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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-18】第二防衛線

 アキヅキ姉妹の座乗艦である空母ヤクサイカヅチと戦艦シオヅチを擁するルナサリアン主力艦隊は最終防衛線に展開。

第一から第四防衛線の戦闘を後方から見守っていた。

「ユキヒメ様! 第一防衛線の巡洋艦ユラヒメより入電! 『我ガ艦隊、壊滅状態ニツキ指揮能力喪失。コレ以上ノ防衛線維持ハ不可能』とのことです……!」

「返信しろ! 『貴艦隊ノ奮戦ニ感謝スル。命ヲ無駄ニ捨テルコト無ク総員退艦セヨ』とだ!」

シオヅチのブリッジが急に騒がしくなる。

オペレーターから悪い(しら)せを受けたユキヒメは第一防衛線の放棄を決断し、巡洋艦ユラヒメに対しその旨を伝えるよう命じる。

「第一防衛線は想定以上の早さで突破されたみたいね」

「相手の気迫が勝っているのさ。どれだけ軍事技術や戦闘教義が進歩したとしても、結局は"人の心"が勝敗を分かつ要因となり得る」

姉オリヒメが映っている大型モニターの方に視線を向けつつ、この結果は"覚悟の差"によるものだと語るユキヒメ。

「我々と地球人類は同等の道具と技術を持っているはずだ……すなわち、どこかで差が付くとしたらそれは敵を(ほふ)るための"殺意"以外に他ならない」

彼女は軍事に関して豊富な知識を持つ戦術家だ。

しかし、それと同時に"戦の趨勢(すうせい)を決めるのは人間"だとする武人らしい思想も持っている。

「……今は思索に(ふけ)っている場合では無いな。第二防衛線以降でいかに敵戦力を漸減し、本隊で叩き潰すかを考えなければ」

どこで負けていたのかは後から分析すればいい。

ユキヒメは自分の座席に腰を下ろすと、手元の携帯情報端末で第二防衛線の現在状況を確認し始める。

「第二防衛線には無数の堡塁(ほるい)が配置されていて、しかも後方から飛来する巡航誘導弾による火力支援にも期待できる。フフッ、"彼ら"が地獄の海をどう切り抜けるか楽しみね……」

第二防衛線の特徴は敵艦隊を待ち伏せるように配置された堡塁――地球で言うトーチカと、後方の巡航ミサイル陣地による二段構えの攻撃。

普通の艦隊はおそらく突破するまでに大損害を強いられるだろうが、オリヒメは"彼ら"にガッカリさせられることは無いはずだと不敵な笑みを浮かべていた。


 その頃、サニーズ率いるγ(ガンマ)小隊は補給へ戻った味方部隊に代わって警戒配置に就き、周辺宙域の監視を行っていた。

「ラン、ちゃんと水分補給はしてきたか? エナジーバーは半分ぐらい食べられたか?」

「はい、大丈夫です」

彼女は最年少メンバーであるランの状態を特に気に掛けていたが、幸いにも食料が喉を通る程度には落ち着いているようだ。

「長期戦だとなかなか力を抜ける暇が無いからね。補給の合間合間に少しでも休まないと」

「私がアメリカ留学してた時みたいなこと言ってるし……」

チルドも珍しくベテランらしい助言を与えているものの、それで単身渡米していた頃を思い出したロサノヴァ(マサチューセッツ工科大学卒業)は絵に描いたような呆れ顔を浮かべる。

