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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-16】絶対防衛戦略宙域、強行突破!(後編)

 対艦戦闘というMFにとっては重労働をあえて引き受け、編隊飛行で敵艦との距離を詰めていくΔ(デルタ)小隊。

「よぉ、一個小隊で対艦戦闘をこなすのは大変だろ? せっかくだからボクたちが手伝ってやってもいいんだぜ!」

このまま戦闘に突入するかと思われたが、マリン率いるキリシマ・ファミリーMF隊は合流するや否や一方的に加勢を申し出てくる。

一端(いっぱし)の口を利きやがってよ……そこまで言うのなら多少は頼りにさせてもらうぞ」

「へッ、引退を考えてるロートルに無茶はさせられないからな!」

困難な戦いになることを覚悟していたルミアがその申し入れを承諾すると、彼女の去就に関する噂に触れながらマリンは自身のチームをΔ小隊の前に立たせる。

「お前ら、目標は前方の駆逐艦だ! ビビってんじゃねえぞッ!」

「「「おうッ!」」」

どちらかと言えばヘラヘラしているイメージのあるマリンが"真面目モード"になった瞬間、それに呼応するかのように子分(僚機)たちも表情を引き締め戦闘態勢に入っていく。

マリン以外は比較的旧型のスパイラルC型に乗っているものの、それなりに腕利き揃いなので心配は要らないだろう。

「チッ、噂ってのは広がるのが早いもんだな……」

「もったいないよね……ルミアはスターライガの中でも上位の腕前で、まだまだ衰えを感じさせないのに」

引退云々の話がいつの間にか広がっていることを愚痴るルミアに対し、彼女がこの戦争を最後にいなくなるのを惜しむミノリカ。

「技量なら若い連中には負けねえよ。でもな、理想を目指して突っ走れるほど熱くなれる歳じゃないのさ」

元軍人だけあってルミアの操縦技量は非常に高く、豊富な実戦経験と合わせて未だ一線で通用するレベルだ。

それでも彼女が引退を真剣に考えているのは、やはり精神的な面が大きいらしい。

「ルミア……」

「……もしかしたら、若い奴らに希望を見出したいのかもしれないな」

同い年且つプライベートでも仲が良いシズハの寂しそうな反応に思うところがあったのか、珍しく本音を打ち明けるルミア。

「戦うことでしか意思を示せなかった僕たち"古い人間"の代わりに――か」

彼女とは誰よりも長い付き合いであるリゲルもその言葉に同意し、希望を託せるかもしれない若者――マリンのスーペルストレーガを見やる。

そして、そういった若者たちを導くのが去りゆく老兵にできる最後の仕事なのだ。


「敵艦の防空圏に入った!」

ここから先は敵艦の対空兵器が届く距離であることを警告するマリータ。

その発言通り、まずは長射程の艦対空ミサイルがキリシマ・ファミリーMF隊へと差し向けられる。

「手始めに主砲とVLS(垂直発射システム)を潰す! 一撃離脱を心掛けろよ!」

射程は長いが運動性に劣る対空ミサイルを最小限の機動で回避しつつ、マリンは僚機たちに攻撃部位の優先順位と一撃離脱戦法の徹底を通達する。

「当たらなければどうということは無いのさ! ファイアッ!」

お手本だと言わんばかりに彼女のスーペルストレーガは対空砲火の弾幕に飛び込むと、敵駆逐艦の甲板上へ一気に肉薄。

主兵装レーザーバスターライフルの一撃で厄介なVLSの一部を破壊してみせた。

「反転して再攻撃を仕掛ける! しっかりとボクのケツについてこい!」

後続の僚機たちが最初の攻撃を終えたことを確認したマリンは再攻撃でラッシュを掛けるべく、今度は敵艦の左側面から接近を図る。

「親分にピッタリとくっ付いていくしかない!」

編隊からはぐれた機体が真っ先に対空砲で狙われることになるだろう。

2番機を務めるカリンは機動力が高い機体を駆る親分(マリン)に何とか追従し、対艦攻撃に備えて乗機スパイラルの6連装ボックスミサイルランチャーを構える。

「甲板上を薙ぎ払ってやれッ!」

