表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

340/400

【TLH-58】もぬけの軍港

 最前線での航空戦の状況を見ながら前進のタイミングを計る地球艦隊。

あまり先走り過ぎると敵機が残っている状態で戦闘宙域に入ってしまい、航空攻撃に晒されてしまうリスクがあった。

「艦長、我が軍の航空隊が敵航空戦力との交戦を開始しました」

航空隊の動きは正規空母アカツキのCDC(戦闘指揮所)で把握しており、副長のコーデリア大佐が逐一報告を行う。

「敵部隊の機種はリガゾルド――バイオロイド専用機が多数とのことです」

「バイオロイド以外の戦力は? 敵艦隊の姿は確認していないのか?」

彼女は基本的に航空隊からの報告をそのまま伝えているだけだが、その中でサビーヌ艦長は気になる点を二つほど見つけた。

一つは偏りが激しい敵航空戦力、もう一つは敵艦隊の所在についてだ。

「それが……港湾施設内に艦影らしきモノは見当たらないと言っています」

「奇妙だな……リュヌイヴェール氏によると、ここは月面唯一の軍港であるらしい。そう簡単に手放すとは考えにくい」

副長から更なる追加報告を受けたサビーヌは顎に手を当てて考え込む。

ルナ・アセンション作戦立案に当たってはヨルハより多大なる情報提供を受けており、軍港――レイセン宇宙港に関する情報もその一つだ。

「(残存艦隊とはいえかなりの数の艦艇が残っていた。あの規模の戦力を全て隠すことはできないだろう)」

軍港に不在だとしたら当然他の場所にいるということなのだが、最低でも3個艦隊はありそうな大戦力を完全隠蔽できるとは思えない。

「(そもそも、最重要施設をたった30機のバイオロイドに任せている点も不自然だ――まさかッ!)」

留守状態の軍港と使い捨てが利くバイオロイド――。

これらの要素を組み合わせた時、サビーヌは誰よりも早く敵の意図を見抜いたかもしれなかった。


「どうかされましたか?」

「敵は残存戦力を首都防衛に回しているのかもしれない。だとすれば港湾施設がもぬけの殻なのも納得がいく」

深刻そうな表情を浮かべているところをコーデリアに覗き込まれ、現状における私見を伝えるサビーヌ。

消えた敵艦隊の居場所はおそらく首都周辺の防衛ラインだ。

「時間が許すのであれば、港湾施設の占領も可能かと思われます」

「いや……これはブービートラップと見た。港湾施設へ迂闊に接近するのは危険だ」

その話を聞いたコーデリアはレイセン宇宙港の占領を提案するが、罠である可能性を否定しないサビーヌは副長の意見を退ける。

「ルナサリアンは核兵器を実戦配備しているらしい。これは(いささ)か大袈裟な言い方だが、軍港と我々を同時に吹き飛ばす一石二鳥な焦土作戦もあり得ないわけではない」

彼女がここまで慎重になっている理由は単純明快、地球側では表向きは所持が禁じられている核兵器の存在だ。

占領されたくないが再建自体は可能な施設を破壊しつつ、侵略者の戦力を一網打尽にする。

仮に地球艦隊が生き残ったとしても、放射能汚染により最低でも爆発直後は近付けない――。

ルナサリアン側にとっては一見良いこと尽くめに思える。

「(そんな騎士道精神に反する戦術など、本当は考えたくもないがな……)」

もちろん、サビーヌ個人としては机上の空論で済むよう信じたかったが……。

「……作戦変更ですか? 今ならばまだ指示が間に合います」

雰囲気を察したコーデリアは今度は機転を利かせ、作戦変更の決断について意見具申を行う。

「全艦に通達! 敵港湾施設上空を避けるルートに針路変更!」

副官の後押しを受けたサビーヌの判断は極めて速かった。

彼女はオペレーターたちの方を向いて全艦艇に対する針路変更の通達を命じる。

「それからレヴァリエに通信を繋げ! 第1フェーズをスキップし第2フェーズへ移行する!」

その間にサビーヌ自身も艦長席に据え付けられている受話器を取り上げ、別働隊旗艦を務める予定の改造重巡洋艦レヴァリエとの通信回線を開くのだった。


「ようようよう! こっちはロッカールームで着替えてたってのに、いきなり呼び出すとは何を慌てて――」

レヴァリエのCICにコンバットスーツ姿のマリンが愚痴りながら現れる。

プロテクターを着用せず手に持っている辺り、本当に慌てて戻って来たことが窺える。

