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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-63】背後は首都、背水の陣(前編)

 ルナサリアンの卑劣な策を切り抜けた地球艦隊は順調に進軍を続け、ついに敵の首都防衛ラインを確認できる距離まで接近する。

レイセン宇宙港でほとんど消耗しなかった航空部隊も艦隊の前方へ移動し、予定針路の安全確保に努めていた。

「隊長、敵航空戦力を確認しましたわ!」

激戦の合間を縫って肩の力を抜いていたのも束の間、ローゼルのオーディールM2のレーダー画面に敵機を示す赤い光点が一斉に現れる。

「航空戦力はこちらと同程度だ。先の戦闘でかなり消耗しているのかもしれない」

「全部を相手取る余裕は無い。艦隊の進路を阻む敵だけを叩くぞ」

同じように自機のレーダー画面を確認したリリスとセシルの隊長コンビは至って冷静であった。

この二人が分析している通り、地球側が予想以上に健闘したせいでルナサリアンの航空戦力は意外なほど少ない。

背後に首都が迫っている状況で出し惜しみするとは考えにくいので、相手にとってはこれが出せる全戦力なのだろう。

無論、長期戦になったら地球側が圧倒的不利であることに変わりは無いのだが……。 

「戦術データリンク更新! 味方艦隊の予定針路確認!」

それに続いて味方の情報も更新が行われ、スレイはレーダー画面上に緑色の線――味方艦隊の針路が反映されたことを確認する。

「敵のど真ん中を抜けるつもりか?」

「敵艦隊は横に広く展開している――つまり、縦方向の守りは薄いと考えられます」

あまりにも馬鹿正直な予定針路にアヤネルは懸念を示すが、ヴァイルは"敵の陣形の厚み"を根拠に艦隊の動きを擁護した。

「なるほど……サンドウィッチを固定するピックみたいに敵陣の一点を貫くんだな」

「士官養成コースの座学で教わる内容だ。よく覚えているのはさすがだよ」

この説明にはアヤネルのみならず上官のリリスも感銘を受け、成長著しい部下の言動を高く評価するのだった。


「各機、お喋りはそこまでだ。まもなく敵航空隊との交戦距離に入る」

2個小隊を率いるセシルは僚機たちを静かにさせ、本格的な空戦に備えるよう促す。

「長射程AAMによる先制攻撃の後、散開した敵機を各個撃破する。お前たちの技量ならば問題無いだろう」

彼女らの乗機オーディールM2は豊富なペイロードを誇る高性能可変型量産機であり、MF用空対空ミサイル"MR-202 ルミナスアロー"を他の機種よりも多く搭載することができる。

運動性は低いが100km以上離れた目標を狙えるミサイルで先手を打ち、撹乱(かくらん)したところへ一気に襲い掛かる――。

セシルが考えている戦術は基本を突き詰めた模範解答であった。

「ゲイル2、了解!」

「ゲイル3了解!」

スレイとアヤネルは隊長機の斜め後方に就く今のフォーメーションを維持し、タイミングが重要な長距離先制攻撃に備える。

「ブフェーラ1から3、了解!」

リリスが指揮するブフェーラ隊も攻撃に適したフォーメーションへと移行していく。

「距離100……今だ! シュートッ!」

"ルミナスアロー"の実戦における有効射程に入った瞬間、全機に号令を出しつつ自らも操縦桿の兵装発射ボタンを押すセシル。

「命中せず!」

「ミス! 外した!」

敵部隊が直前で一斉攻撃に気付いたためか、ヴァイル機とアヤネル機が発射したミサイルは全て回避されてしまう。

「撃墜! 撃墜!」

一方、ミサイル類の扱いに長けるスレイは回避運動が遅れた敵機の撃墜に成功していた。

「相手もここまで生き残った連中だ。侮ることはできない」

同じく撃墜スコアを挙げたリリスは先制攻撃から免れた敵機に着目し、相手の技量も決して低くはないと注意を促す。

「敵部隊、散開しますわ!」

「可能な限り排除するぞ! 艦隊には近付かせるな!」

ローゼルの報告を聞いたセシルは敵部隊に対する追撃を指示。

対艦装備の可能性がある敵機を取り逃がすわけにはいかなかった。


 ルナサリアンはあくまでも首都近郊に引かれた防衛ラインを"最後の砦"と位置付けており、ここに主力部隊の大半を投入している。

その多くは絶対防衛戦略宙域から無事に撤退してきた実力者たちである。

「(あなたたちの犠牲は決して無駄にしません……敵艦隊は必ず仕留めてみせます!)」

局地戦用宇宙戦闘艇"サイカチ"を駆るエイシン率いる雷撃隊も当然この戦闘に参加。

機動力と攻撃力を活かして対艦攻撃を担当する彼女らは敵航空戦力を完全スルーし、より後方に展開する地球艦隊との交戦を見据えていた。

「空対空誘導弾、発射!」

追いかけてくる敵機に対しては後方発射可能な短射程空対空ミサイルで対応する。

後席で兵装の操作を担当するメジロは敵機をロックオンした瞬間、頭の中にミサイルを撃つイメージを思い浮かべる。

サイカチはイノセンス――ルナサリアンで言う"純心能力"を制御システムの補助に用いる機体であり、能力者が念じればトリガーやボタンに触れること無く兵装を使用できるのだ。

