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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-51】敗走

 互いに得物の銃口を向けながら睨み合う2機の機動兵器――。

「ファイアッ!」

「発射ッ!」

永遠に続くかと思われた静寂の末、ライガとオリヒメは奇しくも同じタイミングで操縦桿のトリガーを引く。

どちらも相討ち覚悟の一撃に全てを懸けていた。

「何ッ!? エネルギー切れだと……!」

しかし、ライガのパルトナ・メガミの右腰部可変速レーザーキャノン(VSLC)から蒼いレーザーは発射されなかった。

「弾切れ――か。お互いにここまでみたいね」

これで勝敗は決したかに見えたが、オリヒメのイザナミ重も長銃身大型光線銃を構えたまま動かない。

彼女の機体は元々燃費が悪いうえに激しい戦闘を長時間続けていたため、こちらもエネルギーを絞り出せないほど消耗していたのだ。

「……上等だよ、何も言うことは無い。あまり認めたくはないがな」

これ以上意地を張り合ったら宇宙漂流者になってしまうと察したライガは、先に武器を収めながら渋々といった感じで相手の戦闘力に敬意を示す。

「だが、俺にはエースドライバー――そっちの言葉だと"撃墜王"としてのプライドがある。次は文句の付けようが無い勝ち方でお前を圧倒してやる」

決して敗北したわけではないものの、かと言ってこの結果では戦術的勝利と呼ぶこともできない。

地球側で五指に入ると評される実力を名折れさせないよう、次こそは完全勝利してみせると宣言するライガ。

「俺以外の奴に討たれたら興醒めだからな」

エレブルー首脳会談から始まった数々の因縁に、2回目にもかかわらず自分と互角以上に戦えるほどに向上した実力――。

ライガはついに"運命のライバル"を見つけたのかもしれない。

「フフッ……その言葉、そっくりそのままお返しするわ」

そして、それはオリヒメにとっても同じだった。

「私以外に負けることは絶対に許さないから」

彼女が抱く想いは明らかに歪んでいたが、同時にどこまでも真っ直ぐに伸びていた。


「緊急通信? 私よ……そう、苦しい中よく持ちこたえてくれたわね」

一騎討ちの決着を見計らったかのように緊急通信が入る。

相手はルナサリアン艦隊総旗艦ヤクサイカヅチの戦闘指揮所(CDC)で、最高司令官たるオリヒメに指示を仰いでいるようであった。

「(こちらは敵機と交戦中なの。今後の行動方針についてはユキヒメ及び親衛隊と合流次第、暗号通信でそちらへ通達するわ)」

ヤクサイカヅチのサトノ艦長による芳しくない戦況報告を受け、オリヒメは妹と協議したうえで方針決定を行うと返答する。

もっとも、彼女の中では既に結論は出ていた。

「次はお前の国での本土決戦か……どこに隠れていても必ず引きずり出してやるからな」

白と紫のサキモリが撤退する素振りをあえて見逃し、改めて"個人的な"宣戦布告を突き付けるライガ。

「私は地球の臆病な指導者たちとは違う。たとえ感情主義と罵られようとも、あなたと戦う時は正々堂々お相手して差し上げるわ」

その決意に満ち溢れた発言に笑顔を浮かべ、時が来たら真っ向勝負で迎え撃つと言い返すオリヒメ。

「一足先に"ゴショ"で待っているわよ。もっとも、私たちの星まで無事に辿り着ければの話だけれど」

「必ず辿り着いてやるさ……!」

彼女のイザナミ重が不安定な挙動で撤退していく後ろ姿を見届けつつ、ライガは自分自身にも言い聞かせるように"必ず月へ向かう"と呟く。

「(奴が言い残した"ゴショ"ってのは何だ? 総司令部のような戦略拠点だと思うが、後でレンカかヨルハさんに尋ねるべきだな)」

ところで、一つ気になるのはオリヒメの話の中で出てきた"ゴショ"という単語である。

ルナサリアンの言語とオリエント語にはある程度共通性が見られるものの、この単語に限っては名門国立大学を卒業したライガを以ってしても想像が付かなかった。

これについてはルナサリアン出身のレンカやヨルハなら何か知っているだろう。

「ライガッ!」

イザナミ重の撤退と入れ違いになるように純白のMF――リリーのフルールドゥリスが現れ、単独行動中だったライガと合流を果たす。

別行動を取っていたラヴェンツァリ姉妹とクローネは3機とも健在のようだ。

「ルナサリアンの部隊は撤退していったわ。γ(ガンマ)小隊は補給のために後退したから、私たちも一度帰艦して情報を整理するべきだと思う」

サレナたち(及びサニーズ率いるγ小隊)が戦っていたユキヒメと皇族親衛隊は既に撤退したらしい。

オリヒメの退き際がやけに迅速だったことも合わせると、ルナサリアン側の防衛戦力は相当追い詰められているのかもしれない。

