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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-23】第三防衛線

 鉄壁かと思われた第二防衛線の崩壊はすぐさま後方のルナサリアン主力艦隊へと伝わった。

「ッ!」

「どうしたの?」

「だ、第二防衛線に展開していた指揮艦アワナミの反応が消滅しました! 同艦の周囲に敵航空機らしき機影が確認されていたことから、おそらく撃沈されたものと思われます!」

オペレーターの反応を見逃さなかったオリヒメがそう尋ねると、"第二防衛線が突破された"という考え得る限り最も悪い(しら)せが返ってくる。

「アワナミが管制していた巡航誘導弾の発射陣地は!?」

「先ほどより信号が途絶しています。こちらも敵部隊に発見され攻撃を受けた可能性があります」

「……」

それに加えて超音速巡航ミサイルの陣地まで潰されたという報告を受け、思わず黙り込んでしまうオリヒメ。

「第二防衛線までこうも容易く()かれるとはな……やはり、奴らの戦闘力を過小評価していたかもしれん」

一方、ブリッジ内の映像通信用モニターに映っているユキヒメは戦局を冷静に捉えており、敵戦力の見積もりが少々甘かったことを今更ながら自省していた。

「さすがと言うべきだが、我々にはここを含めて三つの強力な防衛線がある。第三及び第四防衛線を任せている精鋭艦隊が必ずや敵に痛打を与えてくれるはずだ」

同時に彼女は敵戦力――主にスターライガの戦いぶりを敵ながら高く評価しつつも、彼らであってもここから先を無傷で切り抜けることは難しいだろうと指摘する。

なぜなら、第三防衛線以降に配置されているのは高い練度と最新鋭装備を有する精鋭艦隊たちだからだ。

「偵察艦の報告では敵はスターライガを一旦後方へ下げたと聞く。確かに、ここが大打撃を与える千載一遇の機会かもしれないわね」

また、オリヒメは第三防衛線の偵察艦隊が得た重要な情報を提示し、自軍戦力に絶対の自信を持つ妹の意見に同意するのだった。


 オリエント・プライベーター同盟及び第17高機動水雷戦隊に代わって先遣隊を務めるのは、日米英露4か国の残存戦力で構成される多国籍艦隊の一部。

アメリカ海軍唯一の戦艦となってしまった航空戦艦"アイオワ"を旗艦として、各艦は輪形陣を維持しながら注意深く宇宙空間を進んでいた。

「レーダーの範囲内に敵影認められず。現在、我が艦隊は順調に進軍中」

「うむ、引き続き対空警戒を厳とするように。ここから先は何が出てきても不思議ではないからな」

オペレーターの状況報告に模範解答を返している老人の名はトミー・バッセル大将。

長年に(わた)り様々な艦艇を指揮してきた古強者であり、本戦争においてはアイオワをここまで生き長らえさせてきた名艦長だ。

その卓越した能力と人柄は他国の海軍軍人からも高く評価されていた。

「艦長! レーダー上に所属不明機を確認しました!」

戦場とは常に状況が目まぐるしく変化する世界である。

先ほどのオペレーターの報告も束の間、今度はレーダー操作員が画面上に複数の赤い光点を確認する。

「本当に航空機か? それにしては少しデカいように見えるが……」

「しかし、(ふね)よりは小さいぞ。大型機ならこういう映り方をしてもおかしくない」

この画面自体は他の操作員たちのコンソールパネルにも映されているが、彼らはそれぞれ異なった見解を述べている。

戦闘機よりも大きく、駆逐艦よりは小さいと思われる反応――そのサイズに該当する兵器は少ないと思われるからだ。

「航空隊の発艦準備は済ませているな? 敵は我々の知らない兵器を投入してきた可能性がある……まずはそれを確かめねばならん」