「おっと、これは失礼……艦隊司令官殿が何用で?」

「急遽キリシマ・ファミリーの責任者である君を呼び出して申し訳ない。だが、土壇場での作戦変更については直接伝えたくてね」

映像通信用の大型モニターに映る相手に気付いたマリンが敬礼の真似事で挨拶すると、サビーヌの方も敬礼を返してから早速話を切り出す。

「……予定外のことが起こっているみたいだな」

彼女の表情と声音から状況を何となく察するマリン。

「第1フェーズの作戦目標であるレイセン宇宙港に敵艦隊がいない。おそらく、我々の奇襲攻撃を察して(あらかじ)め退避させたのだろう」

呑み込みが早くて助かるとばかりにサビーヌは現状を説明し始める。

「問題は施設の重要度に対して防衛戦力があまりに手薄な点だ。ルナサリアンの核兵器配備の情報も考慮すると、これは巧妙な罠であると私は確信した」

「へッ、随分と想像力豊かな話じゃねえか」

彼女の話を一通り聞き終えたマリンは皮肉めいた感想を漏らす。

「この世に絶対は無い。そこで私は港湾施設の無力化は後回しにし、代わりに第2フェーズ及び第3フェーズを同時並行で進めることを決定した」

この世に絶対は無い――。

オリエント圏でよく使われる運命論を引き合いに出しながら作戦変更後の方針を通達するサビーヌ。

「マリン君、これより君の(ふね)を含む別働隊には燃料備蓄基地制圧を行ってもらう」

当初はレイセン宇宙港の陥落を確実にしてから別働隊を離脱させる予定だったが、状況変化に伴い第1フェーズは事実上スキップすることになった。

スターライガを除くオリエント・プライベーター同盟の戦力は燃料備蓄基地、主力艦隊はルナサリアン首都ホウライサンへそれぞれ向かう。

「我々が地球へ帰れるか否かに関わる極めて重要な任務だ。小戦力で申し訳ないが、心して臨んでほしい」

仮に後者が上手くいったとしても、前者が失敗に終わったら地球への帰還が絶望的となってしまう。

両面作戦ゆえ限られた戦力しか用意できないことを詫びたうえで、サビーヌは全力を以って任務を遂行するよう求めた。

「その仕事、確かに請け負ったぜ! 陽動を兼ねた首都包囲戦ではド派手に暴れてくれよ!」

自分たちに与えられた役割の重要性はマリンも十分認識しており、"受注"の意図をしっかりと伝えてから映像通信を終える。

「ランス、針路変更だ! 取り舵25! 少々巻き気味だが"100万バレルの生命線"に取り掛かるぞ!」

マリンはずっと手に持っていたプロテクターを着用しつつ、レヴァリエの操舵士を務めるランスに針路変更を指示するのであった。


 燃料備蓄基地――。

艦艇用核燃料やサキモリ用E-OS(イーオス)粒子、そして推進剤が充填されている球形のガスタンク群が目を惹くエリアだ。

ここは採掘・精製施設とレイセン宇宙港を繋ぐ中継地点に当たるため、ルナサリアン軍事武門にとってはアキレス腱とも呼べる最重要拠点である。

「作戦目標を確認! 周辺に敵影無し!」

「針路及び速力そのまま!」

「了解! 針路及び速力そのまま!」

オペレーターのミルの報告を聞いたノゾミは操舵輪を握るリソに指示を飛ばし、いつも通りその内容を復唱させる。

彼女らロータス・チームの母艦トリアシュル・フリエータは戦闘力が低い特設フリゲートなので、同業者の高性能艦について行くだけでも苦労していた。

「あれが備蓄基地か。ガスホルダーってことは中身は気体――おそらくヘリウム3だな」

「さすがに月面じゃ石油は採れないか」

交戦状態に入るまで仕事が無い火器管制員のヌエはコンソールパネルを弄っていた手を止め、ブリッジから見える多数のガスホルダー(ガスタンク)について感想を述べる。

それに反応したリソが指摘している通り、石油などを含めた化石燃料は月面には存在し得ないはずだ。

もし月の地面を掘って原油が出てきたら、天文学の常識を完全に覆す歴史的大発見となるだろう。

「ナスル、ショウコ、聞こえるかしら? まもなく作戦エリアに入るので発艦準備を開始してください」

まあまあリラックスできていそうなブリッジクルーたちの遣り取りを見守りつつ、格納庫で待機中のMF部隊の様子を無線で確認するノゾミ。

「こちらペンデュラム、もう済ませている! 指示があればいつでも出れる!」

「ボクの方も準備万端だよ!」

