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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-61】プライベーター奮闘記(後編)

 文字通り劣勢を覆す"切り札"となり得るマリンのスーペルストレーガのチャージ時間を稼ぐべく、彼女を除くMF部隊の面々はルナサリアン艦隊に航空攻撃を仕掛けていた。

「主砲を潰す!」

打ち上げ花火のような対空砲火を気合でかわしつつ、ナスルのスパイラルC2は敵艦隊旗艦"ミクマリ"へ一気に肉薄。

「くッ! こっちだって死線は何度も潜り抜けてきたんだ!」

濃密な弾幕により左腕の実体シールドを破壊されながらも灰色と黒のMFは決して怯まず、ミクマリの20.3cm連装砲に狙いを定める。

「ファイア! ファイア!」

機体の右腕で構えているアサルトライフルの有効射程に入った瞬間、ナスルは右操縦桿のトリガーを引く。

対MF・対航空機向きのアサルトライフルで巡洋艦の装甲を()くのは難しいが、砲塔の回転基部など比較的脆い部分を狙い撃ちできればダメージは与えられる。

「たかがプライベーター3隻相手に本気出し過ぎなんだよ……!」

対艦戦闘の基本である一撃離脱戦法の教えを忠実に守り、命中確認もそこそこに敵艦から離れていくナスルのスパイラルC2。

MF乗りにとっては巡洋艦だろうが戦艦だろうが厄介な相手であることに変わりは無い。

強いて言えば、航空戦力がいないため敵機に邪魔されないのは不幸中の幸いだった。

「ナスル! 機体の腕が……!」

「装甲が剥がれただけだ。フレームと関節部は生きてるからまだ動く」

一時的に別行動を取っていたショウコから合流早々機体のダメージについて心配されると、ナスルは"腕部が動くなら問題無い"と力強く答える。

被弾の影響で装甲板が剥がれ落ち内部機構が少し露出しているものの、見た目に反してMFは意外なほど頑丈なのだ。

「被弾した僚機を庇っている状態だとさすがにしんどいな……」

「ヤンさん!」

ロータス・チームの二人が再び対艦攻撃へ向かおうとしたその時、別の敵艦と戦っていたヤンのハイパートムキャット・カスタムが偶然近くを通りかかる。

冷静沈着なナスルが若干驚いているのも当然で、赤橙と黒の可変型MFは中破したキリシマ・ファミリー所属のスパイラルC型を連れていた。

「全機、もう少しだけ粘ってくれ! マリンの奴が必ず何とかしてくれる! それまでは墜とされるなよ!」

撃墜された機体はまだいないが、このままでは遅かれ早かれ死人が出るだろう。

今のヤンには必死に戦う味方たちを鼓舞することしかできない。

「(頼むぞマリン……(ふね)を一撃で沈められる火力を持っているのは、お前のスーペルストレーガだけだからな)」

この厳しい状況を突破できるのは、おそらくマリンのスーペルストレーガの"シュペルクリーク"だけだ。


 同じ頃、白と黒のMFは母艦レヴァリエの甲板上で相変わらず攻撃態勢を維持していた。

「……お? 来た来た来た!」

エネルギーの供給体制が整うのを待ち続けた甲斐があった。

マリンのスーペルストレーガのH.I.S(ホログラム・インターフェース)に表示されている出力値がみるみる上昇していく。

「こちらレヴァリエCIC、エネルギーが行き届いているか確認を!」

「ああ、バッチリだぜ! これなら100%中の150%で撃てる!」

知恵を絞ることでエネルギー源を確保してくれたローリエたちに感謝し、改めてチャージ及び照準調整を再開するマリン。

「目標識別のためのデータをくれ!」

彼女がCIC(戦闘指揮所)に対し目標識別に必要なデータの提供を求めると、すぐにH.I.S上の"UNKNOWN"表記が"CRUISER"または"DESTROYER"という艦種名に切り替わる。

