアを逃がした対空機関砲は射撃を一旦中止し、高速接近してくる紺色と白のMFに銃口を向け直そうとしている。

「(銃座がこちらを向く前に撃ち抜いてみせる……!)」

HIS(ホログラム・インターフェース)のズーム機能と持ち前の視力でその動作を確認したレンカは、乗機の武装をPDW(接近戦用サブマシンガン)に持ち替えて先制攻撃を試みる。

「ファイア!」

対空機関砲の銃身が下がり切った次の瞬間、高速で低空侵入してきたルーナ・レプスのPDWの銃口がマズルフラッシュで蒼く輝く。

「対空機関砲の破壊を確認!」

議会議事堂の屋上を掠めるようにレンカのルーナ・レプスが飛び去った時、対空機関砲は銃手諸共スクラップと化していた。

彼女は対空機関砲が構造上狙えない高さから近付き、目標だけを狙うように素早く3点バースト射撃を繰り出していたのだ。

「歩兵はどうする? ミサイルを撃ってくるなら生身の人間が相手でも……」

「いえ、その必要は無さそうよ」

地対空ミサイルで迎撃してくる厄介な歩兵の処理についてアンドラが尋ねると、その歩兵たちが建物内へ撤退する様子を視認していたレンカは"追撃の必要無し"という判断を下す。

いずれにせよ白兵戦のために侵入したらどこかで戦うことになるだろう。

「ルーナ・レプスよりダッチマン1、LZの安全確保に成功! 本機の誘導に従い速やかに着陸せよ!」

議会議事堂周辺の状況を最大限警戒しつつ、グッドタイミングで到着した艦載艇たちの着陸誘導に取り掛かるレンカ。

スターライガチームの仲間たちが航空優勢を維持してくれているとはいえ、それもいつまで持つかは分からない。

「さて、私も降りなくちゃいけないわね。機体はワルキューレの方に収容しておいてちょうだい」

艦載艇に先んじてLZへ機体を着陸させたレンカはシートベルトを外しながら僚機たちに愛機の回収を託す。

制圧作戦が上手く行ったら再度MFに乗り込み戦線復帰するつもりだが、肝心な機体が無くなっていたらさすがに困るからだ。

「あまり心配はしてないけど……一応気を付けなよ」

その言葉通り本当に心配してなさそうなコマージは乗機クオーレをLZに接近させ、ルーナ・レプスの両脇を抱えるように持ち上げて回収していく。

「コマージ、私が不在の間の指揮は任せる」

「了解!」

自身が率いるΖ(ゼータ)小隊が一時撤退する直前、レンカは機体だけでなく小隊の指揮権もオリエント国防空軍出身のコマージに預ける。

「(ホウライサンの風景もだいぶ変わったな。昔はここまで建物は多くなかったのに)」

味方と合流するまでの間、敵歩兵が捨てていった使用済みミサイルランチャーを調べながらレンカは母国の町並みをじっくりと見やる。

彼女が若かった頃から近未来的な建物自体は存在していたが、25年ぶりに訪れた首都ホウライサンは都市密度が明らかに高くなっていた。


「レンカ!」

「ヨルハ様!」

艦載艇フライング・ダッチマン1から降りてきたヨルハはすぐにレンカのもとへ駆け寄り、レンカの方もボディアーマーとヘルメットで身を固めているヨルハの色白な手を握り返す。

「我々の方は既に準備完了している。あとはあなたを待つだけだ」

「C29カービン……なるほど、良いセンスね」

二人のじゃれ合いを邪魔するのは申し訳ないと思いつつもフランシスは間に割って入ると、予め用意するよう頼まれていたC29カービン――通称"ニック・ガン"をレンカに渡す。

「"ニック・ガン"は今回のようなCQC(近接戦闘)に適した装備で、尚且つ海兵隊でも採用されていることから弾薬の融通という点で効率的だからな」

スターライガ保安部が装備する数ある銃器の中で、あえてカービンに統一した理由を説明し始めるフランシス。

本気で語らせると話が長くなってしまうが、要は屋内における取り回しや友軍との互換性を重視したからだ。

「精強なる海兵隊の皆さん、私はレンカ・イナバウアー。普段はスターライガでMF部隊の小隊長をしています」

銃を受け取ったレンカはマガジンに弾を詰めながら海兵隊員たちの前へ移動し、共同作戦に向けて改めて自己紹介を行う。

「しかし……その名前は偽りのモノ。本当の名前はホシヅキ・レンカ――以前ニュース番組で報道された通り、今戦場となっているこの星で生まれ育ったルナサリアンの元工作員であります」

なぜ一介のMFドライバーがわざわざ白兵戦に参加するのか――。

多くの海兵隊員たちが抱いているであろう疑問に答えるべく、時事問題の復習も兼ねて自らの出自を明かすレンカ。

「ルナサリアンの裏切り者である私を信頼しろとは言いません。ただ、これだけはハッキリと意思表明させてほしい」

今のところ特にネガティブな反応は見られないものの、内心どう思われているのかを完全に見抜くことは難しい。

それを考慮したうえでレンカはこの戦いに懸ける想いを丁寧に伝えていこうとする。

「私はこの御方――かつてアキヅキ家に王位を簒奪(さんだつ)され祖国を追われたフユヅキ・ヨルハ様に忠誠を誓い、"戦争を終わらせ地球と月に平和を取り戻したい"という彼女の願いのために戦う魔弾なのです」

彼女の目的はただ一つ。

戦争終結を願うヨルハを月へ連れて行き、それを叶えさせることである。

そのためならば祖国へ銃を向ける覚悟もできていた。


 だが、自分の同胞が地球に対し侵略戦争を仕掛け、多数の地球人を軍民問わず殺傷してきたことは紛れも無い事実――。

「もし、異星人である我々をどうしても信頼できないのならば……今この場所でトリガーを引きなさい」

戦争犯罪を犯してきた異星人からの離反者を認めないのであれば、今すぐにでも撃ち殺せとレンカは自らの額を指差す。

「……ありがとう、私たちを信じてくれて」

10秒間ほど待ってみたが、海兵隊員たちは銃を構える素振りすら見せなかった。

冷静且つ賢明な判断に彼女は少しだけ表情を和らげ、最大限の感謝の言葉を述べる。

「私はこの建物の内部構造についてはそれなりに知っています。その知識を有する者として責任を以って先導するので、はぐれないように付いてきてください」

自分を信用してくれた兵士たちを一人でも生き残らせるため、レンカは率先して部隊の先鋒を務めることを宣言するのだった。

【ニック・ガン】

C29カービンがこの愛称で呼ばれているのは、同銃の設計主任であるニックという男性技術者に由来しているらしい。

ちなみに、ニックはC29の制式採用によって技術者としての評価を高め、以後もオリエント国防軍向けの銃器をいくつか手掛けている。

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