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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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339/400

【TLH-57】月への挑戦

Date:2132/09/19

Time:18:20(UTC+6)

Location:Lunasalia

Operation Name:LUNA ASCENSION

 2132年9月19日、協定宇宙空間時17時20分――。

「航空隊、発艦準備急げ!」

重雷装ミサイル巡洋艦アドミラル・エイトケンのMF格納庫内にサイレン音とアナウンスが響き渡る。

ルナサリアン本土攻略作戦"ルナ・アセンション作戦"の開始は約1時間後に控えていた。

「……」

「セシル、聞こえているかしら?」

「通信感度良好、よく聞こえている」

出撃を前にセシルが愛機オーディールM2のコックピット内で精神統一していると、彼女のチーフエンジニアを務めるミキが無線で話し掛けてくる。

セシル機は既にカタパルトへの接続作業が開始されており、カウルを開けて直接会話することはできない。

「センサーカメラはしっかりとクリーニングしておいた。外がよく見えるはずよ」

コックピットがカウルで覆われるファイター形態時に文字通り"目"となるセンサーカメラの調整は完璧だと伝えるミキ。

もちろん、センサーカメラ以外のあらゆる部分も最高のコンディションに仕上げられているはずだ。

「ミキ、お前にはこれからも私の専属チーフエンジニアを担当してほしい」

この戦争以前からの長い付き合いであるミキに対し、セシルは改めて感謝の言葉を述べる。

ミキ以外のエンジニアが調整した機体に乗ることはハッキリ言って考えられなかった。

「だから……必ずここに戻る」

大激戦が予想される最終決戦を無事に生き残れる保証は無い。

それでもセシルは親友と約束を交わす。

この悲しい戦争を終わらせ、アドミラル・エイトケンへ帰艦する――と。

「私たちが整備した機体だ。絶対に大丈夫」

「1番カタパルト接続完了! コースクリア!」

ミキ及びメカニックたちの退去と同時にセシル機を接続したカタパルトが甲板上へ移動し始める。

ルナサリアンの防空圏に入る直前ということもあり、上空及び母艦の周辺に敵影は認められない。

「ゲイル隊、発艦を許可します――無事に帰って来てね」

「ゲイル1、了解。艦長は私たち航空隊が帰る場所を守ってくれ」

メルト艦長直々の発艦命令に静かながらも力強い返事で応じつつ、自分たちが帰るべき母艦のことを託すセシル。

「(アキヅキ・ユキヒメ……3か月前の借りを返す時が来たな)」

彼女のオーディールには3か月前の戦闘でユキヒメ専用ツクヨミから預けられたカタナに加え、同武器のオリエント連邦製デッドコピー品である実体剣"試製ソリッドサーベル"が装備されていた。

