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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-40】ルナールの剣闘

 ユキヒメと彼女に率いられた皇族親衛隊は戦闘宙域へ乱入すると、その卓越した戦闘力を活かして戦場を引っ掻き回し始める。

諸事情により全機が空対空装備なので敵艦隊には打撃を与えられないが、厄介な航空戦力を引き付けるだけで味方艦隊の援護にはなるだろう。

「もしも"蒼い悪魔"を見つけたら私に知らせろ! 奴らの相手は私が――」

「ユキヒメ様! その時は私もお供させて頂きます!」

ユキヒメの狙いは当然"蒼い悪魔"――ゲイル隊及びブフェーラ隊のオーディールM2型6機だ。

彼女は自分自身で相手しようと考えていたが、そこに親衛隊隊長のスズヤが待ったを掛ける。

「奴らは悪魔の集まり――僭越(せんえつ)ながら申し上げますが、ユキヒメ様と言えど一人で全員と渡り合うのは困難と思われます」

ルナサリアンの間では悪魔とさえ呼ばれている通り、2個MF小隊は驚異的な単体戦闘力と抜群のチームワークを最大の武器としている。

専用機イザナギを駆るユキヒメの実力を以ってしても、単独では袋叩きに遭うだろうというスズヤの指摘はド正論であった。

「フッ……スズランの敵討ちの口実を作りたいだけだろう?」

部下の助言には耳を傾けつつも、一連の発言の真意について痛烈なカウンターを突き付けるユキヒメ。

「……申し訳ございません」

今の自分の戦意の源は、たった一人の妹スズランの敵討ちだけ――。

他人が簡単に見抜けるほどの未熟さを恥じたスズヤは、あまりにも陳腐な詫びの言葉を絞り出すことしかできない。

「その時は貴様の手を貸してもらうぞ! 何のために貴重なオミヅヌを与えたかよく考えることだ!」

もっとも、それは発言を自己解釈して勝手に落ち込んでいるだけであり、ユキヒメに部下を責める意図は全く無かった。

むしろ彼女は余剰機材の試製オミヅヌ丁へ機種転換した親衛隊隊長の能力を信用し、いざという時はアシストに回るよう命じる。

「ハッ! 当然であります!」

元々デリケートな気質であるためか、自分への信頼を示されたスズヤは本来あるべき姿を少しだけ取り戻していた。


 部下のメンタルケアはとりあえずこれでいいとして、ユキヒメにはそれよりも気にしていることがあった。

「(しかし……さっきからゲイル隊らしき機影は見かけないな。簡単にくたばるとは思えんから、母艦で整備補給を受けながら機を窺っているのかもしれん)」

彼女は敵MFや戦闘機を相手しながら例の"蒼い悪魔"を探しているのだが、今日に限ってなぜか自分の前に姿を現さない。

まあ、宿命のライバルにも事情があるのだろうとそこまで心配はせず、今は奴らを引きずり出すまで目の前の敵との戦いに集中する。

「雑兵が……その程度の腕で我がイザナギに触れられると思うなよ!」

無謀にも斬りかかってきたオリエント国防空軍のスパイラルⅡのビームソードを容易く切り払い、逆にパワーにモノを言わせた返し刀で敵機を一刀両断するユキヒメのイザナギ。

「……そうだ、それで良い! スターライガほどの強者相手でなければ闘う意味が無い!」

撃墜確認も程々に次の相手を求めて周囲を見渡すと、大勢の中でもよく目立つMFの姿が目に入ってくる。

その機影を確認したユキヒメは思わず笑みを浮かべていた。

「あの機体……以前資料で見たアキヅキ・ユキヒメの機体か!」

一方、白と赤のサキモリを発見した目立つMFのドライバー――ルナールは強敵との戦いに備えて気を引き締める。

「スターライガの黒い羽付き……ライガ・ダーステイやレガリア・シャルラハロートほどではないが、油断ならない相手だな」

ルナールのストラディヴァリウスと相まみえるのはこれが初めてとはいえ、ユキヒメは各種資料でこの機体を含むスターライガ製MFについては知っていた。

