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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-29】風よ、吹雪をも呑み込め(後編)

 速度が乗らないローゼルのオーディールに迫るマイクロミサイル。

被撃墜を覚悟したその時、蒼い影がローゼル機とミサイルの間へ強引に割り込む。

「スレイさん……!?」

ミサイルから庇うように自機の後方へ付いた蒼い影――スレイのオーディールMの方を振り向き、思わず声を上げるローゼル。

次の瞬間、マイクロミサイルの爆発がスレイ機を呑み込むのだった。


「スレイ! 直撃だったが……大丈夫か!?」

僚機の被弾を確認したセシルがすかさず声を掛ける。

返答は無い――いや、あった。

爆風の中から4発のマイクロミサイルが飛び出し、至近距離で反応できなかったツクヨミの上半身を完全に撃ち砕いたのだ。

「ええ……適切な防御態勢ができなくて中破したけど、携行武装以外は使えます!」

身体に降りかかった破片を払い除けながら、隊長へ自らの無事を報告するスレイ。

ローゼル機の真後ろへ割り込んだ瞬間に彼女は機体を変形させ、自らを盾に全ての攻撃を受け止めていた。

ボクシングで言う「ピーカブースタイル」のように両腕でコックピットを庇ったため、二の腕から先が完全に吹き飛んでしまったが、これぐらいのダメージならMFは落ちない。

事実、爆発の影響を受けたと思われる胸部は焦げ跡が付着しているものの、その後方に位置するコックピットブロックは無傷だったのだ。

仲間を守る為ならば、自分を捨てて戦う――。

スレイは自らの信念を……その身を以ってローゼルへ示したのである。


「スレイさん……どうして、(わたくし)なんかの為に無茶な援護防御を……!」

命懸けで自分を助けてくれたとはいえ、彼女の身を案じるあまりローゼルは素直に感謝を告げることができなかった。

「あははッ……モビーディック作戦の時はムカつく奴だなぁって思ってたし、今でも君のことは好きじゃないよ」

一方、スレイも彼女らしからぬ強烈な嫌味でそれに応じる。

「……でもさ、私は助けられる僚友(なかま)を見殺しにはできない。たとえそれが嫌な奴だったとしても、ね」

だが、その後に続く言葉は至極真っ当なモノであった。

「ローゼル。どうやら、スレイ中尉のほうが少しだけ大人だったようだね」

リリスに言われるまでも無い。

同い年且つ同階級であり、操縦センスや技量にも大きな差は無いはずだ。

決定的な違いを挙げるとすれば……それは精神面の熟成度だったのかもしれない。


 残る1機のツクヨミはアーダとセシルが共同撃墜で仕留め、とりあえず制空権確保に成功したゲイル隊及びブフェーラ隊。

「スターライガよりゲイル1へ、何とか『シンデレラ』の確保に成功した。制空権は……フッ、取れているようだな」

後輩たちの働きぶりを確認したサニーズは不敵な笑みを浮かべ、「シンデレラ」ことサレナをマニピュレータに乗せた状態で愛機シルフシュヴァリエを離陸させる。

なお、冷気や風圧で致命的な事態を招かないよう、捕虜収容所から奪ってきた毛布でサレナは簀巻(すま)き状態になっている。

「スターライガ各機、私の機体を中心とした輪形陣を採れ! お姫様をお城に帰すまでが作戦だ!」

サニーズの指示と同時にシルフシュヴァリエを除く5機がすぐさま集結し、彼女を中心に据えた輪形陣へ素早く移行する。

MFはコックピット以外の場所に人が乗ることを想定していないため、速度を出し過ぎるとサレナが大変な目に遭う可能性が高いからだ。

戦闘空域からの高速離脱ができない分は仲間たちの援護で補うしかない。


「……クソッ、増援を出してきたか」

その時、HISのレーダーディスプレイを一瞥(いちべつ)したサニーズが忌々しげに呟く。

南南東の方角に敵機を示す赤い光点が多数表示されている。

「ゲイル隊、私たちが安全圏へ到達するまでの時間稼ぎを頼む! お前たちの実力なら造作も無いだろう?」

「分かりました。そちらの離脱を確認次第、我々も戦線より後退します」

「良い返事だ……それじゃ、次は戦場以外で会いたいものだな!」

セシルの生真面目な返答を頼もしく感じられる――レティ・シルバーストン総司令官による改革の下、良い若者が育っているらしい。

安心したサニーズは慎重にスロットルペダルを踏み込み、仲間たちと共に可及的速やかな撤退を図るのだった。


 針路を南南東へ変更し、敵増援を迎え撃つ準備を整えるゲイル隊及びブフェーラ隊。

「スレイ、ローゼル! お前たちは先に後退しろ」

両腕が吹き飛んだスレイ機や総推力の20%近くを失っているローゼル機のダメージを考慮した結果、セシルは彼女らを後退させることを決断する。

「大丈夫ですわ! まだ……まだ私の機体は飛べます!」

「ダメだ。手負いの仲間を庇いながら戦えるほど、バイオロイドは簡単な相手ではない」

当然のように多少は無理が利くことを主張するローゼルだが、彼女の身を案じるセシルは冷静に現実を突き付けた。

オリエント国防空軍でトップクラスの実力を持つセシルとはいえ、バイオロイドに絶対負けないという保証は無いのだ。

「命を燃やす時はとっておくべきだ。素直だったローゼル・デュランはどこへ行ったのだろうな?」

幼馴染を説得するために幼少期の話を持ち出すセシル。

普段は騎士道精神に拘る彼女だが、たまには揺さ振りを掛けてくることもある。

そして、この発言はローゼルに限り効果覿面(こうかてきめん)であった。


「……分かりま――いえ、了解いたしましたわ」

「ゲイル1よりブフェーラ3へ、2人の護衛退避を頼めるか?」

「私は別に構いませんが……3人で敵増援を相手取るつもりですか!?」

後退する2人の護衛役を命じられたアーダは思わず聞き返す。

ローゼル、スレイ――そしてアーダが離脱した場合、戦域に残るのはセシル、アヤネル、リリスの3人だけとなる。

彼女らの実力は確かに折り紙付きとはいえ、1個小隊規模で本当に大丈夫なのだろうか?