「ハッ! 航空隊の発艦を急がせます!」

「直掩として残すMF部隊二個小隊以外は全機上げろ!」

新兵器である可能性を憂慮したバッセルは副長に対し航空隊の出撃開始を指示。

MF部隊の一部をアイオワの直掩に回しつつ、残りの機体は所属不明機の対応に当たらせる。

「とんだ災難ですな……先遣艦隊の役割を代わって早々、未知の新兵器と交戦することになるとは」

「重要なのはその新兵器が我々の脅威となるか否かだ。そのためには情報収集に努め、なるべく正確なデータを得る必要がある」

フライトデッキとの交信を終えた副長がそう愚痴っていると、バッセルはリンカーン大統領を思わせる白髭を撫でながら情報収集の重要性を()くのであった。


 航空戦艦アイオワの艦載機は"F-35E ライトニングⅡ"と"FM-10A ピーコック"の二種類。

空母と同じように戦闘機とMFを混載して運用することが特徴であり、この点はオリエント連邦の航空戦艦(MFのみ搭載)と大きく異なる。

「こちらフラッシュ1、まもなく所属不明機と接触する」

混成航空隊を指揮するのはF-35パイロットとして豊富な経験を持つコールサイン"フラッシュ1"だ。

「戦闘機よりも大きいサイズらしい。どんな相手か分からん以上、最大限の注意を払った方がいいな」

「敵機捕捉! これは……デカいぞ! 130フィート(約40メートル)ぐらいあるんじゃないか?」

彼が率いる部隊のパイロット及びMFドライバーは優秀な人材が多く、レーダー画面の光点だけで敵機の大まかなサイズを見抜いていた。

「大型機なら運動性は低いはずだ! 接近戦に持ち込んでやれば!」

「待て! 敵機から複数の高エネルギー反応が……早まるなッ!」

大型機は小回りが利かないため、懐に飛び込む接近戦が有効――。

その一般的な理論に従いMF部隊が前進しようとした時、敵部隊の高エネルギー反応に気付いたフラッシュ1はすかさず制止を掛ける。

「うわッ!? な、何の光――!?」

「くそッ……レーザーが迫って――!」

しかし、彼の警告も空しく突出していた6機のピーコックは蒼い極太レーザーに呑み込まれ、文字通りチリ一つ残さず消滅してしまう。

「艦砲射撃……いや、違う! 今のは所属不明機の攻撃か!」

「仲間が一瞬で蒸発しちまった! チクショウ、何て威力してやがる!」

軽巡洋艦の砲撃に匹敵するレベルの攻撃で混乱状態に陥り、蜘蛛の子を散らすように散開していく。

「後方の艦隊に通報しろ! こいつらは冗談抜きにヤバいかもしれんぞ!」

そんな部下たちとは対照的に冷静さを維持し、母艦アイオワのCIC(戦闘指揮所)に敵襲を報告するフラッシュ1。

「所属不明機多数、こちらへ向かって来ます!」

「な、何なんだアレは……!?」

だが、僚機と共に所属不明機の姿を視認したフラッシュ1はさすがに驚きを隠せなかった。


「各機、編隊を組み直せ! あの大型機は艦隊に強襲を掛けるつもりらしい!」

散り散りになった編隊をもう一度を集合させ、フラッシュ1率いる混成航空隊を敵大型機の追跡を開始する。

「(奇妙なフォルムをしている……まさに侵略者(インベーダー)の兵器といった感じだな)」

空気抵抗が小さそうな曲線的なシルエットに、後部から真っ直ぐ伸びる大中2基のスタビライザー兼用メインスラスター――。

フラッシュ1が心中で吐露している通り、ルナサリアンの新兵器は地球人が思い付かないであろうデザインをしていた。

「隊長! ピーコックの機動力では追いつけません!」

そのユニークな見た目とは裏腹に性能はかなり高いらしく、MF部隊のドライバーたちは追従さえままならないと泣き言を言っている。

「くそッ! ならば戦闘機部隊で対処するまで!」

MF部隊はとりあえず置いておき、機動力に優れるF-35を駆る自分たち戦闘機部隊で対処を試みるフラッシュ1。

