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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-35】青よりも碧い蒼(後編)

 ヴァイルとリュウセンが一進一退の攻防を繰り広げていた頃、両者の僚機たちの戦いは終局を迎えつつあった。

「しまったッ! 左腕と右脚をやられた!」

ここまで粘り強い戦いを見せてきたユウキだったが、ブフェーラ隊の連携攻撃により乗機試製オミヅヌ丁の手足を相次いで撃ち抜かれ、絶体絶命の危機に追い込まれてしまう。

「ブフェーラ2、挟撃で一気に決めるぞ!」

「トドメを刺させてもらいますわ! 死にたくなければ脱出なさい!」

倒せる敵から倒すべく、リリスはブフェーラ隊の十八番(おはこ)である連携攻撃を指示。

今回は位置取りが良いローゼルにトドメを任せる。

「くそォ、ここまでなのかよ……!」

損傷が激しい機体ではまともな回避運動を取ることができず、最善を尽くしながらも死を覚悟するユウキ。

「下がれッ! ユウキ!」

しかしその時、フリーとなっていた蒼2が間一髪のところで援護防御に駆け付け、ユウキの試製オミヅヌ丁を庇うように立つ。

「若いのをやらせはせん!」

蒼2の改良型光線銃による決死の猛反撃はローゼルのオーディールM2に全弾命中し、増加装甲"SG-BOOSTER"が損壊するほどのダメージを与える。

「なんとぉーッ!」

だが、愛機のことを信頼しているローゼルはそのまま攻撃態勢を維持。

役目を終えた増加装甲をパージしつつ人型のノーマル形態に変形すると、左腕の試製攻防一体シールドシステムに搭載されている"パイルバンカー"で紺色のサキモリを打ち貫くのだった。


