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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-42】皇族親衛隊、奮起せよ!(後編)

 ルミアとリゲル、そしてスズヤの3名は全員格闘戦を得意としており、近距離でのドッグファイトが中心となることが予想される。

「むんッ!」

この面子のうちスズヤは射撃もこなせるオールラウンダーだが、ルナサリアンらしくメインとしているのはカタナによる剣戟(けんげき)であった。

「(速い! 大型機でここまで余裕を持って回避してくるなんて……!)」

彼女の試製オミヅヌ丁の斬撃は閃光のように速い。

しかし、ルミアのシャルフリヒターの回避運動はその先を行っていた。

一般的に大型機は運動性が低いとされるのだが、それを計算に入れて操縦できるのは優れた技量の証明と言えよう。

「(さすがに並の敵機とは攻撃速度がダンチだな……だが、タイマンなら十分すぎるほど対処できる相手だ)」

当のルミアは相手の攻撃が極めてハイレベルなことを確認した上で、たとえ1対1であっても自身に分があると確信する。

「シャルフリヒター、ファイアッ!」

「くッ……!」

運動性が高い相手の方に有利な格闘戦をあえて避け、本来は自衛用に使うPDW(接近戦用サブマシンガン)で弾幕を張るルミアのシャルフリヒター。

攻撃力自体は決して高くないものの、装甲がそこまで厚くないスズヤの試製オミヅヌ丁は無理な突撃を避けているようだ。

「連携で一気に畳み掛けるぞ!」

その隙を突くように今度はリゲルのリグエルⅡがアタッカーを引き継ぎ、彼女が生身でも繰り出せる蹴り技"流星キック"を紺色のサキモリの背部に向けて叩き込む。

「ッ! 徒手空拳のモビルフォーミュラですって!?」

後ろから不意打ちに近い一撃を食らったスズヤは驚愕しつつも何とか機体を立て直すと、集中攻撃を避けるべく一旦は回避運動に集中する。

「戦いの基本は格闘だ……僕のカラテを見せてやる!」

「お前の流派はカラテじゃないだろ!」

自身が確立した唯一無二の戦闘スタイルを証明しようと意気込むリゲルに対し、"空手をやっているとは聞いていない"と思わずツッコミを入れるルミア。

「援護頼む!」

「しょうがねえなぁ、今回は花を持たせてやるよ!」

もっとも、リゲル本人は至って真面目に己の戦闘スタイルを貫いている――はずであり、それをよく知っているルミアは親友のために(こころよ)くアシストへ回るのだった。


「この距離……僕の間合いだッ!」

親友の援護射撃を活かしながらフルスロットルで一気に距離を詰めるリゲルのリグエルⅡ。

彼女が得意としている間合いは至近距離での肉弾戦だ。

「必殺ッ! 紫電チョップ!」

紺色のサキモリの目の前まで迫った次の瞬間、オリエント神話の女神の名を冠するMFは強烈な手刀を振り下ろす。

"紫電チョップ"なる名前が付いているこの技も、リゲルのオリジナル体術をベースに開発されたものである。

「光学盾ならば……!」

モーション自体はただの空手チョップとはいえ、当たればタダでは済まない一撃を光学盾(ビームシールド)で難無く受け止めるスズヤの試製オミヅヌ丁。

しかし、彼我のパワーの差が大きいためこの手が何度も通用するとは思えない。

「大型機相手だとさすがに力負け――」

「これで終わりじゃない! 雷電アキュート!」

その現実をスズヤが受け入れようとした時だった。

リゲルのリグエルⅡは右マニピュレータを貫手の形に変え、渾身の再攻撃を叩き込む。

「しまったッ……!?」

反射的な回避行動でコックピットへの直撃は避けたものの、リグエルⅡの必殺技により紺色のサキモリは左腕を打ち砕かれてしまう。