「私たちの目標はあくまでも敵艦隊旗艦です。進路を阻む敵機だけを叩いてください」

ただし、こういったBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)的機能は能力者に負担を強いるため、弾薬管理の点も含めてエイシンは"思考制御"を必要最低限に留めるよう警告する。

「それは分かっているつもりですが……」

「サイカチは分厚い装甲に加えて"ショウマキョウ"も装備しています。そう簡単には墜ちませんよ」

大規模作戦では力を温存しながら戦いを進めなければならない――。

頭では理解しながらも実戦経験が少なく不安を抱きがちなメジロを優しく諭し、自機の防御力ならば被弾に神経質になる必要は無いと告げるエイシン。

「ッ! 後方下方向に敵機複数ッ!」

「いつの間に死角に……!?」

しかしその時、すぐ近くに敵意を感じ取ったメジロは咄嗟に声を上げる。

非能力者ゆえ遅れて反応せざるを得なかったエイシンがセンサーカメラで周囲を確認すると、確かに後方下方向――サイカチの設計上特に死角となりやすい角度に2機のMFの姿があった。

「メジロさん! 連装光線砲で応戦を!」

「ダメです! 射角に捉えられません!」

エイシンは後方攻撃用に装備されている速射式連装光線砲の使用を許可するが、いくら純心能力者のメジロといえど武装の構造上狙えない敵には攻撃できない。

「(片方は深紅の可変型モビルフォーミュラ……噂に聞くスターライガの機体ですか)」

機長として可能な限り回避運動を取りながらエイシンは敵機の姿を自らの目で確かめる。

彼女のサイカチを追いかけ回すMFは2機1組で、どちらもスターライガ製の機体のように見える。

「(それにしても速い! このままでは絶対に振り切れない!)」

その片割れである深紅の可変型モビルフォーミュラ――重機動型バルトライヒの方が特に厄介で、普通の敵とは別格の存在だとエイシンは警戒する。

「言葉が奔って聞こえた……!?」

そして、それについてはメジロの方がよりハッキリと感じ取っていた。


「あの巨体であの動き……只者じゃないわね」

全長40mの巨体に見合わない運動性で逃げ回るサイカチを追跡するレガリアの重機動型バルトライヒ。

両機の機動力はほぼ互角であり、何かキッカケが無ければ泥仕合と化しそうだ。

「しかも、生半可な攻撃は装甲と防御兵装で防がれてしまう。これは骨が折れそうな相手だわ」

また、サイカチが持つ高い防御力は先の戦闘で既に知られているため、レガリアは無駄な攻撃はしないことを決めていた。

「くそッ、懐に飛び込めればバスタードソードを突き立てられるんだがな」

姉と行動を共にしているブランデルが愚痴っている通り、格闘武装ならば脆弱な部分を攻撃できるだろう。

問題はどうやって至近距離に近付くかだが……。

「(ブランは全く気付いていないようだけど、この感覚は私と同じ能力者(イノセンティア)?)」

シャルラハロート姉妹はどちらも卓越したMFドライバーであるが、決定的に異なる点も存在する。

それはレガリアだけがイノセンス能力を持ち、自分と同じ存在を感知できることだ。

「(いえ……それにしては機動が保守的なように見える。あるいは能力者(イノセンティア)非能力者(ノンセンス)による複座式の機体なのかもしれない)」

彼女はサイカチの機動を独特な表現で評したうえで、その要因の一つが複座レイアウトにあることを見抜く。

この時点で地球側がサイカチの操縦システムを知る術は無かったにも関わらず――だ。

「姉さん! このままこいつの尻を追っかけ回し続けるのか?」

「"カブトムシ"の狙いはおそらく艦隊への直接攻撃よ! 接近を許す前に叩く!」

何ら成果の見られないイタチごっこを危惧し始めたブランデルに対し、味方艦隊を守るためには可及的速やかに対処しなければならないと答えるレガリア。

普段はお淑やかで物腰が柔らかい一方、意思決定が必要な時はハッキリと自己主張するのが彼女の強さである。

「ニブルス、ソフィ! こちらへ合流しなさい! 連携攻撃で一気に決めるわよ!」

「了解! 私たちは援護に回ります!」

タフな大型機にダメージを与えるには集中攻撃が有効――そう判断したレガリアは別行動を取らせていたニブルスたちを呼び戻し、β(ベータ)小隊4機による連携攻撃を指示。

β小隊はソフィのスターシーカーを除く3機が可変機であるため、機動力を活かした一撃離脱戦法をメインに立ち回ることになる。

「ブラン、追い込み役をお願い! 私たち3人で可能な限り援護してあげるから!」

