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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-39】最後の親子愛

 航空母艦イワナガヒメを旗艦とするルナサリアン空母機動艦隊は地球側の猛攻に晒され続けた結果、壊滅的な損害を被り始めていた。

「空母スミヨシ、巡洋艦アマツマラ、駆逐艦オカミ大破! 艦隊戦力のおよそ7割を喪失!」

「艦長! このままでは全滅も時間の問題です!」

イワナガヒメの戦闘指揮所内ではオペレーターたちの悲痛な報告が飛び交っている。

主力艦であるスミヨシを含む多数の随伴艦が次々と失われるなど、控えめに言っても被害は甚大だ。

「味方艦隊に支援要請は送っている! それまでは何とかして持ちこたえるのよ!」

それでもイズミは決して弱音を吐かず、部下を不安にさせぬよう艦長らしい毅然とした態度を保ち続ける。

戦線後方の本隊に自分たちが置かれている厳しい状況は伝えているので、持ちこたえればいつか援軍が駆け付けてくれるだろう。

「右舷に被弾! 火災発生!」

「すぐに応急修理要員を回しなさい! 一度延焼し始めたら手の施しようが無くなる!」

だが、そうしている間にも(ふね)へのダメージは着実に蓄積していき、各部署からの絶え間無い被害報告にイズミ艦長は的確なダメージコントロールの指示で対応する。

「(搭載中の航空隊を――せめてリュウセンたちだけは生き残らせないと……)」

彼女には(ふね)自体の状態以外にも気にしていることがもう一つあった。

それはイワナガヒメに着艦している航空隊各機――というより、娘のリュウセンをどう生き残らせるかについてだ。


「もしもし、エイシン隊長はおられますか? 艦長のアサヅキが呼んでいると伝えてください」

意を決したイズミは艦長席の受話器を手に取り、艦内電話を格納庫の搭乗員待機室へと繋ぐ。

電話に応じたのは航空隊の誰かのようだが、呼び出したい相手は彼女ではない。

「お疲れ様です、エイシン隊長。これより本艦の指揮下に入っている全航空機の指揮権を貴官に託すので、彼女らを率いて主力艦隊へ合流してください」

電話口の声が目的の相手――既に撃沈された空母から退避してきたエイシンに替わったと分かると、イズミは軽い挨拶を交わしてから早速命令を通達する。

その内容を掻い摘んで説明するなら、航空隊の戦線後方への撤退であった。

「急な指示であることは承知しています……しかし、この局面を無事に切り抜けられる可能性は限り無く低い」

命令の意義について問われたイズミは少々性急な判断だと認めつつも、自分たちが置かれている戦局は極めて厳しい状況だと切り返す。

「だからこそ、本艦が沈む際に航空戦力を巻き添えにするわけにはいかないのです」

全滅を防ぐにはここで航空隊だけでも逃がすしかない――。

それがイズミの最終結論であった。

「ありがとうございます……最後に個人的な頼み事となりますが、娘のことをお願いします」

エイシンがとりあえず納得してくれたことを確認し、同じく航空隊に所属している娘リュウセンの命を預けてから受話器を置く。

本当は娘と最後になるかもしれない会話を交わしたかったが、あちらにもこちらにも事情があるのでワガママは言えない。

「航空隊の全機発艦急げ!」

軍帽を被り直して気合を入れたイズミはオペレーターたちに艦載機の全機発艦を指示する。

「頭上の制空権は敵に掌握されつつあります! この状況下での発艦は無謀です!」

「航空隊にとっては空に上がった方が生存率は高い! 彼女たちを打ち出せ!」

副長の冷静な指摘をあえて退け、せめて航空隊だけでも生き残らせるべく発艦作業を強行させるイズミ。

「航空母艦の乗組員として発艦だけは全うしなさい! 戦闘指揮所及び艦載機運用要員以外は退艦の準備を!」

艦載機を出せない空母など存在している意味が無い。

イズミは空母機動艦隊を預かる者として、最低限必要な人員だけを残し最後の責務を果たすつもりでいた。


 アサヅキ艦隊を射程に捉えたスターライガチームは相手を"脅威度の高い目標"と判断し、進路を確保するべく積極的に攻撃を仕掛け始める。

「こっちは月へ行かなくちゃならないんだ! 邪魔するんじゃねえッ!」

「リン! 連携攻撃で敵艦の砲塔を潰すぞ!」