マリンのスーペルストレーガの攻撃が合図となり、キリシマ・ファミリーMF隊12機による一斉射撃が炸裂。

ルナサリアン駆逐艦は甲板上に甚大なダメージを受け、主砲を含む多くの武装を使えなくなってしまう。

「何だよ、意外と早いじゃねえか」

40秒ほど遅れてルミア率いるΔ小隊が到着した時、敵艦は既に中破炎上し始めていた。

「ルミアさん! 後ろの推進装置を頼む!」

「対空砲火はオレたちが引き付けてやるぜ!」

しかし、それほどのダメージを受けてもなお敵艦は航行可能なタフさを見せている。

マリンとナイナからの要請に応じたΔ小隊は対空砲火の隙を突いて敵艦の後方へと回り込む。

「クシナダ、ファイア!」

両腕にREG-4無反動砲"プチ・バズーカ"を携え、素早い連射を撃ち込むミノリカのクシナダ。

「いくらでも風通しを良くしてやる!」

それに続いてシズハのアゲハもショットガンで敵艦の推進装置に散弾を叩き込むのであった。


 一方その頃、先遣艦隊の先鋒を務めるキリシマ・ファミリー母艦レヴァリエは敵艦隊との交戦距離に入ろうとしていた。

「親分たちは随分と張り切ってますね、船長」

「ええ……私たちも負けていられないわね」

操舵輪を握りながらMF隊の戦いを見守るランス・グーの感想に対し、自分たちもその活躍に応えなければならないと答えるローリエ。

「敵駆逐艦、本艦の射程圏内に入りました!」

「針路及び速力そのまま! 全主砲、エネルギーチャージ開始!」

オペレーターからの状況報告を受け、ローリエは敵駆逐艦との砲撃戦に備えた指示を飛ばす。

「1番2番による砲撃の(のち)、続けて3番4番で3カウントの時間差攻撃を行う!」

敵艦隊とは所謂"反航戦"の状態で砲火を交える可能性が高い。

艦首側の主砲による砲撃で敵艦のバリアフィールドを打ち消しつつ、再展開される前に艦尾側の主砲で一気に勝負を決める――。

ローリエの作戦が上手くいけば一方的に撃沈せしめるはずだ。

「エネルギーチャージ100! いつでもいけます!」

全4基の155mm3連装砲のエネルギーチャージが完了したことを報告し、主砲を制御するコントローラーを握り締める火器管制官。

(やっこ)さん、この距離でも砲撃をしてこない……親分たちが主砲を潰したおかげか」

「敵駆逐艦、回避運動へ移行中!」

普通なら砲撃が始まる状況でも手を出してこない様子をランスが訝しんでいると、オペレーターは敵艦が回避運動に専念し始めたことを追加報告する。

「仰俯角修正プラス5、方位角修正左8!」

「射線上に味方機無し!」

血気盛んな火器管制官が照準の最終調整を行い、射線上の味方機の退避はオペレーターの仕事だ。

「撃ち方始めッ!」

「了解! ファイア!」

ローリエから砲撃開始の号令が出された次の瞬間、火器管制官は待ってましたとばかりにコントローラーのトリガーを引くのだった。


 6本の蒼く太いレーザーがルナサリアン駆逐艦の右舷を融かした3秒後、今度は時間差で飛来してきたレーザーがブリッジを含む船体中央部を容赦無く貫いていく。

ローリエの見立てとは異なり、第一射の時点でバリアフィールドを()けたのは良い意味で誤算であった。

「敵駆逐艦に直撃弾! やったぜ!」

「敵艦隊の輪形陣に穴が開いたな」

大破炎上した駆逐艦の船体が二つに分かれていく様を目の当たりし、キリシマ・ファミリー一丸となって挙げた戦果を喜ぶアレクサンダーとヨルディス。

敵艦隊はそこまで大規模ではないため、一時的とはいえこれで陣形に空白部分が生じることになる。

「後方の味方艦隊が増速している。穴を塞がれる前に一隻でも多く敵陣中央に突っ込ませるつもりか」

味方艦隊もこの瞬間を待っていたのか、レーダー画面上で味方艦を示す青い光点が一気に動き出したことをリゲルは確認する。

敵旗艦の空母が苦手とする砲撃戦へ持ち込み、素早い無力化ないし撃沈を図るのは確かに有効な戦術だ。

「マリン! 今度はこっちの頼みを聞いてもらうぜ!」

「んぁ? 何だよ?」

先ほど仕事を押し付けられた意趣返しではないだろうが、ルミアの方からもマリンに対する頼み事ができたらしい。

