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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-69】ようこそ、月面ツアーへ

 ルナサリアン首都防衛線を巡る戦いはますます激しさを増していた。

砲火が飛び交う艦隊戦の上空では無数の航空機たちが複雑な戦闘機動を描いている。

「照準、入った! 当たれぇッ!」

敵味方の航空機が入り乱れる中、リュンクスのスタークキャットはMF用携行式榴弾砲でルナサリアンの主力戦闘機"キ-36 スザク"の右主翼を吹き飛ばす。

厳密には直撃ではなく至近弾だったが、それでも飛行不能なレベルの損傷を与えたことが榴弾の火力を物語っていた。

「航空戦力はこっちと同程度って言ってたのに! 落としても落としても出てくるんだけど!」

一方、アレニエは次々と襲い掛かって来るサキモリ部隊のツクヨミ改をビームサーベルで着実に斬り捨てながら悪態を()く。

確かに"航空戦力はほぼ五分五分"という事前情報のわりには敵機が多く感じられる。

「ボクたちは広範囲に展開しているわけじゃないから、敵がこの辺りに集中しているんだ!」

これについて同じくサキモリ部隊を迎え撃っているパルトネルは、"ただ単純に自分たちの所に敵が集まっているのだろう"と推測を述べる。

とにかく、敵戦力に包囲されて袋叩きになるのは絶対に避けたいところだ。

「ッ! アレニエ、後方に注意(チェックシックス)!」

「あっぶないなぁ! 人間の目は前にしか付いてないのに!」

そうは言ってもこの大混戦で敵に捕捉されないことは難しい。

パルトネルのテレイアの背部バインダー兼用レールキャノンによる援護射撃に助けられ、いつの間にか背後を取られていたアレニエは難を逃れる。

「艦隊はまだ防衛ラインを抜けられないのか!?」

「前衛の警戒艦――エイトケンと駆逐隊が進路を抉じ開けた! 後続の主力艦もそれに続いているわ!」

激戦に次ぐ激戦でそろそろ弾薬が尽きそうなリュンクスが怒鳴り気味に味方艦隊の状況を尋ねると、彼女の近くで戦っていたヒナがポジティブな情報をもたらす。

地球艦隊の切り込み役を務める重雷装ミサイル巡洋艦"アドミラル・エイトケン"麾下(きか)の水雷戦隊がようやく突破口を開き、スターライガチームの母艦スカーレット・ワルキューレを含む主力艦も続々と包囲網を抜けていく。

