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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-47】FINAL FRONTLINE(前編)

 ルナサリアン側の超兵器"アマツミカボシ"による厄介な援護攻撃が途切れた瞬間、地球艦隊はここぞとばかりに進軍を開始。

両陣営の最前線では既に砲撃戦が始まっていた。

「("星の梯子"の砲撃が止んだ隙を突き、一気に戦線を押し上げてくるとはな……敵の指揮官はなかなかに大胆なようだ)」

自身の座乗艦シオヅチで整備補給を済ませたユキヒメは親衛隊と共に再出撃し、最前線で戦う味方艦隊の援護へ向かう。

「(ここからは大規模な対艦戦闘が予想される。試製大口径散弾銃と回転式多銃身機関砲を持って来たのは正解だったな)」

個人的な信念により強力な銃火器を持っていくことを好まないユキヒメだが、今回ばかりはさすがにそうも言ってられず2種類の選択武装を持ち出していた。

一つは近距離での射撃戦に威力を発揮する試作型ショットガン、もう一つは以前搭乗していた専用ツクヨミから引き継いだガトリング砲だ。

「ユキヒメ様! 我が隊の後方にイザナミ及び皇族親衛隊第2小隊の識別信号を確認しました!」

「ついに姉上が出陣するか……これで将兵たちの士気は上がるだろうが、同時に彼女を何としてでも守る必要があるな」

限られた時間で何とか乗機の修理を終えたスズヤからの報告を受け、姉上とその護衛機が追い付けるよう部隊の飛行速度を落とすユキヒメ。

後方より4機のサキモリが接近し、ユキヒメ率いる小隊と合流するまでにそれほど時間は掛からなかった。

「あれがイザナミの重装備形態……噂通りごついな」

イザナミ重は今回が実戦デビューであり、ヤマヅキのように親衛隊員といえど初めて実機を見る者も少なくない。

「随分と身重そうな機体だな。あの女は私たち姉妹が連携することを前提に機体を設計したわけか」

生まれ変わった姉の愛機についてユキヒメは率直な第一印象を述べつつ、皇族専用機の基礎設計を引き受けたあの女――ライラック・ラヴェンツァリ博士は当初より自分たち"姉妹の絆"に期待していたのだろうと思い返す。

