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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-70】五つの国籍、四つの言語、三つの種族、二つの性別、たった一つの想い

 スターライガの母艦スカーレット・ワルキューレに先導された地球艦隊は縦一列に並ぶ単縦陣へ移行し、ルナサリアンの首都ホウライサンを右手に捉え続ける針路を取る。

「友軍艦隊、本艦を先頭とする単縦陣へ移行中!」

「一点に対し各艦の射線を集中させる陣形か……良い判断ね、サビーヌ」

オペレーターのキョウカの報告を聞きながらサビーヌ艦隊司令――軍人時代の後輩の采配を高く評価するミッコ。

やはり勝手を知る相手との共闘は連携が取りやすくて大変助かる。

「総員、"ヴァルハラ"の発射準備に取り掛かれ!」

陣形が整ってきたところでミッコはブリッジクルーの誰もが予想していなかった指示を下す。

「艦長さん!? 都市に向かって撃ち込むのはさすがにアカンで!」

「出力を必要最低限に絞り、ガラスドームの上部を掠めるように当てればいい!」

ヴァルハラ――試製ジェネレーター直結式艦隊決戦用レーザーキャノンユニットのトリガーを実際に引くことになる火器管制官アルフェッタは慌てて再考を求めたものの、ミッコは"出力と照準を調整して精密攻撃すればいい"という理屈でその諫言(かんげん)を半ば強引に退ける。