ある意味ロータス・チーム最大の戦力であるナスルとショウコは既に発艦準備を終えており、出撃の時を今か今かと待ち侘びていた。

「二人とも流石ね。もう少し作戦目標に接近したいので、そのまま待機でお願いします」

ノゾミとしてもMF部隊のモチベーションの高さは望ましいことだったが、航空隊を出す時は味方とタイミングを合わせたいので待機状態の維持を命じておく。

「(宇宙港に居なかった敵艦隊は一体どこへ? 何となく悪い予感がするわ……)」

彼女は元海軍軍人だが衛生科所属の軍医だったため、戦術や戦略についてそこまで詳しいわけではない。

しかし、それとは別の人生経験に由来する"勘"でノゾミは何かを感じ取っていた。


「こちらヤンケ、現在備蓄基地上空を複数回に亘り通過。対空兵器の存在は確認できず」

トムキャッターズのMFドライバーであるシンドル・ヤンケのスパイラルC型が、ガスタンク群の頭上を何度もフライバイしていく。

意外なことに対空砲火による出迎えは全く無く、彼女はノーリスクで備蓄基地の稼働状況を偵察することができた。

「先行偵察ご苦労だった。すぐにあたしたちも追い付くから警戒を怠るなよ」

その報告を受けたヤンは部下の活躍を労いつつ、引き続き周辺状況に目を光らせるよう指示を与える。

「ここは超重要施設なんだろ? ルナサリアンのことだから隠れS.A.M(地対空ミサイル)が埋め込まれてるかもしれねえぞ」

「ガスホルダー群の外ならばともかく、内部に配置されている可能性は低い。自分たちの対空迎撃で貯蔵設備を壊したくはないはずだからな」

機上レーダーや目視では発見しにくい対空兵器の存在に対するマリンの反応は正しい危険察知だ。

だが、"貯蔵設備への被害"を根拠にヤンは対空兵器が隠されているという見方を否定する。

こういった施設の対空兵器は基本的にAI制御なので、敵機を追いかけているうちに設備を誤射してしまうリスクもあり得る。

「うっかり壊したら誘爆でここら一帯が吹き飛ぶんじゃないのか?」

「いや、この手の施設では安全のため資源の不活性化処理を行うはずだ。地球上と違って月面には酸素が無いから、処理と合わせれば火災のリスクは多少なりとも低下する」

逆に自分たちの攻撃が当たってガスタンクを破損させてしまい、漏れ出した中身のせいでトラブルが起こる可能性もあるだろう。

珍しく心配性なマリンの相次ぐ疑問にヤンは呆れること無く丁寧に答えていく。

「何年か前にニュースで見た中東の油田火災は酷かったぜ。あれで作業員が何百人も死んだ挙句、埋蔵量も激減したっていうからな」

「石油を輸入に頼る国々にとってはとんだ災難だった。ああいう事態にはならないと思うが、流れ弾には細心の注意を払え」

数年前、地球上で最大級とされる油田の一つで起きた大火災をマリンとヤンは思い出す。

あれの発火原因は不慮の事故ともテロリストによる放火とも言われているが、いずれにせよ中東諸国の石油事業に致命傷を与えてトドメを刺したことに変わりは無い。

「あのガスホルダーの中身はあたしたちの帰り道の燃料でもある。施設にダメージを与えすぎて使い物にならなくなったら本末転倒だ」

現代史の振り返りはこれくらいにするとして、とにかくガスタンクへの流れ弾は絶対に避けるよう厳命するヤン。

「全機、今回は精密攻撃を徹底しろ。民間人が残っている市街地で戦う時ぐらいの緊張感で臨め」

「おう! 慎重且つ大胆に――だな!」

市街戦並みの慎重さを要求してくるヤンの注意喚起に影響されたのか、愛機スーペルストレーガの狭いコックピットでいつもよりも若干控え目に気合を入れるマリン。

「各プライベーターの母艦は備蓄基地に接舷開始! 白兵戦要員を上陸させて制御室を発見・制圧する!」

戦闘のプロである元海兵隊員としてのスキルを最大限活かすべく、ヤンは率先して別働隊の指揮を執り始めるのだった。

【ルナサリアンの核戦力】

核反応に用いるヘリウム3が容易に採掘できることから、ルナサリアンでは月面への入植時より原子力開発が盛んに行われてきた。

その過程で核兵器も当然ながら開発されており、月面の最重要立入禁止区域には今も多種多様な核兵器が眠っているという。

ただ、アキヅキ家による権力掌握後はサキモリ及び超兵器中心の軍事戦略に方針転換したため、以前ほど核戦力の強化には熱心ではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