まずは取り巻きの巡洋艦を排除するため、リュンクスのスタークキャットとパルトネルのテレイアがそれぞれのメインウェポンによる連携攻撃を仕掛ける。

MFの火力では直接沈めることは難しいが、敵艦の攻撃手段を奪えばそれは結果として味方のアシストに繋がる。

「手負いの空母から艦載機が上がって来た!」

「レーダーに艦影及び機影を多数捕捉……! 敵艦隊も増援を呼んだみたい……!」

しかし、壊滅的被害を受けてもなおアサヅキ艦隊は諦めていない。

コマージとカルディアが見ている前で残された艦載機を発艦させ、巡航艦隊と合流することで一秒でも長く徹底抗戦するつもりのようだ。

「パルティ! 後方に敵機(チェックシックス)!」

「油断した! 対艦攻撃に集中し過ぎたか……!」

敵味方入り乱れる混戦が続く中、灰色のMFを狙うツクヨミ改に気付いたアンドラは注意を促す。

だが、肝心のパルトネルは攻撃態勢から復帰したばかりですぐには回避運動を取れなかった。

「へッ、右がお留守なんだよ!」

「ファイアッ! ファイアッ! ファイアッ!」

そこへタイミング良く駆け付けてくれたのはアレニエとヒナ。

両者はパルトネルたちとは別行動を取っており、専用軽量レーザーライフルで牽制を仕掛ける後者の乗機トリアキスに前者の機体が乗っかる"リフター"を行っている。

「このままぶった切るッ!」

無論、上に乗っかっているアレニエは怠けているワケではない。

敵機の動きを注意深く観察しつつ彼女の愛機アラーネアはビームサーベルを抜刀。

2本束ねるように構えることで疑似的に刀身を太くし、ヒナの牽制射撃に気を取られていたツクヨミ改の胴体を宣言通りぶった切ってみせた。

「ヒューッ! 良いバックアップだったぜ、お二人さん!」

「調子が良いんだから……全く、私たちが援護しなかったら危なかったでしょ!」

「ヒナの言う通りだよ! 生きて帰れたら一杯奢ってくれよな!」

両者のコンビネーションを口笛を吹きながら褒めているリュンクスに対し、「そんな呑気なこと言ってる場合か!」と揃ってツッコミを入れるヒナとアレニエ。

「(最終防衛ラインだけあって抵抗が一層激しくなってきた……あの人も戦いの匂いに釣られて来るに違いない……!)」

一方、アンドラを引き連れながら得意の狙撃で戦っているレンカは、増援として確実に現れるであろう"あの人"のことを強く警戒していた。


(カラス)1より各機、我々航空隊はアサヅキ艦長の意向に従い、戦線後方に展開する本隊への合流を目指します」

局地戦用宇宙戦闘艇"サイカチ"を駆るエイシン隊長率いる航空隊は密集陣形を取り、限られた戦力で互いにカバーし合いながら後方への撤退を目指す。

不幸中の幸いと言うべきか、アサヅキ艦隊の相手に集中している地球側はこちらを追撃する気は無いらしい。

(ふね)が沈む際に航空隊を巻き込みたくないという、艦長のお気持ちを汲み取るべきだと判断したからです」

アサヅキ(・イズミ)艦長の命令に初めは戸惑いを覚えたエイシンだったが、上官の心情と思いやりを察するのにさほど時間は掛からなかった。

そして、そこには"親心"が込められていたことも当然分かっている。

「私たちの機体に積まれている燃料弾薬は必要最低限に過ぎません。戦闘行為は可能な限り避け、速やかに本隊の所へ向かいます」

発艦作業の時間を短縮するため、エイシンたちはギリギリの燃料弾薬しか搭載していない。

余計な戦闘にかまけている余裕は無いだろう。

「(母さん……ごめんなさい……)」

そして、イズミが親心を向ける対象であるリュウセンはまだ踏ん切りが付いていなかった。

母親自身が決めた覚悟とはいえ、肉親を見捨てることなど到底受け入れられなかったからだ。

「前方に味方の反応多数! 識別信号は第20巡航艦隊と……皇族親衛隊!?」

その時、エイシン機の後席に同乗しているメジロが多数の味方の反応を確認する。

自分たちに向かって来る部隊の中には、少し離れた宙域に展開していた味方艦隊だけでなく、最前線には滅多に出てこない皇族親衛隊の識別信号も含まれていた。

「親衛隊が来るとは意外ですね……メジロさん、先方に対し通信回線を開いてください」

「いえ、あちらから先に入電がありました! 『我ガ精鋭タチガ責任ヲ持ッテ敵ヲ食イ止メル。我々ヲ信ジロ。 -アキヅキ・ユキヒメ-』 ――これって!?」

