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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-29】流動する戦局

 母艦から伸びるエネルギー供給用ケーブル(長さ3200m)が接続された超大型レーザーバスターランチャー"シュペルクリーク"を携え、各パラメータを調整しながら宇宙空間を翔けるマリンのスーペルストレーガ。

「こちらキリシマ、今から攻撃ポイントへ向かう。フルパワーの一撃を確実に叩き込みたいから、できれば敵艦がバリアフィールドを無駄に展開するよう一芝居打ってくれないか?」

「……了解、やってみよう」

ようやく攻撃準備段階に入ったマリンからの報告を受け、ヤンのハイパートムキャット・カスタム(S-1装備)も本格的に対艦戦闘を開始する。

「そんな大振りな艦砲射撃、MFの運動性ならば当たりはしない!」

戦艦級の艦砲射撃は対MF戦には過剰とも言える攻撃力だが、それも当たらなければどうということは無い。

ヤンは蒼い極太レーザーの射線を瞬時に見極め、大きく重たいS-1ユニットを装備する愛機に最適化された操縦でアクロバティックにかわしていく。

「戦艦相手に出し惜しみはできないな……!」

強力な艦砲射撃が止んだタイミングで赤橙の可変型MFはすかさず攻撃態勢に移り、S-1ユニット側に残された武装を全弾発射。

空対艦ミサイルとマイクロミサイルはこの段階で全て撃ち尽くす。

「S-1ユニット、パージ! こいつごと食らいやがれッ!」

もちろん、これらのミサイルに決定打となることは期待しておらず、基本的には対空砲火を誘引するのが主な役目だ。

ヤンの本当の狙いは巨大なS-1ユニットを切り離し、使い捨て式高出力レーザーキャノンを発射しながら大質量弾として突撃させることだった。

「あたしにできることはこれぐらいだ! 後はお前がやってみせろよ、マリン!」

敵艦の砲塔が構造上狙えない位置へとフルスロットルで離脱しつつ、ここから先は傑出したダメージディーラーである同業者に託すヤン。

「ヒューッ! ユニット諸共ぶつけるとは気前の良い牽制攻撃だ……何から何までありがとよ」

決して安価では無いS-1ユニットを贅沢に使い捨てる攻撃にマリンは思わず口笛を吹くと、全身全霊を込めた一撃を放つ前に珍しく感謝の言葉を述べる。

「"バカめ"と言ってやるぜ! 本命の一撃はこっちなのさ!」

レーザーキャノンの攻撃がバリアフィールドに穴を開け、それに乗じるかのようにS-1ユニットのフレーム自体が敵戦艦シタハルのブリッジに深く突き刺さる――!

たった一機のMFに翻弄された相手に更なる痛打を与えるべく、マリンは攻撃前の最終調整に臨むのだった。


E-OS(イーオス)ドライヴとの接続、よし!」

マリンのスーペルストレーガは右横腹の小型メンテナンスハッチを開放し、そこに収められているエネルギー供給用コードをシュペルクリーク側のソケットへ繋げる。

これでジェネレーターの出力がシュペルクリークにも行き渡るようになり、フルパワー発射の必要条件の一つを満たせるのだ。

「エネルギーチャージ150……スタビライザー展開……アルティゲリア・モードへ移行……」

攻撃チャンスは1回しかないため、エネルギーチャージ率は最大値の150に設定。

それと並行してシュペルクリークの放熱フィン兼スタビライザー3基を展開しつつ、黒いMFは攻撃特化の砲撃形態"アルティゲリア・モード"へと簡易変形を行う。

「バリアフィールドが復活する前にぶち込んでやる……!」

ブリッジへの被弾という事態がありながらも、すぐに態勢を立て直しバリアフィールドの再展開を図る戦艦シタハル。

だが、そうはさせるものかとマリンは集中力を極限まで研ぎ澄まし、左右操縦桿のトリガーと兵装発射ボタンに指を添える。

「お前の全てを壊すッ! トワイライトスパァァァァァァック!」

エネルギーチャージが完了した次の瞬間、彼女のスーペルストレーガから5本の蒼い極太レーザーが一斉に放たれる。

最も細い2本がレーザーバスターライフルで、太い方は通常時の最強武装であるスラスターユニット一体型背部レーザーキャノン2基。

そして、中央を通る最も太いレーザーがそれらの武装を凌駕する出力を誇るシュペルクリークだ。

「へへッ、やったぜ! ……ん?」

素人目に見ても強力過ぎる極太レーザーたちが敵戦艦を射貫く様子を確認し、弾けんばかりの無邪気な笑顔で喜びを表すマリン。

ところが、愛機の様子がおかしいことに気付いた彼女はすぐに表情を引き締める。

「シャットダウンだと? セーフティモードの再起動も掛からねえし、こりゃマズイな……」

まるで電源が落ちるかのようにH.I.S(ホログラム・インターフェース)が消えたほか、こういったトラブル発生時に必要なセーフティモードへの自動移行も始まらない。

マリンは即座に手動で機体OSの再起動を試みたものの、電気系統のトラブルなのかそれも上手くいかなかった。

「(さっさと離脱しないと返り討ちに遭っちまうが……操縦系統のバックアップも働かねえのかよ)」

現代のMFは極めて精密な技術が詰め込まれた電気仕掛けのハイテクマシンだ。

電力供給が無ければ操縦桿やスロットルペダルを操作しても機体は動かないし、助けを求めようにも通常の無線システムは使うことができない。

「マリンさん!」

「ショウコ! それにナスルも!」

射出座席も作動しないので自力脱出まで考え始めたその時、後方からショウコとナスルのスパイラルC2が現れ、マリンのスーペルストレーガを2機掛かりで牽引し始める。

「相方のお人好しに付き合ってやっただけですよ」

「素直じゃねえな……でもお前らは命の恩人だ。戦争が終わったら美味い店を紹介してやるぜ」

少々捻くれているナスルはこう言っているが、彼女が仲間想いな優しい人間であることをマリンはよく知っていた。


 一方その頃、こちらは多国籍艦隊と砲火を交えている空母ウワハルの戦闘指揮所――。

「戦艦シタハルとの通信途絶!」

「艦影は残っている! 通信が繋がるまで繰り返すんだ!」

戦闘の最中飛び込んできた"戦艦シタハルと連絡が取れない"という報告に居ても立っても居られず、リク艦長は識別信号の健在を根拠にオペレーターの一人を通信回線の確保に集中させる。