オリエント連邦とアメリカの時差などお構い無しに電話が掛かってきたのも、今となっては良い思い出だ。

「やけに静かだ……艦艇も航空機も確認できないのはさすがに奇妙だな」

「敵がいないんならいいんじゃない? ありがたく通らせてもらいましょ」

最初の防衛線とは打って変わって全く敵が見当たらない状況を訝しむサニーズに対し、あまり深刻に考え過ぎず前進することを促すチルド。

この夫婦は対照的な性格をしているが、互いを尊重し補完し合うというアプローチでこれまで共にやってきた。

そして、おそらくは死が二人を別つまでそれは変わらないだろう。

「こういう時、イノセンス能力があれば敵の気配が"見える"のかもしれないが」

視界にも機上レーダーにも敵影は入ってこない。

ふとサニーズはこういった状況における能力者(イノセンティア)の優位性について考える。

「(無いモノねだりをしても仕方ないか……私にできるのは経験に基づいて予測を立てることだけだ)」

ライガやラヴェンツァリ姉妹の蒼い瞳にはどんな世界が見えているのか――チカラを持たぬサニーズに知る術は無い。

しかし、彼女にはそれを補い得る優れた技術と豊富な経験がある。

「……」

「緊張し過ぎると視野が狭くなるよ。宇宙ではいつも以上に感覚をシャープにするんだ」

「ええっと……とにかく努力してみます」

いつ現れるか分からない敵に怯えているランの姿を見かねたのか、先ほどの両親と同じように若者へアドバイスを授けるロサノヴァ。

それをヒントにランはあえて肩の力を抜き、機体の装甲を通して周囲の状況を感じ取るよう意識してみることにした。

「ん? 前方に小惑星群を確認……いや……あれは違うッ!」

その時、サニーズは自分たちの針路上に小規模な小惑星集中地帯の存在を視認する。

最初は自然発生的な小惑星の集まりのように見えたが、彼女はすぐにそれが誤りだと気付くのだった。


散開(ブレイク)! 散開(ブレイク)!」

考えるよりも先に回避運動を指示し、不意打ちから僚機たちを守るサニーズ。

「何だ!? 敵艦が潜んでいやがったのか!?」

「敵艦らしき反応は無い。おそらく、小惑星を改造した固定砲台と見た」

蒼く太いレーザーを間一髪かわしたロサノヴァは艦砲射撃を疑うが、機上レーダーの反応を根拠に父サニーズは異なる見解を示す。

「砲台だなんて随分と古臭い物を……でも、こっちが通る針路を狙える位置に置いてあるのは厄介ね」

夫の発言を聞いたチルドはそれを"古典的手法"だと評する一方、いざ実践されたら普通に面倒くさいとも語る。

「艦隊に迂回する余裕は無い。固定砲台の待ち伏せ攻撃を凌ぎつつ、このルートを抜けるしかないぞ」

「言うなれば"宇宙トーチカ"だな」

サニーズが次の作戦目標を設定しようとしたその時、新たな軍事用語と共に赤橙の可変型MF――ヤンのハイパートムキャット・カスタムが後方より追い付いてくる。

「ヤンさん! トムキャッターズの皆さんも!」

ランが驚くのも無理はない。

ハイパートムキャット含めて8機のMFしか所有していないトムキャッターズが戦力をフル稼働させているのは珍しいからだ。

逆に言えば、それほどまでに全身全霊を懸けてこの作戦に臨んでいるということでもある。

「味方艦隊の進路を確保するため、脅威となる宇宙トーチカを排除する。貴様たちにも手伝ってもらうからな」

「へッ、あたしたちは最初からそのつもりさ」

サニーズから半ば強引に共闘を求められると、ヤンはサムズアップしながら愛機ハイパートムキャットを加速させる。

「トムキャッターズ各機、手短に済ませるぞ! 時間を掛け過ぎると艦隊の進軍速度に影響が出る!」

彼女は自身の部下たちに作戦内容を伝達し、宇宙トーチカが多数鎮座する危険地帯へと直接殴り込むのであった。


 宇宙トーチカ――。

正式には「局地防衛用堡塁」と呼ばれる一種の固定砲台で、旧式化した艦砲を直径100メートル程度の小惑星に据え付けた軍事施設だ。

艦砲自体は索敵から発射まで完全自動化されており、保守点検時を除き人員の駐留を必要としない。

また、ルナサリアンで最も多く生産された要撃用レーダーを移植しているため、一か所が敵を発見した場合は別の堡塁や味方部隊に自動通報する機能まで備えていた。

「立ち止まらなければ当たりはしない! 迷ったヤツから狙い撃ちされると思えよ!」

この宙域にはそんな厄介なトーチカが大量配置されているが、ヤンは一撃離脱を心掛ければ問題無いと部下たちに忠告する。

「戦場で止まるバカがどこにいるんです?」

「ま、お前らについては特に心配してないがな」

7人の部下の中で最も高い技量を持つシンドルにしたり顔で返され、これだけ軽口を叩ける連中ならば心配無用だと安心するヤン。

「狙いを付けるのが遅いんだよッ! マイクロミサイル、シュートッ!」

彼女のハイパートムキャット・カスタムは艦砲射撃並みに太いレーザーを冷静にかわすと、機体その物よりも巨大なS-1ウェポンコンテナブースターユニットからマイクロミサイルを発射。

