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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-30】"チカラ"と"チカラ"の激突

 背後から迫るルナサリアン戦艦部隊を退けたスターライガは激戦区に突入。

敵機動艦隊及びその航空隊の脅威から友軍艦隊を守るべく、少数精鋭の傑出した戦闘力を存分に振るっていた。

「この! この! このぉ!」

数多くの味方を(ほふ)ってきた宇宙戦闘艇"サイカチ"に狙いを定め、特徴的な3連装銃口を有する拡散レーザーライフルで連射攻撃を仕掛けるリリーのフルールドゥリス。

しかし、元々射撃が苦手ということもあるだろうが、純白のMFは直撃弾を与えられずに貴重な攻撃チャンスを逃してしまう。

「闇雲に撃っても当たる相手じゃないぞ! もっとよく狙い澄ますか、得意な格闘戦で切り込め!」

「そんなこと言ったってさぁ!」

それを見かねたライガから助言を受け、リリーは不満を漏らしつつも素直に格闘戦へ移行。

幼馴染の牽制射撃と連携して大型ビームブレードを振りかざすものの、得意なはずの格闘攻撃ですらギリギリのところで避けられてしまった。

「図体のわりに速い! まるで周辺空間に全神経を張り巡らせているみたいだ!」

サイカチの機動力に対するクローネの評論は的を得ている。

能力者たちは直感力の拡大によって一時的に強化された空間認識能力を万能レーダーとして働かせ、自身の周囲の三次元空間を完全把握できるようになるという。

「……」

「サレナ、お前も感じているようだな?」

「ええ、あの"カブトムシ"に乗っているのはおそらく……!」

一方、サレナは相手が自分と同質の能力を持っているかもしれないと勘付いており、ライガの一言でその予想は確信に変わる。

「(ルナサリアンは既に能力者(イノセンティア)の軍事利用を軌道に乗せている。この悪い流れを止めるには、戦争の早期終結しかない)」

前述の特殊能力を最大限活かせる分野が戦争だというの悲劇でしかない。

優れた能力者(イノセンティア)にしてイノセンス研究をリードする立場から、本来は軍事目的以外に強みを発揮すべきだとサレナは考えていた。

「姉さん! 同じ能力(イノセンス)を持つ相手に勝つには、予想を上回る戦い方が必要になるわ!」

「なるほど……そうと分かれば話は早いね!」

とはいえ、今は目の前の状況を打開する必要がある。

彼女は苦戦を強いられている双子の姉に向けて、現時点で最善と言える対抗策を授けるのだった。


「相手の想定よりも速く飛ぶまでだよ! サレナちゃん、援護お願い!」

「分かったわ!」

極めて単純な結論に達したリリーの突撃をサポートすべく、愛機クリノスの長銃身3連装レーザーライフルで援護攻撃を開始するサレナ。

「クローネ! 俺たちがやるべきことは分かるな?」

「了解! こちらも二人で連携しましょう!」

バリアフィールド持ちの敵とは相性が悪いライガも今回はアシストに徹することを決め、クローネ機との同時攻撃で着実にプレッシャーを与えていく。

「ファイア! ファイア!」

サレナのクリノスの射撃は正確且つ強力なはずだが、"カブトムシ"は回避運動を取りつつかわし切れないレーザーはバリアフィールドで弾くというお手本のような防御力を発揮してくる。

