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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-7】憎しみは何よりも深く(前編)

 妹たちの命を預かる小隊長としてルナールは自分自身に問い掛ける。

「(どうする、ルナール? 遠回りすれば接敵すること無く撤退できるかもしれない)」

こちらは偵察用の軽装備だが、相手は対MF戦を想定した装備である可能性も否定できない。

戦力差がそれなりに大きいことも加味すると、交戦はおろか接敵自体が危険を伴うと思われる。

「(ここでの戦いは大局には繋がらないだろう)」

ルナールの判断は極めて迅速且つ的確であった。

「メルリン、リリカ! 撤退するぞ! 今度は一切の反論を認めん!」

彼女は愛機ストラディヴァリウスを妹たちの方へ振り向かせ、"反論は許さない"と忠告したうえで撤退命令を下す。

「了解……リリカもそれでいいわね?」

「ああ……」

メルリンが優しく諭したおかげか、不安定状態が続くリリカも今回ばかりは素直に指示に従うようだ。

「よし、敵部隊を避けるようなルートで帰るぞ。奴らの目的が味方の救援ならば、あちらにも私たちと戦う理由は無いはずだ」

敵部隊の任務が真っ当な内容であることに期待しつつ、ε(エプシロン)小隊はルナール機を先頭に宙域から離脱していく。

「(悪い予感がする……嫌な胸騒ぎがする……私が恐れているのは何なんだ……?)」

だが、リリカの情緒不安定さは収まるどころか逆に悪化の一途を辿っていた。


 ε小隊の撤退からわずか2分後――。

「さっきまで捕捉していた敵部隊は……いないか」

ほぼ入れ違いとなるカタチでウサミヅキ率いるサキモリ部隊は星間輸送艇が漂流する宙域に到着した。

「電探の画面上では私たちを避けるように離脱していく経路を取っていました」

「相手の指揮官は利口な人間のようね。彼我の戦力差を見て直接戦闘は避けたのでしょう」

隊内で最も若いエイシの報告を受け、敵方の対応に内心安堵するウサミヅキ。

"敵軍の兵士"という理由だけで要救助者を平然と攻撃する集団でなくて本当に良かった――と。

「これを全部回収しなくちゃいけないのか……!」

「ええ、一人でも多くの戦友を救うためには一機たりとも逃せない」

彼女は弱音を吐く別のエイシを嗜めるように"救える命は決して見捨てない"という意思を明確にする。

「各機、作業開始! 敵に嗅ぎつかれる前に終わらせるつもりでやるわよ!」

「「「了解!」」」

ウサミヅキの号令と同時に計6機のサキモリ部隊は救出作業を開始。

(あらかじ)め持ってきたワイヤーロープで複数の輸送艇を繋ぎ、これを1機のツクヨミが頑張って曳航(えいこう)することで安全圏への移動を目指す。

2~3回ほど往復すれば全ての輸送艇を収容することができるだろう。

「隊長! 10時方向に敵艦隊と思われる敵影を捕捉しました! 距離50カイリ!」

だが、物事はそう上手くはいかない。

作業が順調に進むかと思われた矢先、例の若いエイシが敵戦力の接近を伝える。

「予想以上に早い……50カイリなら既に敵の電探の索敵距離だ!」

50カイリ――約90kmという近場に敵が潜んでいたことにウサミヅキは若干の焦りを抱く。

おそらく、相手も艦載レーダーでこちらの動きを捉えていると考えていい。

奇襲には絶好の場所とタイミングだ。

「(こちらの艦隊の合流とほぼ同時になる可能性が高い……交戦は避けられないか?)」

敵艦隊の進軍速度によっては味方の加勢が間に合うかもしれないが……しかし、星間輸送艇を戦闘に巻き込みたくないというのがウサミヅキの本音である。

「(……いや、一時的に戦闘を避ける手段ならある!)」

彼女が閃いた"戦闘を避ける手段"とは一体……?


