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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-46】ただ、前へ進み続けるだけ

 地球艦隊を突如襲ったのはルナサリアンによる超長距離砲撃。

「(あのサイズの飛翔体をマッハ7程度で飛ばせるのは、レールガンかライトガスガンの技術を利用したマスドライバー以外に考えられない)」

レーダーによる捕捉が間に合わないほどの攻撃を実現する方法はかなり限られており、上空待機中に砲撃に遭遇したヤンはこの時点で結論を一つに絞り込んでいた。

「ケット・シー! 砲撃来るぞ! 避けろッ!」

「よう、まだ生きてるか?」

自身が率いるトムキャッターズの母艦ケット・シーに最大限の警戒を呼び掛けていたその時、大変聞き慣れたお馴染みの声が航空無線で流れてくる。

「レヴァリエから直接通信――マリンか!? お前、CICで何やってんだよ?」

最初は通信相手が同業者の母艦名で表示されていることに違和感を抱くヤンだったが、声の正体に気付いた瞬間彼女は相手を(なじ)り始めた。

「この通信が済んだら再出撃するつもりさ。それよりも、艦隊を狙ってるクソ速い攻撃について話し合おうぜ」

一方、レヴァリエのCICから通信を行っているマリンは自分への悪態など意に介しておらず、地球艦隊を正確に狙撃してくる攻撃について議論すべきだと提案する。

軽口の叩き合いは楽しいとはいえ、今はそうやって遊んでいる場合では無い。

「ああ――くそッ、油断したらまぐれ当たりで死ねるな! 体感的にはマッハ7ぐらいの弾速のようだ!」

「観測データでもそれぐらいは出てることを確認してるぜ。艦載レールキャノンでその弾速は難しいだろうから、おそらく月面のマスドライバー的な施設から砲撃してると見た」

通信中に砲撃と危うくニアミスしたヤンの報告と各種観測データから、攻撃は敵艦隊よりも後方――月面を起点にしている可能性が高いと結論付けるマリン。

「あたしもそう思う。とりあえずはお祈りしながら気合で砲撃をかわしていくしかなさそうだな」

同業者の考察にヤンも全面的に同意し、攻撃範囲を抜けるまでは狙われないことを祈るしかないと答える。

地球艦隊はまだ30隻以上生き残っているので、最大限の努力をしながら運を天に任せるのも悪くないだろう。

もっとも、それは"自分が生き延びる=味方が犠牲になるかも"ということなのだが……。

「マリン! 正規軍やスターライガなら既に気付いているはずだが、一応分析結果を報告しておいてくれ!」

攻撃の正体が掴めていればある程度対策は取れる。

通信回線を閉じる前にヤンは自分たちの考察を戦術データリンクで自軍全体へ共有するよう頼み込む。

「おう! それが終わったらボクたちも上がるから死ぬんじゃねえぞ!」

「フッ……互いにな」

マリンとヤンは互いの悪運に期待して約束を交わすと、早速それぞれの役割に取り掛かり始めるのだった。


 その頃、殿(しんがり)を果たし切ったユキヒメは無事に自身の座乗艦であるシオヅチへと帰艦。

搭乗機の整備補給が行われている間、状況確認のため側近たちと共に戦闘指揮所(CIC)へ向かっていた。

「アマツミカボシの使用許可は姉上が出したものなのか?」

「ハッ、オリヒメ様がアマツミカボシ管制室に対し直接指示を出されたそうです」

帰投中に目撃した強力な援護攻撃について質問してくるユキヒメに対し、側近の一人はオリヒメの座乗艦ヤクサイカヅチに乗り合わせている同僚からの報告内容をそっくりそのまま答える。