「アルフェッタ、あなたの腕に期待しているわよ」

「……あんたに指導を受けてたサビーヌ中将は苦労してたんやなって」

こういう場面におけるミッコの意思決定力の強さを知るアルフェッタはあっさりと説得を断念。

先ほど映像通信越しに無茶振りを受けていたサビーヌに同情しつつも"ヴァルハラ"の発射準備を開始する。

「ファビア! 味方全軍に"ヴァルハラ"の使用を通達!」

「了解!」

「キョウカは誤射を防ぐために味方の誘導をお願い!」

「了解、直ちに取り掛かります!」

ミッコはサブオペレーターのファビアに"味方への警告"、メインオペレーターで実務経験豊富なキョウカに"味方戦力の安全確保"をそれぞれ任せる。

「(艦隊決戦砲……もう一度、道を切り拓くために使う!)」

"ヴァルハラ"はその気になれば都市一つを消滅させられるほどの火力を発揮できるが、ミッコはあくまでも交戦規定の範囲内での運用に留めることを決めていた。


「転回右110! 艦首軸線を攻撃目標と同軸に調整!」

「転回右110、艦首軸線を攻撃目標と同軸に調整」

艦首下部に外付けされている"ヴァルハラ"の照準を大雑把に合わせるべく、ミッコの指示を復唱しながら操舵士のラウラは全長332mの船体を大きく方向転換させる。

「誤差修正左4!」

「了解、誤差修正左4」

ここまでの大型艦になると一発で転回角度ピッタリとはいかないので、アルフェッタの意見を参考に今度はミリ単位の精度で操舵輪を左に回すラウラ。

「セーフティ解除! エネルギーチャージ率は80%に設定!」

「エネルギーチャージ開始! 現在60%!」

照準を合わせたら次に必要なのは武装の準備だ。

ミッコからセーフティ解除の許可が下りた瞬間、アルフェッタは手元のコンソールパネルを操作し"ヴァルハラ"のエネルギーチャージを開始する。

チャージ率は実用上の下限値となる80%に決定された。

これ以下の数値だとエネルギー消費量のわりに威力が出ないため、結果的に効率が悪くなってしまう。

「艦長! 後方の敵艦隊が加速しました!」

「航空戦力も多数接近中! このままではチャージ完了までに攻撃を受ける可能性があります!」

この辺りで敵もようやく状況を察したのだろう。

キョウカとファビアから敵戦力の接近を告げる情報が相次いで上がってくる。

強行突破で相手にしなかった敵が大挙して押し寄せて来るかもしれない。

「先の戦闘で威力を目の当たりにしている以上、"ヴァルハラ"に対する警戒心は相当なモノね……!」

チャージなどさせるかと言わんばかりの妨害行為に出る気持ちはミッコもよく分かる。

一個艦隊の大半を消し飛ばした戦略兵器が自国の首都に向けられている――。

人並みに愛国心を持っている者ならば居ても立っても居られないのが普通だ。

「回避運動はできないぞ! 後部主砲で応戦するしかない!」

「アホ! そんなことしたら照準がブレるんやで!」

位置取りや照準調整の二度手間を嫌うラウラは反撃での対処を提案するが、"ヴァルハラ"の制御で忙しいアルフェッタに主砲を扱う余裕は無い。

実際には役割分担は第2火器管制官のフィリアに頼めば何とかなるものの、それでもスカーレット・ワルキューレの51cm4連装砲の反動による悪影響は軽視できなかった。

「こちら日本海軍巡洋艦"熊野"、貴艦に対する敵艦隊の攻撃を引き付ける!」

「ロイヤル・ネイビー所属、駆逐艦"ミルトン・キーンズ"です! 我が祖国の防衛戦で助けて頂いた恩義に報わせてください!」

攻撃態勢を一時中断するか、集中砲火を覚悟のうえでチャージを続行するか――。

決断を迫られるスカーレット・ワルキューレを支援するべく援護を申し出たのは、日本海軍及びイギリス海軍から派遣された2隻の友軍艦であった。


 熊野は航空巡洋艦相当の性能を持つ摩耶型巡洋艦の6番艦。

一方、ミルトン・キーンズはイギリス海軍主力駆逐艦44型――通称"M級駆逐艦"の一隻だ。

どちらもこの時代の軍艦としては凡庸な性能だが、地球存亡を懸けた戦いに臨む乗組員たちの士気は非常に高かった。

「ゆ、友軍艦が隊列から離れていきます!」

「やめなさいッ! (ふね)を沈ませたいの!?」

例の2隻の突然の行動にキョウカとミッコは驚きつつも、艦長としての経験が豊富な後者はすぐに後退を呼び掛ける。

「英国がルナサリアンの手に落ちたあの日、あなた方はベルファストに寄港していた身でありながら他国の防衛戦に参加して下さいました。女王陛下の発表により全ての英国民はその事実を知っております」

しかし、ミルトン・キーンズの艦長にはどうしてもスカーレット・ワルキューレの力になりたい理由があった。

じつはミルトン・キーンズはイギリス本土防衛戦の失敗を経てオリエント連邦本土防衛戦にも参加しており、その両方においてスターライガチームの戦いぶりを間近で見ていたのだ。

スターライガチームが縁も所縁(ゆかり)も無いイギリスという国の防衛に一時協力してくれたことは、オリエント連邦に亡命中のエリザベス4世のスピーチで世界中に広く知れ渡っている。

「貴艦はオリエント連邦のみならず地球人類全体にとっての英雄だ! 地球の未来を切り拓く希望をやらせはしない!」

それに対して西太平洋を主戦場としていた熊野はスターライガチームとの共闘経験は無いが、彼女らの勇名は艦長以下全ての乗組員の耳に入っていた。

「あなたたち……サビーヌ! 艦隊司令官ならば彼らを止めなさいッ!」

「クマノ及びミルトン・キーンズはスカーレット・ワルキューレのカバーに入れ!」

「ちょっと! 私の話を聞いてた!?」

人種や国籍を越えた助け合いの精神にミッコは熱いモノを覚える反面、"一つだけの命を無駄にしてほしくない"という想いから強大な指揮権を有する後輩サビーヌに統制を求める。

