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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-38】最終防衛線

 ルナサリアン戦艦部隊の大半を容赦無く薙ぎ払った、試製ジェネレーター直結式艦隊決戦用レーザーキャノンユニット"ヴァルハラ"――。

その圧倒的攻撃力に戦慄を覚えたのは使用者たちも同じだった。

「て、敵艦隊の脅威レベル大きく低下……! 今なら中央を突破できます!」

「推力最大! 残骸及び残存戦力に警戒しつつ、最大戦速で防衛ラインを抜ける!」

オペレーターのキョウカから報告を受けたミッコはすかさず強行突破を指示。

「了解、推力最大!」

操舵士のラウラは原子炉2基が正常稼働に戻っていることを確認すると、スロットルレバーを前に倒し推力を上げる準備を整える。

大型艦は推進装置のレスポンスが鈍いため、早め早めの操作が必要なのだ。

「こいつは酷ぇ……ウチらはトンデモない兵器を作ったのかもしれへん」

宇宙空間を漂う無数のスペースデブリと投げ出された死体から思わず視線を逸らすアルフェッタ。

"ヴァルハラ"の使用を提案したのは自分だが、このような結果を先に知っていればトリガーを引くのを躊躇っていたかもしれないと、今更ながら後悔を抱くのであった。


「ヨルハさん……」

「何ですか?」

「戦争とはいえ、これほどまでに貴女の同胞を(あや)めたことをお許しください」

想像を超えた破壊を目の当たりにしたミッコは隣の補助席に座るヨルハに対し、彼女の同胞であるルナサリアンの命を多数奪う結果となったことを詫びる。

一度は祖国から追放された身とはいえ、ヨルハにとって生まれ故郷が月だという事実に変わりは無い。

「……私は軍事の専門家ではありません。より少ない殺生で突破口を開けたのかは分かりません」

戦争の名の下に同胞たちの死を目の当たりにするのは非常に辛いことだろう。

事実、ヨルハは自身が軍事面には詳しくないと前置きしたうえで、今回の判断について後々分析が必要かもしれないと指摘する。

「ですから、私のような者に頭を下げないでください。艦長がご自身の判断に悩んでおられたら、皆さんが心配なさるでしょう?」

にも関わらず、彼女は自分自身のことよりもミッコ艦長の精神状態の方を気に掛けていた。

この二人の遣り取りをブリッジクルーたちは心配そうに見つめている。

「……お見事です。さすがはかつて月を治めていた一族の御方だ」

戦闘指揮所(CIC)を見渡したミッコは"参った"といった感じで苦笑し、高貴なる血が流れているヨルハのメンタリティを称賛する。

その血統は決して伊達では無いのだろう。

「俄然やる気が出てきましたよ。ここまで来たのならば、尚更後戻りはできません」

迷いを振り切ったことで一度は萎えかけた闘志に再び火を灯し、不退転の覚悟を改めて示すミッコ。

「あらゆる手段と全力を尽くし、必ずや貴女を月まで送り届けてみせます」

スターライガの最終目的は明確である。

皇族の血筋を持つヨルハを月へ連れて行き、彼女の声を以って国民に真実を伝える。

「そして、月に住まう人々に示すのです。この戦争が始まった本当の理由と、打倒すべき相手が誰かを……」

戦争を望まない民衆たちに決起を促し、ムーヴメントを大きな波へと変えて戦争推進派を押し流すのだ。

この戦争では地球側の干渉は必要最低限に留めなければならない。

さもなくば、治安維持や民主化などを名目とした地球側による一方的な占領統治を許してしまうことになる。

「それは構いませんが……一つだけ頼み事があります」

ミッコの決意――あるいはスターライガチームの理想を聞き遂げたヨルハは、その実現に協力する代わりに一つだけ条件を付けるのだった。

「もし、この凄惨な状況下でも生存者を発見することができたら、敵味方関係無く可能な限り救助して頂けませんか?」


 更衣室で着替え終えたオリヒメがヤクサイカヅチの戦闘指揮所(CDC)に戻って来ると、手が空いているブリッジクルーたちは一斉に敬礼で出迎える。

操舵士やレーダー管制官にはさすがにそんな余裕は無いが、その辺りをいちいち気にするほど彼女は器が小さい女ではない。

「あ、オリヒメ様! ユキヒメ様より伝言を預かっております!」

オリヒメの姿を確認するや否や、すぐに席から立ち上がり駆け寄って来るオペレーター。

その右手には白いメモ用紙が握られていた。

「何と言っていたの?」

「今から電文を読み上げます。ええっと……『一足先に戦場にて待つ。 追伸:皇族親衛隊のヨミヅキ小隊は借りていく』――だそうです」

「やれやれ……あの()は気が早いわね」

曰く"ユキヒメの伝言"を聞いたオリヒメは肩をすくめ、苦笑いしながら艦長席に腰を下ろす。

「オリヒメ様は出撃なされないのですか?」

「私が最前線に赴くことを望んでいるのかしら?」

ヤクサイカヅチ本来の艦長であるサトノの何気無い質問に対し、気分を害したのか露骨に眉をひそめるオリヒメ。

「い、いえ! そういった意味ではなく……!」

「フフッ、冗談よ。こうして戦闘服に着替えてはいるけど、早急な出撃が必要だとは考えていないわ」

ところが、自らの失言を悟ったサトノが必死に取り繕う情けない姿を見た瞬間、オリヒメは無邪気な笑みを浮かべ始める。