「あいつ、バトル漫画みたいな戦い方しやがって! 援護するこっちの身にもなれってんだ!」

追いかけるのにも一苦労するリゲルのテクニカルな戦い方を目の当たりにしたルミアは、サポート役として多少の不満を述べつつも決して援護攻撃の手は緩めない。

「(損害状況を確認……左腕と同時に姿勢制御装置もやられたかもしれない。徒手空拳って何なのよ……!)」

一方、追撃から逃れながら機体のダメージを確認したスズヤはただ唖然とするしかなかった。

一般論では補助的な攻撃手段とされる徒手空拳をメインウェポンとして扱い、それを一つの戦闘スタイルに昇華しているなど普通は想像できないからだ。

「腕が良いだけあってさすがにしぶといぜ……だが、手負いの機体でいつまでも持つとは思えんな」

「ああ、このまま一気に押し切る!」

左腕部及び姿勢制御システムを損傷した試製オミヅヌ丁の挙動は明らかに安定性を欠いている。

それでもなお戦闘態勢で踏みとどまっている敵機にトドメを刺すべく、ルミアとリゲルも本腰を入れてラストスパートに取り掛かる。

「勝手に終わらせないで……!」

2機の激しい攻撃に晒されながらも気合でそれらをかわしていき、機体が動く限りは決して諦めない意志で立ち向かおうとするスズヤ。

「(どうする? どうすればこの状況を打開できるの? お姉ちゃんに教えてよ、スズ……!)」

だが、内心では天国の妹に(すが)りたくなるほど精神的にも追い詰められていた。


「悪いが、これで決めさせてもらう!」

動きが鈍くなってきた紺色のサキモリを完全に捕捉し、リゲルは愛機リグエルⅡのスロットルペダルを巧みに操作して攻撃態勢を整える。

最後はMF戦・白兵戦共通の決め技"真・流星キック"で一気に敵機をぶち抜くつもりらしい。

「ッ! リゲル、新手だッ!」

「何ッ!?」

僚機が攻撃モーションへ移行したその時、自分から見て左斜め上方より高速接近する敵機に気付いたルミアが突然声を上げる。

彼女の警告自体は極めて適切な対応だったが、攻撃へ集中していたリゲルには反応して回避行動を取るだけの時間は無かった。

「リゲルッ!!」

「大丈夫だ……強い衝撃だったが、問題無い!」

突如乱入してきた敵機に"真・流星キック"を防がれ、その反動で回転しながら後ろへ大きく吹き飛ばされるリゲルのリグエルⅡ。

小さな破片が飛び散るほどの激しい衝突にはさすがのルミアも仲間の名前を叫ぶが、幸いにもリゲルは上手くエネルギーを逃がすことで自身及び機体へのダメージを受け流していた。

とはいえ、最初の一言だけは"身体が痛い"といった感じの明らかに辛そうな声音であった。

「ゆ、ユキヒメ様!?」

「その損傷でこいつらの相手は無理だ! すぐに後退しろ!」

スズヤを庇うように現れた乱入者の正体はユキヒメのイザナギ。

白と赤のサキモリは最初からスズヤを助けるつもりで一騎討ちへ割り込み、速度を乗せたタックルで"真・流星キック"を強引に相殺していたのだ。

イザナギの左腕に装備されている接近戦用杭打機(パイルバンカー)の損傷が、衝突エネルギーの大きさを如実に物語っていた。


「しかし……!」

崇拝する対象が危険を顧みず助けてくれたのは大変嬉しいとはいえ、その忠誠心ゆえ彼女の撤退命令にスズヤは納得できないでいた。

いつ如何なる時も皇族のために戦い、求められればその命を捧げるべし――それが皇族親衛隊の存在意義だからだ。

「しかしもカカシもあるかッ! これは命令だッ!」

一方、親衛隊を含む全ての将兵たちを対等の戦友と見做すユキヒメからすれば、このスローガンはあくまでも"親衛隊の結束を強め、エリート部隊のイメージを維持するための方便"に過ぎない。