「……ゲイル1、出るぞ!」

最後にゆっくりと深呼吸をしてからセシルは推力制御モードになっている左操縦桿を前に押す。

その直後、増加装甲を(まと)ったフル装備の蒼いMFはフルスロットルで星の海へと飛び立つのであった。


 同じ頃、スターライガの母艦スカーレット・ワルキューレからも艦載機が次々と発艦を開始していた。

「おーい! お前たちはまだ若いんだから、必ず生きて帰って来いよーッ!」

フライトデッキリーダーのユウコら甲板作業員たちが手を振って見送る中、白黒ダズル迷彩が特徴的な3機のオーディールA2が飛び立っていく。

「あれが噂のドラグーン隊なの?」

「ええ、彼女たちは別働隊としてマスドライバー破壊に向かうそうよ」

この戦争におけるエース部隊の一つとしてすっかり有名になったドラグーン隊だが、リリーとサレナがその姿を間近で見るのは今回が初めてだった。

「あの人たちの武運を祈りましょう。そして、私たちの方も……!」

「『その者 白き飛竜の衣を纏いて 星の梯子を外すべし』」

与えられた役割は違えど全力を尽くさなければならないのは皆同じ――。

約半年間の戦いで最も急な学習曲線を描いてきたであろうクローネが意気込んでいると、ライガは唐突にオリエント神話の一節と思われる部分を呟く。

「どうしたの? 急にポエムなんか詠みだして」

「ドラグーンって確か"竜騎兵"って意味だろ? だから、子どもの頃に伯母さんから読み聞かされたおとぎ話を思い出してな」

リリーの至極当然なツッコミに幼少期を振り返りながら答えるライガ。

彼は筆頭貴族シルバーストン家の出身ということもあり、伯母さん――現当主レティシアによる"帝王学"の一環としてオリエンティア文化は散々学ばされたものだ。

「レガリア・シャルラハロート、重機動型バルトライヒ……行きます!」

ライガ率いるα(アルファ)小隊よりも先に準備を済ませていたレガリアの重機動型バルトライヒが発艦していく。

「次は俺たちの番だな……!」

ライガ、ラヴェンツァリ姉妹、クローネの搭乗機は既に飛行甲板上で待機しており、後は空いているカタパルトに機体の足を固定するだけだ。

「8番カタパルト接続完了! コースクリア!」

ライガの愛機パルトナ・メガミ(決戦仕様)は右舷側最後方の8番カタパルトへ移動し、射出時に脚部を保持する"シャトル"に両足を置く。

「(オリヒメ……お前の暴走は俺がこの手で止めてみせる)」

彼の願いはたった二つ。

オリヒメの心を救い、この戦争を終わらせる。

「パルトナ・メガミ、出撃する!」

カタパルト横のLEDライトがグリーンシグナルに変わった瞬間、ライガはスロットルペダルを思いっ切り踏み込む。

前の戦闘での修理に伴う部品交換の影響が懸念されたが、幸いにも白と蒼のMFはこれまでで最高のコンディションに仕上がっていた。


 (あらかじ)め発艦させておいた航空隊を上空に展開しつつ、地球艦隊はルナサリアンの防空識別圏へ真っ向から侵入を試みる。

「全艦、状況を報告せよ!」

「こちらアドミラル・エイトケン以下17TSq、スタンバイ完了しています!」

地球艦隊の旗艦はオリエント国防海軍のサビーヌ中将が指揮する正規空母アカツキだ。

彼女の直接指揮下にはメルト率いる第17高機動水雷戦隊が所属し、小回りの利く艦隊編成を活かした任務に従事する。

これらの艦を含むオリエント国防海軍第8艦隊だけで戦力の約半数を占めていた。

「スカーレット・ワルキューレ、スタンバイ完了」

サビーヌの先輩であったミッコが艦長を務めるスカーレット・ワルキューレは地球側唯一の戦艦級であり、砲撃戦・航空戦共に最大のダメージディーラーとなる可能性が高い。

作戦のほぼ全体を通して極めて重要な役割を担うため、この艦は何としても生き残らせなければならない。

「キリシマ・ファミリー代表のキリシマだ。ボクたちのレヴァリエはいつでもイケますぜ」

今回は珍しくマリンが船長席に座っているレヴァリエは速力重視の改造重巡洋艦。

その足の速さは何かしらのカタチで必ず役に立つだろう。

「こちらトムキャッターズ、戦闘配置完了!」

マリンとは逆にMFに乗った状態で指揮を執るヤンは威勢こそ良いが、残念ながらトムキャッターズの母艦ケット・シーは特設軽巡洋艦なので戦闘力は高くない。

それでもいないよりは遥かにマシだ。

「ロータス・チームは予定通り後方支援に就きます!」

ロータス・チームのトリアシュル・フリエータに至っては直接戦闘を目的とした艦ですらなく、砲撃戦には全く期待できない。

ここは代表兼船長のノゾミの言う通り後方支援へ徹してもらう方がいい。

「わずか19隻の戦力による敵国中枢部攻撃――あまり賢明とは言えないかと」

地球側の生き残りは戦艦級1、正規空母2、軽空母級3、重巡洋艦級3、軽巡洋艦級4、駆逐艦級6の計19隻。