資料によると搭乗者の技量は準エース級に過ぎないが、その操縦適性と機体性能がガッチリ噛み合っているため、実質的な戦闘力はかなり高いらしい。

「このルナール・オロルクリフ、侮ってもらっては困る! 曲がりなりにも小隊長を任されている身なのでね!」

ユキヒメの独り言が混線で聞こえてしまったのだろうか。

それを挑発と受け取ったルナールはいつもの余裕ある態度を保ちつつも、声音には明らかに火が点いているように見えた。

そして、その感情を表すかのように専用高出力ビームソードを振りかざして先制攻撃を仕掛ける。

「あの男に近い独自の剣技とは……いやはや、私は面白い相手を見逃していたようだ!」

直撃を貰えばタダでは済まない鋭い刺突をカタナで受け流したユキヒメは、黒いMFの動きがあの男――ライガと彼の乗機パルトナ・メガミに近いことに気付く。

実際には戦闘スタイルの関係でほぼ別物なのだが、おそらくスタイルを確立する際にベースとした基本動作が共通しているのであろう。

「フッ、余裕の態度を見せられるのもここまでだ! いぶし銀が敵の大将を討ち取る――そういう筋書きも悪くはあるまい!」

対するルナールも強敵を前に全く臆しておらず、むしろ"こんな所まで出てきたことを後悔させてやる"という意気込みを示すのだった。


 ユキヒメのイザナギとルナールのストラディヴァリウスはどちらも接近戦を得意とするインファイター。

当然ながら両者は得物を手に激しい打ち合いを幾度となく続けており、周囲が介入を躊躇うほどの剣戟(けんげき)を演じていた。

「(こちらの攻撃を確実に捌いてくるか……資料が作成された時よりも腕を上げているようだな)」

自慢の剣技を(ことごと)く切り払われる状況にもかかわらず、望外の強敵との出会いにユキヒメは笑顔さえ浮かべている。

「ユキヒメ様! 援護します!」

「助太刀無用ッ! "蒼い悪魔"ならばいざ知らず、この程度の相手であれば一人で十分!」

彼女の一騎討ちへの拘りは凄まじく、スズヤがせっかく援護を申し出ても強い口調で一蹴するほどだった。

「随分とナメられたものだな。人の善意には素直に応じるべきだと思うがね」

その遣り取りを傍受したルナールは苛烈な攻撃を維持しつつ、精神的余裕を見せつけるためか突如人との付き合い方について説き始める。

「貴様、戦いの最中に相手を説教するとは何様のつもりだ!」

それに対してユキヒメは至極当然なツッコミを入れながら、優れた技量の証とも言えるパリィで相手のビームソードを弾き飛ばす。

「君、年長者には……敬意を払うものだよ!」

だが、得物を一本失ったぐらいではルナールは怯まない。

予備のビームソードを抜刀する暇さえ惜しんだ黒いMFは、右マニピュレータで握り拳を作り強烈な右ストレートを繰り出す。

「くッ! 気品の良さに反して野蛮な攻撃をやってくれる!」

予想外のパンチを食らったユキヒメのイザナギは大きく体勢を崩してしまうが、すぐに立て直して追撃だけは何とか免れる。

彼女も野蛮な徒手空拳を使う場合があるとはいえ、優雅さにこだわってそうな相手が躊躇い無く放ってくるとはさすがに思っていなかった。

「(姉上に似ているのが癪に障る! 悪人ではないにせよ、どうにも嫌な女だ!)」

また、非常に個人的な感想としてユキヒメはどうにもルナールが気に入らなかった。

傍受した無線を聞く限り悪人ではなさそうだが……言動が身内に似ているからかもしれない。

「君のようにおてんばな妹の扱い方には慣れているのさ!」

彼女の心情など知ったことではないルナールは一旦間合いを取ると、愛機ストラディヴァリウス最強の武器であるギガント・ソード"デュランダル"を抜刀。

「少々名残惜しいが、これで終いにさせてもらうぞ! アキヅキ・ユキヒメ!」

機体の全高に匹敵する長さの超大型実体剣を両腕のマニピュレータでしっかりと握り締め、黒いMFはメインスラスターの蒼い光跡を残しながら一気に攻撃態勢に入る。