「敵艦隊旗艦を確認! ど真ん中をぶち抜いてやる!」

マリンの狙いは当然"CRUISER"――敵艦隊旗艦ミクマリを含む3隻の巡洋艦だ。

シュペルクリークの火力と攻撃範囲を最大限に活かせば、巡洋艦程度ならば容易に撃沈できるだろう。

「ストレーガの射線を戦術データリンクに反映! 味方機は退避急いで!」

「味方が掃けたら撃つぞ! 航空隊の動きで勘付かれるかもしれないからな!」

ローリエが指揮するレヴァリエとマリンのスーペルストレーガは綿密な情報共有を行うことで、味方機を巻き込まないよう退避させつつ射線の確保を急ぐ。

「エネルギーチャージ150……スタビライザー展開……!」

今回は敵艦隊との距離がかなり離れているため、好条件を揃えれば射程が大きく伸びるシュペルクリークのフルパワー発射に全てを懸ける。

チャージ率は当然ながら実用限界値となる150%だ。

「よーしよし、そのまま変な動きするんじゃねえぞ」

ルナサリアン艦隊は航空戦力の迎撃に気を取られているのか、まだ回避運動には入っていない。

マリンは舌なめずりをしながらミリ単位で照準を合わせていく。

100km以上の超長距離射撃では1mmのズレが極めて大きな誤差となってしまう。

「(そこそこ間隔が広めの複縦陣か……照準を上手くやれば結構巻き込めるな)」

敵の陣形は縦2列の複縦陣。

若干賭けにはなるが、列の間にレーザーを通せば"ザンギュラ現象"で敵艦を攻撃範囲内に引きずり込めるかもしれない。

「敵艦隊との距離130!」

「この一撃で一気に決めてやるッ! ファイアァァァァァァッ!」

ローリエから交戦距離に関する報告を聞いた次の瞬間、マリンは気迫を込めながら左右操縦桿のトリガーを同時に引くのだった。


「3番砲塔大破! 火災発生!」

「対空兵器の損傷率4割を超えました!」

甲板上の構造物の多くを破壊され、火の手を上げながらも巡洋艦ミクマリは沈みそうな様子さえ見せない。

「応急修理要員を向かわせて! 消火活動と負傷者の救助を最優先!」

これはひとえにホロヅキ艦長の卓越した指揮のおかげであった。

彼女は専用タブレット端末で艦の被害状況を確認しつつ、的確に乗組員たちを動かすことでダメージコントロールに成功していた。

「面舵一杯! 弾幕を張りつつ回避運動!」

損傷は決して少なくないなれど、推進装置と舵が動く限りはまだ戦える。

ホロヅキの指示を受けた操舵士は操舵輪を右に目一杯回し、全長201mの船体を思いっ切り旋回させる。

これだけで航空攻撃から逃れることは難しいが、ただ真っ直ぐ進むよりは被弾率を下げられるだろう。

「か、艦長ッ!」

その時、オペレーターの一人がこれまでにないほど緊迫した声を上げる。

「何――!?」

呼び止められたホロヅキがオペレーター席の方を振り向いた直後、ミクマリのCICが突然蒼白い閃光に包み込まれ、大地震のように激しい揺れがブリッジクルーたちを襲う。

「(最終防衛線から帰って来た連中が言っていた、"艦隊決戦砲"とやらか……!?)」

立った状態で指揮を執っていたホロヅキは咄嗟に艦長席へしがみ付き、衝撃に耐えながら出撃前に高級将校の知り合いたちと交わした会話を思い出す。

最終防衛線――絶対防衛戦略宙域での戦闘に参加していた同期の知人によると、地球人の艦隊は超兵器並みの極めて強力な艦砲を装備しているらしい。

もっとも、"艦隊決戦砲"に狙われた艦艇の大半は轟沈してしまったため、実態に関しては分からない点の方が多かった。

「最大船速ッ! あの光に呑み込まれたら助からないわよッ!」

強い光で視力を一時的に奪われながらも冷静に指示を飛ばし、自艦を含む一隻でも多くの(ふね)を生き残らせようと尽力するホロヅキ。

「見て! 随伴艦が……!」

「見るな! 目をやられるぞ!」

だが、その願いも空しくブリッジクルーたちが見ている前で数隻の随伴艦が文字通り蒸発していく。

「高能量反応、なおも持続中!」

複縦陣で展開している艦隊を分断するように飛来した高エネルギー反応に引き続き警戒を求めるオペレーター。

この生き地獄のような時間は永遠に続くかと思われた。


「私たちは九死に一生を得たみたいね……状況報告急げ!」