32連装という豊富な弾数から放たれるミサイルの嵐が小惑星の表面を抉り、宇宙トーチカとしての機能に重大なダメージを与えていく。

「宇宙トーチカってのがどんなのかは知らねえが、とにかく壊せばいいんだろ!」

一方、3番目の技量を持つと云われるディアールは難しいことを考えずに乗機スパイラルC型のボックスミサイルランチャーを構える。

「オラオラオラァ!」

装填されている分を全弾撃ち尽くすつもりで操縦桿のトリガーを引き続けるディアール。

「トドメが刺せてないぞ! ったく、お前は威勢だけでいつも詰めが甘いんだよ!」

ところが、当たり所がイマイチだったのか目標の完全破壊には至っておらず、後続のシンドルが仕上げを押し付けられるハメになってしまう。

「ファイアッ! ファイアッ!」

思いっ切り文句を言いながらもシンドルのスパイラルは右肩に担いだ無反動砲を連射。

同僚との共同撃破というカタチで早速宇宙トーチカを無力化してみせた。

「どこからこれだけの小惑星を持って来たんだ? この宙域を突破するこっちの事情も考えてほしいものだぜ」

その部下たちを上回るハイペースで次々と宇宙トーチカを破壊しているヤンだが、終わりの見えない配置数に対してはさすがに悪態を()きたくなる。

「(宇宙トーチカの具体的な総数はまだ分からん。とにかく、可及的速やかに破壊していくべきなのは確かだな)」

数は分からずとも味方部隊にとって大きな脅威となることは確かだ。

ヤンは少し離れてしまっていた僚機たちと編隊を組み直し、防衛線の更に奥深くを目指すのだった。


「第九号堡塁及び第七十七号堡塁の識別信号消失! 第二十二号堡塁は敵航空隊を自動迎撃中!」

第二防衛線の最後方に配置され、全体的な指揮統制を担っている特設指揮艦「アワナミ」の艦内は多忙を極めていた。

戦術データリンクにより連携している宇宙トーチカが破壊されるたびに更新を行い、現在状況を追っていく必要があるからだ。

「予想よりも早い……地球人め、恐れというモノが無いのか」

CIC(戦闘指揮所)の壁面に設置されている時計へ度々視線を移し、敵の好調ぶりに危機感を隠さないアワナミの艦長。

「このままでは堡塁陣地の突破は時間の問題かと……」

「その通りだな……やむを得ん! もう少し引き付けたかったが、巡航誘導弾で敵艦隊を攻撃する!」

副長から遅かれ早かれ防衛線を()かれる可能性を指摘されたことを受け、アワナミ艦長は第二防衛線の切り札である巡航誘導弾の投入を決断する。

「巡航誘導弾発射陣地の管制機能、本艦へ移行しました」

「位置情報更新。敵艦隊の先頭は既に堡塁陣地の半分程度まで侵攻しています」

(ふね)から離れた場所に設置されている発射陣地のコントロールに、攻撃目標となる敵艦隊の位置確認及び予想針路計算――。

新たに加わった仕事もテキパキとこなしていくブリッジクルーたち。

「まずは先遣隊の撃沈を狙う! これ以上進んだらどうなるかを教えてやれ!」

各種データを基に敵艦隊の現在位置と移動速度が可視化され、CICの全天周囲スクリーンに俯瞰図として映し出される。

既に敵艦隊が巡航誘導弾の射程圏内まで入っていることを確認すると、アワナミ艦長は敵の大型艦――スカーレット・ワルキューレに狙いを定めるのであった。

【特設指揮艦】

旗艦を補佐する目的で指揮統制能力を高められた艦艇を指し、地球側で言う揚陸指揮艦に該当する。

"特設"という言葉通りルナサリアンでは主に旧式化した艦を再利用しており、アワナミの場合は旧型巡洋艦の船体をベースに建造されている。

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