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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-68】音速雷撃隊の最期

 最後に残った局地戦用宇宙戦闘艇"サイカチ"を仕留めるべく、レガリア率いるβ(ベータ)小隊は合流後速やかに攻撃態勢へ移行する。

「各機、相手は機動力を持ち味としているわ! まずは牽制射撃でそれを発揮する機会を潰す!」

「了解! 私たちにお任せを!」

彼女は妹から指揮権を取り戻すと"足が速い相手と戦う時の基本戦術"で行くことを通達し、自ら志願したニブルス(とソフィ)にその役割を託す。

「ニブルスさん! しっかり掴まっているので遠慮無く飛ばしてください!」

「マイクロミサイルの発射タイミングはこちらに合わせて! さあ、行くわよ!」

自機ベルフェゴールにリフターしているソフィのスターシーカーが固定されていることを確認すると、ニブルスは攻撃タイミングの打ち合わせをしながらフルスロットルで機体を加速させる。

「ベルフェゴール、シュート!」

「スターシーカー、シュート!」

その追尾性能やミサイルアラートで相手にプレッシャーを与えるマイクロミサイルは優秀な牽制射撃だ。

敵機の動きを慎重に見極め、ニブルスとソフィはマイクロミサイルを一斉発射する。

「隊長機よりも動きが甘いのよ! バルトライヒ、シュート!」

そこへ追い打ちを掛けるようにレガリアの重機動型バルトライヒも牽制射撃へ参加。

敵隊長機との戦闘でボロボロになった増加装甲のマイクロミサイルを全て撃ち尽くす。

「回避運動が遅いッ!」

役目を終えた増加装甲をパージしつつ、人型のノーマル形態へ変形した深紅のMFは専用ビームソードでサイカチの接近戦用フレキシブルアーム2基を正確に斬り落としていくのだった。