蒼白い強烈な閃光がようやく収まったところでホロヅキは目を開け、自分の身体が消滅していないことを確かめてからオペレーターたちに状況報告を求める。

「本艦の戦闘行動に支障無し! 損傷箇所の応急修理も現在進められています!」

オペレーターによるとミクマリ自体に損傷拡大は見られず、航空攻撃で受けたダメージも応急修理で対応できているという。

「……問題は随伴艦隊の方か」

「巡洋艦オトゴサヒメ、キンシ及び駆逐艦ナオビ以下7隻の識別信号が確認できません」

「生き残っている(ふね)もそれなりに損傷を受けている……この戦い、敵の切り札を見抜けなかった私たちの負けね」

だが、報告を聞いたホロヅキが随伴艦の方に懸念を示すと、オペレーターは険しい表情を浮かべながら撃沈されたとみられる艦の名を列挙していく。

それだけならまだしも、ミクマリなど生存艦9隻も全て何かしらの損傷を受けており、万全の状態とは言い難い有様だった。

敵の"切り札"を切るための巧妙な戦術に翻弄され続けたホロヅキは潔く任務失敗を認める。

「しかし、総司令部の許可が無ければ撤退は許されないでしょう」

勝ち目が薄い戦いに無理に拘るべきではない。

ただし、そうだとしても敵前逃亡など言語道断であると副長は釘を刺す。

司令部が戦略的撤退を許可してくれたことなど一度も無かった。

「退くことができないのならば、前に進み続けるしかない――か」

「艦長! 総司令部より緊急入電です!」

自分のような不穏分子を監視する"政治将校"でもある副長の存在を内心疎ましく感じつつも、表面上は模範的艦長として艦隊前進を指示しようとするホロヅキ。

ところが、ここで同じく政治将校を快く思っていないであろうオペレーターがファインプレーを見せる。

総司令部からの緊急入電――この時点で内容は何となく察しが付く。

「何ですって? 読み上げてちょうだい」

「ハッ! 『敵主力艦隊ノ進軍激シク、貴隊ノ応援必要ナリ。大至急首都防衛線ヘ復帰セヨ』――とのことです」

ホロヅキから電文を読み上げるよう促され、その内容を一言一句そのまま復唱するオペレーター。

電文の内容と首都方面の様子を見る限り、レイセン宇宙港で壊滅するはずだった敵主力艦隊は未だ健在で、戦力を維持したまま首都防衛線に迫りつつあるらしい。

「全艦へ伝令! 我が艦隊は転進し敵主力艦隊の側面ないし背後を狙う!」

この命令を待ってましたとばかりにホロヅキは全艦艇に対し180度転進を指示。

"自軍の防衛ライン突破を図る敵艦隊の不意を突く"という名目で戦闘エリアからの離脱を図る。

「ホロヅキ艦長ッ! 敵艦隊に背中を晒すつもりか!?」

「これは総司令部からの命令に基づく作戦変更である! お目付け役の政治将校殿には言葉を慎んで頂きたい!」

「くッ……!」

それに対して副長は本性を現したかのような強い口調でホロヅキの判断を咎めるが、逆に彼女は"総司令部命令"というルナサリアン軍事武門における禁止カードを繰り出すことで政治将校を見事黙らせた。

ブリッジクルーたちが誰一人として声を上げない時点で、人望の違いというモノが大変よく分かる。

「(ここで備蓄基地を明け渡すことが最善策とは思えないけど、私たちは明日に繋がる今日のために戦う……!)」

これは国家存亡を懸けた最後の戦いであり、政府首脳からすれば人命など大事の前の小事なのかもしれない。

しかし、ホロヅキら将兵たちにとっては自分自身や愛する人の未来の方が重要であった。

【政治将校】

ルナサリアンにおいては「実働部隊の視察のために総司令部より派遣される高級将校」を指す。

指揮系統上は総司令部直属となっているが、部隊へ派遣中は現地責任者の指揮下で一軍人として軍務に就く。

その実態は「過去に軽微な軍規違反を犯した高級将校の監視」「部隊内の風紀取り締まり」が目的であり、尚且つアキヅキ家のシンパが大半を占める政治将校を嫌う一般将兵も決して少なくない。

なお、全ての実働部隊に必ずいるわけではなく、総司令部が必要と判断した場合に限り派遣される仕組みとなっている。

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