「ライガさん……肩を貸しましょうか?」

「ああ、あの女が予想以上に強くなっていてな……おかげでこっぴどくやられちまった」

機体の酷い損傷状況に気付いたクローネのシューマッハから差し伸べられた右手を掴むと、"スターライガのリーダー"としては情けない有様にライガは自嘲するしかなかった。


 一方その頃、こちらはスターライガの母艦スカーレット・ワルキューレのCIC(戦闘指揮所)――。

「みんな、お疲れ様」

対艦攻撃を終えて帰艦したレガリアがCICへ入室すると、ミッコ艦長以下ブリッジクルーたちは軽い会釈で最高責任者を出迎える。

同じ艦に乗り込む戦友という関係且つ多忙を極める戦闘中であるため、形式ばった挨拶は特に必要無い――。

"明確にして穏やかな上下関係"の構築を意図したこの組織風土こそ、スターライガチームの強みの一つだと断言できる。

「お帰りなさい。でも、その様子だとまた再出撃するみたいね」

「整備補給が終わったらそうするつもりです。ただ、航空隊の面々も乗組員たちも疲労は限界に達しつつあります」

コンバットスーツの上半身をはだけさせている姿をミッコに見られ、慌てて服装を整えながら艦長の指摘に頷くレガリア。

しかし、自ら最前線に立つ者として彼女はスターライガメンバーたちの疲労度を心配していた。

「これ以上の持久戦は危険――あなたの言わんとしていることはよく分かるわ」

それについてはミッコの方も乗組員たちのパフォーマンス低下というカタチで実感している。

友軍艦隊各艦も概ね同じ問題を抱えていることだろう。

「幸いなことに先ほどから敵艦隊の陣形が乱れ始め、その隙を突いた友軍艦隊の突撃で戦局は一気にこちら側へと傾いた。この調子を維持できれば防衛ラインの突破は時間の問題よ」

ネガティブな話題ばかりではさすがに気が滅入ってしまう。

数少ない"良いニュース"としてミッコは今現在の戦況について報告する。

少なくともチェス盤の上では地球艦隊が優勢のように見えるが……。

「……」

この戦況報告にレガリアはどうも納得がいかないらしい。

「何か気になることでも?」

「……これはあくまでも私の意見ですが、敵艦隊の退き方に若干の違和感があります」

ピリピリした雰囲気を察したミッコが心配げに視線を向ける中、レガリアは"個人的な意見"と前置きしたうえで敵艦隊の動向に対する違和感を述べる。

「陣形に穴が開いた瞬間、彼女らは躊躇うこと無く背を向けた。これが単なる敗走ではなく、(あらかじ)め計画された所謂"プランB"である可能性も否定できない――か」

彼女の言葉を聞いたミッコは目を瞑って考え込む。

敵にとっての最終防衛ラインで主力艦隊を速やかに引き上げるのは、確かに少々不可解な判断ではあった。


「あの……軍事行動の専門家たるお二人に助言できる立場では無いのですが、一つだけよろしいでしょうか?」

スターライガの指揮官クラス2名がルナサリアン艦隊の思惑を読みかねていたその時、オブザーバーとして副長席に座っていたヨルハが控え目に手を挙げる。

「構いませんよ。むしろ専門家以外の視点から意見を頂けるとありがたい」

「この防衛戦を指揮しているオリヒメ様は相当の策士にして、自らの親族一同を謀殺することさえ躊躇わない冷酷非道な独裁者でもあります」

行き詰っていたレガリアが発言を許可すると、ヨルハは大前提として敵の総大将たるオリヒメの人物像について説明し始める。

幼少期までは互いに遊び相手だった彼女曰く、オリヒメは目的達成のためならば基本的に手段を選ばない女だという。

その徹底したやり方は対立する一族に属していたヨルハはおろか、独裁体制を敷くうえでアキヅキ家の内部分裂を招きかねない両親や従姉妹たちにまで及んでいた。

「そのような人間がただ単に自軍を後退させるでしょうか? それは作戦失敗を事実上認めることであり、軍内部及び国民に対する求心力低下に繋がります」

正当とは言い難い方法で王位を簒奪(さんだつ)した以上、権力の維持にアキヅキ姉妹及びそのシンパは心血を注いできたはずだ。

ヨルハはアキヅキ家の支配体制には既に綻びが生じ始めており、万が一にも本土侵攻を許したらクーデターや国民たちの反戦デモによる自滅すらあり得ると推測していた。

「(上層部の指揮に不満を抱いた生還者から玉砕という情報が漏洩し、それが噂として国民に広がったら厭戦(えんせん)ムードを招く恐れがある――まさか!)」

アキヅキ家にとって厄介なのは軍事力というカードを持つ国軍――この戦争で多くの損害を被ってきた軍事武門の反発だろう。

もし、軍事クーデターを目論む派閥が反アキヅキ勢力との連携を確固たるモノとするべく、"大本営発表"の真実を暴こうとしたら?