突然ナイーブになったかと思えばいつも通り部下をからかうなど、今日の彼女はやはり不安定なようであった。


「それに、"アメノハバヤ"の発射するには許可権を持つ私がいないとダメでしょう?」

そんなオリヒメが出撃準備を行うだけに留めている理由としては、どうやら"アメノハバヤ"なる武装の使用に彼女の許可が必要だかららしい。

逆に言えば、月の専制君主が権限を掌握しなければならないほど"アメノハバヤ"は強力且つ危険な兵器なのである。

「艦長! オリヒメ様! 空母イワナガヒメより入電! 『我、敵艦隊ノ誘導ニ成功セリ。損害大キク、味方トノ合流ヲ求ム』とのことです!」

その時、自身の座席に戻っていたオペレーターが味方艦隊からの入電を確認し、オリヒメたちの方を向きながら通信内容を報告する。

イワナガヒメは第四防衛線に展開していたものの、戦略的判断に基づき急遽最終防衛線まで後退させた空母だ。

「第20巡航艦隊を向かわせて! それとユキヒメにも可能であれば援護するよう連絡を!」

普段の艦隊指揮はサトノに任せているが、今回はたまたま艦長席に座っていたオリヒメが自らの手で采配を振るう。

「(私が承認した作戦計画はユキと将官たちが緻密に練り上げた物――それを彼らは突破し、ついにここまでやって来たというわけね)」

妹たちが立案した作戦は結局のところ上手く機能せず、地球側の進攻を許してしまっている。

しかし、地球側の主力を担うスターライガに対し複雑な感情を抱くオリヒメは、どことなくそれを期待していたのかもしれなかった。


 一方その頃、伝言の内容通りユキヒメは皇族親衛隊一個小隊と共に最前線へ急行していた。

彼女の搭乗機は前回と同じく専用機のイザナギだが、今回は地球上での戦闘データを反映したアップデートが施されている。

「こちらアキヅキ、どうした? ――分かった、ちょうど我々もそこへ向かおうとしていたところだ」

艦隊総旗艦ヤクサイカヅチから通信に応答し、当面の作戦目標について情報共有を行うユキヒメ。

"そこ"と呼ばれる戦闘宙域を重要視している点は彼女もヤクサイカヅチ側も同じであった。

「この最終防衛線まで辿り着くほどの実力者だ。私が直々に出迎えるのも悪くなかろう」

ユキヒメはここまで辿り着いた実力者の正体に見当が付いており、ならば自分の出番だと意気込みを見せる。

「姉上にも伝えておいてくれ。『"アメノハバヤ"は事前の打ち合わせ通りに』とな」

ヤクサイカヅチCDCに対し意味深な伝言を頼むと、続いて無線周波数を部隊内通信用のチャンネルに切り替える。

「各機、聞け。これより我々は第四防衛線より後退してきたアサヅキ艦隊の支援へ向かう」

皇族たるアキヅキ姉妹と彼女たちに専属する親衛隊は指揮系統から独立した存在だが、大半の任務は一般部隊と何ら変わらない。

明確に異なるのは部隊員の経歴と出撃頻度、そして使用機材や操縦技量といった戦闘力にあると言えた。


「味方艦隊を追い詰めているのは、残るべくして残った地球側の精鋭どもだ。気を引き締めて掛かれよ!」

接敵を前にユキヒメは訓示を述べる。

戦場で活躍ないし生き残るには運と実力の両方が必要であり、それらを持ち合わせていたからこそ最終防衛線までやって来れた相手が油断ならない存在だということは言うまでも無い。

「了解! ここまで来たことを後悔するぐらい、完膚無きまでに叩きのめしてやりますよ!」

「……あまり気負うなよ、ヨミヅキ。妹の仇を取りたいという気持ちは分かるが、冷静さを欠いて自分自身の命を失わないようにな」

皇族親衛隊隊長を務めるヨミヅキ・スズヤの気合の入り方――いや、むしろ空回り方を見るや否や、これまでとは一転して冷静に部下を諭し始めるユキヒメ。

彼女は地球上での決戦でスズヤがたった一人の妹を喪い、その敵討ちに異常なまでに固執していることをよく知っている。

だからこそ、それに拘り過ぎて天国の妹を心配させるなと咎めているのだ。

ユキヒメも誰か(オリヒメ)の妹という立場なのである。

「ヨミヅキに限った話ではないが、自己責任で死ぬような馬鹿者は弔わないから覚悟しておけ」

「ハッ……肝に銘じておきます」

彼女が本気とも冗談とも受け取れる忠告を突き付けると、スズヤは勝手に熱くなっていたことを反省しつつ力強い返事でそれに応える。

「(お前の妹はあくまでも行方不明であり、戦死したとは決まってない――などという楽観的な言葉は掛けられんからな)」

ユキヒメが把握している範囲では、スズヤの妹の戦死を決定付ける証拠は何一つ見つかっていないらしい。

つまり生存している可能性も否定できないわけだが、さすがに不確定要素で人を慰めるわけにはいかなかった。

「第20巡航艦隊とも丁度合流できたか……よし! 各機、安全装置解除!」

しばらく編隊飛行を続けていると、幸運にも巡洋艦を中心とする巡航艦隊とタイミング良く合流でき、ここでユキヒメは指揮下の全機にセーフティ解除を命じる。

「敢えて言わせてもらう……死ぬなよ」

最後に彼女は今更言うまでも無いことを敢えて口にしたうえで、指揮下の全機に対しハンドサインで交戦許可を出すのだった。

【巡航艦隊】

巡洋艦を中心に構成するとされる、ルナサリアン独自の艦隊編成。

規模としては水雷戦隊に巡洋艦1~2隻を加えた程度であり、火力と機動力のバランスを活かして幅広い任務に従事する。

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