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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-89】その剣は誰が為に

 午前11時21分――。

ルナサリアンの主力部隊が撤退を完了したことで、オリエント連邦本土防衛戦は地球側の勝利に終わった。

両陣営共に損害は決して少なくなかったが……。

「隊長……隊長ッ!」

「2機とも沈黙しているようだが……本当に終わったのか……?」

未だ大規模戦闘の余韻が残る中、スレイとアヤネルのオーディールM2が針葉樹林の中へと降り立つ。

約10分前の通信を最後に連絡が取れなくなったセシル機を捜索し、彼女の安否確認を行うためだ。

通信途絶の直前まで敵エースと戦っていたことは判明している。

「こちらブフェーラ2! 救護班の要請は必要でしょうか?」

「今から機体を降りて確認しに行く!」

上空待機中のブフェーラ2――ローゼルの質問にそう答えつつ、先走り気味な同僚を追いかけるため機体から降りるアヤネル。

「おい! 気を付けろよスレイ!」

「ああ……何てこと……!」

彼女が湿った地面に苛立ちながらもスレイに追いつくと、そこには大破状態で擱座(かくざ)する2機の機動兵器の姿があった。

仰向けに倒れた蒼いMF――セシルのオーディールM2へ紺色のサキモリが追い打ちを掛けようとしている状態で時が止まっている。

「……! スレイ、オーディールのコックピットを見てみろ!」

唖然としながらも目の前の惨状を確認し始めたその時、アヤネルは蒼いMFのコックピットに見慣れた人影を認める。

「セシル大佐……良かった……ちゃんと生きてる……!」

それを聞き終えるよりも先に大破したオーディールへと駆け寄り、コックピット内で意識を失っているセシルの息遣いを確かめるスレイ。

頭から血を流して死んだように動かないが、幸いにも命に関わらない怪我で済んでいるようだ。

「無線で救護班を要請するから、大まかな容態を教えてくれ!」

同僚の今にも泣き出しそうな声を聞いたアヤネルはようやく胸を撫で下ろし、トランシーバーでローゼルとの連絡を試みる。

「(実体剣が敵機の腹部を貫いている……お高くまとまっている人だと思ってたが、意外に泥臭い戦い方もするんだな……)」

通信が繋がるまでの間、決闘の痕跡を眺めていた彼女は隊長――というより貴族階級全般に対する認識を改めるのだった。


「――ル! やっと目が覚めたのね!」

随分と聞き慣れた声がする……。

「……カリーヌ姉さん?」

その声で目覚めたセシルの視界に広がっているのは真っ白な天井――軍病院の病室。

「『敵のエースとやり合って相討ちになった』って聞いて……本当に心配したんだから!」

そして、彼女が横たわるベッドの傍らには涙を浮かべているカリーヌの姿があった。

「心配させるつもりは無かったんだ……ただ、奴は自分の手で倒したかった」

たった一人の姉を泣かせてしまい気まずく思ったのか、包帯が巻かれた頭部に触れながらセシルは自身の作戦行動について弁明する。

「もう……そういう頑固な所は昔から変わらないわね」

「ごめん……」

子どもの頃から続く悪癖をカリーヌに指摘され、珍しくシュンとした表情で呟くように謝るセシル。

「……五体満足で生きていたのなら、それでいいんだよ」

彼女が思い詰めるほど反省している姿を見たカリーヌはそっと妹を抱き寄せ、今は優しく微笑み掛けながらこうして再会できたことを喜ぶ。

「そうだ……私と戦っていた相手はどうなった? 最後に一矢報いた感触はあったが、その後は気を失って分からないんだ」

姉の豊満な胸に顔をうずめて存分に甘えた後、セシルは一騎討ちの結末がどうなったのか尋ねる。

「周辺にそれらしい遺体は見当たらなかったそうよ。コックピットに直撃していなかったから、間一髪のところで脱出したのかも」

怪我をしていても戦いのことを忘れない妹に内心呆れつつ、彼女の救急搬送に当たった兵士たちの報告内容をそのまま伝えるカリーヌ。

ただし、後半部分に関しては個人的な推測であった。

「ああ……そういえば、アヤネルさんから"預かり物"を頼まれているんだった。意識を取り戻したら渡してくれって」

スマートフォンで現在時刻を確認しようとした時、カリーヌは妹の部下からある物を預かっていることを思い出す。

当のアヤネルは"小隊長代行"として各種業務をやらされていたため、詳しい説明は聞けなかったが……。

「これは……?」

「認識票……それもルナサリアンの物みたいだけど」