「敵航空隊と敵艦隊を両方とも押さえるぞ!」

「了解! もっともっと粘らないといけないみたいだね……!」

航空戦力と艦隊戦力を同時に相手取らなければならない過酷な状況にもかかわらず、パルトネルやアレニエたちの闘志は全く衰えていなかった。


 地球艦隊唯一の戦艦級として集中攻撃を受け続けていたスカーレット・ワルキューレは何とか猛攻を凌ぎ切り、最低限の消耗でルナサリアン首都防衛線を突破。

その艦首をルナサリアンの首都ホウライサンへと向けていた。

「敵防衛ライン、突破しました!」

「引き続き周辺警戒を厳とせよ!」

オペレーターのキョウカの報告を受けたミッコは気を緩めること無く警戒態勢の維持を命じる。

敵陣を抜けたといっても敵戦力を殲滅したわけではないので、常に残敵の動向に注意しておかなければならない。

「前方にルナサリアンの都市ユニットを確認!」

続いてサブオペレーターのファビアがこう告げた直後、これまで亡命ルナサリアンからの情報提供でしか知られていなかった敵国首都ホウライサンがついにその全容を現す。

「何やアレ!? 下手したらヴワルの都市圏よりデカいんとちゃうか!?」

「この建物の密度はまるでトウキョウだな……!」

火器管制官のアルフェッタと操舵士のラウラが真っ先に驚いたのは都市の規模だ。

一般的に月面は人類の生命活動に必要な資源は乏しいと考えられているが、彼女らの目の前に広がる光景はヴワルや東京といった地球上の大都市とほとんど変わらない。

強いて言えば建造物のデザインがどことなく近未来的で、SF作品を彷彿とさせるビル群が目立つのが大きな違いだろうか。

「月面都市は特殊強化ガラス製のドームに覆われています。通常の出入口が塞がれている以上、ドームを破壊しなければ都市内への侵入は不可能です」

そして、ルナサリアンの月面都市を語るうえで欠かせないのが特殊強化ガラス製ドームの存在である。

オブザーバーとして艦長席の隣に座るヨルハは事あるごとに説明しているが、これを何とかしなければ都市内へ戦力を送り込むことはできない。

「ルナサリアンの特殊強化ガラス自体は敵兵器の残骸から回収されていて、大まかな性能についてはデータが揃っているわ」

幸いにも問題の特殊強化ガラスに関するデータは既に入手済みだと呟くミッコ。

「……だけど、あれほど大規模な建築物に使われている厚みだと皆目見当が付かないわね」

しかし、それはあくまでも戦闘機のキャノピーといった比較的小規模な使い方での話だ。

都市を丸々覆えるような超巨大ガラスドームの強度など、建築業界に疎いミッコでは予想さえ難しかった。

実家が建築業を営んでおり、尚且つ建築学科出身のアレニエならば瞬時に計算できるかもしれないが……。


「あのドームは月面に落下するスペースデブリ――より具体的には隕石から地表を保護することを主目的としています」

まだ月の民の皇族だった頃、公共工事の視察で説明された内容をヨルハは思い出す。

月は大気が薄いため隕石がほとんど燃え尽きず、それによって生じるリスクは月面に穿たれた大小様々な無数のクレーターが物語っている。

一説によると月面移民の初期段階では比較的安全な地下に拠点が作られ、衝突のおそれがある隕石を迎撃するための対空兵器も持ち込まれていたという。

「物理的衝撃や特定の汚染物質に対してはかなりの耐性を誇っていますが、それと比較すればレーザーのような高エネルギー体には脆弱かもしれません」

もちろん、月面を開拓するにあたっての脅威は隕石だけではない。

先述した大気の薄さは極端な温度差や放射線被曝といった様々な困難の要因にもなっている。

こういった過酷な環境から人々を守るために開発された特殊強化ガラスは極めて優秀な材料だが、弱点が無いわけではないとヨルハは指摘する。

そう言い切れる根拠は開発当時想定されていなかった、軍事用レーザー及びビームに対する防護の甘さだ。

「しかも、レーザーならばガラスが砕けて飛散する二次被害も少ない――というわけですね?」

レーザー兵器の高熱で溶かすように風穴を開ければ、ガラス片をむやみに撒き散らさないで済む――。

ミッコの問い掛けにヨルハは静かに頷いた。

「キョウカ、アカツキに通信を繋げてちょうだい。ヨルハさんの貴重なアドバイスは味方艦隊と共有する必要があるわ」

「了解! 直ちに通信回線を開きます!」

作戦遂行にあたり重要な確信を得たミッコはオペレーターのキョウカに通信回線の確保を急がせる。

相手は艦隊旗艦アカツキのサビーヌ艦長だ。

