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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-48】FINAL FRONTLINE(中編)

 日本海軍の武勲艦として軍民問わず親しまれた戦艦金剛が爆発炎上しながら沈んでいく。

いくら名声を築き上げたとしても、敗北した兵器の末路に救いは無い。

「こ、金剛が沈むぞ……!」

「くそッ、ルナサリアンめ!」

「乗組員たちの仇を取ってやる!」

直掩として守らなければならなかった味方艦の最期に唇を噛み締め、その無念を晴らすべく日本海軍のMFドライバーたちは激しい攻撃に転ずる。

彼らの戦う原動力は祖国を蹂躙し、数多くの同胞を傷付けてきたルナサリアンに対する深い憎悪であった。

「無粋な……そんな攻撃、止まっていてもかわせる!」

だが、憎しみが込められた射撃をユキヒメのイザナギは上半身の動きだけで全て回避してみせる。

地球的に言うならば"舐めプ"と呼ばれる行為に近い。

「くたばれ、ルナサリアンッ!」

「遅いッ!」

圧倒的実力差を突き付けられてもなお日本海軍の主力MF"キタカミ・M-3 晴嵐22型甲"は格闘戦を挑んでくるが、全身全力を振り絞った袈裟斬りも白と赤のサキモリには全く通用しなかった。