素直に援護してくれるのか、それとも敵前逃亡と見做してくるのか――。

エイシンが身構えながらメジロに通信回線の確保を頼むと、彼女は一足早く受信していた味方部隊からのメッセージを読み上げ始める。

驚くべきことに送信元は皇族たるユキヒメであり、自ら援軍を務めてくれるという。

「返信をお願いします! 『皇族親衛隊直々ノ支援ニ深ク感謝。貴隊ノ武運ヲ祈ル』と!」

ユキヒメの将兵を想う気持ちに感動したエイシンはメジロにメッセージを作成させ、その返信を以って感謝に代える。

「退路は援軍が確保してくれました! 各機、最大推力でこの戦域より離脱を!」

第20巡航艦隊及び皇族親衛隊の加勢により安全地帯が広がったことを受け、指揮下の全機に対し撤退を急かすエイシン。

「(……あたしは……行くよ!)」

イワナガヒメから発艦する直前、直接別れの言葉を送ってくれた母の寂しそうな声を思い出しつつ、リュウセンは数えられるほどしかいない味方機の後を追いかけるのだった。


「無事に本隊へ辿り着けよ……温存できる戦力はできる限り残しておきたいからな」

サイカチや試製オミヅヌ丁といった雑多な機種で構成された味方部隊をすれ違いざまに見送りながら、ユキヒメは同胞たちに少しだけ時間を与えられたことに安堵する。

「アサヅキ艦隊の艦影を確認しました。損害率は7割――いえ、8割に達しているでしょうか」

「お世辞にも良い状況とは言えないか」

実質的な2番機であるスズヤの報告に対し、率直な感想を述べるユキヒメ。

普通なら撤退を検討すべきレベルだが、今回に限ってはそうも言っていられない。

「私だ、アキヅキ・ユキヒメだ。艦長に通信回線を回してくれ――うむ、ありがとう」

まずユキヒメは空母イワナガヒメに通信を繋ぎ、艦長と直接話を付けることを試みる。

「イワナガヒメのアサヅキ艦長だな? 貴官と乗組員たちはここまでよく頑張ってくれた……その働きぶりを労いたいのはやまやまだが、総員退艦する前にもう一働きしてほしい」

彼女は通信相手がイズミ艦長に替わったことを確認すると、最初に艦長以下乗組員一同の奮闘を褒め称えた。

そのうえで、それだけの力を最後の一滴まで完全に絞り切るよう求める。

「敵戦力は貴官の艦隊を攻撃している連中でほぼ全てだ。残るべくして残った強者揃いだが、"アメノハバヤ"を照射すればこれを一挙に殲滅できる可能性が高い」

地球側はここまでの激戦でかなり消耗しており、残されている戦力は今展開している分で全てと思われる。

スターライガを筆頭に強力な面子が揃っているとはいえ、戦略兵器による先制攻撃を行えば一方的に叩けるとユキヒメは踏んでいた。

「射線上へ誘導するには12カイリ(約22km)ほど移動しなければならない。アサヅキ艦隊にはそのための囮役を引き受けてもらう」

アメノハバヤのユニットを装備する空母ヤクサイカヅチの配置の都合上、今から射線を大きく動かすことは難しい。

そこで敵艦隊に狙われているアサヅキ艦隊を上手く利用し、攻撃目標の方から射線に来てもらおうというわけだ。

「なに、味方を巻き添えにするほど我々も腐ってはいないさ。貴官らの離脱時間を稼ぐためには、射線に対し横から進入する必要がある」

ユキヒメは勝つためにはあらゆる手を尽くす女だが、それは"味方の被害は最小限に留める"というごく当たり前の良識の上に成り立っている。

「そちらの操舵士の腕を信頼しているぞ……健闘を祈る」

今後の方針について大まかに伝えたところで、激励の言葉と共にユキヒメはようやく通信を終える。

「各機、話は聞いていたな? アサヅキ艦隊が役目を果たせるよう、我々は航空優勢の維持に尽力する!」

続いて彼女は回線を部隊内通信に切り替えると、指揮下の全機に向けて自分たちが為すべきことを告げるのであった。

【皇族親衛隊の任務】

皇族親衛隊は基本的に皇族(アキヅキ姉妹)が出陣する際の護衛が主任務だが、単独で特殊任務に投入される場合もある。

そういったケースでは一般部隊には任せられないような汚れ仕事を担当することも珍しくないという。

特にルナサリアンで唯一「味方部隊に対して臨検を行う権利」を有しており、指揮系統から独立した督戦隊としての機能も持ち合わせている。

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