「お、オバサン……ッ!」

オバサン呼ばわりは一種の愛情表現であり、ユウキは蒼2のことを先輩エイシとして本当に尊敬していた。

「誰がオバサンだ……隊長を……お前の友達を……支えてやれ――!」

銀色の杭に貫かれながらも蒼2は精一杯の苦笑いを浮かべ、自身の命に代えて守った若者に未来を託す。

多発外傷及びそれに伴う大量出血により意識が途絶える直前、彼女が最期に送った言葉は"戦友は大切にしろ"という内容であった。

「……よくもやりやがったなッ!」

無意識のうちに流れていた涙を振り払うようにスロットルペダルを踏み抜くユウキ。

「おやめなさい! あなたのような若い人が命を投げ捨ててはいけませんわ!」

対するローゼルは紺色のサキモリの残骸を突き飛ばすと、試製攻防一体シールドシステムで刺突を受け流しながらビームソードを抜刀。

敵とはいえ無謀な突撃を咎めつつ、ユウキの試製オミヅヌ丁の左腕を返し刀で切り落とす。

「何なんだよ……"蒼い悪魔"の正体は私と歳が変わらないのかよ……!」

機体の両腕を失ったユウキは堪らず後退し、敵機のドライバーが自分と同年代だったという事実には乾いた笑いを浮かべる。

前線での危険な仕事を若者に押し付け、老人は安全な後方で踏ん反り返るという構図はどの世界でも変わらない。

「コックピットは外してやる! 死にたくなければ脱出しろ!」

今度はアシストに徹していたリリスがアタッカーとなり、紺色のサキモリをロックオンしながら脱出を促す。

「くそッ! くそッ! くそッ!!」

先輩を殺した相手の降伏勧告など受け入れられるはずが無く、ユウキは手負いの機体で必死の抵抗を見せる。

「仕方が無い、仕方が無いな……ブフェーラ1、ファイアッ!」

このままでは相討ち上等の特攻を食らうかもしれないと判断したリリスは、自身と僚機(ローゼル)の安全のため()むを得ず操縦桿のトリガーを引く。

蒼いMFのレーザーライフルから放たれた蒼い光線は試製オミヅヌ丁の"左脚"を正確に撃ち抜いていた。


「……ブフェーラ2、ヴァイルの援護に向かうぞ!」

撃墜確認を済ませたリリスは隊形を整え直し、単独戦闘中のヴァイルの所へ向かうべく移動を開始する。

「最後に手加減したのですね」

「一度は『コックピットを外す』と宣言したからね。それを守るのが最低限のマナーというモノだよ」

最後の攻撃に関してローゼルから指摘されたことを受け、自分自身に課したルールに従っただけだと答えるリリス。

「ヴァイルの能力は信頼していますが、時間が掛かっているのが少々心配ですわ」

隊長の人となりについてはよく知っており、彼女が敵を見逃したことにローゼルは口を挟むつもりは無い。

それよりも気掛かりなのは、やはりヴァイルのことだ。

レーダー画面上に機体の反応は残っているので、まだ健在であることは確かなのだが……。

「(おそらく操縦席を狙えたのに、あえて外したのか……)」

2機の蒼い可変型MFが飛び去って行くのを確認した後、ユウキはシートベルトを外して機外に身を乗り出す。

試製オミヅヌ丁は四肢を破壊され達磨(だるま)となっているが、コックピットブロック及びバックパックだけはダメージを受けずに済んでいた。

サキモリの四肢は交換修理を前提に複数のユニットで構成されており、機体を回収できればASSY(アッシー)交換で何とかなる可能性が高い。

「チクショォォォォッ! 一方的に叩きのめされて、しかも情けまで掛けられて……一体何のために戦ってるんだよ、イサミヅキ・ユウキ!」

しかし、搭乗者のメンタル面はそうはいかない。

コックピットへ座り込んだユウキは補助計器盤に拳を叩き付け、自分自身の力不足――そして敵から"殺す価値も無い"と見做(みな)されたことに激しい怒りを抱く。

自分が弱いから蒼2を死なせてしまった。

自分は弱いから歯牙にも掛からない存在なのだ――と。

「(リュウ……あんたは大抵自信なさげにしているけど、本当は私や碧1よりもよっぽど強いって知ってんだよ)」

落ち着いてから再び機外に出たユウキが周囲を確認すると、すぐ近くで複数の蒼い光跡が複雑に絡み合っていくのが見えた。

あのいずれかをリュウセンの試製オミヅヌ丁が描いているのだろうか。

「先輩の仇を取ってくれよ……頼むから……」

宇宙空間を漂うユウキにはただ祈ることしかできなかった。


 同じ頃、リュウセンとヴァイルの戦いも決着の時を迎えようとしていた。

「ユウキ……!?」

最初は何だったのか分からなかった。

ただ、リュウセンは友人の身に何か起こったことを感じ取っていた。

「今だッ!」

それによって生じた僅かな隙をヴァイルが見逃してくれるはずが無く、彼女のオーディールM2はここぞとばかりに試製ツインビームソードを振りかざす。

「二刀流なら力負けしない……!」

対するリュウセンもすぐに集中力を取り戻し、改良型光刃刀2基を×の字に構えることで鋭い攻撃を受け流していく。

「じゃあ、フルパワーならどうだ!」

何度も攻撃を切り払われ埒が明かないと判断したヴァイルは試製ツインビームソードの出力を上げ、エネルギー消費と引き換えに攻撃力を高めるフルパワーモードで一気に勝負に出る。

「くッ……!」

「これで決めてやるッ!」

事実上ワンオフの高性能武器と量産武器の改良型では力の差は歴然としており、リュウセンの試製オミヅヌ丁は抵抗空しく鍔迫り合いに負けてしまう。

この千載一遇のチャンスで確実に決めるべく、ヴァイルは気合が込められた刺突を全力で放つ。

「何ッ!?」

ところが、蒼いMFの攻撃はカタナを構えた紺色のサキモリによって止められていた。

強力な刺突を強引に受け止めたためか、銀色の剣は上半分が高熱により融けてしまっている。

「あなたは……!」

「踏み込みが少し甘くなっていますわ。何か気掛かりがあるのではなくて?」

直撃を覚悟していたリュウセンが驚いたように声を上げると、紺色のサキモリのエイシ――碧1は心配するよりも先に"集中力が乱れていたのではないか"と厳しい指摘を述べる。

「ユウキ――いえ、僚機が撃破されたことを感じ取ったんです」

決して甘い人間ではないので小言を言われるのは仕方ないとして、集中力が途切れた理由について率直に語るリュウセン。

「行きなさい! 多少の時間稼ぎならば(わたくし)にもできますわ!」

そんな言い訳など通用しない――と更に叱られるかと思いきや、碧1は"速やかに撃破された僚機の救助へ向かうように"と叫んでいた。

「あ、ありがとうございます! あなたもどうかお気を付けて!」

同僚が初めて垣間見せた優しさに感謝しつつ、リュウセンはすぐにその場からの離脱を図る。

「((わたくし)に一方的に嫌われていたことを知っていたにも関わらず、貴女(あなた)は遺恨を捨てて窮地から救ってくださった。今度は(わたくし)が恩義に報いる番ですわ)」

