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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-85】風よ、鈴の音をも呑み込め(前編)

 勝敗は決した。

超兵器を失い主力艦隊にも打撃を受けているルナサリアンは目標達成不可能と判断し、オリエント国防軍の最終防衛ラインを前に撤退を余儀無くされる。

「スズ! 待ちなさい!」

だが、撤退命令を無視して戦うつもりでいる妹スズランに姉のスズヤは手を焼いていた。

「お前一人で殿(しんがり)をやるつもりか!? 自己陶酔って言うんだよ、そういうのは!」

「全く、あんたの言う通りだ……私は本気でやり合いたい相手を見つけてしまったのさ」

モミジから自身の行動を"自己犠牲を免罪符にしているだけ"と指摘されるが、スズランは謝るどころか逆に"どうしても倒したいライバルがいる"のだと開き直る。

「あなたの行動は許可できない! 私の指示に従いなさい……お願いだから従ってッ!」

一般部隊よりも指揮系統が上位であることを根拠にスズヤは妹に指示を出したものの、言葉で止めることはとうとう叶わなかった。

「ったく、無駄に腕が良いヤツを(しつ)けるのは大変だな」

新兵時代から有り余るほどの才能は認める一方、若さゆえの危なっかしさについても愚痴るモミジ。

傑出した技量と勇気を持つが、突出しがちで連携が苦手――。

"戦士"としては文句無しに超一流だが、"兵士"としての自覚には若干欠ける――。

スズランに対する年長者からの評価は概ね共通していた。

「モミジ、親衛隊と紺部隊(ヨミヅキ隊)の指揮権を一時的に預けます。あなたたちは先に撤退して」

言うことを聞かない妹を力尽くでも連れ戻すべく、スズヤは指揮権を同僚に託すと単独行動を開始する。

皮肉にもそれは勝手に飛び出したスズランと同じやり方であった。

「……了解、上層部への弁明は任せておけ」

スズヤの命令違反についてモミジは特に咎めず、それどころか自分も共犯者になってやると笑みを浮かべる。

「その代わり、必ず姉妹で帰って来いよ」

そして、彼女はスズヤのツクヨミ(皇族親衛隊仕様)を見送りながら激励の言葉を掛けるのだった。


 一方その頃、オリエント国防軍及びプライベーター同盟は撤退中のルナサリアンに対する追撃を開始していた。

「スカイロジックより全機、敵戦力の約80%の撤退を確認した。残りの20%が最後まで粘る部隊というわけね」

AWACS(エーワックス)スカイロジックは敵が敗走し始めていることを報告し、残存戦力を全て叩くよう指示を出す。

この調子を維持できれば遅かれ早かれ戦闘は終結するだろう。

「……レーダー画面でも分かるほど速いヤツが2機いる。ゲイル、ブフェーラ、あなたたちが一番近いわ」

だが、そうは問屋が卸さないと言わんばかりに動きの違う敵機が現れ、スカイロジックは最も近い位置にいる2個小隊に警戒を呼び掛ける。

「私たちが迎撃しろってことだろ? 分かっているさ……エースをぶつけなければいけない相手ってことは」

それを"お前たちで何とかしろ"という意味で受け取ったリリスは呆れたように肩をすくめ、表情を引き締めながら自身の役割を再確認する。

「(2機? 片方はアイツだとして、もう片方は何者なんだ……?)」

同じく指名を受けたセシルは敵エースが2機いることを懸念しており、特に戦い方をまだ把握できていない"もう片方"の存在に注意を払う。

「ゲイル1! ここは私とあんたで迎え撃とう!」

「了解、それ以外の機体は援護に回す」

珍しく闘志を(たぎ)らせているリリスから声を掛けられ、それに返答しつつ僚機には後ろへ下がるよう命じるセシル。

エースにはエースをぶつけなければ勝つことは難しい。

「接敵まで30秒! あなたたちは敵のエースよりも速く飛べる……交戦を許可する!」

接敵までの時間を計ってくれているスカイロジックから改めて交戦許可が下りる。

「目標捕捉! やっぱりあの姉妹か!」

「今日こそ決着を付けてやるぞ、ヨミヅキ・スズラン!」

リリスとセシルは機上レーダーで敵影――試製オミヅヌとツクヨミ(皇族親衛隊仕様)を捕捉すると、先手を打つべく速やかに攻撃態勢へ移るのであった。


「ターゲットロック! マイクロミサイル、シュートッ!」

「二手に分かれた! やはりルナサリアンはそう来たか!」

増加装甲"SG-BOOSTER"に内蔵されたマイクロミサイルを一斉発射するリリスとセシルのオーディールM2。

当然ながら単純な攻撃など当たるはずが無く、ヨミヅキ姉妹は鋭い機動(マニューバ)を描きながら散開していく。

「新型の相手は私がする!」

ヨーロッパ戦線以来のライバル関係に終止符を打つべく、セシルは新型――スズランの試製オミヅヌを相手取ることを宣言する。

「よし、ならば親衛隊長の方は任せてくれ!」

消去法で親衛隊長――スズヤのツクヨミを押し付けられたリリスも不満を漏らすこと無く自分の戦いに臨む。

「姉さん! あんたが来たら意味が無いじゃないか!」