「心配するな! セシルのヤツは時々無茶な状況へ突っ込むけど、彼女について行けば生き残れるさ」

部下に対してそう胸を張るリリス。

結局、隊長が太鼓判を押すのなら信頼できると判断し、アーダはローゼルたちを率いて撤退を開始するのだった。


 アーダたちが飛び去るのを見送った後、セシルは残された2人に対し指示を下す。

同じ隊長のリリスはともかく、アヤネルを残したのは彼女の能力を信頼しているからだ。

「よし……リリス、アヤネル、後ろに付け! 邪魔な敵だけを叩いて突破する!」

「ブフェーラ1、了解! スレイ中尉のポジションは私が埋めるよ!」

「ゲイル3、了解」

セシル機の右後方にアヤネル機が位置するのはいつも通りだが、左後方ではスレイの代わりにリリスのオーディールが配置へ就く。

この場合は2番機担当がリリス、3番機担当がアヤネルとなる。

リリスがセシル及びアヤネルと編隊を組むのは初めてだが、適応力の高い彼女なら空中衝突というミスは犯さないだろう。

「各機、無理はするなよ。欲張って墜ちるのは情けないからな――」

覚悟を決めたセシルが交戦開始を指示しようとした時、レーダーディスプレイ上の赤い光点たちが唐突に散開を始めたのだった。


 敵部隊の挙動を不審に思いながら静観していると、セシルたちの耳にフランス訛りの英語が入ってくる。

「こちらカナダ空軍第2航空団、遅れてすまなかった! これより君たちに加勢する!」

「この作戦は本来我々が行うべきだったモノだ……だから、捕虜の救出は俺たちに任せてくれ」

レーダーディスプレイ上の赤い光点――バイオロイドのツクヨミ部隊へ強烈な奇襲攻撃を仕掛けたのは、カナダ空軍の勇敢なパイロット及びドライバーたちであった。

セシルたちがたった6機のMFで捕虜収容所制圧に臨むことを噂で聞きつけた彼らは、上層部の制止を振り払ってまで戦場へ駆け付けてくれたのだ。

「こんな極地に収容所を作るルナサリアンも憎いが、同胞が捕まっていることを教えないお偉いさんのほうがもっと憎たらしいぜ!」

「俺のダチもここにいるはずだ。絶対に助けてやるぞ!」

「ゲイルの連中に頼りっぱなしではいかん! 今回は我々が頼られるのだ!」

カナダ空軍の戦士たちの士気は非常に高い。

遠い異国からやって来た蒼いMFがルナサリアンの超兵器をハドソン湾の水底へ沈め、絶望的な状況だった北アメリカ戦線を復活させたのである。

本人たちは知る由もなかったが、侵略者相手に奮闘するゲイル隊は今や母国オリエント連邦以外においても「地球人類反攻の象徴」として半ば英雄視されていた。


「こちらカナダ空軍第3航空団だ! ヘリコプターを連れて来たから、救出作業は任せてくれ!」

「グース32より各機、俺たちのヘリコプターは高機動戦闘ができない。纏わりつく敵機がいたら援護頼む」

戦闘を開始した第2航空団の後方に新たな援軍――CEF-18 ハイパーホーネット及びCH-147 チヌークで混成されたカナダ空軍第3航空団が現れる。

大型ヘリコプターを持ってくるあたり、彼らは本気で捕虜救出作戦に臨んでいるのだろう。

その覚悟はセシルたちにも十分伝わっていた。