セシルは姉が取り出した金属製の認識票を覗き込み、顔を見合わせながら互いに首を傾げる。

認識票はルナサリアンの文字で打刻されているらしく、残念ながらアリアンロッド姉妹では判読することは叶わなかった。


 午後5時30分――。

オリエント国防軍総司令部の第1ブリーフィングルームには、本土防衛戦に参加した各組織の精鋭たちが集合していた。

これは国防軍総司令官レティ元帥から緊急要請があったためだ。

「――私がオリエント国防空軍所属、リティス・ドラゴナイト少佐であります」

「こうして顔を合わせるのは初めてかしら? 私はレガリア・シャルラハロート……今更かもしれないけど、スターライガの最高責任者を務めています」

これまで無線越しの会話しかなかったドラグーン隊とスターライガは今日この時が初顔合わせであり、それぞれの代表者としてリティスとレガリアが自己紹介を交わす。

「ええ……訓練兵時代の教本やニュース番組でしか見ないような方と、こうして握手を交わせるなんて」

22世紀生まれの自分にとっては"生ける伝説"である古強者たちに純粋な敬意を示すリティス。

「すげぇな……あのリティス隊長が珍しく(かしこ)まるとは」

「それほどの相手だということだから、多少は敬った方が良いぞ青年」

その姿を意外そうに見つめているフォルカーの肩を叩きながらヤンは忠告する。

「あなたは?」

「ヤン・シャンマオ、『トムキャッターズ』っていうプライベーターの代表兼エースドライバーをしている」

頭の上に?マークを浮かべていそうなレンコにそう尋ねられ、軍人と呼ぶには少々いたいけな若者に自己紹介を行うヤン。

「あたしは海兵隊に所属していたことがあるから、軍人としてはお前らの先輩だな」

「げッ、海兵隊かよぉ……」

彼女が説明の最後にニヤニヤしながら経歴を付け加えると、それを偶然隣で聞いていたフェルナンドは露骨に嫌そうな反応を示す。

海兵隊と言えばガラの悪い荒くれ者が多いことで有名だからだ。

「諸君、静粛に!」

一人の女性軍人がこう言いながら入室した瞬間、ブリーフィングルームの面々は私語をピタリと止めて静まり返る。

この人物――レティ・シルバーストン元帥はマイクがセットされている机の所に立ち、部屋中を見渡してからゆっくりと話を始めるのであった。


「国防軍の精強且つ勇敢な兵士たち、そしてスターライガに代表されるプライベーターの皆さん……よく生き延びてくれました」

まずは本土防衛戦における最高指揮官として戦士たちの戦いぶりを労うレティ。

彼女自身もかつては空軍のMFドライバーだったため、こういった言葉掛けが現場の士気に影響することをよく知っている。

「……そして、有効な作戦を立案できず現場の努力に甘えた不甲斐無さを謝罪します」

ここまでは概ね予想通りの行動だったが、レティが軍帽を脱いで頭を下げたことに対しては驚きの声が上がった。

「(母さん……)」

後ろの方に座っているライガは声こそ出さなかったものの、総司令官の威厳を捨ててまで謝罪する母の姿はさすがに想定していなかった。

「こういう戦略ならば犠牲者を減らせたかもしれない――などと言うのは後の祭り。私はこの戦争を終わらせることで死んでいった仲間たちに報いるべきだと考えています」

息子の視線に気付いたのかレティは軍帽を被り直し、"戦争の早期終結"こそが生き残った者たちの使命だと語る。

「つい先ほど、オリエント連邦政府は各国亡命政府との協議の結果、『ルナ・ダイアル計画』の発動を承認しました」

「(ルナ・ダイアル計画……月への侵攻作戦か)」

続けてレティが「ルナ・ダイアル計画」について明言したことを受け、その内容をある程度把握しているライガは眉をひそめる。

「今回の防衛戦における最大の功労者たる皆さんを集めた理由は他でもありません。あなたたちにルナサリアン本土攻略作戦への参加を要請します」

ここでレティはようやく息子を含む精鋭たちを招集した理由を明かす。

数多くの困難が予想されるルナ・ダイアル計画――すなわちルナサリアン本土攻略作戦は、38万キロの旅路に堪え得る屈強な戦力を必要としていた。

【軍病院】

セシルが搬送された病院の正式名称は「オリエント国防軍ヴワル基地内病院」。

本来は彼女ような負傷兵や傷痍軍人、軍関係者の家族のみ利用可能な保健衛生・福利厚生を兼ねた施設である。

ただし、緊急事態の際は上記以外の受け入れも行うことで、一般病院や大学病院の負担を軽減する工夫が為されている。

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