 実際のところ、フレキシブルアームをやられた程度であればサイカチ自体への大きなダメージにはならない。

もっとも、パイロットの心理的影響については別の話だが……。

「しょっぱい攻撃を食らっただけで怯みやがって……その程度のメンタルで戦場に出てくるんじゃねえ!」

かなり図太いことで有名なブランデルは敵機の"脆さ"を看破すると、愛機プレアデスの機動力を活かした加速で一気に肉薄。

「今から本当の恐怖ってヤツを教えてやる!」

真紅の可変型MFは空中衝突防止装置が作動するか否かという距離でノーマル形態へ変形し、得物のバスタードソードを敵機のコックピットらしき部分へと深く突き刺す。

手応えだけでは中の人間に当たっているのかまだ分からない。

「ソフィ! 敵機のスラスターに精密射撃を!」

「もっと接近してください! ……今だ、ファイアッ!」

その間にニブルスとソフィは敵機の後方へ回り込み、迎撃をかわしながら後者の右腕部パルスレーザーガンでメインスラスターにダメージを蓄積させていく。

「姉さん! トドメはどうする?」

「見逃してあげなさい。強者は時に寛容であるべきなのよ」

満身創痍のサイカチはもう虫の息だ。

メインディッシュにありつきたいブランデルは姉に判断を仰ぐが、意外にもレガリアは"トドメを刺す必要は無い"という方針を示す。

どちらにせよ、スラスターとコックピットブロックを損傷している敵機はもう長くは持たないだろう。

「ったく、姉さんは優しいな……月面へ叩き付けられる前にベイルアウトしてくれるといいんだが」

姉が垣間見せる甘さを愚痴りながらも攻撃態勢から復行し、バスタードソードを乗機のハードポイントに戻すブランデル。

「この恐怖を克服して戦場に戻ることを期待し星一つ――と言ったところかしら」

レガリアに至っては歯応えが無かった敵を格付けチェックする余裕すら見せていた。

「機体も私も疲れたから補給がしたいわ……各機、ワルキューレへ帰艦するわよ」

「賛成! "腹が減っては戦はできぬ"って言うしな!」

敵隊長機との一騎討ちで消耗しているレガリアに促され、ブランデル以下β小隊の面々は和気藹々とした様子で味方艦隊の方へと飛び去って行く。

「……おっかねえな。あの人たち、あれだけの猛攻なのに明らかに手加減してたぜ」

「ええ、撃墜された"カブトムシ"のパイロットが気の毒なほどにね」

それを見送ったフェルナンドとニュクスが真っ先に抱いたのは畏怖の念であった。

四方八方から嵐のような小隊攻撃に晒されるぐらいなら、いっそのこと死んだ方が楽だったのではないか――と。


 一方その頃、こちらは地球艦隊の最前衛を務める重雷装ミサイル巡洋艦"アドミラル・エイトケン"のCIC(戦闘指揮所)――。

「補給のために帰艦したブフェーラ隊の収容、完了しました」

「推力最大! 我々は警戒艦として引き続き進路上の脅威を排除しながら前進する! 対空警戒を怠るな!」

オペレーターのエミールの報告を聞いたメルトは現状維持を命令し、主力艦隊を守るべく尽力する。

「艦長、ゲイル隊より補給を行いたいという旨の要請が来ています。どうされますか?」

戦闘中に忙しくなるのは副長のシギノも同じだ。

彼女は上空待機中のゲイル隊から伝言を預かっており、それをメルトに伝えることで指示を仰ぐ。

「今はエアカバーのために一機でも多くの航空機が欲しいけど……仕方ないわね。ブフェーラ隊の再出撃と入れ替わるように着艦許可を出してちょうだい」

少しだけ考え込んだ末、メルトは"2個MF小隊を同時に収容する状況は好ましくない"という判断を下す。

こちら側の航空戦力がギリギリである以上、戦闘力が極めて高いゲイル及びブフェーラ隊のどちらかは常に展開しておきたいからだ。

事実、前述の2部隊が活動している戦域では敵部隊の鈍化が確認されていた。

「了解! ブフェーラ隊には整備補給が完了次第発艦するよう通達します!」

指示内容を復唱しながら骨伝導ヘッドセットの無線周波数を変更し始めるシギノ。

「CICよりブフェーラ1、休む間も無く悪いがすぐに再出撃してもらう。ゲイル隊を着艦させる前に貴隊を空へ上げる」

彼女はアドミラル・エイトケンCICの代表代行としてMF格納庫で待機中のブフェーラ1――リリスに通信を繋ぎ、メルト艦長から受けた命令を通達する。

本来ならもっと休憩時間を与えたいところだが、緊迫した戦局がそれを許さない。

「(ここを抜ければルナサリアンの首都が見えてくるはず……!)」

「艦長! 4時及び9時方向より敵艦隊接近中!」

メルトが艦長専用のタブレット端末で状況分析を行っていたその時、レーダー画面を監視していたエミールが新たな敵艦隊の接近を告げる。

「敵艦隊の予想攻撃目標は!?」

「本艦――いえ、おそらくは旗艦アカツキと思われます!」

メルトから詳細報告を求められたエミールは敵艦隊の動きを読みかねていたが、針路が自分たちの後方――主力艦隊の側面を向いたタイミングで目的に気付くことができた。

「サビーヌ中将の(ふね)をやらせるわけにはいかない! 各艦、陣形の間隔を詰めて守りを固めろ!」