「ふむ……(水際作戦では使えないとはいえ、超兵器を立て続けに切る采配は正解なのだろうか)」

超兵器の使用という判断自体は肯定しつつも、運用コストなどを度外視した贅沢な使い方については心の中で疑問を抱くユキヒメ。

「ユキヒメ様、お疲れ様です」

CICに戻って来た彼女をアスナ艦長以下ブリッジクルーたちが敬礼で一斉に出迎える。

「ああ、敵艦隊の状況はどうなっている?」

「アマツミカボシによる砲撃は既に敵艦9隻撃沈という多大な戦果を挙げていますわ」

ユキヒメが艦長席のヘッドレストに右手を置きながら尋ねると、アスナは自軍が誇る超兵器の大戦果を嬉しそうに報告し始める。

「(こちらへ近付かれる前に可能な限り砲撃を加えるつもりか。そして、最低射程に入られたら次の攻撃目標を……)」

それは別に構わないのだが、ユキヒメはアマツミカボシの唐突な実戦投入の目的を"地球への直接攻撃のリハーサル"だと睨んでいた。

おそらく、対艦攻撃という役割を終えたら次はその砲口を蒼い惑星へ向けることだろう。

「メイヅキ、この(ふね)のことを引き続き頼む。私は整備補給を終えたら再出撃するつもりだ」

戦闘服を着たままのユキヒメはアスナに艦の指揮を任せ、自らは整備補給が完了次第再び空に上がる(むね)を伝える。

「それと姉上に伝えておいてくれ。『奴らはあなたの期待通り手強い』――とな」

CICから退室する直前、彼女は立ち去り際に姉上(オリヒメ)への伝言も頼んでいくのであった。


 本作戦に参加しているプライベーターの中で最も小規模なのがロータス・チーム。

特設フリゲート1隻(艦載機2機)というごく限られた戦力ながら、彼女らは艦隊の後方にてできることを精一杯やっていた。

「ねえ、こんなハイペースで進んで行って大丈夫なの!?」

短い間隔で超高速の飛翔体が飛んで来るにもかかわらず、戦場を強行突破しようとする味方艦隊の姿に珍しく不安を露わにするショウコ。

「マッハ7の飛翔体に狙われたら、艦艇の運動性ではどう頑張っても避けられない。攻撃範囲外へ到達するまでは運頼みになるな」

「一分一秒でも早く安全圏まで抜けることを優先した方が良い――ってわけだね」

それに対してナスルが味方艦隊の行動について簡潔に説明すると、納得したショウコは気が変わったかのようにうんうんと頷き始める。

「ルナサリアンの超兵器の性能は分からないが、敵味方識別が困難な状況ではさすがに使用を躊躇うはずだ」

逆に言えば、自他共に論理派と認めるナスルでさえ"運"という不確定要素を考慮しなければならない状況なのだ。

残念ながらルナサリアンが味方殺しをやらないという保証は無い。

「ナスル、ショウコ、聞こえる!? たった今アドミラル・ユベールより敵艦隊視認の(しら)せがあったわ!」

その時、ナスルたちの母艦であるトリアシュル・フリエータから通信が入り、オペレーターのミルが敵艦隊との接近を知らせる。

「それがおそらく敵の本隊よ。間違い無くここが正念場になるわね」

「こちらからはまだ確認できていないが、本隊と言うからには相当量の戦力を擁しているかもしれないぞ」

艦載レーダーと機上レーダーでは索敵範囲に差があるため、前者の画面を見れるミルと異なりナスルの方は視覚的にも電子的にも敵艦隊を発見できていない。

ただ、これまでで最も強力な精鋭が並べられているであろうことは容易に想像が付く。

「でも行くしかないよ! ボクたちが向かうべき場所は目の前にあるんだから!」

「分かってるさ……"進むも地獄、退くも地獄"というのなら、必ず前者を選ぶのが私たちプライベーターってモノだろ!」

たとえそうだとしても"目的を果たすまでは走り続けるしかない"とショウコに発破を掛けられると、ナスルは不敵な笑みを浮かべながら"この程度では折れない"と意気込むのだった。