「ぱ、パワーが違い過ぎる!?」

両機の得物が切り結ばれた瞬間、晴嵐の武装である125式機械化軍刀の刀身が粉々に砕け散る。

「しかも貧弱な太刀筋と来た……感情に任せた動きでは犬死にするぞ!」

「は、速――!」

相手が態勢を整えるよりも先にユキヒメのイザナギは専用カタナを構え、戦場の光を反射し銀色に輝く刃で敵機のコックピットを串刺しにする。

「(この戦場には私を満たしてくれる強者が大勢いるはず……イザナギの剣は奴らの血を求めている)」

完全に沈黙した灰色のMFを蹴り飛ばし、刃先にこびり付く血糊を払いながら星の海を見渡すユキヒメ。

全力を出さずとも容易に砕けてしまい、駆け引きの必要さえ無い弱者との戦闘など全く以ってつまらない。

全身全霊をぶつけても壊せないような相手と戦うためにイザナギは作られ、彼女もそれに相応しいエイシとなるべく己を磨いてきたのだから。

「ユキヒメ様! こちらに向かって高速接近するモビルフォーミュラを捕捉しました! 機数4!」

敵の弱さに失望しかけていたその時、別の敵機を各個撃破していたスズヤから敵増援接近の報告が入る。

「4機編隊か……識別信号は?」

「ッ! スターライガです!」

"4機のMF"という情報だけでユキヒメは既に察しを付けていたが、それを証明するかのように識別信号を確認したスズヤが追加報告を行う。

「こちらの匂いを嗅ぎつけたな……よし、姉上の小隊と合流して迎え撃つぞ!」

待ち侘びていた強敵たちとの再戦にユキヒメが心を躍らせていたことは言うまでも無かった。


 ユキヒメたちが捕捉していた敵増援の正体は、確かに4機1個小隊を基本編成とするスターライガだった。

「友軍が随分と騒がしかったようだが……くそッ、遅かったか」

サニーズ率いるγ(ガンマ)小隊が到着した時、友軍――戦艦金剛とその直掩航空隊は既に壊滅していた。

「やったのはルナサリアンの航空部隊だ」

「ねえ、あいつらって……!」

状況証拠は出揃っている。

ロサノヴァが事実を述べたのに続いて、敵部隊が普段見かけない機種で構成されていることを指摘するチルド。

「あのカラーリング……間違い無い、"皇族親衛隊"とやらの機体だな。奴らが護衛しているのがアキヅキ姉妹の専用機だ」

普段から各種資料によく目を通しており、且つ分析も怠らないサニーズは敵部隊の正体と脅威度を瞬時に把握する。

「敵機8! 迎撃に当たっていた日本軍機は全滅した模様!」

「チッ、下手くそどもめ! こうなったら私たちで少し時間を稼ぐぞ!」

そこにランの報告が加わることで情報の正確性が増し、友軍の情けなさに舌打ちしながら"ここは自力で何とかしてやる"と気合を入れるサニーズ。

「ラン、近くにいる味方に援軍を()え! α(アルファ)β(ベータ)ならベストだが、とりあえず1小隊呼び出しておけ!」

まず彼女はランに味方部隊へ援軍要請を送るよう指示を出す。

αはライガ、βはレガリアがそれぞれ率いている小隊だ。

逆に言えばスターライガチームの中でもトップクラスの実力を持つサニーズが援軍必須と判断するほど、アキヅキ姉妹及び皇族親衛隊は強敵である可能性が高い。

「アキヅキ姉妹の相手は私がやる! チルドとロサノヴァは取り巻きを処理しろ!」

各々が相手取る敵機についてもこの時点で速やかに割り振っておく。

最も強いであろうアキヅキ姉妹と戦うのは、当然ながら搭乗機シルフシュヴァリエBST共々スターライガチーム最強クラスの戦闘力を誇るサニーズだ。

「了解! やってやるんだから!」

「機動兵器だけで戦艦を沈める連中……本気で掛からないとな」

「この人たちとの連携をしっかり意識すれば対抗できるはず……!」

そんな彼女でも1対8ではさすがに分が悪すぎるので、アキヅキ姉妹以外の6機はチルド、ロサノヴァ、ランの3人に任せるのだった。


「(アキヅキ・ユキヒメ……奴は格闘戦を得意とする、私と同等の技量を持つ強敵だ。しかし、こちらもインファイターだからどこかのタイミングで飛び込む必要があるか)」

まずは白と赤のサキモリ――ユキヒメのイザナギに狙いを定め、冷静に相手の出方を窺うサニーズ。

得意な間合いは両者共に近距離なので、勝負を掛ける時は格闘戦は必至となるだろう。

「(サニーズ・コンチェルト……妖精のように軽やか且つ素早い斬撃が厄介だが、どこでその技を仕掛けてくる?)」

対するユキヒメも白と青緑のMFを"最大級の脅威"だと認識しており、スピード及び手数を重視しているとされる剣技を警戒する。

彼女の愛機イザナギはパワー型の格闘機であるため、一気に攻め立てられると防戦一方に陥る可能性が高いからだ。

「シルフシュヴァリエ、ファイアッ!」

先に動いたのはサニーズのシルフシュヴァリエBSTの方だった。

白と青緑のMFは両手にレーザーアサルトライフルを携え、その二丁を同時発射しながら持ち前の加速力で距離を詰めていく。

「相手の間合いにわざわざ入ってやるほど私は甘くないぞ!」

相手の特性を見極め、最もスマートと思われる戦法を取るのがサニーズの戦い方だ。

「合理的な戦い方をするか……ならば、こちらもそれ相応の態度を取らせてもらおう!」

凄まじい発射レートで飛んで来る蒼い光弾を最小限の回避運動でかわしつつ、そっちがその気ならば自分にも考えがあると言い放つユキヒメ。

「姉上!」

「フフッ、仕方の無い妹ね!」