万が一にも艦隊旗艦を失ったら指揮系統に乱れが生じ、引き継ぎの隙を突かれて一気に瓦解してしまうだろう。

メルトは自身が指揮する第17高機動水雷戦隊の全艦に対して指示を飛ばす。

密集陣形は広範囲攻撃で一網打尽にされるリスクがあるが、敵にそういった攻撃手段が無ければ対空砲火を濃密にする戦術として有効だ。

「9時方向に敵機影捕捉!」

通信の取り次ぎや敵戦力の情報更新に忙殺されるエミールたちを嘲笑うかのように新たな敵航空戦力が現れる。

「今日だけで一生分の実戦経験を積めるかもしれないわね……!」

この過酷な戦局で正気を保つためには、普段は大人しいメルトでさえ笑って強がるしかなかった。


 本土決戦に備えてルナサリアンは総司令部を2か所に設置している。

一つはユキヒメが駐留する首都ホウライサン近郊の第二総司令部。

もう一つはここ――月の宮殿地下の第一総司令部だ。

「――分かったわ。ホウライサン近郊の最終防衛線に展開中の艦隊は健闘しているけれど、報告を聞く限り戦線は首都圏まで後退する可能性が高い」

殺風景な司令室の椅子に腰を下ろし、コンソールパネルへ向かいながら側近らしき人物と連絡を取り合うオリヒメ。

「私は挺身隊にも一定の働きを期待しているわ。生身の人間が見えることによる心理的影響は決して無視できない――妹には悪いけどね」

時に冷酷な彼女は予備役や一般国民の志願者で構成される"挺身隊"を上手く活用する算段であった。

いくら地球人といえど生身の人間が相手となれば、困惑して多少の隙を晒すかもしれないと考えたからだ。

この手法を生粋の武人たる妹ユキヒメは決して容認しないだろうが、"より良い敗戦"のためにはあらゆる手を尽くさなければならない。

「戦況は決して芳しくないか……さて、何か御用かしら博士?」

「こちらで指揮するバイオロイド部隊の配置について最終確認をしに来たのよ」

通信を終えたオリヒメがヘッドセットを外しながら後ろを振り返ると、その視線の先では博士――ライラックがドア枠にもたれ掛かっていた。

「いいのかしら? 親衛隊長さんはあからさまに不満げだったけれど」

「この戦争は私の独断で始めたようなモノよ。道連れにする人間は必要最低限で十分」

バイオロイド部隊の積極運用に難色を示されたことを伝えるライラックに対し、"一人でも多くの自国兵士を生き残らせるためにはやむを得ない"と答えるオリヒメ。

「……本当はユキでさえ巻き添えにしたくは無かった」

彼女は地球への侵略戦争の全責任を一人で清算するつもりだった。

一つだけ想定外なのは、本人が思っている以上に人望に恵まれてしまったことだが……。


 この人は世界の運命を左右し得る"本物"だ。

こんなところで朽ち果てさせ、世界に損失を与えるわけにはいかない――。

「博士もここまで協力して頂きありがとうございました。ですが、我々の協力関係は今この瞬間を以って解消いたします」

最後の最後でライラックを自由の身とするべく、オリヒメは遺憾ながら長年続けてきた蜜月関係を即座に打ち切ることを告げる。

博士との各種契約は全てオリヒメ自ら管理しているので、双方の合意さえ得られれば解除自体は容易い。

「フフッ、こちらこそお礼を言わせてちょうだい。あなたを見ていると娘たちと過ごしていた時を思い出せて楽しかったわ」

一方的な契約解除だったにもかかわらずライラックは穏やかな笑みを浮かべ、ルナサリアンの客将として――いや、オリヒメの同志としての活動は楽しかったと述べる。

常に自信家のように振る舞い本心を見せないライラックだが、この発言に限っては間違い無く本音であった。

「今から言うことは私の独り言だから気に留めないでいいわよ」

さて、契約解除によりフリーランスとなったライラックはこれからどうするつもりなのだろうか?

見切りを付けて捨て去った母星へ戻るわけにはいかず、かと言って契約関係が途切れた以上月へ居残る義理も無い。

「あーあ、契約を一方的に打ち切られたら無職になっちゃうわねー。老後の心配をしないといけないのに困ったわー」

両手を頭の後ろで組み、わざとらしい棒読みをしながら元雇用主の方をチラチラと見るライラック。

その言動と仕草はどことなく彼女の娘リリーを彷彿とさせる。

「……博士、最後に個人的なお願いをしてもよろしいでしょうか?」

これより先の付き合いにビジネスライクな駆け引きはもう存在しない。

椅子から立ち上がったオリヒメはライラックの前に歩み寄ると、おそらく最初で最後となるであろう"個人的なお願い"を託すのだった。

【強者は時に寛容であるべき】

オリエンティア的騎士道精神の根幹となる思想の一つ。

降伏した敵国の兵士や一般市民への暴力を戒め、敗者に対しても"敬意(リスペクト)信頼(トラスト)"を示さねば遺恨が残り続けるという、戦争が終わった後のことを見据えた考え方が由来とされている。

先人たちが作り上げた"強者の義務と権利"は現代のオリエント連邦にも確かに受け継がれている。

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