「あなたを引きずってでも連れて帰るためよ! あいつらを倒してさっさと戻りましょう!」

他方、結局姉と共闘することになってしまったスズランは"自分が殿を引き受けた意味が無い"と憤慨するが、それはたった一人の妹を守るためだとスズヤは窘める。

「姉さん……ありがとう」

その言葉に対するスズランの反応は随分とありきたりなモノだ。

ただ、姉の想いは確かに伝わっているように見える。

「"蒼い悪魔"の不敗神話はここで終わらせる! 私たち姉妹の手で!」

同僚と交わした約束を守るため、スズヤは妹と共に2機の蒼いMFへ勝負を仕掛けるのだった。


 スズヤとリリスの実力はほぼ互角だ。

経験値は前者の方が豊富だが、後者には"思い切りの良さ"という強い武器がある。

「(あの機体の乗り手、やはり良い腕をしているわね。機動力重視の巡航形態でしっかり追従してくる)」

蒼いMFに背後を取られながらも冷静に相手の技量を分析し、反撃のタイミングを計るスズヤ。

「(素早いうえに冷静な奴だ……! 照準を合わせるタイミングが全く無い)」

対するリリスは全く隙を晒さない藤色のサキモリにどう仕掛けるか悩んでいた。

ロックオンしようにも巧みな回避運動をされると狙いが定まらない。

「ファイア、ファイアッ!」

結局、彼女のオーディールは電子制御に頼らない直接照準でレーザーライフルを連射する。

速すぎる相手には電子制御によるアシストが追い付かないためだ。

「当たるものか!」

しかし、スズヤのツクヨミは急加速と鋭い旋回で蒼い光線を回避。

追いかけられる状況を切り崩すことに成功する。

「くそッ、なんて運動性をしていやがる!」

「深く踏み込み過ぎたわね! 直撃させる!」

通常のツクヨミとは比べ物にならない運動性に驚くリリスとの読み合いを制し、一瞬の隙を見極めたスズヤは光線銃による連続攻撃を仕掛ける。

「被弾した!? だが、増加装甲に数発貰っただけなら!」

2~3発の被弾など気にすること無く戦闘を継続するリリス。

その程度の攻撃ならば増加装甲が受け止めてくれる。

O.D.A.F(オーダフ)のエースはセシルだけじゃないんだよッ!」

相手が光線銃を撃ち尽くしたタイミングでリリスのオーディールは増加装甲をパージ。

運動性を最大限引き出せる状態で反撃へと転じるのであった。


 ライバル関係にあるセシルとスズランに実力差はほとんど無いと言っていい。

どちらも格闘戦を得意としており、しかも今回は両者共に可変機に搭乗している。

大きな差が付くとすれば、機体性能とそれに対する習熟度が要因となるだろう。

「(高性能な新型を駆るエースとは厄介だ……だが、負けはせん)」

未知の新型機へ乗り換えたライバルに警戒しつつ、上下左右にせわしなく動くレティクルが安定する時を待つセシル。

「ファイアッ!」

H.I.Sに最適な攻撃タイミングを意味する"SHOOT"の表示が出た瞬間、彼女は右操縦桿のトリガーを引く。

「ッ! かわされた!?」

仮に相手が並程度の実力であれば確実に当てることができただろう。

だが、卓越した技量を持つスズランは失速を織り交ぜた回避運動でレーザーを全てかわし、冷静沈着なセシルを驚愕させる。

「(ツクヨミに乗っていた時は性能差に悩まされたが……このオミヅヌならば互角以上に戦える!)」

量産機ベースのツクヨミ指揮官仕様ではスズランの能力を最大限引き出すことは難しかった。

しかし、試作機とはいえ綿密な調整が行われているオミヅヌならばその心配は無い。

「この一撃で決めてやるッ!」

失速中に人型形態へと変形しながら専用カタナを抜刀し、それを蒼いMFの上部に取り付きながら突き立てようとするスズランのオミヅヌ。

「張り付かせるものかッ!」

無論セシルの方も黙ってやられるつもりは無く、愛機オーディールの機動力を活かした急加速で強引に振り払う。

「その機体、やはり可変機だったか」

「こいつはお前たちのオーディールに対抗して作られた機体だ」

何とか態勢を立て直しつつ敵機の特徴に言及するセシルに対し、スズランは「オミヅヌはオーディールに勝つために生まれた機体」だと答える。

「腕が互角なら性能はこちらの方が上だ!」

専用カタナを構え直しながら新型機のアドバンテージを主張するスズラン。

「改良されたオーディールをナメるなよ……性能が同等なら実力で差を付けるまで!」

対等な条件で戦うべくセシルは機体を人型のノーマル形態に変形させ、実力者だけが許されるビームソード二刀流のスタイルで迎え撃つ。

強者同士による剣戟(けんげき)――戦士としての誇りを懸けた"死合い"が始まろうとしていた。

【Tips】

MF戦における二刀流は「守りを犠牲にした攻撃特化の型」と評される。

そのため、セシルのような高い技量を持つドライバーを除き、実戦で積極的に二刀流を披露することは無い。

銃火器の二丁持ちも同様の理由からあまり見られない戦闘スタイルである。

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