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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-22】最期の矢

 レーザーバスターランチャーを構えているカルディアのクオーレを上面に乗せ、敵艦――ルナサリアン特設指揮艦アワナミへ一気に肉薄するコマージのクオリア。

「こっちはハリネズミみたいな対空兵器の弾幕に慣れてるんだ! その程度じゃ当たってやれないね!」

指揮通信能力を重視しているアワナミは必要最低限の兵装しか搭載しておらず、対空兵器の数が少ないため濃密な弾幕は形成できない。

当然、優れた操縦技量を持つコマージは余裕の表情で対空砲火を(くぐ)り抜けていく。

「エネルギーチャージ100……できればブリッジを正面に捉えて!」

「いや、真っ直ぐ飛んだらさすがに狙われる! ターゲットを中心に旋回するから、照準はそっちで合わせてくれ!」

黒と緑の可変型MFに"リフター"されているカルディアは飛行姿勢を安定させるよう求めるが、隙が生じることを警戒するコマージはそれを拒否し単純な機動を取らない作戦に出る。

「……確かにその通りね。できれば狙いやすいよう右旋回でお願い」

パートナーの言い分にも一理あると判断し、操縦を彼女に任せて自身は照準に専念するカルディア。

主に機体の右腕でレーザーバスターランチャーを保持する都合上、右手に攻撃目標が存在する状態を望むのは賢い選択だと言えよう。

「了解! 攻撃タイミングは任せるよ!」

「……ファイア!」

コマージから攻撃タイミングの決定権を託されたカルディアはミリ単位で照準合わせを行い、姿勢が安定した瞬間に操縦桿のトリガーを引く。

「このままレーザーを照射し続ければ……!」

フルパワーの蒼い極太レーザーを徐々に下へ移動させ、アワナミのブリッジの根元――戦闘指揮所が置かれているであろう区画を重点的に狙うカルディアのクオーレ。

「敵艦の対空砲火が弱まった……? どうやら、CIC(戦闘指揮所)をやったことで指揮系統に影響があったみたいだ」

外部から視認できない内部空間を直接狙うのは難しいはずだが、今回は攻撃に成功したようだ。

事実、炎上している敵艦の抵抗は明らかに弱まっており、それを見たコマージは指揮系統を潰したという確信を抱く。

「中の人間がどうなったのかは考えたくないけど……」

同時にCICにいたであろう者たちの最期を想像してしまい、彼女は狭いコックピットの中で首を横に振る。

「コマージ! レーダー上に新手のアンノウン――これは巡航ミサイルと同じ反応だわ!」

これで超音速巡航ミサイルの脅威は排除されたかと思われたその時、カルディア機のレーダー画面に新たな敵性航空機らしき反応が複数現れる。

「なるほどね……シャレにならない最後っ屁ってわけかい」

機上レーダーの自動機種照合により敵性航空機の正体が判明した瞬間、コマージは心の中で"往生際が悪すぎる"と毒づくのだった。


 沈みゆく(ふね)から最期の命令が発信され、それを受信した遠方のミサイル陣地は管制プログラムに従い"矢"を放つ。

「巡航ミサイル……!? 何がどうなっているの!?」

突如出現した超音速巡航ミサイルに動揺を隠せないレンカ。

同胞の用意周到ぶりはさすがに彼女の予想を超えていたからだ。

「分からないよ! あいつら、自分たちの(ふね)が撃沈されたら巡航ミサイルを自動発射するようプログラミングしてたみたいだ!」

「それではまるで報復兵器だな……」

分からないと言いつつも自分なりに推測を展開しているコマージに対するアンドラの感想は、死してなお敵を倒さんとするルナサリアンへの危機感であった。

「機数は3か……あれは私たちでやる!」

「了解! A.E.S(イース)、発動!」

ミサイルの迎撃は自分たちが引き受けるというレンカの指示を受け、愛機アマテラスの動力性能を向上させるA.E.S――装甲展開システムを作動しながら先行するアンドラ。

「狙い撃つわよ、私も……!」

白いMFが狙っている物とは別の巡航ミサイルを撃ち落とすべく、レンカはH.I.S(ホログラム・インターフェース)の疑似スコープで目標の動きを観察する。

「加速される前に仕留める!」

超音速巡航ミサイルは一度加速するとMFでは追跡できないため、限られたチャンスを確実にモノにする必要がある。

目標がスピードを上げる兆候を見せた瞬間、(あらかじ)め構えていたスナイパーライフルを発射するレンカのルーナ・レプス。

「くッ……シークエンスの移行が思ったよりも早い!」

ところが、超音速巡航ミサイルの加速シークエンスは予想以上にスムーズであり、100%近い命中率を誇ってきたレンカの狙撃はまさかの外れという結果に終わる。

「アタック!」

一方、アンドラのアマテラスはヘッドオンからの斬撃で1機撃墜してみせたものの、その頃にはもう1機は追撃できない距離まで離れてしまっていた。

「くそッ、残りのミサイルには追いつけない! あれは味方に任せるしかないのか……!」

迎撃困難な目標であることを加味したとしても、自分たちの不甲斐無さにアンドラは悔しさを露わにする。

頼れる味方が近くにいればいいのだが……。


 超音速巡航ミサイルが次の加速シークエンスへ移行しようとしたその時、今度はレーダー画面に友軍機を示す青い光点が2つ現れる。

「ファイアッ!」

「ミサイルなんざ叩き落としてやるぜ!」

戦場に乱入してきた2機のMF――"BA-110(+) タイガーリリー"と"FA21-α スターメモリーα"はそれぞれの射撃武装を構え、Ζ(ゼータ)小隊が仕留め損ねた巡航ミサイルを1回のコンタクトで見事撃ち落としてみせた。