「私のイザナミが遠距離担当で、あなたのイザナギは近距離担当。役割分担は明確よ」

オリヒメが提案した役割分担は機体特性及び操縦者の適性という点において大変理に適っている。

「承知している。こちらが前衛として進路を確保するから、姉上は――ってちょっと待て!」

問題は当人に気合が入り過ぎているのか、ユキヒメによる確認が終わる前に先走っていることであった。


「対艦戦闘なら対空砲火にさえ気を付ければいいが……しかし、迎撃機に嗅ぎつかれると厄介だぞ」

姉の技量とイザナミ重の機体性能に信頼を置いているとはいえ、どうしても不安感を隠せないユキヒメ。

もし敵の総大将が最前線に出ていると分かれば、政治的ダメージを狙うべく血眼(ちまなこ)になって撃墜を試みるだろう。

「親衛隊各機、イザナミの周囲を守るように展開しろ! 敵には指一本触れさせないつもりで護衛に臨め!」

ユキヒメはすぐに親衛隊各機へ指示を飛ばし、オリヒメのイザナミ重を中心とする輪形陣へと素早く移行させる。

「金1、了解!」

修復された試製オミヅヌ丁を駆るスズヤは親衛隊隊長という立場もあり、最も実力が試される最前列に就く。

「姉上! 攻撃目標の設定はそちらに任せるが、あまり無茶はしてくれるなよ!」

「まずは重装備形態の性能確認をしないといけないわ。各機、あの敵主力艦に対艦攻撃を仕掛けるわよ」

白と紫のサキモリに愛機イザナギを接近させると、ユキヒメは攻撃目標の選択について姉に意見を求める。

その問いに対してオリヒメは機体のマニピュレータで最も近くにいる地球側の大型艦を指し示した。

「あれは戦艦級だな。性能確認用としては少々強敵だが、あの程度の敵艦を沈められなければ皇族専用機としては力不足とも言える」

ユキヒメたちの視線の先を航行しているのは日本海軍の主力全領域戦艦"金剛"。

彼女の指摘通りサキモリの対艦攻撃力で撃沈するには手間が掛かりそうな相手だが、こいつさえ倒せないようではスターライガに勝つことなど夢のまた夢だ。

「よし、ヨミヅキ小隊は私と共に対空砲火を引き付ける! ナヅキ小隊は姉上の援護に徹しろ!」

「こちら銀1、了解」

結局、姉の意見を尊重したユキヒメはナヅキ・モミジ率いる第2小隊にオリヒメの援護を託し、自身はスズヤ以下第1小隊を引き連れながら敵艦の上空へと向かって行く。

「陽動は任せるわよ、ユキ!」

妹たちを見送ったオリヒメもすぐに機体を加速させ、対空砲火の密度が低くなる喫水線以下の高度から接近を試みる。

もっと下へ潜り込めば対空砲火の攻撃範囲外となるが、全領域艦艇の船底は装甲が非常に厚いため自分たちの攻撃が通らなくなってしまう。

「(ユキの方を対空砲火の一部が狙っているおかげで、こちらの方は弾幕が薄い。これならば防御壁の内側まで一気に肉薄できるわね)」

オリヒメのイザナミ重は光学射撃兵器をメインウェポンとしている機体。

地球側の艦艇が標準装備している対レーザー用バリアフィールドとの相性は良くないため、その影響を受けない内側まで突っ込むことは攻撃力を発揮するうえで必須と言えた。

「全機抜けた! 甲板上の砲塔及び対空兵器を最優先で排除!」

ナヅキ小隊のツクヨミ3機も無事にバリアフィールドを突破したことを確認しつつ、金剛の甲板上にある各種兵装をマルチロックオンで捉えるオリヒメ。

「攻撃開始!」

マルチロックオン機能のチェックを終えたところで、結局オリヒメはロックオンの必要が無い長銃身大型光線銃2丁で甲板上を薙ぎ払い始めるのだった。


 たった4機のサキモリによる正確且つ苛烈な猛攻に蹂躙され、兵装を為す術無く破壊されていく戦艦金剛。

「敵艦の主砲、沈黙しました!」

「この調子で脅威となる対空兵器を排除しつつ、続いて推進装置と艦橋への攻撃も行う!」

味方艦隊を脅かしていた35.6cm3連装砲4基の無力化をモミジが確認したことを受け、オリヒメは敵艦の重要部分へターゲティングを変更するよう指示を飛ばす。

鹵獲する場合は轟沈しない程度に手加減するところだが、今回は息の根を止めるつもりなのでその必要は無い。

「(操縦性は確かに重くなっているけど、挙動自体はかなり落ち着いているわね)」

実戦で様々な戦闘機動を行うことで、重装備形態となった乗機イザナミの操縦性に対する理解が深まったオリヒメ。

大型機に追加装備を装着しているのでレスポンスは若干低下したものの、その代わり安定性が向上したことで射撃時に機体が落ち着くようになっていた。

元々射撃の方が得意な彼女にとっては結果的に良い方向への変化と言えるだろう。

「(攻撃目標がかなり分散している……ならば!)」

敵艦の甲板上には対空兵器がまばらに残っている。

これらを長銃身大型光線銃で薙ぎ払うのはコストパフォーマンスが悪いと判断したオリヒメは、先ほどは試しただけに過ぎなかったマルチロックオン機能で多数の対空機関砲及びVLS(垂直発射システム)に狙いを定める。