「さすがに素早いな! だが、デカブツなら捉えれないほどじゃない!」

「バリアフィールドを持つと言えど、2機で一気に攻撃を叩き込めば……!」

それを見たライガとクローネは敵機の性能を素直に評価する一方、現状の戦力で十分対処できる相手であるとも結論付ける。

「「ファイアッ!」」

ライガのパルトナ・メガミ(決戦仕様)とクローネのシューマッハは呼吸をキッチリと合わせ、完璧なタイミングで2機同時に腰部可変速レーザーキャノンを発射する。

「今だ! 何とか一撃を与えろッ!」

牽制に牽制を重ねられてはサイカチのパイロットもさすがに対応できなかったのか、蒼いレーザーを立て続けに被弾したことでついにバリアフィールドが剥がれてしまう。

この千載一遇のチャンスを視認したライガはすかさずリリーへ攻撃を行うよう指示を出す。

「いっけぇ!」

それでも機動力が高いサイカチとの間合いを詰めることは難しく、リリーのフルールドゥリスはまぐれ当たりに賭けて大型ビームブレードを力強く投擲するのであった。


 純白のMFが投げつけた蒼い光の両手剣は宇宙空間を真っ直ぐ飛翔し、幸運にもスペースデブリとなること無くサイカチの曲線美溢れる後部装甲へ深く突き刺さる。

「ッ! 被弾した!?」

「動力回路に異常発生! 出力が低下しています!」

この攻撃で搭乗者のエイシンとメジロが感じた衝撃は比較的軽微だったが、後者の座席に置かれている多機能ディスプレイには出力低下を知らせるエラーメッセージが表示されていた。

「明らかに今の攻撃のせいですね……しかし、あの程度の衝撃で動力回路をやられるとは運が悪い!」

確率論的には滅多に起こらないであろうレアケースを引いてしまったことに思わず悪態を()くエイシン。

博打同然のやり方で投げた武器が"幸運にも"直撃し、そのうえで急所と呼べるエネルギー回路を的確に損傷させる――。

今回は敵機(フルールドゥリス)の方が明らかに強運を手繰り寄せていた。

ロジックを重視するエイシンにとっては納得のいかない話だが……。

「メジロさん、動力回路以外の損傷状況は?」

「計器類に出力低下以外の異常は見られませんが……損傷が広がると別の機械的故障が生じるかもしれません」

「報告ありがとう。それならば、動力回路への負荷を減らす運用に切り替えれば多少は延命できます」

機体の状態をメジロに確認させたエイシンは戦闘続行可能だと判断し、手元のコンソールを操作することで機体への負荷を減らすセッティングに切り替える。

こうすれば動力回路が暴走して突然爆発するといったアクシデントは起こらなくなる。

「エイシンさん、私たちにしつこく食らい付いてくるモビルフォーミュラの搭乗員から強大なチカラを感じます。強力過ぎて身が(すく)みそうなほどに……」

自分たちに攻撃を仕掛けてくる4機のMF――その中の3機から特に強いプレッシャーを感じ取り、冷や汗が垂れるほどの恐怖を自覚し始めるメジロ。

「能力を持っていようがいまいが戦争では関係ありません。生き残るためには恐怖心を制御しながら戦うしかないのです」

その弱音を実戦経験豊富なエイシンはあくまでも冷徹に窘め、コ・パイロットと言えどメンタルコントロールの必要性に変わりは無いと語る。

「制御不能となった恐怖に呑み込まれ、冷静さを失った者から死んでいく――それだけは覚えておきなさい」

彼女の言葉はおそらく数多くの実例に基づいたモノであり、新兵同然のメジロに対しては最も説得力のある内容だった。


「動きが多少は鈍くなったか? いや、これは誤差の範囲内かもしれん」

サイカチの機動の変化を見たライガは戦闘力低下に期待するが、そこまで変化が無いと感じたことですぐに希望的観測を捨て去る。

「あ、ビームブレードが勝手に抜けてくれた! 回収回収っと♪」

「そのまま紛失したらどうするつもりだったのよ……」

一方、強気な賭けを成功させたリリーは先ほど投擲した大型ビームブレードの柄を回収しており、姉の能天気ぶりを見たサレナは呆れたように肩をすくめていた。

「リリーさんッ!」

「ふえぇ?」

しかしその直後、クローネの咄嗟の警告も空しくリリーに災難が襲い掛かる。

「リリーッ!」

一度は高速離脱したはずのサイカチが距離を取ってから反転し、甲殻類の"はさみ"を彷彿とさせる2基のクローアームで純白のMFの脚部を掴んでいたのだ。

これにはこの手のゲテモノ兵器と戦い慣れているライガもさすがに驚き、思わず幼馴染の名前を叫んでしまう。

「さっき攻撃を当ててきた機体ですか……サイカチが格闘戦もできることを教えてあげましょう!」

自機に損傷を与えた因縁の相手を捕まえたエイシンは珍しく不敵な笑みを浮かべ、空いている左のクローアームでそのまま握り潰してしまおうと試みる。

「なんて馬鹿力なのよこのカブトムシ!」

「(相手が速すぎる……さすがの俺でもクローアームだけを精密射撃するのは難しいな)」

上半身をも捕えんと迫り来るクローアームを両腕で何とか食い止めるリリーのフルールドゥリス。

当然ライガは得意の精密射撃で救出を図るが、機動力の高さに加えて反撃のマイクロミサイルが邪魔で攻撃位置に就くことさえままならない。

「貴女に恨みはありませんが、これは戦争です。我々に対する最大級の脅威ならば排除させてもらいます」

これまで多数の同胞を(あや)めてきたスターライガの一機を仕留められるチャンスを逃すつもりなど無く、このままトドメを刺すべくクローアームを大口径光線砲の前に近付けるエイシン。

