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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-32】第四防衛線

 警戒態勢で長時間待機していた第四防衛線の艦隊は、本陣から命令が出るや否や速やかに第一戦闘配置へ移行。

「ハッ! 全力で任務に当たり、必ずや敵艦隊を食い止めてみせます!」

機動艦隊旗艦イワナガヒメの艦長アサヅキ・イズミは司令部との通信を終え、若干不服そうに首を横に振る。

「(簡単に言ってくれるわね、全く……)」

通信相手は総司令官のユキヒメだったのだが、彼女は第四防衛線が完全に敵を止めることを期待しているらしい。

第三防衛線までで敵は相当消耗しているとはいえ、イズミ自身の意見としては"無理を言うな"だった。

「ウワハル雷撃隊隊長機より入電! 整備補給のため着艦許可を求めています!」

「エイシン隊長ね? よし、発艦作業と並行して残存航空戦力の収容準備を急がせなさい!」

オペレーターから報告を受けたイズミはそちらへ移動し、ヘッドセットマイクの回線を切り替えつつ自ら指示を出す。

「……リュウセン、指揮所に来ていたのなら遠慮せず声を掛けてくれてよかったのよ?」

「は、はい! 以後気を付けます!」

自分のことを待っている人の気配に気付いたイズミが後ろを振り向くと、そこには一目見て分かるほど若い士官――イワナガヒメ航空隊所属のホヲヅキ・リュウセンが緊張気味に立っていた。

イズミとリュウセンは実の母娘という関係だが、職場ではあくまでも軍人同士として接している。

「大丈夫、あなたが部隊長として若すぎるのは否定できないけど、この異例の抜擢は総司令部直々の判断だと聞いているわ」

表面上は上官として言葉を掛けつつも、その表情や声音から溢れ出る母親らしさを良い意味で隠せていないイズミ。

「自分自身の力と仲間たちの支えを信じなさい」

「激励の御言葉、ありがとうございます」

母親のアドバイスに力強い敬礼を返し、そそくさと戦闘指揮所から立ち去っていくリュウセン。

「(辛いわね……こういう時、自分の娘にだけ『行くな』と言えないなんて)」

イズミにとってリュウセンは難産の末に産まれた大切な一人娘。

本当は未熟者な娘を戦場には送り出したくなかったが……。


 第三防衛線を突破するために少なくない損害を強いられた地球側は急遽再編成を実施。

ただし、奇跡的に損害ゼロを維持している第17高機動水雷戦隊はこのまま作戦を続行する予定だ。

「艦長、艦隊の陣形変更完了しました。事実上壊滅した多国籍艦隊は第9空母機動艦隊と合流し、我々及びO.P.A(オリエント・プライベーター同盟)が再び前衛に立ちます」