ところが、当のサビーヌが下した命令は先輩よりも指揮下の軍人たちに寄り添った内容だった。

「(いえ……よくよく考えれば"民間からの協力者"に過ぎない私が艦隊指揮へ口を挟む資格は無い――か)」

冷静になったミッコは自らの言動について考え直す。

確かに彼女はオリエント国防海軍で大将にまで上り詰めた元将官だが、それはあくまでも20年前の話だ。

いくら軍歴を並べ立てようと退役した今は民間人である以上、現役の職業軍人たちに干渉していい理由など存在しなかった。

「エネルギーチャージ75!」

少しでもチャージ時間を削るためにアルフェッタはあらゆる手を尽くしているものの、残り5%が永遠のように長く感じられる。

「ミルトン・キーンズが……!」

そして、そうこうしているうちにキョウカは恐れていた光景を目にしてしまう。

スカーレット・ワルキューレを庇うように飛び出したミルトン・キーンズが集中砲火に晒され、その船体を複数本の蒼い極太レーザーに貫かれていたのだ。

「サロ艦長……本艦より退艦する乗組員の救助と……戦後の英国本土解放を……お願いします……!」

同艦の艦長からの通信が途絶えた次の瞬間、ロイヤル・ネイビーの栄えある駆逐艦は爆沈という壮絶な最期を迎えるのだった……。


「艦長! クマノが高速で敵艦隊の方へ向かって行きます!」

「まさか……"カミカゼ"するつもり!?」

もう一隻の友軍艦である熊野の動向を逐一報告するキョウカ。

それを聞いたミッコはこういった状況で日本人がやりがちな行動に危機感を抱く。

「こちら日本海軍巡洋艦"熊野"。これより本艦はCIC(戦闘指揮所)を除く全部署の乗組員を退艦させ、救命艇で友軍艦へと向かわせる。余裕のある艦は回収を願う」

不運にも彼女の予想は的中してしまった。

熊野の艦長は通信回線を開くと、全ての友軍艦に対し救命ボートの投下及びその回収依頼を伝え始める。

「アカツキよりクマノ、特攻は許可しない! 繰り返す! 特攻は許可しない!」

「ネーレイス中将、その命令はミルトン・キーンズに対する冒涜と受け止めます! ならば彼らはなぜ命を投げ打ったのです!?」

ミッコと同じく熊野の特攻(カミカゼ)を危惧するサビーヌは艦隊司令官として独断専行の中止を命じるが、熊野艦長は先ほど自らの意思で散華した友軍艦ミルトン・キーンズを例に挙げることで明確に反発する。

特攻という行為を禁ずる方針ならば、あの時どうしてロイヤル・ネイビーの戦友を止めなかったのか――と。

「ッ……!」

「機関最大! 救命艇を降ろしながら本艦は前進する!」

サビーヌ・ネーレイスという個人ではなくあくまでも"艦隊司令官"という立場から発言し続けていたことを自覚した瞬間、サビーヌは完全に言葉を詰まらせてしまう。

ともかく、既に乗組員の大半に退艦命令を出していた熊野艦長は平静を装いながら指示を飛ばす。

「目標、敵艦隊旗艦! ……すまんが、皆の命をくれ」

敵艦隊旗艦――ルナサリアンの総旗艦ヤクサイカヅチの姿をCICの正面モニターに捉えつつ、彼は自身及び艦と運命を共にするブリッジクルーたちに向けて頭を下げる。

部下たちの答えは無言ながらも力強い敬礼であった。

「エネルギーチャージ80!」

「……発射10秒前! 総員、対ショック及び対閃光防御!」

時を同じくしてスカーレット・ワルキューレ側でもようやく"ヴァルハラ"のチャージが完了する。

アルフェッタによる状況報告を確認したミッコは込み上げる感情を必死に抑え、通常の運用手順に(のっと)り発射カウントダウンを行う。

「く、クマノと敵空母が接触! 両者の識別信号――同時に途絶しました……」

「5、4、3、2、1――」

キョウカから熊野の最期に関する追加報告を受けてもカウントダウンは決して止めないミッコ。

この一撃を放つための時間は友軍艦が命と引き換えに稼いでくれたモノだ。

「――発射ッ!」

「ファイアーッ!」

そして、ミッコの号令と同時にアルフェッタは進路を切り拓くためのトリガーを引く……!

【Tips】

イギリス海軍では駆逐艦の艦名の頭文字を統一する伝統がある。

例えばミルトン・キーンズ(HMS Milton Keynes)の艦型の正式名称は"44型駆逐艦"だが、全艦の名前がMから始まる英単語となっていることから、俗に"M級駆逐艦"と呼ばれる場合も多い。

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