「各機はそのまま作業を継続! 敵戦力への対応は私が行う!」

自身が率いる部隊に作業継続を指示しつつ、ウサミヅキは単機で敵部隊の方向へ針路を取る。

「(大型突撃銃の先端部に信号照明弾を装着……よし!)」

彼女のツクヨミ指揮官仕様は大型突撃銃――地球で言うバトルライフルの銃身下部に2発の信号照明弾をセット。

信号照明弾が自分たちの頭上で輝くよう、大型突撃銃を真上に向けてから操縦桿のトリガーを引く。

「所属不明機に告ぐ! 我々は現在味方部隊の救助活動に従事しており、そちらと交戦する意図は無い!」

白と赤の閃光が暗い宇宙を照らす中、接近中の所属不明機たちに対しオープンチャンネルで呼び掛けを行うウサミヅキ。

「我々は兵士である以上、敵に背を向けるつもりは無い……だが、要救助者を安全な場所へ退避させるまでは待ってほしい」

彼女は星間輸送艇には多数の傷病兵が乗っていることを懸命に伝え、人道的観点から戦闘行為の回避を求めるが……。

「くッ……奴ら正気かッ!?」

次の瞬間、月面迷彩のツクヨミの近くを蒼い極太レーザーが掠めていく。

事前通告無しの一方的な艦砲射撃――それが地球側の返答であった。

「私の呼び掛けに対する答えがこれか……野蛮人どもめッ!」

続いて行われる所属不明機たちの威嚇射撃をかわしつつ、ここまで冷静さを維持していたウサミヅキもさすがに怒りを示す。

「墨1より各機、どうやら今度の敵は話が通じないらしい! 作業進捗はどうなっている!?」

「こちら墨2、回収率は未だ3割程度。作業完了までにはまだ時間が掛かりそうです」

小隊長から状況報告を求められ、2番機担当のエイシは"想定よりも手間取っている"と正直に述べる。

予備役や訓練課程から急遽召集された人員に型落ちの機材を与えた二線級部隊に過ぎないため、作業効率を上げようにも限度があるのは事実だ。

「……致し方無い。こいつらは私一人で引き付けておく」

最低でも母艦の合流まで時間を稼ぐべく、ウサミヅキは一番技量が高い自分が囮役となることを決める。

「無謀ですよ! それだけの戦力相手に単独で立ち向かうなんて……!」

「大丈夫よ……良心を捨てようとしている連中に後れは取らない」

飛行訓練時間が250時間程度の若いエイシに心配されつつも、部隊内で唯一ツクヨミ指揮官仕様を駆るウサミヅキは単身敵陣へ切り込んでいくのだった。


 所属不明機の正体はアメリカ海軍所属の"FM-9D スカイレイダーⅡ"。

機数は8――戦力不足を受け急遽モスボールから復帰した旧型機とはいえ、数で押されるとそれなりに厳しい。

「(敵部隊の上方から一撃離脱戦法を仕掛けた後、相手の後方に就いて再攻撃を行えば……!)」

そこでウサミヅキは一撃離脱を徹底し、常に動き続けることで包囲を避ける戦い方に打って出る。

強襲攻撃で相手が混乱してくれれば文句無しだ。

「一人で突っ込んで来るつもりか!? あいつ……クレイジーだ!」

彼女の目論見通り、敵部隊の若いドライバーは明らかに動揺している。

「落ち着けルーキーども! 速度及び針路を保ちつつ編隊を維持! 遅れた奴から狙い撃ちにされるぞ!」

「りょ、了解!」

想定外なのは部隊長が実戦経験豊富な男であり、ルーキーばかりの二線級部隊を何とか統率できていることだ。

泥沼化した戦争で多数の熟練兵を失った結果、訓練課程を終えていない若者さえ駆り出さねばならないのは地球もルナサリアンも同じであった。

「反応が遅い! 直撃させるッ!」

アメリカ軍MF部隊の頭上を取るべく、ウサミヅキのツクヨミ指揮官仕様はメインスラスターを吹かして急上昇。

武装を連射速度に優れる光線短機関銃へ持ち替え、敵機の脳天めがけて激しい銃撃を浴びせながら離脱していく。

「被弾した! こ、コックピットに火が――!」

不運にも蜂の巣にされたスカイレイダーはたちまち火を噴き、ドライバーの断末魔と共に宇宙に散ってしまう。

この戦争が始まって以来、軍事技術はあらゆる面において著しい発展を遂げた。

旧型機の防御力はもはや時代遅れとなっていたのだ。

彼に現行機が与えられていたら一撃は耐えられたかもしれない。

「ダブルDがやられた! 何でよりによってあいつが……!」

「野郎……許せねえ!」

「今は自分の身を守ることを考えろ! もっと速く飛ばないと、ケツにつかれるぞ!」

同僚の死にアメリカ軍ドライバーたちは怒りを露わにするが、部隊長の男はそれを窘めるように現状維持の指示を飛ばす。

「(信号照明弾が何だ……無差別攻撃で都市を焼き払った連中の言葉など!)」

彼はウサミヅキ機が使用した信号照明弾の意味を理解していた。

だが、祖国を蹂躙した侵略者に対する強い憎しみは判断を誤らせる……。


「これ以上犠牲を出したくなければ撤退せよ! さもなくば更なる撃墜も辞さない!」

アメリカ軍MF部隊の背後を取ったウサミヅキは再度オープンチャンネルによる警告を行う。

敵とはいえ必要以上に命を奪うことは避けるべきだからだ。

「俺たちの任務は軌道上に出没するルナサリアンの排除だ。ウサギ女の警告など気にするな」

「……警告はした! 撃たれる覚悟があると認める!」

しかし、7機のスカイレイダーⅡが針路変更の素振りを見せないことから、ウサミヅキはやむを得ず最後尾の敵機をロックオンする。

「(射程内に捉えているのに回避運動を取らない……敵も新兵を動員しなければならないほど追い詰められているのか)」

経験豊富な彼女は敵機の動きを見ただけで相手が飛行時間不足の新兵であることに気付く。

厳密には実戦の緊張からパニックを起こしており、回避運動を取りたくてもどうすればいいのか分からないのだろう。

「射撃開始!」

その事実を知ると戦意が削がれそうになるが、あえて心を鬼にして操縦桿のトリガーを引くウサミヅキ。

「た、助けてくれ! 誰かぁぁぁぁぁぁッ!」

無防備な状態で直撃弾を浴びたスカイレイダーは瞬く間に火の塊と化し、先ほどのダブルDと同じ末路を辿ってしまう。

「ジョナサンまで……隊長! 奴とダブルDの仇を取らせてください!」

「ダメだ! 編隊はこのまま維持! 任務遂行を最優先とせよ!」

一瞬にして2人の仲間を喪った若いドライバーは敵討ちの許可を求めるが、部隊長の男はそれを許さない。

「(僚機を墜とされても対応しないのは異常だ――まさか、奴らの目的は輸送艇……!?)」

損害を気にすること無く移動し続けるアメリカ軍MF部隊。

ウサミヅキが抱いた"嫌な予感"は的中してしまうのか……?

【Tips】

MFやサキモリの搭乗員を養成するのに必要な飛行時間は平均400時間と云われている。

戦闘機パイロット(約350時間)よりも時間が掛かっていることになるが、これは人型ロボットゆえの操縦の複雑さが理由である。

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