小休憩から戻ってきたメルト艦長に再編成の内容及び影響について説明するシギノ副長。

「報告ありがとう。あんなにいた味方も随分と減ってしまったわね」

それを聞きながらメルトは艦長席に腰を下ろし、更新された編成リストを専用タブレット端末で確認する。

所属で分けられているリストには多数の艦名と現在のステータスが表示されているが、轟沈ないし戦闘不能となったことを意味する取り消し線が大量に刻まれていた。

「我々の想像を超えるほど過酷な道中だったことを考えれば、ここまで戦力が残っているのは奇跡的と言えるでしょう」

ルナサリアンが用意した防衛戦力はあらゆるシミュレーション結果を上回っており、戦闘の遷移次第では月へ辿り着く前に全滅する結末さえあり得ただろう。

にもかかわらず、地球側は最低限の戦力でここまで来ることができている。

これはシギノならずとも"奇跡"と表現せざるを得ない。

「地球よりも月の方が大きく見える……ついにここまで来たんだ」

「見えてるだけじゃダメなんだ。あそこに辿り着いて、戦争を終わらせるまでが私たちの仕事だよ」

「でも、そのためには目の前の敵艦隊を突破しないといけない」

レーダー管制官のエーラ=サニアに操舵士のマオ、そして主任火器管制官のフランチェスカ――。

いずれも開戦時からアドミラル・エイトケンの運用に貢献してきたブリッジクルーたちだ。

「偵察中のブフェーラ隊より入電! 『我、敵艦隊ノ詳細戦力確認セリ。機動艦隊及ビ戦艦部隊ノ混成部隊ニシテ、大型艦多数』とのことです!」

「今の情報を基に全天周囲スクリーンの表示を更新します!」

もちろん、メインオペレーターのエミールとサブオペレーターのゼルも忘れてはならない。

彼女たちオペレーターの通信業務及び各種報告は時に重要な判断材料となる。

「なるほど、どこまでも楽はさせないというわけか……クソが」

ブフェーラ隊が発見したという敵艦隊の予想配置図が全天周囲スクリーンに反映された瞬間、シギノは聞こえるように露骨な悪態を()く。

「……」

指揮官が困惑する姿はあまり望ましいものではないが、パッと見て分かるほどの圧倒的戦力差にはメルトも唖然とするしかなかった。


 第17高機動水雷戦隊の針路上に展開しているのはルナサリアンの戦艦部隊。

2隻の戦艦を主軸に巡洋艦及び駆逐艦をバランス良く編成しており、ハッキリ言って手ごわそうな相手だ。

幸いにも航空母艦の姿は見受けられない――と思いきや、後方には機動艦隊が控えているのでエアカバーはそちらに任せれば問題無いという適材適所の布陣と言えよう。

「アサヅキ艦隊所属航空隊、我が艦隊の上空に集結しつつあります」

「もうそろそろだな……艦隊前進! 航空隊との連携で一気に勝負を掛ける!」

副長の報告と全天周囲スクリーンの情報を基に指示を出しているのはハナミヅキ・サクラ。

戦艦部隊の旗艦ヤサカトメの艦長にして、実力を頼りに平民から高級将校まで成り上がった"努力と根性の人"である。

「敵艦隊との予想接敵時間は?」

「あと45秒!」

「(先頭に位置しているのは噂のスターライガか。こいつらも厄介だが、主力艦隊を潰せば戦局はこちらに大きく傾く)」

自身の質問に対しレーダー管制官がそう答えたことを受け、サクラは頭の中に盤面をイメージしながら艦隊の動かし方を考える。

「ヤサカトメ艦長より(にび)1、貴官らは敵艦隊側面に回り込んで航空攻撃を仕掛けてほしい。その間に我々は正面から砲撃戦を行う」

優先的に潰すべきは少数精鋭の先遣艦隊ではなく、数が多い後方の主力艦隊――。

この結論に辿り着いた彼女はイワナガヒメ航空隊を率いる鈍1に直接通信回線を繋ぎ、立体的な連携攻撃への協力を仰ぐ。

「空と海の波状攻撃で地球人どもを阻止するぞ」

航空隊は機動力に優れている反面、最大火力を以ってしても対艦戦闘で短期決着を図ることは難しい。

一方、戦艦部隊は大型艦を一撃で沈め得る高火力を容易に発揮できるが、適切な攻撃位置に就くまで時間が掛かってしまう。

サクラが提案した戦法は異なる兵器の短所を補完し合いつつ、両者の強みを可能な限り引き出すことを狙っていた。

「(私は良いトコのお嬢様とは違う。どんなに泥臭い戦い方をしてでも勝ってみせる……!)」

オネヅキ姉妹は由緒正しい旧家出身、イズミは上流階級生まれ且つ名家に嫁いだ人物である等、ルナサリアンの高級将校にはやはり階級社会の影響が色濃く残されている。

そういったある意味"古い価値観"に従うことを望まないサクラは、あくまでも自分の戦い方を貫くつもりであった。


「(戦場を覆い尽くさんばかりの敵……物量作戦で一気に押し潰す腹積もりか)」