「巡洋艦並みのレーザーキャノンは前方しか狙えないようだ。空戦の基本通り背後に食らい付いていけ」

「捉えた! ケツにミサイルをぶち込んで――何ッ!?」

彼の部下はアドバイスに従い敵機の背後を取るが、空対空ミサイルを発射しようとした瞬間爆発四散してしまう。

「また一機やられた! 完全に真後ろに就いてたはずなのに!」

「後方へレーザーが発射されたように見えた――そうか!」

突然の出来事に困惑するパイロットがいる一方、フラッシュ1は何が起きたのか見逃さなかった。

僚機が攻撃を仕掛けようとした直前、敵機の後方から蒼いパルスレーザーがコンマ数秒早く発射されていたのだ。

「各機、真後ろは危険だッ! 狙い撃ちされるぞッ!」

フラッシュ1はすぐに射角から外れるよう警告するが、間に合わなかったF-35が先ほどの僚機と同じように撃墜されていく。

「警告が少し遅かったか……!」

次々と部下がやられる状況ではフラッシュ1も追撃を断念せざるを得ず、航空隊として何の成果も挙げられなかったと悔しさを露わにする。

「(分かりやすい死角が見つけられない以上、迂闊に距離を詰めることもできん。あのカブトムシめ……)」

彼が"カブトムシ"と評したルナサリアンの新兵器――。

宇宙戦闘艇でも呼ぶべきそれは、まだまだ本来のポテンシャルを隠しているようであった。


 一方その頃、航空戦艦アイオワのCICは本格的な戦闘態勢に突入したことで多忙を極め始めていた。

「敵航空機多数、本艦隊に向かって高速接近中!」

少なく見積もっても12機近い大型機が接近中であると報告するレーダー操作員。

「くそッ! フラッシュ隊は何をやっているんだ!?」

まだ詳細情報が伝わっていないので仕方ないとはいえ、それを聞いた副長は敵戦力を減らせなかったフラッシュ隊をボロクソに貶している。

「弾幕を展開しつつ回避運動! 敵の解析も急げ!」

隣で行われている遣り取りをよそにバッセル大将は艦の生存を優先。

同時にフラッシュ隊を圧倒した敵の新兵器のデータ収集も急がせる。

「敵機より高エネルギー反応確認!」

オペレーターがそう警告した次の瞬間、CICの全天周囲スクリーンが蒼白く塗り潰される。

「むッ……いかん!」

「スタラーニエ、被弾! 船体が大きく破損しています!」

目を傷めないよう咄嗟に腕で庇っていたバッセルが顔を上げると、そこには船体が半分熔解したロシア海軍巡洋艦"スタラーニエ"の痛ましい姿が映し出されていた。

「奴らは軽巡洋艦並みの攻撃力を備えているとでも言うのか!?」

40m級の機体とは思えない規格外の火力に強い衝撃を受けるバッセル。

「敵機の姿を確認できました! これより正面モニターに映像回します!」

「それに……あのフォルムであの動き、何なのだあいつは!」

彼は歴戦の軍人として様々な兵器を見てきたが、カブトムシを彷彿とさせるシルエットに高い戦闘能力を両立した宇宙戦闘艇はさすがに前代未聞だ。

「敵機3、本艦への攻撃態勢に入った模様!」

「対空迎撃ッ!」

オペレーターの切羽詰まった報告を受け、バッセルは迷わず対空迎撃の強化を命じる。

「ダメです! 間に合いません!」

「くッ……!」

しかし、避弾経始に効果的な装甲を持つ"カブトムシ"は臆すること無く攻撃態勢に入っており、今回ばかりはバッセルも覚悟を決めなければならなかった。

【Tips】

バッセル大将と彼の乗艦アイオワは超兵器"ヤマタオロチ(1号機)"との戦闘に参加しており、その時に当時北アメリカ戦線へ派遣されていたゲイル及びブフェーラ隊と共闘したことがある。

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