圧倒的戦力不足は誰が見ても明らかで、サビーヌの副官であるコーデリア大佐はこの陣容に不安感を隠していない。

「これくらいしか芸の無い指揮官だからな」

当然ながら限られた戦力で上手く立ち回る方法をサビーヌは必死に考える努力はしていた。

結局、"奇策に依存した海空連合電撃戦"以外の有効な作戦は思い付かなかったが……。

「……すまないがみんなの命をくれ。その代わり、分の悪い賭けに付き合わせる全責任は私が負う」

それでもオリエント国防海軍将兵の彼女に対する信頼が失われたわけではない。

コーデリアを含む全ブリッジクルーの力強い頷きが答えを示している。

「まずは航空隊による先制攻撃及び制空権確保を行う! 敵戦力を発見次第交戦を許可する!」

第1フェーズの攻撃目標である港湾施設は辛うじて目視できる位置に確認できるが、同時に相手も地球艦隊を捕捉していることが予想される。

艦艇よりも機動力が高い航空隊を先行させ、対空兵器や敵航空戦力を潰すというサビーヌの采配は理に適っていた。

「ルナ・アセンション作戦開始! この戦争を終わらせに行くぞッ!」

CDC(戦闘指揮所)の全天周囲スクリーンに表示している現在時刻を確認し、当初の予定通り18時20分を以って作戦開始を宣言するサビーヌ。

片道切符の悲壮な覚悟の下、ついに月面へと辿り着いた勇者たちの最後の戦いが幕を開ける……。


 作戦目標のレイセン宇宙港には防空部隊の運用などを目的とする飛行場が併設されている。

迎撃機の発進前に基地機能を奪うことは難しいだろうが、最低でも滑走路だけは破壊しておきたい。

航空隊の任務は迎撃機に対処しつつ戦域奥深くまで進攻し、飛行場及び対空兵器を無力化することだ。

「プロキオン1よりアカツキCDC、敵航空隊を捕捉した! これより戦闘態勢に入る!」

"アークバード・FA21-α スターメモリーα"を駆るプロキオン1――フェルナンドは敵機発見を報告するや否や、先手必勝の考えの下にすぐさま戦闘態勢へと移行する。

大方の予想通り、戦闘の火蓋は航空戦によって切られた。

「機種照合――リガゾルド? 確か、バイオロイドの専用機ね……」

ただ、予想とは少しばかり異なる事態も起き始めている。

敵部隊に違和感を覚えたデアデビル隊隊長のニュクスは独自に機種照合を行った結果、敵機が"RMA-25 リガゾルド"――バイオロイド専用可変型MFであることに気付く。

「プロキオン1、何か様子が変だ。敵艦隊の艦影がやけに少ない」

「こっちのレーダーじゃまだ分かんないぜ。もう少し索敵してくれ」

プロキオン隊らに同行している戦闘機部隊も何か気になる点があったようだ。

もっとも、戦闘機(SF25-A スピカ)よりもレーダーの探知距離が短いMFに乗るフェルナンドとしては、この時点ではまだ情報不足だと感じていた。

「バイオロイドだかバイオハザードだか知らねえが、航空戦力は空対空装備の俺たちが引き付けてやる」

「バイオロイドについては未知数な点も多い。機体性能もオーディールに匹敵するらしいから、油断は禁物よ」

「言われるまでも無い! そのためにスターライガとデータ共有してんだろ?」

フェルナンド率いるプロキオン隊は対戦闘機・対サキモリ用の装備を持って来ているため、バイオロイドのリガゾルドとも何とか渡り合うことができるだろう。

慎重なニュクスは勝手が分からない敵には最大限の注意を払うべきだと警告するが、当のフェルナンドは冷静ながらもある程度楽観的な見方を示す。

彼自身バイオロイドとは戦ったことがあるうえ、対バイオロイド戦の経験が豊富なスターライガから信頼できるデータ提供を受けていたからだ。

「敵航空隊、交戦距離に入ります!」

「真っ向勝負かよ……面白れぇ!」

僚機プロキオン2の報告を受け、待ってましたと言わんばかりに闘志を(みなぎ)らせるフェルナンド。

この極限状況下ではこうやって自分を鼓舞しなければ精神が持たない。

「プロキオン各機、交戦を許可する! 味方艦隊には近付けさせるなよ!」

火器管制システムのセーフティを解除すると、フェルナンドは機体を加速させながら右操縦桿のトリガーに人差し指を掛ける。

「プロキオン1、ファイアッ!」

彼のスターメモリーαとバイオロイドのリガゾルドの攻撃は奇しくも全く同じタイミングであった。

【海空連合電撃戦】

艦隊と航空機の連携による奇襲攻撃を指し、陸軍が接近できないような険しい敵拠点の攻略時に用いられる。

機動力が高い航空部隊が先行して安全を確保した後、艦隊が艦砲射撃などで迅速に敵主力を撃滅する戦闘教義である。

海空軍共に強大な戦力を擁し、尚且つ両軍の連携を重視するオリエント国防軍やルナサリアンが非常に得意としている。

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