「ああ、任せてくれ!」

重機動型バルトライヒはファイター形態に固定されるので格闘戦には向かない。

そこでレガリアは自分と同等以上に格闘戦をこなせる妹ブランデルに切り込み隊長を託すのだった。


「(相手が4機に増えた……連携攻撃で仕掛けてくるつもりですか)」

コックピット内のバックビューモニターにチラチラ映る4機のMFの姿を何度も確認するエイシン。

4機の集中攻撃を浴びたらサイカチの重装甲といえど危ないかもしれない。

「メジロさん、機上電探を地形追従状態へ変更! 超低空飛行で回避を試みます!」

「了解! 地形追従状態へ変更します!」

そこで彼女は超低空飛行による"マニューバキル"が決まることに期待し、後席のメジロに機上レーダーを対地追従モードへ切り替えるよう命じる。

これは地球側でも低空侵攻を行う機会が多い戦闘爆撃機などで見られる機能だ。

「自分たちの星だから地形は頭に叩き込んでいるのね……だけど!」

月面の荒れた大地を土埃が舞い上がるほどギリギリの高度で飛ぶ戦闘艇の運動性――そして操縦手(エイシン)の技量に敵ながら感嘆するレガリア。

「こちらもマニュアルでの超低空飛行には自信があるのよ!」

「私たちの技量をナメてもらっては困るな!」

だが、レガリアとブランデルのシャルラハロート姉妹にもエースドライバーとしての意地があった。

二人は対地接近警報装置のアラートをあえて無視し、操縦技量を誇示するかのように"カブトムシ"をしつこく追い立てる。

「後方の敵機、食い付いて離れません!」

「報告はしなくていい! 舌を噛みますよ!」

この苦戦に思わず不安を漏らし始めたメジロを窘めると、エイシンはサイドスティック方式の操縦桿を一気に手前に引く。

「あのパイロット、思った以上に良い腕をしてやがる!」

大型機を巧みに急旋回させる彼女の技量に感心するブランデル。

「援護攻撃をもっと正確に!」

「も、申し訳ありません!」

更なるプレッシャーを掛けたいレガリアは珍しく声を荒げて指示を飛ばす。

これを叱責だと誤解したソフィは反射的に謝りながらも援護攻撃を続ける。

「敵機の回避運動が鈍くなった……!」

ニブルス(とソフィ)による執拗な援護攻撃は地味ながら効果があった。

「(これ以上の負荷は肉体的にも機体強度的にも厳しいかもしれません……!)」

機体強度の限界値に近い負荷を繰り返し掛けた結果、搭乗するエイシンたちの身体にも痛みが出始めていたのだ。


 高機動戦闘時でもせいぜい9.5G程度で済むサイカチと異なり、瞬間的であれば12~13Gまで掛けられるMFの方が搭乗者に対する負担は大きい。

「はぁ……あそこまでGを掛けるターンを繰り返したら疲れるだろ……でも……スタミナ切れとは情けない!」

このレベルの負荷に晒されながら愛機プレアデスを振り回していたブランデルもさすがに呼吸が乱れていたが、元々スポーツマンで体力に自信がある彼女の方が粘り強かったようだ。

「ブラン……!」

「一気に間合いを詰める……尻に噛み付けばこっちのモノだ!」

同じく声に疲労の色が出ているレガリアから名前を呼ばれたのを合図にブランデルは攻撃態勢に入る。

「よーし、捉えたぞッ!」

地表ギリギリを攻める超低空飛行で逃れようとするサイカチの背後にピタリと付き、運動性の高さを活かした小回りでついに敵機を目と鼻の先に捉えるブランデルのプレアデス。

彼女は乗機のバックパック側面に装備されている2基の格闘戦用フレキシブルアームを展開し、ペンチのような大型マニピュレータで"カブトムシ"へ襲い掛かろうとする。

「ッ! ブラン! 避けてッ!」

しかし、そのアクションはレガリアの急な叫び声で中断されてしまう。

「何ッ!?」

姉の声に反応したブランデルが咄嗟に攻撃を思い止まった次の瞬間、突如飛来した複数本の蒼いレーザーがプレアデスの左フレキシブルアームを極めて正確に貫いていく。

機体その物に直撃しなかったのは本当に幸運であったが……。

【Tips】

イノセンス能力の存在が公表されて以降、能力を有さないことを地球では"ノンセンス"と呼称するようになった。

ここで重要なのは優生思想への悪用を避けるため「能力が無いor低い」ではなく、あくまでも「能力を"持たない"」と表現していることである。

また、研究者や能力者(イノセンティア)からは「能力自体は基準を満たしているが、それを積極的には使わない人」もノンセンスとして認められるべきという意見が上がっている。

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