「小型誘導弾、一斉発射!」

次の瞬間、イザナミ重のほぼ全身に装着された増加装甲のカバーが開き、その中から大量のマイクロミサイルが一斉に放たれる。

一部は対空砲火により迎撃されてしまったが、大半のミサイルは弾幕を掻い潜り敵艦の甲板上へと降り注いだ。

「あれだけの誘導弾が飛ぶ光景は壮観だな……」

細い飛跡を残しながら飛翔するマイクロミサイルたちの姿に親衛隊員のカワヅキは感動さえ覚える。

大型機ゆえペイロードに余裕があるイザナミ重はマイクロミサイルを大量搭載できるため、こういった一斉発射の際は絵面が派手になりがちであった。

「オリヒメ様、増加装甲は排除なされないのですか?」

「まだ装甲として使わせてもらうわ。"備えあれば憂い無し"って言うでしょ?」

内蔵されたマイクロミサイルをある程度使った増加装甲の扱いについてモミジが尋ねると、オリヒメは"空間装甲として作用することに期待してこのまま使う"と切り返す。

「それに……ここから先は強敵との連戦になるかもしれないしね」

彼女は感じ取っていた。

目の前の戦艦よりも遥かに強力で、これまで何度も苦戦を強いられてきた敵たちの存在を……。


「(この戦艦の推進装置は3基三角形配置――そろそろ拡散光線砲も試してみようかしら)」

大破炎上中の金剛の艦尾側まで一気に回り込み、まずは推進装置のレイアウトを確かめるオリヒメ。

いつものように長銃身大型光線銃で撃ち抜いてもいいが、今回はデータ収集のため新武装"腹部試製拡散光線砲"を積極的に使っていくことにした。

「(仮想現実訓練ではこのぐらいの距離が最も効率的な間合いだったはず……)」

彼女は専用シミュレータでの徹底した訓練を思い出しつつ、攻撃範囲が少々特殊な新武装を有効利用できる位置取りへの移動を試みる。

「能量充填100……発射!」

エネルギーのフルチャージを終えた直後、イザナミ重の腹部から無数の蒼い光弾が鬼のようにばら撒かれ、金剛の推進装置を3基まとめて破壊していく。

一般的な光学射撃武装とは異なり、腹部試製拡散光線砲はその名の通り一定範囲内にエネルギー弾を発射する固定武装である。

近距離以外ではエネルギー消費のわりに威力は低めだが、ショットガンのように動く目標への攻撃や面制圧において真価を発揮する。

「(発射後の出力に問題無し――と。なるほど、この武装は使い方次第で応用が利きそうね)」

燃費が悪い武装の使用時に稀に起きるパワーダウンも発生せず、オリヒメは安堵すると同時にこの実験的武装に対して可能性を見い出していた。

「オリヒメ様、貴女の活躍により敵艦は虫の息です! このままトドメを刺しましょう!」

「ええ、もうこの(ふね)に用は無い。最後は艦橋とその下の戦闘指揮所を破壊して終わらせるわよ」

残りの対空兵器の掃討を行っていたモミジたちと合流し、対艦戦闘の総仕上げとしてオリヒメは最重要区画への攻撃を命じる。

「非常に頑丈に作られている区画をツクヨミの火力で()くのは骨が折れそうね。ナヅキさん、ここは一つ私のイザナミに任せて頂けないかしら?」

艦艇の指揮中枢を司る戦闘指揮所は特に防御力が高いヴァイタルパート(VP)となっており、汎用機ベースの親衛隊仕様ツクヨミでは非常に手間が掛かるだろう。

そこで、オリヒメは"サキモリ単機としては破格の攻撃力を誇る自身のイザナミ重に全て任せてほしい"と願い出るのであった。


「オリヒメ様がお望みならば別に構いませんが……」

主君からの頼み事とあってはモミジも断りようが無く、若干不安げながらも彼女の提案を受け入れてしまった。

「それじゃあ周辺警戒をお願いね」

親衛隊に周辺警戒を再び押し付けると、オリヒメのイザナミ重は敵艦の直上へと向かう。

「(この型の戦艦に関する資料は見覚えが無いけど、経験的に考えれば最重要区画はこの辺りに違いない)」

金剛及びその同型艦とは一度も戦ったことが無いが、彼女は経験と直感により攻撃を撃ち込むべき場所を見定める。

「(まずは小型誘導弾で装甲の表面層に傷を入れる!)」

戦艦の装甲は物理的に分厚いうえ、表面には対レーザー防御を兼ねた塗料が5層コーティングで塗られている。

この日本の技術にオリヒメは複数の射撃武装によるコンビネーションで対抗する。

塗料を剥がしつつ装甲自体にもダメージを与えるべく、コーティングの影響を受けないマイクロミサイルはここで全て使い切ってしまう。

「能量充填開始……!」

続いて白と紫のサキモリは背部に折り畳まれている2門の光線砲を展開し、その砲口で先ほど攻撃した箇所を睨みつけながらエネルギーチャージを開始。

「フフッ、イザナミは戦艦すら沈められるのよ!」

トドメは自分がやると言い切った以上、今回は出し惜しみせず最大火力を叩き込む必要がある。

長銃身大型光線銃2丁、背部折り畳み式光線砲2門、そして腹部試製拡散光線砲をフル稼働させると、オリヒメは絶対の自信と共に操縦桿のトリガーを引くのだった。

【Tips】

作中世界では光学兵器が広く普及しているため、軍事分野などでは熱エネルギーを拡散する成分を配合した特殊塗料が流通している。

軍用機(戦闘機やMF)の場合はこれを2~3層にコーティングし、塗装と対レーザー・対ビーム防護を両立させている。

一方、多少の重量増加ならば影響を受けにくい戦車や軍艦では4層以上のコーティングも見られる。

ちなみに、こういった特殊塗料の分野では日本が技術的にリードしていることはあまり知られていない。

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