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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
最終章 THE LAST HOPE

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【TLH-5】ラグナロクに備えて

 宇宙へ上がったスターライガ母艦スカーレット・ワルキューレは友軍艦隊とは別行動を取り、研究開発センターが置かれているスペースコロニー「ベンサレム」へ向かっていた。

敵襲が無いとは言い切れないため、スクランブル発進の担当者たちは搭乗員待機室で万が一の場合に備えている。

「艦隊決戦用レーザーキャノンユニット?」

随分と大仰な新兵器の名前に思わず首を傾げるメルリン。

「うむ。かねてよりベンサレムで開発されていた装備を受け取るため、ワルキューレは一時的に友軍艦隊を離れて行動しているそうだ」

「噂で聞いたことがあります。核融合炉から直接エネルギー供給を受け、超強力な極太レーザーを発射する武装が開発されていると……」

彼女が抱く疑問をもっともだと感じたのか、ルナールとレカミエは以前見聞きしたことがある情報を提供する。

「それが今後の戦いにおける切り札となるわけね」

うんうんと頷くメルリンの悩みはあっさり解決したようだ。

問題はやけに無口なもう一人の方だが……。

「……調子が悪そうだな、リリカ」

「大丈夫? 他の子と変わってもらう?」

「いや……少し考え事をしていただけだよ。出ろと言われればいつでも出撃――」

妹を心配する二人の姉から声を掛けられ、"日常業務に支障は無い"とリリカが答えようとしたその時……。

「総員、第一戦闘配置! スクランブル待機中の航空隊は発艦可能状態へ移行せよ!」

搭乗員待機室のスピーカーから戦闘配置を指示するアナウンスが聞こえてくる。

緊急発進ではなく待機命令なのが気になるが、とにかく出撃準備はしなければならない。

「敵襲か!? さすがに早い!」

「ルナサリアンめ、散開行動中を狙ってきたか!」

「リリカ! 行くわよ!」

レカミエ、ルナール、そしてメルリンの3人は壁に掛けられているヘルメットを手にすると、それを被りながら駆け足で待機室から出て行く。

「(この不快な感覚……これから悪いことが起こりそうな予感……一体何なんだ?)」

だが、リリカはこれまで感じたことが無い頭痛に悩まされており、頭を抱えながら遅れて待機室を後にする。

それこそが"新たなるチカラ"の芽生えだとはまだ気付いていなかった。


 一方その頃、スカーレット・ワルキューレのブリッジは緊急事態への対応に追われていた。

「艦長! 本艦の前方約150km地点の宙域に多数のアンノウン出現!」

「くッ……ベンサレムへの入港を目撃されたか? 目標識別を急いで!」

レーダー管制官の一人であるオリヴィア・ダスカの報告を受け、苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべながら目標識別を命じるミッコ。

「艦種照合開始! これは……艦艇ではありません! おそらく、大気圏離脱用カプセルの類だと思われます!」

艦載レーダーの情報を基にデータ照合を開始したキョウカは、アンノウンの正体は大気圏離脱用カプセルである可能性が高いと伝える。

彼女が操作しているコンソール画面には"98.2%"という極めて高い確率が表示されていた。

「大気圏離脱用カプセル?」

「地球に残った連中が気ぃ利かせて送ってくれた補給物資か?」

新装備の運用に対応するための調整作業を進めつつ、フィリアとアルフェッタの火器管制官コンビは緊張感に欠けたやり取りをしている。

「それなら事前に連絡があるだろうし、あるいはビーコンでも取り付けているはずだ」

その点、操舵席でスマートフォンを弄っているラウラの方が優れた観察眼を持っていた。

「とにかく、『ヴァルハラ』の調整作業を行っている本艦はまだ出港できない。ここは航空隊に偵察を任せましょう」

試製ジェネレーター直結式艦隊決戦用レーザーキャノンユニット――通称「ヴァルハラ」の調整を終えるまでは(ふね)を動かせないため、ミッコはMF部隊を先行させることが最適解だと判断する。