自身が"蒼い悪魔"に追い詰められた時、リュウセンは感情を露わにしてまで救ってくれた。

今度は碧1の方が手を差し伸べるべきだと考えるのは当然のことだった。


「逃げるつもりか!?」

「あなたの相手は(わたくし)が引き受けますわ」

離脱していく紺色のサキモリを追撃しようとするヴァイルだったが、それを碧1の試製オミヅヌ丁が阻む。

「さっきまでゲイル隊に散々ボコボコにされてた奴か……」

牽制攻撃から逃れているうちに目的の相手を見失ってしまい、仕方無く攻撃目標を目の前のサキモリへと切り替えるヴァイル。

「隊長、ヴァイルを援護しないでいいんですか?」

「いや……その必要は無い」

その碧1を追い詰めながらも仕留め切れなかったスレイは僚機への加勢を求めたものの、セシルは少しだけ考え込むと"必要性が無い"として意見具申を退ける。

「これは彼女の戦いだ。こういう時、一騎討ちに干渉するのは野暮ってモノだよ」

(わたくし)たちはヴァイルの力を信じています。それはセシルお姉様も同じでしょう?」

直後にヴァイルと同じ小隊に所属するリリスとローゼルが合流し、この二人もセシルに同調する姿勢を示す。

「軍人失格だなぁ、お前たち」

「フフッ……」

珍しく軽口を叩くセシルが面白かったのか、思わず女性らしい笑い方を見せるリリス。

「あなた、良い上官をお持ちのようですわね」

ゲイル及びブフェーラ隊の遣り取りを傍受した碧1もこれにはつい微笑んでしまう。

「精一杯の皮肉に付き合うつもりは無い……!」

他方、堅物な性格のヴァイルはどこまで行っても生真面目を通していた。


 MFドライバーやエイシは撃墜される危険性と隣り合わせの状態で任務に当たるため、万が一の場合に備えてサバイバル訓練を受けていることが多い。

「(ええっと、落ち着け……こういう時の対処方法は訓練でやってるだろ)」

その時の内容を思い出しながらユウキは機体のバックパックのメンテナンスハッチを開き、アビオニクスを稼働させるために最低限必要な電力供給の回復を試みる。

「(電力供給が復活した! 後は救難信号を発信して……っと)」

幸いにも復旧作業はスムーズに完了したため、彼女は計器投映装置を操作し救難信号を発信させてから一息つく。

「(また戦闘が激しくなったのか――ん?)」

ふと周囲を見渡すと、広大な宇宙空間のあちこちで戦闘による閃光が生じていることに気付く。

そして、その閃光の方向から一機のサキモリが接近していることにも。

「味方機……リュウか!? さっき救難信号を出したばかりなのに!」

サキモリという時点で味方なのは確実とはいえ、救難信号を発信した直後に同僚が駆け付けてくれたのは、ユウキにとってもさすがに予想外であった。

「ユウキ! 怪我は無い!?」

「ああ、何とかな……だけど機体はこのザマだ」

すぐ近くまで機体を近付けたリュウセンから怪我の有無を尋ねられ、身体は大丈夫だが乗機は大破してしまったと答えるユウキ。

「……先輩は?」

「……」

続いて先輩――蒼2の安否についてリュウセンが問うと、ユウキは一転して口を固く閉ざす。

「とにかく、一度母艦まで戻ろう。無線を聞く限り、他の味方部隊も結構苦戦しているみたいだし……」

友人の沈黙と周辺を漂う残骸で全てを察したリュウセンは、態勢を立て直すため母艦へ戻るべきだと告げる。

大まかな戦局は無線や戦術データリンクで常に把握しているが、どうやら敵艦隊の抵抗が激しく航空攻撃が不発に終わったらしい。

「操縦席の方に来て、しっかり掴まってて。帰艦する前にやることがあるから」

大破した機体を曳航する余裕は無いため、自分の試製オミヅヌ丁へ乗り移るように促すリュウセン。

「おいおい、どこへ行くつもりなんだよ?」

ユウキが右脚を操縦席へ突っ込んで身体を固定したのを確認し、リュウセンはいつも以上に慎重な操作で機体を加速させるのだった。

【ASSY交換】

ASSY(アッシー)とは複数のパーツを組み合わせてユニット化した物を指す。

MF及びサキモリの場合は腕部だけでもマニピュレータ、前腕、上腕、肩と4分割されており、修理の際は基本的に必要箇所自体の交換で対応する。

これは時間短縮による整備作業の効率化のほか、組み立てミスの防止や品質確保といった理由が関係している。

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