「君たちは……! えっと、誰だっけ?」

O.D.A.F(オーダフ)の人たちでしょ。名前は忘れたけど」

望外の加勢にコマージとカルディアは少々驚いたような反応を見せるが、ある意味最も肝心な相手の名前は覚えていなかった。

識別信号で所属を把握している分、後者の方が多少はマシだが……。

「デアデビル1――ニュクス・ニーケー大尉です」

「あー、思い出したかも。もう片方はスペインのF1ドライバーみたいな名前してる美青年だろ?」

タイガーリリーを駆るデアデビル隊隊長ニュクスが自ら名を明かすと、ここでようやくコマージはオリエント連邦本土防衛戦で共闘したエースドライバーたちであることを思い出す。

ただし、スペイン人みたいな名前の男性ドライバー――フェルナンド・サインツ大尉については完全に忘れていたようだ。

「それは思い出したとは言わないっスよ、ハルトマン元大尉。こっちはあなたの名前を知ってるってのに」

スターメモリーαを操るフェルナンドの方はコマージのことを知っているらしく、ツッコミを入れながらも彼なりに丁寧な対応で尊敬の念を示す。

「先ほどは援護ありがとう。小隊長として部下たちに代わって礼を述べるわ」

「お気になさらないでください。あなたたちのおかげで我々"主力部隊"はここまで温存できたのですから」

Ζ小隊を率いる(珍しくミスを犯した)レンカから感謝の言葉を述べられ、そうすべきなのはむしろ自分たち正規軍の方だと謙遜気味に返すニュクス。

「お前たちが最前線に上がってきたってことは、主力艦隊が前進してくるんだな?」

「ああ、サビーヌ艦隊司令は敵主力艦隊が出てくる頃合いだと見てるようだ。縦に伸びた艦隊の陣形を一度整列し、戦力を固めてから次の防衛ラインの突破を図るらしい」

その正規軍のエース部隊が出てきたことからアンドラが察した通り、フェルナンドは援護も兼ねて主力艦隊の意向をスターライガへ伝えに来たのだった。


 宇宙トーチカと巡航ミサイルの脅威を退けた先遣艦隊は進軍速度を緩め、後続の主力艦隊が追いついてくるのを待つ。

「お疲れ様です、ミッコ艦長。先ほど説明した通り、消耗を分散するため先遣艦隊はしばらく後方へ下がってもらいます」

「賢明な判断ね。こちらや17TSq(第17高機動水雷戦隊)はタフな面子が多いけど、それでも疲労困憊に関する報告が上がってきているもの」

主力艦隊の旗艦であるオリエント国防海軍正規空母"アカツキ"に乗艦するサビーヌは通信回線を開くと、先遣艦隊を事実上率いてきたミッコを労いつつ新たな指示を伝える。

「ところで、私たちに代わる先鋒はどの艦隊が務めるのかしら?」

「日米英露の残存戦力で構成される多国籍艦隊の一部を回します。先輩たちの奮闘のおかげで損害が出ていないので、戦力の割り振りに自由度があるんですよ」

指示を承諾した上で自分たちの交代要員は決まっているのかと尋ねるミッコに対し、オリエント国防海軍以外に所属する艦を集めた多国籍艦隊の名前を挙げるサビーヌ。

彼女はこの時点で戦力を少なからず消耗することを覚悟していたが、実際には先遣艦隊の頑張りもあって損害は相当抑えられており、結果として艦隊全体のフォーメーションを変える余裕さえ生まれていた。

「彼らが体を張ってくれるならありがたいけれど……少々心配だわ」

とはいえ、軍人時代の後輩の返答を聞いたミッコの反応はハッキリ言って芳しくない。

「ルナサリアンは常に我々の想像を超える戦術で迎え撃ってきた。それは今後の戦闘でも変わらないどころか、むしろ激しさを増すことが予想される」

最前線で二つの防衛ラインを抜けてきた感想と今後の動向について冷静に語り始めるミッコ。

「どんな超兵器が投入されても不思議では無い。言葉が悪いことは承知の上で言わせてもらうけど、そういった状況に寄せ集めの多国籍艦隊が対応できるとは思えない」

宇宙浮遊機雷に宇宙トーチカ、そして超音速巡航ミサイル――いずれも事前のシミュレーションでは想定されておらず、実戦ではアドリブに近い対応が求められた。

自分たちにはそれができたが、同じことが寄り合い所帯の多国籍艦隊にできるわけが無いとミッコは断言する。

無論、これは多国籍艦隊に無茶をしてほしくないという心配性によるものだ。

「……彼らにもその自覚はあるはずです。それでも困難な役目を率先して引き受けてくれたのだから、『お前たちは足手まといだ』と言って拒否するわけにもいかないでしょう」

先輩の辛辣な発言に意味深な沈黙を挟みつつも、サビーヌは多国籍艦隊のやる気と能力を信じてみるべきだと反論するのであった。

【Tips】

"フェルナンド"も"サインツ"もスペイン語圏に見られる名前だが、フェルナンド・サインツにスペイン系の血は入っていない。

名前はオリエント連邦の南に位置するイチピカ王国出身の母フェルナンディアから受け継いだものである。

一方、姓は父の出身地であるオリエント連邦南部に起源を持つとされている。

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