「(ミネ、無事でいてくれよ……君が簡単にくたばるタマではないと信じているからな)」

普段飄々としている彼女だって人の子だ。

双子の妹が乗っている戦艦が沈められたかもしれないと思うと、不安で仕方なくなるのは姉として当然の反応だろう。

もちろん、内心では妹のしぶとさが危機的状況を打開することに期待を寄せていたが……。

「我が方の航空隊の活躍により、敵戦艦の進軍速度が低下しています」

「いいぞ! ここで敵艦隊を足止めし、戦艦部隊との挟撃で一気に殲滅する!」

戦艦部隊の方は残念だったものの、戦局の流れ自体はルナサリアンが掴みつつある。

副長が報告しているように、敵に対抗し航空戦力を大量展開したことは正解だったらしい。

妹の安否確認については一旦置いておき、今は自身の艦隊の任務遂行に徹するリク。

「こちら巡洋艦タケイワタツ。艦隊旗艦シタハルが損傷により戦闘続行困難となったため、規則に基づき本艦が指揮を引き継ぎました」

そんな中、戦艦部隊に編成されている巡洋艦タケイワタツから通信が入り、同艦の艦長が極めて重要な情報を知らせてくれる。

「ミネ――いや、シタハルの艦長は無事なのか!?」

「し、指揮権の引き継ぎはミネ艦隊司令の指示によるものです」

シタハルは戦闘能力を喪失している――。

それだけは聞こえていたリクの若干食い気味の質問を受け、少し驚きながらも的確な答えを返すタケイワタツの艦長。

「そうか……我々の目的は先ほど言った通りだ。こちらの艦隊が海空両面攻撃で敵を押さえている間、そちらには背後から追撃を仕掛けてもらう」

幸いにも妹を心配する必要は無かったようだ。

最大の懸念事項が解消されたリクの表情から憂いは完全に消え去っており、いつものように自信を持って艦隊指揮に取り組み始める。

「上手くいけばここで戦力を大きく削ることができるはずだよ」

機動艦隊が敵の行く手を阻み、その隙に戦艦部隊が背後から一刺しを狙う。

予想以上の長期戦を終わらせる戦術として、この艦隊包囲戦法ならば確実にいけるとリクは踏んでいた。


 ルナサリアン機動艦隊の主戦力が宇宙戦闘艇"サイカチ"であることに疑いの余地は無い。

「こいつら、いくら沈めてもキリがありません……!」

そのサイカチだけで編成される雷撃隊を率いるエイシンは、害虫の如く湧いてくる敵艦隊を大口径光線砲で着実に沈めていく。

「ッ! 6時方向上に敵戦闘機!」

「背後を取ったところで!」

対艦攻撃に集中していると周辺警戒が疎かになりがちだが、コ・パイロットとして後席に座るメジロの警告に反応したエイシンはすぐさま反撃。

後方に向けて小型誘導弾を発射し、完全に油断していた敵戦闘機――オリエント国防空軍の"SF25-A スピカ"を見事撃退してみせる。

「(言われなければ気付かなかった……これが純心能力の本領だというの?)」

とはいえ、相方の警告が無かったらミサイルアラートが鳴るまで敵機に気付けなかったかもしれない。

エイシンはメジロの勘の鋭さに感心しつつも、同時にその能力に少しだけ危機感を抱く。

発見されたばかりでまだ考察が進んでいない概念を安易に戦争の道具としていいのだろうか?

「エイシンさん! まだ来ますよ! ……あっ!」

物思いに耽る上官を現実へ引き戻すようにメジロは声を掛けるが、その直後に彼女は一瞬だけ不快な耳鳴りを感じ取りヘルメットを押さえる。

「どうしたのですか?」

「感じました……私と同じチカラを……」

先ほどとは逆に自分のことを気に掛けるエイシンに対し、耳鳴りの原因はおそらく"共鳴"だと答えるメジロ。

「(メジロさんと同質……地球側で言う"イノセンス"とやらですね)」

複数の能力者を擁する部隊を任されているためか、エイシンは純心能力についてある程度の知識を有している。

地球にも純心能力と同質とされる異能のチカラ――イノセンスが存在することも当然知っていた。

「あの白と黒のモビルフォーミュラです! あそこから強いチカラが……!」

適性検査でそれなりに良好な結果を示したメジロ曰く、彼女らの機体にしつこく(まと)わりついてくる2機のMFがチカラの震源らしい。

地球側も能力者(イノセンティア)の軍事利用技術を確立し始めているというが、果たして……。

【Tips】

イノセンスまたは純心能力を持つ者同士が接近すると、一時的な耳鳴りを伴う"共鳴"と呼ばれる症状が起こることがある。

これは敵意や悪意を感知した際の本能的な防衛反応とされるが、能力者の素養や気質によって頻度は変わってくる。

耳鳴り自体は基本的に軽度で不快感を催すほどではないため、今のところ特に問題視されてはいない。

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