「……カナダ軍は実戦経験の乏しい腑抜けばかりだと思っていたが、あんたたちはそうじゃないみたいだな」

あまり素直な言い方ではなかったが、セシルは彼女なりに異国の戦友たちへ感謝の言葉を述べる。

とはいえ、内心侮っていたカナダ軍人たちを見直したのは紛れも無い事実だ。

「俺たちはただ仲間を助けたいだけさ」

それに対してカナダ空軍のあるパイロットはサラリと言ってのける。

「ゲイル隊、敵戦力撃滅の為に少しだけ手を貸してくれないか?」

一方、別のパイロットからは援護を求める通信が届いていた。

「どうする、セシル? ……いや、聞くまでも無かったか」

部隊の行動方針を尋ねようとするリリスだったが、彼女はすぐにこの質問が無意味であったことを思い出す。

「推進剤も粒子量もギリギリか……15分だ。15分の滞空時間で可能な限り敵を落とすぞ」

先程までの戦闘における消耗を考慮した結果、長時間戦闘空域に居座ることは難しいと判断。

だが、ここで逃げ帰っては勇敢なるカナダ軍人たちへ申し訳ないし、何よりもセシルのプライドが許さない。

そんな彼女が率いるゲイル隊は針路を真南に変更、敵味方が入り乱れる空中戦の会場へ突っ込むのだった。


 カナダ空軍第2航空団は戦闘機及びMFを同時運用する混成部隊である。

戦闘機はCEF-18、そしてMFはオリエント連邦から購入したRMロックフォード・CRM-200 スパイラルが配備されている。

軍事的にはアメリカと密接な関係を築いているカナダだが、それゆえオリエント連邦製MFを導入したことは驚きを以って迎えられた。

……政治的な話はともかく、高性能なスパイラルの導入はカナダ軍にとって大きな戦力強化となったのだ。

「クソッ、後ろに付かれている! 誰か追い払ってくれ!」

しかし、そこそこ優秀な機材を持ちながらMF特有のノウハウが足りないのがカナダ空軍の弱点である。

世界で初めてMFを開発し、100年以上に亘り運用しているオリエント国防軍とは比べ物にならず、数年前の合同演習でボロ負けしたことは記憶に新しい。

何が言いたいのかというと、カナダ空軍のMFドライバーはハッキリ言って強くないということだ。

「ヤバい! このままじゃ落ちるッ!」

機種転換でCEF-18からスパイラルへ乗り換えた彼もまた、お世辞にも腕の良いドライバーとはいえなかった。


「――ったく、情けない飛び方で私たちの手を煩わせるなよ!」

完全に後方を取られたその時、上空から降り注ぐ蒼い光線が敵機のコックピットを見事に撃ち抜いていた。

「やるね、アヤネル中尉。噂通りの射撃技術だ」

その攻撃を見たリリスは納得したように頷く。

「フッ……射撃ならセシル隊長にも負けませんから」

カナダ軍ドライバーの窮地を救ったのは、アヤネル機の正確無比な一撃であった。

「ふぅ、助かったぜゲイル隊! この借りは絶対に返してやるからな!」

ピンチを切り抜けたカナダ軍のスパイラルと別れ、3機の蒼いMFは新たな敵を求めて空を翔けるのだった。

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