「ちょっとぉ! この距離でレーザーキャノンは絶対融けるって!」

目と鼻の先でチャージを開始する大口径光線砲には普段マイペースなリリーも焦りを隠せず、思わず正直な感想を口にしてしまうのであった。


 仲間の窮地にもかかわらず、ライガとサレナとクローネは有効な手段を打ち出せない。

勝敗は完全に決したかに見えた。

「出力充填75! 現在の損傷状況だとこれが限界です!」

「モビルフォーミュラ相手なら十分です! これで決めさせてもらいます!」

セーフティモード中は75%までしかチャージできないというメジロの指摘を軽く受け流しつつ、エイシンはHUD(ヘッドアップディスプレイ)中央のレティクルに純白のMFを捉える。

「こんのぉ……いい加減に……しなさいってのッ!」

しかし、純白のMFを操るリリーはまだ決して諦めていなかった。

彼女は迫り来るクローアームを少しだけ押し返すと、次の瞬間何を思ったのか自機の両脚を手刀で攻撃。

「振り(ほど)かれた!?」

一見すると奇策と呼べる行動だったが、自らの脚部を犠牲にリリーのフルールドゥリスは拘束を振り解いていた。

必中を期していた大口径光線砲を目前でかわされたエイシンは開いた口が塞がらない。

「コックピットブロックはそこかッ!」

自機の両脚の大半を失いながらもリリーは果敢に反撃へ転じ、"チカラ"を強く感じ取る部分に対して大型ビームブレードによる斬撃を思いっ切り叩き込む。

「当たれ! 当たれぇッ!」

続いて彼女は武装を拡散レーザーライフルに持ち替え、射程外へ逃げられる前に可能な限りレーザーを撃ち込んでおく。

「くッ、運の良い奴……!」

黒煙を吐きながら堪らず退いていくサイカチの後ろ姿を見やり、忌々しげに吐き捨てるリリー。

運の良さで言えば彼女も大概ではある。

「姉さん! いつもよりも無茶苦茶過ぎるわよ!」

「うーん……いやぁ、ピンチでちょっと熱くなっちゃったかな?」

救援に駆け付けたサレナは開口一番そう言い咎めるが、頭を冷やしたリリーは既にいつもの状態に戻っていた。

「おいおい、自機の脚部を手刀で砕くのは"ちょっと"じゃない気がするぞ」

もっとも、純白のMFの損傷度合を確認したライガの反応が全てを物語っている。

窮地を脱する手段としての"トカゲの尻尾切り"は有効なテクニックとはいえ、それを十数秒という限られた時間で的確に実行へ移すのは容易なことでは無い。

「(スイッチが入った瞬間のリリーさん、凄まじかった……あの"カブトムシ"が慌てて撤退するなんて)」

「ダメージは結構入れたつもりだけど、手応えはイマイチだった。またどこかのタイミングで再戦するかもしれないね」

同じく本気モードを見せつけられたクローネの困惑を察したのか、リリーは"キレるだけで敵を叩きのめすほどの腕は無い"と釈明し始める。

「あれに乗ってた()は腕が良さそうだから、正直言って二度と戦いたくないけど!」

そして、彼女は最後に率直な感想を付け加えるのだった。

【トカゲの尻尾切り】

MFの分野では"四肢を意図的に破壊することで拘束を振り解く緊急措置"を指す。

例えば撤去困難な瓦礫に機体の脚部が挟まれてしまった場合、ビームソード等で脚部を切断すれば上半身は脱出できる可能性が高い。

基本的には最悪の事態を免れるための最終手段であり、機体に対する負担が大きいことから実行は緊急時に限られる。

なお、増加装甲など元々分離を考慮されている部位のパージは含まれない。

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