レガリアの脳裏に嫌な考えがよぎる。

「(私たちは敵艦隊の尻尾を追いかけるべきではないのかもしれない……)」

だが、スターライガ最高責任者にして元オリエント国防空軍士官のレガリアといえど、友軍艦隊の指揮系統に干渉できるほどの権力は持ち合わせていなかった。


 最終防衛線突破の悲報を受けたアキヅキ姉妹は速やかに主力艦隊と合流。

二人は艦隊総旗艦ヤクサイカヅチへ着艦し、撤退に向けての準備を急ピッチで進めていた。

「――私だ、アキヅキだ。今はヤクサイカヅチの戦闘指揮所から通信を行っている」

ヤクサイカヅチのCDCに入室したユキヒメはオペレーターの席を貸してもらい、自身の座乗艦シオヅチのアスナ艦長から可能な限りの情報を聞き出す。

シオヅチは敵主力艦隊との砲撃戦で大きなダメージを受けており、もはやサキモリ部隊を収容できる状況ではなかった。

「シオヅチの被害状況は? ――いや、貴様と乗組員一同はよくやってくれたと思う」

一通りの被害報告を聞いた彼女は険しい表情を少しだけ緩め、アスナ艦長以下シオヅチ乗組員たちの奮闘を労う。

惜しむらくは激戦の過程で乗組員にも少なくない死傷者を出してしまったことだ。

「我々はこれ以上の防衛線の維持は不可能と判断した。シオヅチを囮にすれば主力艦隊を撤退させる時間は稼げるので、機密資料や利用可能な物資を処分してから全乗組員を速やかに退艦させろ」

姉のオリヒメと協議したうえでの結論を通達すると、続けてシオヅチからの総員退艦を命じるユキヒメ。

戦闘続行困難なシオヅチは自動航行モードに切り替え、敵艦隊の攻撃を誘引させる囮として最後まで有効利用する。

「無論、貴様もだ。"艦と運命を共にする"などとは考えるなよ……私は名誉の戦死でしか忠誠心を示せない部下が一番嫌いだからな」

軍人に忠実なアスナの思考を見透かしたユキヒメは先回りするように釘を刺し、"たとえ生き恥を晒すことになっても命は大事にせよ"と言い残しながら通信を終えるのだった。


「……悪いわね、あなたの座乗艦を切り捨てるカタチになってしまって」

オペレーター席から立ち上がった妹の両肩に優しく手を置き、厳しい判断を迫ったことを詫びるオリヒメ。

「仕方あるまい。我々月の民の象徴たるヤクサイカヅチを簡単に失うわけにはいかん」

それに対してユキヒメは姉の両手をゆっくりと払い除け、戦略的に考えればやむを得なかったとフォローを入れる。

「ところで……本当に"アレ"を使うのか? 完成度が7割程度の現状では実質使い捨て兵器だと聞いているが」

本国まで撤退する艦隊の針路変更がようやく始まった頃、ユキヒメは姉がかねてより作戦に組み込むと明言していた"アレ"の運用について改めて尋ねる。

彼女自身としては正直なところあまり乗り気では無かったが……。

「1回しか使えないのならば、その1回で最も多くの敵を攻撃できる瞬間を狙うまでよ」

妹の懸念とは裏腹にオリヒメは"アレ"を有効に運用することができるという確信があった。

「現在、敵艦隊は撤退中の我が方にトドメを刺すべく戦力を集結しつつある」

その根拠としてCDCの全天周囲スクリーンに表示されている敵艦隊の位置情報を指し示し、"アレ"の射線上に多数の目標を誘き寄せれば攻撃回数の少なさは補えると説明するオリヒメ。

「シオヅチやその他大型艦といった高価値目標を餌にして敵主力を引き付け、錦鯉(にしきごい)のように卑しく集まってきたところを"月光砲"で一気に殲滅する!」

自動航行モードの艦艇の周囲に敵艦を集め、餌を食べることに夢中になっている間にアレもとい"月光砲"と呼ばれる戦略兵器の一撃を撃ち込む――。

オリヒメがその性能に絶対的な自信を見せる"月光砲"とは一体……?

【Tips】

戦闘指揮所という言葉の略称には"CIC(Combat Information Center)"と"CDC(Combat Direction Center)"の二種類が存在する。

後者は航空母艦の戦闘指揮所を指す時に使う略称だが、基本的な役割は空母以外の艦種でも変わらない。

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