「(両手持ちの大剣か! あれをまともに食らうわけにはいかない!)」

ユキヒメのイザナギはそれなりに重装甲だが、ギガント・ソードの直撃を貰ったら間違い無く一刀両断される。

彼女の底力が試される時であった。


 周囲の景色がスローモーションになっていく。

「(防御か? いや、力負けして致命的な隙を晒すことになるかもしれん……!)」

ユキヒメは考える。

身を固めて防御に徹するのは選択肢の一つだが、攻撃の受け流しに失敗すれば一発アウトの危険性を孕んでいる。

仮に攻撃自体はガードできたとしても、あれほどの大剣を弾いてカウンターを決めるのはおそらく無理だろう。

「アタァァァァック!」

スローモーションになっていた景色が徐々に元へ戻り、ギガント・ソードを構えたルナールのストラディヴァリウスが迫って来る。

「今だッ! 反撃……貰ったぞッ!」

狂戦士や黒騎士を彷彿とさせる暴力的な一撃を辛うじて回避し、すかさずカウンター攻撃の態勢に入るユキヒメのイザナギ。

「フッ、甘い!」

だが、あらゆるパターンを考慮していたルナールは大剣を勢いそのままに振りかざすことで、クロスカウンターを狙える状況を作り出す。

これが決まれば白と赤のサキモリはギガント・ソードの刀身に衝突し、勝手に自滅してくれるはずだった。

無礼(なめ)るなッ!」

「何ッ!?」

しかし、ルナサリアン最強の戦士たるユキヒメの実力はルナールの予想を少しばかり上回っていた。

大剣の刃先が視界の左側に入った次の瞬間、ユキヒメは攻撃動作を中断し咄嗟のローリングでこれを回避。

「アキヅキ流が第十一奥義! 『霜月の太刀』!」

そして、想定以上にアクロバティックな動きに動揺する黒いMFへの牽制として予備武装の光刃刀を投げつける。

ユキヒメのイザナギは強力な射撃武装を持たないため、間合いを取るにはこういった一工夫が必要となる。

「ビームソードを投げてきた!? 全く、サムライらしくない攻撃じゃないか!」

この攻撃自体はさほど痛くないとはいえ、自身の体の一部であろう刀剣類を投げる技については思わず"らしくない"と指摘するルナール。

「(奴の大剣は取り回しが悪いようだ。ならば、懐に飛び込んで連撃を仕掛ければ!)」

黒いMFの一連の防御動作を見ていたユキヒメは確信を抱く。

ルナールのストラディヴァリウスはギガント・ソードを盾代わりに使っていたことから、同武器を構えている間はシールド防御が難しいらしい。

付け入る隙があるとすれば、おそらくこれだ。

「アキヅキ流が第六奥義! 『水無月の太刀』!」

水無月の太刀――。

得意の二刀流を活かした素早い剣捌きによる連続攻撃でユキヒメは一気に勝負を掛ける。

「(さすがは月のサムライと言うべきか……こうも簡単に一転攻勢を許すとは……!)」

一撃の重さと引き換えに取り回しが悪いギガント・ソードはこういった状況に滅法弱く、ルナールの腕前を以ってしても防戦一方の苦境に陥ってしまう。

「なかなかやるじゃないか……しかし、君と違い私は一人で戦っているわけではないのだよ!」

だが、彼女には操縦技術でも機体性能でもない"最大の強み"がまだ残っていた。

【Tips】

ストラディヴァリウスの最強武器であるギガント・ソード"デュランダル"は両手持ち前提の超大型実体剣。

その巨大さから分類名称にはドイツ語で巨人を意味する単語の一つが付けられた。

重量とサイズ感ゆえ取り回しは非常に難しいが、クリーンヒット時の攻撃力はMF用格闘武装としてはトップクラスを誇る。

この武装を振りかざすストラディヴァリウスは狂戦士や黒騎士に例えられ、同機の専属ドライバーを務めるルナール曰く「ナニとは言わないが立派」とのこと。

ちなみに、金属の塊であるギガント・ソードは質量が極めて大きいため、斬るというよりは"力任せに叩き切る"使い方がメインとなる。

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