彼女は忠誠心を示す手段としてたった一つの命を差し出すことしかできない兵士など望んでいなかった。

「……"アメノハバヤ"の準備が整ったらしい。我々がこの戦場に長居する必要は無くなったということだ」

真面目だがどうにも頭が固いスズヤを説得するため、戦局を逆転可能な"アメノハバヤ"の発射準備が進められていることを告げるユキヒメ。

「ヤマヅキたちを含む味方機は先に撤退させた。あとは貴様だけだぞ」

その"アメノハバヤ"は強力だが敵味方識別が困難な戦略兵器――。

ユキヒメが改めて説明せずとも、軍事機密へのアクセス権を持つ親衛隊長ならば意味合いは分かるはずだ。

「行けッ! 私がギリギリまで奴らを引き付けてやる!」

「……了解しました。どうかご無事で……!」

結局、彼女の懸命な説得を受け入れたスズヤはようやく撤退命令に応じる意思を見せ、中破した機体を労わりながら戦闘から離脱していく。

戦意喪失した相手を討つほど落ちぶれてはいないのか、2機の黒いMFも追撃するつもりは無いらしい。

「(それでいい……妹を喪った姉に対して私ができる、唯一の償いがこれだからな……)」

紺色のサキモリが飛び去って行くのを見届けた後、有望な姉妹を死別させてしまったことを詫びるように目を瞑るユキヒメ。

「……こちらの話が終わるまで待っていてくれるとはな。貴様らは武士道というモノを分かっているようだ」

暫しの沈黙を経て目を開けた彼女はすぐに気持ちを切り替え、絶好のチャンスでもあえて攻撃を行わなかったルミアたちと対峙する。

「へッ、こっちにはそうしてやる精神的余裕があるってことさ」

それに対してルミアは相手をからかうような笑顔を浮かべるのであった。


 このまま戦闘態勢に入るかと思われた3機の機動兵器。

だが、とても不思議なことに誰一人として先手を打とうとしない。

「アキヅキ・ユキヒメといったか……無線越しとはいえ言葉を交わせるのは最初で最後かもしれないから、一つだけ尋ねさせてくれ」

そんな均衡状態が動くキッカケとなったのはリゲルの呼び掛けだった。

彼女はオープンチャンネルの周波数を使うことでユキヒメが無線を傍受できるようにし、敵将と交信が行える状況を作り出す。

「あなたはなぜ戦争をしている? 先程のように部下の身を案ずることができる人間ならば、戦争以外のより正しい方法を考えられたはずだ」

この戦争に潜む政治ゲームには興味が無いリゲルの疑問はただ一つ。

ユキヒメほどの人格者且つ頭脳明晰であろう人物が、なぜ戦争という最も愚かな行為に加担しているのか――と。

「……逆に問おう。貴様らは自分たちの星の専守防衛に注力すればいいのに、なぜ我々の母星へ侵攻しようとしている?」

その質問にユキヒメが答えることは一切無く、逆にリゲルたちに向けて自身が抱いている疑問を投げ返す。

質問に質問で返したところを見ると、ユキヒメはこの会話を無価値だと判断したようだ。

「ッ……!」

ある程度の正論が含まれている指摘に思わず言葉を詰まらせてしまうリゲル。

「そもそも、事の発端は地球側の探査船が我が国の領土侵犯を――」

「うるせえッ! そっちがこの戦争のために何十年も前から準備してたのは知ってんだよ!」

畳み掛けるようにユキヒメがもはや恒例となった"戦争の始まり方"について語り出そうとしたその時、プロパガンダとして繰り返される責任転嫁にルミアの堪忍袋の緒が切れる。

さっきまでの飄々と笑っていた姿はどこにも無く、黒いMFはPDWの銃口で白と赤のサキモリを睨みつけていた。


 スターライガチームがルナサリアンの国家戦略を把握していることには理由があった。

「ホシヅキ・レンカ、そしてフユヅキ・ヨルハ――あの裏切り者の売国奴どもめ」

それを察したユキヒメは情報提供者と思われる2人の同胞の名を挙げ、かなりキツい表現を交えながら不快感を露わにする。

「お前の……いや、お前たち姉妹のそのやり方にレンカとヨルハさんは嫌気が差したのさ」

議論が平行線に終わり今度こそ戦闘再開かと思われたが、そこへ別行動中だったシズハとミノリカのオータムリンク姉妹が合流。

まずはシズハが仲間を(おとし)めるような"国賊"発言に対し反論を突き付ける。

「シズハ! ミノリカ!」

「リゲル! あいつの言うことに気圧されたらダメだよ! 姉の言葉のオウム返ししかできない妹なんて……!」

あんなに険しい表情を浮かべていたルミアが少しだけ微笑むと、続いてミノリカが妹という立場からリゲルに向けてアドバイスを送る。

「(なるほどな……彼女(ユキヒメ)は政治戦略に関してはあまり深く考えていない。だから、政治的な話題になると誰かさんと同じことしか言わないわけだ)」

ミノリカの言葉はリゲルに発破を掛けるカタチとなった。

武人であることに拘るがゆえ政治には疎く、葛藤を感じながらもオリヒメの思想を受け入れてしまっているのだろう。

「……ありがとう、ミノリカ。君のおかげで彼女の本性が分かったよ」

リゲルも気質としては武人と呼ばれる者たちに近い方の人間だ。

しかし、同じ武人だとしてもユキヒメとは大きく異なる部分があった。

「アキヅキ・ユキヒメ! お前が持っているのはあくまでも"戦士としての矜持"であり、それ以外の思想の大半はオリヒメの受け売りにすぎない!」

スターライガの一員として戦いに身を投じる理由――"自分のような戦災孤児が生まれない世界"を目指したいという想いをリゲルは持っている。

「月の専制君主サマのやり方は間違ってる! そして、それに愚直に従っているお前も間違ってるんだよッ!」

同じく戦災孤児として寂しい幼少期を過ごしてきたルミアもまた、悲劇しか生み出さない指導者とそれを肯定する者共を認めるつもりは無かった。

【Tips】

リゲルの戦闘スタイルは彼女自身の格闘術をベースとしており、それをリグエルⅡ専用のモーションとして取り込んでいる。

こういった"搭乗者自身の動き"を基にMF用モーションデータを作成する手法は、格闘戦重視の個人専用機で採用されることが多い。

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