「"星の梯子"の砲撃、来ます!」

ルナサリアン艦隊総旗艦"ヤクサイカヅチ"のすぐ近くを掠めるように星の梯子――地球攻撃用大規模質量投射機"アマツミカボシ"から発射された砲弾が通過していく。

「弾着観測急げ!」

「敵主力艦を狙った砲撃は命中せず!」

正規艦長のサトノが弾着観測を指示した時点で既に砲弾は敵艦隊まで到達していたが、オペレーターは"命中確認できず"と報告する。

「さすがはここまで生き残ってきた精鋭艦隊だ。攻撃をある程度回避されるのは致し方無いか」

「30発中18発が命中、うち直撃弾は10発――予行練習としてはまずまずの結果ね」

アマツミカボシの一戦闘当たりの弾数が30発であることは事前資料で把握していた。

その内容と戦闘データを照らし合わせつつ、超兵器の初陣についてサトノとオリヒメは概ね好意的な評価を下す。

本来想定されていない対艦戦闘で命中率60%ならば上々の結果と言えるだろう。

「オリヒメ様、間も無く艦隊戦の交戦距離に入ります。彼我の戦力差が大きいことを活かすならば、航空攻撃及び砲雷撃戦で一気に叩くべきかと」

専用タブレット端末で敵艦隊の予想配置図を確認すると、サトノは超兵器による攻撃から艦隊決戦に切り替えるべきだと意見具申を行う。

「そうね……普通ならばあなたの言う通りね」

「普通ならば――ですか」

部下の提案に前向きな姿勢を示す一方、上手く物事が運ぶ可能性は低いだろうと遠回しに忠告するオリヒメ。

彼女の発言の意図を察したサトノは怪訝そうな顔を見せる。

「私たちが戦っているのは、これまでに何度も奇跡を起こしてきた"不確定要素その物"と呼べる相手よ」

オリヒメはその身を以って実感していた。

地球人類自体は恐るるに足らずといった程度だが、ごく稀に運命を覆すイレギュラーが現れるのは歴史の必然である。

「教本通りに対応できる程度ならばそこまで苦汁は舐めないわ」

ゲイル隊とスターライガ――。

彼女らは運と実力であらゆる困難を退け、オリヒメの目論見を(ことごと)く潰してきた連中だ。

「どこへ向かわれるのです?」

突然艦長席から立ち上がった主君を失礼だと分かったうえで呼び止めるサトノ。

「出撃するのよ。もちろん親衛隊の護衛付きでね(そうしないとユキがうるさいし)」

声を掛けられたオリヒメは振り向くこと無く右手を上げながらこう答える。

戦闘服に着替えている時点でいつかは出撃するつもりだったと思われるが、ついにその時が来たのだろう。

「全ての空母に航空隊を全力出撃させるよう通達しなさい。相手は航空支援に依存した戦術を採ってくるはずだから」

「了解しました! オリヒメ様もどうかお気を付けて!」

主君の後ろ姿を敬礼で見送ったサトノは艦長席へ座るや否や、与えられた命令に直ちに取り掛かるのであった。


 ヤクサイカヅチは搭載数100機以上を誇る、ルナサリアンの造船技術を結集した超弩級正規空母。

当然、航空隊に全力出撃命令が下ったことで広大な格納庫は最も忙しい時間を迎えている。

「整備班! 私の機体の準備はどうなっている?」

オリヒメの専用機イザナミは船体の中央付近――ダメージコントロールやブリッジからのアクセスに優れる区画の専用スペースに駐機されており、周囲にはイザナミ用のスペアパーツを保管するための専用倉庫まで用意されていた。

「ハッ! 機体の装備換装は完了しております! いつでも出撃できる状態です!」

作業の手を止め、彼女を出迎えたメカニックたちも基本的にはイザナミ専属で就いている者たちだ。

「なるほど……完成予想図や届けられた換装部品は見たことがあるけど、こうして組み込まれた状態だとやはり大きいわね」

チーフエンジニアから渡された資料を眺めるオリヒメの前に立っているのは確かにイザナミだが、オリエント連邦本土空襲の時とはかなり異なる仕様に見える。

まず、パッと見のシルエットが以前よりも明らかにごつくなっている。

「これは背部を専用部品に換装し、更に増加装甲を装着した重装備形態です。我々技術陣は"イザナミ重"と呼んでいます」

その理由は明白だ。

チーフエンジニアによると今回イザナミには大掛かりな専用換装パーツが装着されており、通常形態との区別も兼ねて"イザナミ重"と呼ばれているらしい。

「背部折り畳み式光線砲を筆頭にいくつかの武装が追加され、最大火力が飛躍的に向上しています」

重装備形態の名の通り、イザナミ重の最大の特徴は多数の追加武装による火力増強だ。

中口径主砲並みの攻撃力を持つ背部折り畳み式光線砲、中距離での範囲攻撃に適した腹部試製拡散光線砲、苦手な接近戦をフォローする試製光刃薙刀など、火力のみならず汎用性についても強く意識されている。

「防御面においても増加装甲で物理攻撃への耐性を高めつつ、新開発のサキモリ用ショウマキョウにより機動兵器級の光線攻撃ならば中和することができます」

そして、指導者の搭乗機には必要不可欠な"高い防御力及び生存性"という要求に対し、技術陣はフルアーマーシステムとバリアフィールドの同時採用によって応えていた。


 前回の戦闘で中破させられた後、修理ついでに行われた改修と実戦データのフィードバックによりイザナミは生まれ変わった。

「攻防の強化は確かに魅力的ね。しかし、ここまで装備を載せると運動性の低下も無視できないと思うのだけれど」

修復されたうえで性能向上まで果たした愛機の姿を感慨深げに見上げつつも、重装備形態では避けて通れない運動性低下について懸念を示すオリヒメ。

「それは開発中においても懸念事項でありましたが、推進装置の大幅な強化により補われています」

もちろん、そういった問題はチーフエンジニアの方でも開発段階から把握済みだ。

彼女はオリヒメを連れて機体の裏側へ移動すると、イザナミの外見的特徴である腰部メインスラスターユニットを指し示す。

低重力環境向けなのか以前よりも若干大型化しており、莫大な推力をもたらしてくれることは一目で分かった。

すぐ近くにはブースターユニットらしき装備も置かれているが、これは重装備形態だと搭載スペースが足りないため使えないらしい。

「そうそう、本形態で追加された装備及び増加装甲は全て分離できます。全ての追加装備を排除すれば従来仕様に近いイザナミに戻れるので、必要に応じて活用してください」

最後にチーフエンジニアは機体へ乗り込もうとしているオリヒメを呼び止め、大きく重たい追加装備一式は任意でパージできることを伝えておく。

「フフッ、技術陣の努力には文句の付けようが無いわね。後は乗り手の腕次第というワケ――か」

自分のためだけにイザナミをここまで仕上げてくれた人々に感謝の言葉を述べるオリヒメ。

機体のポテンシャルには非の打ち所が無い以上、それを最大限引き出せるかは搭乗者の技量に懸かっていた。

【ライトガスガン】

物理実験などで使用される、非常に高速な飛翔体を打ち出すための装置。

クレーターの形成過程をシミュレートする手段として用いられるほか、艦砲の実体弾発射機構やマスドライバーへの応用も検討されている。

ちなみに、"ライトガス"とは水素やヘリウムといった空気より軽いガスを指す。

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