「これはあくまでも私のカンだが、このままだと敵と味方が鉢合わせすると思う」

推測だと前置きしたうえで今後の戦況予測を語り始めるルミア。

彼女は敵味方双方の艦隊の移動速度を瞬時に計算した結果、味方艦隊の合流と敵艦隊の陣形再編はほぼ同タイミングになると睨んでいた。

「しかし、私たちがちょっかいを掛けて妨害すればタイミングをずらすことができるはずだ」

それはあくまでもイレギュラーを考慮しない場合の話だ。

ルミアたちMF部隊の行動次第では接敵のタイミングに干渉できる可能性が高い。

「……なるほど、ボクたちにもそれをやらせようって魂胆だな?」

「君たちは共同で駆逐艦を沈めたからね。ま、たまには戦果を他に譲ってあげなよ」

要件を察したマリンが苦笑いすると、そこへ畳み掛けるようにミノリカからアドバイスが授けられる。

「ミノリカさんに言われちゃ仕方ねえな……んで、空母を沈める大役は誰がやるんだい?」

普段絡まない相手の助言に珍しく素直に従いつつも、マリンは素朴な疑問の提示を忘れなかった。


「推力最大! 航空隊が敵艦隊の頭を抑えている間に空母の懐へ飛び込む!」

壁を作るべく合流しつつある敵艦隊の陣形を抉じ開けるように、メルト率いる第17高機動水雷戦隊が強引に船体をねじ込んでいく。

接触寸前の艦隊運動など通常は滅多にお目にかかれるものではない。

「くッ、艦隊が分断されました!」

「状況報告ッ!」

「ヒュルケンベルグ以外の僚艦が追従できていません!」

しかし、今回はぶつけるつもりで止めに掛かった敵艦隊の執念の方が上回ったのか、第17高機動水雷戦隊は前方に位置していた旗艦アドミラル・エイトケン及び駆逐艦ヒュルケンベルグを除いて突破できずに終わってしまう。

最初に見たまんまの報告を行ったエミールはシギノ副長に怒られたため、改めて詳細な現状報告を繰り返す。

「ヒュルケンベルグには本艦と行動するよう通達! 残りの4隻はジェスターが指揮を執り、その場で友軍と共に防戦を行わせて!」

オペレーターから報告を受けたメルトは即座に散開行動の維持を決断。

敵艦隊を突破した2隻と強力な航空支援で敵空母に立ち向かい、置き去りになった駆逐艦4隻――ジェスター、ペーガソス、ランボルト、そして本土防衛戦後に配属されたカチュアには敵護衛艦隊の相手に徹してもらう。

「我々2隻だけで空母をやれるのか!?」

「やれると判断したから突っ込むんですよ!」

ヒュルケンベルグの艦長を務めるベテラン士官が慎重な姿勢を求める一方、メルトは若手士官らしいアグレッシブさで自らの意見を押し通す。

「至近弾か! 弾幕薄いぞ、何やってんだッ!」

そうしている間にもエイトケンのCIC(戦闘指揮所)は激しい振動に晒され、転倒しそうになったシギノは思わず怒鳴り声を上げる。

「シギノ少佐、席に着いて! 危ないわよ!」

「今回ばかりはお言葉に甘えさせてもらいます……」

幸いにもメルトが諭したことでシギノはすぐに落ち着きを取り戻し、普段は滅多に使わない副長用の座席に腰を下ろす。

「速力そのまま! 対空警戒を厳としつつ、雷撃戦の射程に入り次第攻撃を開始する!」

CIC内が少し静かになったところで改めてブリッジクルーたちに指示を出すメルト。

後部主砲を撤去したエイトケンは砲撃戦に不向きとなったため、両舷艦対艦ロケット弾による雷撃戦の方が有効だと判断したからだ。

「ゲイル及びブフェーラ隊をエアカバーに回してちょうだい!」

そして何より、エイトケン最大の武器と言える"奇跡的な航空支援"に頼らない手は無かった。

【Tips】

オリエント国防海軍の艦艇に厳格な命名規則は無く、伝統的な艦名を受け継いだり当時の流行が反映されるパターンが多い。

そのため、21世紀以降はアカツキ(日本語)やサングリエ(フランス語)など、オリエント語以外に由来する艦名も多数見られる。

強いて言えば「就役中の艦との重複は避ける」「他国の主力艦と同じ名前は使わない」といったルールが慣習的に守られている程度である。

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