「スクランブル待機中のε(エプシロン)小隊に発艦指示を! 他の部隊は必要に応じて出撃させる!」

「了解! ブリッジよりフライトデッキ、ε小隊の発艦作業に入ってください!」

ミッコの指示を受けたキョウカはその内容を甲板上の作業員たちへ通達。

当初は"発艦可能状態で待機"としていたε小隊の出撃を急がせるのだった。


「ストラディヴァリウスよりワルキューレ、アンノウンが確認された地点に到着した。これより偵察行動へ移行する」

緊急発進したε小隊はルナールのストラディヴァリウスを先頭に4機編隊を組み、出撃前に指示された宙域付近へと向かう。

宇宙では遠近感が分かりづらくなるが、アンノウンの航行灯の点滅はこの距離でも確認できる。

「こちらワルキューレブリッジ、了解。相手は非武装の大気圏離脱用カプセルだと思われるけど……万が一の場合は交戦を許可します」

「分かった。ある程度は私の判断で行動させてもらう」

後方で待機しているミッコ艦長から言質(げんち)を取ると、通信を終えたルナールは早速アンノウンを視認可能な距離まで部隊を前進させる。

「さて……あれが全部カプセルなのか?」

ルナールらε小隊の前方に漂っていたのは、両手では数えきれないほど大量の大気圏離脱用カプセル。

地上から打ち上げられたとみて間違い無いが、宇宙へ出た後の早期回収までは考慮されなかったようだ。

あるいはそこまで気が回らないほど切迫した事情があったのかもしれない。

「識別信号を受信したわ。これは……少なくとも私たちが使っている周波数とは違う」

「ルナサリアンである可能性も否定できない……か」

カプセルから発信されている信号がIFF(敵味方識別装置)に反応しないことに気付き、悪い予感を抱くメルリンとレカミエ。

「各機、ここからは慎重に行動しろ。レカミィの予想が事実だとしたら、あのカプセル全てから敵が飛び出すかもしれない」

これ自体が罠である可能性を考慮しつつ、ルナールは僚機に対し周辺警戒を厳とするよう注意を促す。

「そうならないことを願いたいですがね」

「そもそも、中身が何なのかすら分からないし」

無論、レカミエとメルリンの要望通り本当に何も起きない可能性もあるだろう。

あらゆる事態を想定し、必要に応じて適切な対応を取らなければならない。

「……リリカ、どうした? 遅れているぞ?」

「大丈夫だ。すぐに追い付く」

ルナールから編隊を乱していることを指摘され、ハッとしたようにスロットルペダルを踏み込むリリカ。

本人は大丈夫などと言っているが、今日のリリカがおかしいことは誰の目に見ても明らかであった。


 要救助者、ブービートラップ、単なる漂流物――。

どれが正解か現時点では分からないため、ε小隊は無線の感度が安定するギリギリの距離まで接近し、そこで一度様子を見ることを決めた。

「よし、私がオープンチャンネルで呼び掛けてみる。他の機体は周辺警戒を頼む」

「英語で行けるの?」

「イタリア留学の経験は伊達じゃない。まあ見ておいてくれ」

小隊長として自ら相手に対する呼び掛けを行おうとするルナール。

彼女は若い頃のイタリア留学について触れているが、ここはメルリンのアドバイス通り世界共通語である英語を使うべきだろう。

「イタリアの公用語はイタリア語ですけど……」

「あー……大気圏離脱用カプセルに誰か乗っているのならば応答せよ」

レカミエが至極当然なツッコミを入れてくる中、ルナールはそれなりに流暢な英語で呼び掛けを開始する。

「我々に攻撃する意図は無い。ただし、それは貴機らが所属を明らかにした場合に限る」

この時点では相手の反応は見られないが、とりあえず彼女は説明を続けていく。

「要救助者であればそれを明確にせよ。仮に無人であっても遠隔操作で信号弾ぐらいは打ち出せるはずだ」

国際法においては"漂流者の救助要請には可能な限り応じなければならない"とされている。

たとえ相手がルナサリアンであったとしてもそれは遵守すべきだし、無人でも回収の必要があるかもしれない。

「……応答しないわね」

「中身を抉じ開けたいところだが、あいにく私たちに臨検を行う権利は無い」

ルナールの仕事ぶりをメルリンとレカミエは少々不安げに見守っている。

民間企業という建前上、いくらスターライガといえど公的機関のような強制捜査はできない。

「3分以内に明確なリアクションが見られない場合、船舶航行に危険を及ぼす"漂流物"として処理させてもらう」

英語圏出身者以外でも聞き取れる話し方でルナールは最終通告及びそれが守られなかった場合の措置について説明する。

「繰り返す――」

「ッ! 来るッ……!」

彼女が話の内容を繰り返そうとしたその時、"何か"を感じ取ったリリカが突然大声を上げる。

「ワルキューレブリッジよりε小隊、そちらの宙域へ接近する所属不明艦隊を捕捉した!」

それは奇しくもミッコ艦長による通報と全く同じタイミングだった。

【Tips】

ルナールは大学卒業後、ヴァイオリニストとして腕を磨くべく本場ヨーロッパのイタリアへ渡ったことがある。

イタリア生活はそれなりに長かったらしく、現地語に堪能となりイタリア人の友人にも恵まれたという。

その影響からか帰国した後も当時の生活習慣が抜け切っておらず、手料理はパスタばかり作っている模様。

また、現在の愛車はイタリア製の真っ黒なスーパーカーである。

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