「――ミッコ先輩、お疲れ様であります」

しばらく待っているとワルキューレCIC(戦闘指揮所)の大型正面モニターにサビーヌの元気そうな姿が映し出される。

「まだ生き残っているみたいで安心したわ、サビーヌ」

「そちらから映像通信を求めるということは、よほど重要な内容だと見ました」

尊敬するミッコ先輩からの労いの言葉に穏やかな笑みを浮かべる反面、彼女の方から通信があること自体珍しいためこの時点でサビーヌも事情を察したようだ。

「こちらのCDC(戦闘指揮所)の様子を見て頂ければ分かる通り、我々も多忙を極めている。用件は可能な限り手短にお願いします」

「ええ、じつはルナサリアンの首都を覆っているガラスドームについてなのだけれど……」

艦隊指揮などで大変忙しいサビーヌが迅速な説明を求めてくると、ミッコは単刀直入且つ簡潔にヨルハから得られた情報を伝えるのであった。


「――なるほど、貴重な情報提供ありがとうございます」

一通り話を聞いたサビーヌはうんうんと頷き、極めて重要な情報提供に感謝の言葉を述べる。

亡命ルナサリアンの協力を大々的に取り付けている組織はスターライガしかおらず、その点は各国政府や正規軍に対する大きなアドバンテージだと断言できる。

「ルナサリアンの特殊強化ガラス……興味深い性能ですね。大量に持ち帰れば技術者たちが喜ぶかもしれません」

「この艦隊で最も火力を出せるのは私たちのワルキューレよ。あの分厚いガラスドームを破壊する役目は任せてちょうだい」

先輩を介して知った未知の素材についてサビーヌが思いを馳せていると、それを遮るようにミッコは"ガラスドームの破壊は自分たちにやらせてほしい"と志願する。

地球艦隊に残された唯一の戦艦級にして、強力な51cm4連装砲を装備するスカーレット・ワルキューレは確かにダメージディーラーとして適役だ。

「了解しました。我々も可能な限り援護砲撃でサポート致します」

今は地球艦隊の指揮権を握っているサビーヌの方が偉いはずだが、先輩後輩という関係性のせいで彼女がミッコに引っ張られる状況となっていた。

指揮官としてのミッコの実力は既に広く知れ渡っているので、戦場における特例措置として扱えばそこまで大きな問題にはならないだろうが……。

「攻撃開始は今すぐ――と言いたいところだけど、艦隊の陣形を整えないと援護が上手く機能しないわね」

「それについては私が艦隊司令として何とかします。先輩たちは攻撃位置及びタイミングの計算を優先してください」

速攻を好むミッコとしては今すぐにでも攻撃を実行したいものの、艦隊の間隔が多少バラけている状況だと射線を集中させづらい。

そこで先輩の戦い方をよく知っているサビーヌは自らの権限を用いて助け舟を出す。

「随分と頼もしくなったのね……分かりました。貴官の指示に従い、我が艦は行動を開始致します」

多国籍艦隊を率いるだけでなく、与えられた権力を使いこなせるまでに成長した後輩の姿に喜びつつ、そんな彼女を立てるためミッコは今更ながら丁寧な振る舞いを見せる。

「友軍艦隊への上手い言い訳、期待しているわよ」

「言い訳ですか……考えてみます」

もっとも、最後のこの遣り取りに限っては先輩(ミッコ)後輩(サビーヌ)の親しい間柄を示していた。

「はぁ……先輩の無茶振りも昔と変わらないな」

通信を終えたサビーヌは艦長席に座り込み、ミッコ先輩から課された要求にタメ息を()く。

「全軍に通達! これより我々は敵国首都へ突入すべく、都市部を覆うガラスドームを破壊する!」

とはいえ、軍人云々以前に"大人"としていつまでも愚痴っているわけにはいかない。

軍帽を整えることで気を取り直し、指揮下の全艦艇及び航空機に向けて次の作戦目標を伝えるサビーヌ。

「艦隊前進! 砲撃が可能な艦艇はスカーレット・ワルキューレの援護を行え!」

彼女の号令を受けた艦隊は攻撃の間隙(かんげき)を縫いながら前進を開始。

単独先行するワルキューレをいつでもフォローできるよう備えるのだった。

【特殊強化ガラス】

ルナサリアンの特殊強化ガラスは月及びその周辺宙域でしか採掘できない砂(俗に"レゴリス"と呼ばれる)を原料としており、そのうえで製造工程にも極めて高度且つ特別な技術が用いられている。

地球の技術水準では完全再現は不可能だが、仮にそれに成功すれば地球の建築技術は10年進むとさえ云われている。

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