ハナミヅキ艦隊の動向は相対するスターライガ側でも把握しており、個々の戦闘力ではカバーし難い状況にミッコ艦長の表情が険しくなる。

スターライガの母艦スカーレット・ワルキューレは確かに強力な航空戦艦だが、戦艦部隊と航空戦力を同時に相手取るのはさすがに厳しい。

(わたくし)が地球へ亡命した後、ここまで軍備増強が進められていたなんて……」

「全くです。我々が地球上で倒してきた戦力は、本当に一握りでしかなかったのだと思い知らされます」

たまたまワルキューレのCIC(戦闘指揮所)を見学していたヨルハにとっても想定外のことらしく、彼女の発言にはミッコも同意するしかない。

「ヨルハさん、本艦はまもなく敵艦隊との交戦状態に突入します。安全な場所へお戻りください」

「いいえ、(わたくし)はここに残ります。あなた方の闘いを――戦争の真の姿をこの目で見ておきたいのです」

砲撃戦開始を前にミッコはCICからの退室を促すが、ヨルハは"人々が戦う姿を目に焼き付けたい"という理由でそれを謝絶する。

「それに、戦艦で最も重要なこの区画が最も堅牢な造りなのでしょう?」

彼女は物腰柔らかな女性でありつつも、同時に(したた)かな面を持ち合わせているらしい。

「部外者をCICに居座らせるわけにいかない――と言いたいところですが、この(ふね)はあくまでも"軍艦に限り無く近い民間船舶"です」

軍艦の設計に関する常識を持ち出されてしまってはさすがのミッコでも反論は難しく、客人の説得をあっさりと諦めてしまう。

その根拠としてスカーレット・ワルキューレの法的な立ち位置を挙げ、"民間船舶なので軍隊独特のルールに常に従う必要は無い"と付け加える。

「貴女に関しては特別ですよ? その代わり、ここで見聞きした出来事は絶対に口外しないでくださいね」

そもそも、部外者にすぎないヨルハの乗艦を認めたのは、彼女が戦争を終わらせる鍵となり得る人物だからだ。

艦長席の隣に格納されている補助座席を展開しつつ、戦闘に関する機密情報は心の中に留めておくよう求めるミッコ。

「もちろんですわ。子どもの頃は"約束を必ず守る良い子"だと両親に褒められていましたから」

「(こういう人ならば月の民をより良く導けるかもしれない。だったら、尚更ここで沈むわけにはいかないわね)」

穏やかな笑みを浮かべながら要請に応じたヨルハの姿に一安心すると、ミッコは"かぐや姫"を必ず月へ送り届けてみせるという決意を再確認するのだった。


 一方その頃、敵艦隊に対する前線偵察を終えたブフェーラ隊は迎撃を受ける前に撤退しようとしていた。

「ブフェーラ1より各機、一旦後退して態勢を整え直すぞ。あれだけの戦力を相手取るつもりならば、こちらも全軍で当たらないといけない」

「隊長の意見に賛成ですわ」

強大な敵戦力を一通り確認したリリスの指示に素直に従おうとするローゼル。

「ッ! レーダーに敵航空機の反応多数! もう上がって来たみたいだ!」

当然ヴァイルとしても反対する理由は無かったが、彼女の返答はレーダー画面上に現れた敵航空戦力の報告であった。

「対応が早いな……しかし、私たちが偵察した敵艦隊に空母はいなかった」

敵が航空機を繰り出してきたこと自体は適切な判断とはいえ、同時にそいつらはどこから飛んで来たのかとリリスは訝しむ。

航空戦力の中には固定翼機らしき反応も含まれているが、ルナサリアンの戦艦に固定翼機運用能力は無いはずだ。

「おそらく、先の防衛ラインと同じように戦艦部隊と機動艦隊の二段構えなのかもしれません」

「海上戦力と航空戦力による同時攻撃もありえますわね」

隊長の疑問に対してはヴァイルとローゼルがそれぞれの見解を述べる。

開戦時はルーキー同然だったこの二人も戦いの中で成長し、より大局的な視点から戦局を予測できるようになっていた。

「方位2-2-8に針路を取れ! 補給及び装備換装の(のち)、母艦で待機中のゲイル隊と共に再出撃する!」

今はとにかく針路を母艦アドミラル・エイトケンの方向へ取り、今後の激闘に備えるべく部隊を動かすことを優先するリリス。

「ブフェーラ2了解!」

「ブフェーラ3、了解!」

「(敵が多ければ多いほど燃え上がる――なんて気分にはなれないね、私は……)」

ローゼルとヴァイルは力強い応答をしてくれているので問題無さそうだが、肝心のリリス隊長はさすがにこの状況では熱くなれなかった。

【Tips】

イズミは既婚者なので戸籍上の本名は"ホヲヅキ・イズミ"だが、職場では旧姓で活動している。

ちなみに、彼女が嫁いだホヲヅキ家はルナサリアンでは有名な名家である。

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