彼女が姉のオリヒメを呼び出した次の瞬間、2本の蒼く太いレーザーがシルフシュヴァリエBSTの行く手を遮るように降り注ぐ。

「くッ……資料で見た時とは仕様が違うのか!?」

一対の神のように並び立つ2機のサキモリの片割れ――オリヒメのイザナミ重に驚くサニーズ。

増加装甲を纏ったその姿は資料の最終更新時(オリエント連邦本土防衛戦)とは全く異なっていた。


 アキヅキ姉妹から放たれるプレッシャーにサニーズは全く怯まず、それどころか姉妹をまとめて相手取るつもりでいる。

「地球上の戦いでコテンパンにされて以来、私とイザナミはより強くなって戻って来たのよ!」

「火力を強化する方向の追加装備か……だが、当たらなければどうということは無い!」

オリヒメのイザナミ重の攻撃は基本的に威力が高く、シルフシュヴァリエBSTの紙装甲だと直撃はおろか至近弾ですら中破するおそれがある。

一回のカス当たりさえ許されない状況の中、サニーズは蒼く太いレーザーを回避しながらチャンスを待つ。

「(戦いやすい方から先に叩くべきだな。アキヅキ・オリヒメの機体は懐まで飛び込めばこちらが有利と見た)」

彼女は頭の中で戦法を練り上げる。

アキヅキ姉妹を比較した場合、厄介なのは技量が高く且つ得意とする間合いが被るユキヒメの方だ。

逆にオリヒメは射撃偏重で技量差もあるため、インファイトに持ち込めば主導権を握ることができるだろう。

「こちらも今回ばかりは負けられないのでな! 大人げない方法でやらせてもらう!」

もっとも、姉と連携するようにしつこく攻撃を仕掛けてくるユキヒメを何とかしなければ、白と紫のサキモリへ近付くことさえままならない。

「負けられんのはどっちも同じだろうがッ!」

白と赤のサキモリが振り下ろした斬撃を回転蹴りで無理矢理弾きつつ、相手が後ずさりした隙にフルスロットルで逃げるサニーズのシルフシュヴァリエBST。

「アキヅキ・オリヒメ! センチメンタリズムに任せて前線へ出たことを後悔させてやる!」

図らずも舞台は整った。

イザナミ重から放たれる攻撃を全弾かわしながらサニーズは距離を詰め、相手の反応速度よりも早くアクションを起こす。

「アタック!」

「その程度の攻撃……!」

シルフシュヴァリエBSTのビームレイピアを左腕の光学盾で難無く受け止めるオリヒメのイザナミ重。

「ッ! 連撃で押し切ってやる!」

それを見たサニーズはすかさず左マニピュレータのビームレイピアも駆使し、二刀流による連続刺突での強行突破を試みる。

こうなったら、どちらが先にミスを犯すかの我慢比べだ。


「ユキ! 今よッ!」

二刀流のラッシュに対し右腕でも光学盾を作動させたうえ、そもそも最低射程に穴があるオリヒメのイザナミ重は至近距離での攻撃手段が乏しい。

両腕が長銃身大型光線銃2丁で埋まっている都合上、即座に格闘武装へ持ち替えることも難しい。

できることと言えば固定式機関砲による仕切り直しぐらいだろう。

「背中から斬るのは趣味ではないが……!」

だが、今は一人で戦っているのではない。

拘りを捨ててまで支援要請に応えてくれたユキヒメと巧みに連携し、挟み撃ちで白と青緑のMFの撃墜を狙う。

CF(チャフ・フレア)散布!」

絶体絶命の状況下でもサニーズは冷静さを全く失っておらず、咄嗟のマニュアル操作でミサイル回避用の防御兵装を散布。

それと同時にスロットルペダルをせわしなく動かすことで上級戦闘機動"クルビット"を決めると、彼我の位置関係を逆転し有利なポジションを奪い取ってみせる。

「目晦ましだと!?」

「アタック!」

大量の金属箔と火球にユキヒメたちが戸惑っている隙を突くべく、クルビットの終わり際――後方宙返りから戻る瞬間に両手のビームレイピアを投擲するサニーズのシルフシュヴァリエBST。

「ナメるなよッ!」

片方はチャフ及びフレアの隙間を抜けるようにユキヒメのイザナギに向けて投げたが、これは専用カタナにより容易く切り払われてしまう。

「このイザナミの増加装甲を甘く見ないことね」

もう片方のビームレイピアはオリヒメのイザナミ重の右脇腹に突き刺さったものの、増加装甲で止められてしまい本体には届かなかったようだ。

「さすがに一筋縄ではいかない相手か……」

軽量級MFであるシルフシュヴァリエBSTに予備武装を積む余裕はほとんど無い。

主兵装を搦め手で使ってしまい、事実上回収不能としてしまったことをサニーズは少しだけ後悔する。

ここからはレーザーアサルトライフル2丁で戦わなければならない。

「貴様の番はもう終わりか? ならば、今度はこちらから攻撃させてもらおう!」

機体に纏わり付いたチャフを払いながらユキヒメのイザナギが攻撃態勢に入る。

そのマニピュレータにはお馴染みの専用カタナが握り締められていた。

「アキヅキ流が第四奥義! 『卯月の太刀』!」

シルフシュヴァリエBSTのレーザーアサルトライフルによる牽制など物ともせず、ユキヒメはアキヅキ流奥義――猛禽類のように敵機頭上を狙う強襲攻撃を繰り出すのだった。

【金剛の戦績】

金剛は一世代古い戦艦ながら日本海軍の主力艦を務め、本戦争においても緒戦の太平洋戦線からオセアニア地域支援任務、日本近海防衛戦、そして日本本土上陸阻止作戦といった激戦区に投入されてきた。

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