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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-83】願いと祈りを込めた一撃

 左翼側の複合サイクルエンジンに大きなダメージを受け、傾きながら飛行を続ける超兵器ヤマタオロチ。

墜落しないようバランスを保つだけで精一杯なのは外から見ても明らかだ。

「1番から6番発動機、全基停止! 針路の維持が困難です!」

「7番以降には手を出さなかった……時間が無かったのか、それとも我々は策にハメられたのか」

エンジン停止に伴う各種トラブルの報告を聞いたエンジュは首を(かし)げる。

仮に右翼側のエンジンも破壊すれば更に推力バランスが崩れ、墜落は時間の問題となったはずだ。

にもかかわらず、果敢にも単独で吶喊(とっかん)してきた敵MFは左翼側のエンジンだけを壊していった。

そこに何の意図が込められているのかは全く以って予想が付かない。

「艦長! 前方より敵艦隊が接近中! 数は巡洋艦級1に駆逐艦5、おそらく水雷戦隊と思われます!」

「くそッ、電離気体砲をやられた時の傷口に追い打ちを食らったらマズイぞ! たとえ水雷戦隊といえど真上を通過するわけにはいかん!」

今優先すべきは作戦目標の達成である。

ヤマタオロチに蓄積しているダメージを考慮した結果、エンジュは敵艦隊との距離を置きながら前進することを命じる。

「了解! 可能な限り回避運動を取ります!」

悪化していく操縦性にピリピリしつつも"最善を尽くす"と答える操舵士。

「敵戦力の大半は護衛艦隊が押さえてくれている! ここを切り抜ければ我が方の勝利は目前だ!」

苦しい状況下でも任を(まっと)うしようとする乗組員たちの覚悟を無駄にしないよう、愛用の鉄扇を振りかざしながらエンジュは更なる奮起を促すのだった。


「艦隊前進! 敵超兵器の行動を制限するのが私たちの役目よ!」

巡洋艦級――重雷装ミサイル巡洋艦「アドミラル・エイトケン」のメルト・ベックス艦長は随伴艦隊に前進を指示。

「こちら第8艦隊隷下第17高機動水雷戦隊、これより戦線へ合流します!」

ヤマタオロチの針路上に布陣することで行動妨害を図りつつ、本隊にあたる第8艦隊への合流を宣言する。

「アドミラル・エイトケン……! 近代化改修の艤装のためドック入りしていたはずでは?」

元海軍関係者という立場ゆえ、今はスターライガに所属しているミッコも軍内部の事情にはそれなりに詳しい。

現役時代の教え子からのタレコミでは、"アドミラル・エイトケンは近代化改修中のため不参加"と聞いていたが……。

「ええ、じつはまだ試験航海の段階で……しかし、それでも戦力の埋め合わせ程度にはなります」

その辺りの気になる予定変更についてはメルト自身が語ってくれた。

おそらく戦闘開始直前に改修作業自体は終了したため、"とりあえず動かせるから"という根拠で前線に送り返されたのだろう。

今日の戦いはそれほどまでに切迫しているのだ。

「ベックス艦長、その辺りの事情は先ほど海軍司令部から連絡があった。せっかく近代化改修されたばかりの(ふね)を沈めないようにな」

「はい! 艦と100人以上の乗組員の命を預かっていますから!」

望外の援軍にも浮かれず対応するサビーヌ艦隊司令から心強い激励を受け、力強い返答を以ってそれに応じるメルト。

「スカイロジックよりゲイル及びブフェーラ隊、両部隊はエイトケンの直掩に回ってちょうだい。その方が安心できるでしょ、セシル大佐?」

ここでAWACS(エーワックス)スカイロジックは気を利かせたのか、アドミラル・エイトケンを母艦とするゲイル隊及びブフェーラ隊に行動目標の変更を通達する。

……厳密にはセシル個人に対するお節介焼きなのだが。

「ゲイル1、了解。母艦を守らないと帰る場所が無くなるからな」

「(あ……噂通り女心には疎いみたいね。私はそういうつもりで話を振ったわけじゃないんだけど)」

しかし、せっかくの配慮を肝心のセシルは全く理解しておらず、生真面目な彼女の言動にスカイロジックは内心呆れてしまうのであった。


 一方その頃、アドミラル・エイトケンのCIC(戦闘指揮所)では超兵器相手にどう出るか議論が交わされていた。

「この時点で既に相当ダメージを負っているようだが……ルナサリアンの超兵器ってのはどうしてこんなにタフなんだ」

「エイトケンは近代化改修でMF運用設備を拡張した分、後部主砲の撤去で最大火力が低下しているわ。私たちの手でトドメを刺すのは難しいわね」

副長であるシギノ・アオバ少佐の悪態に同意するわけではないが、近代化改修に伴う艦の性能変化について説明するメルト。

ゲイル隊の活躍で艦載機の搭載数増加が認められた代わりに、格納庫と干渉する後部主砲をやむを得ず撤去してしまったのだ。

「んじゃ、どうするんだよ?」

「決着を付けるのはヴォヤージュ基地のマスドライバーよ。私たちはできることを精一杯――最後の一撃のお膳立てをすればいい」

操舵輪を握るマオ・メイロン中尉から次の一手について尋ねられると、メルトは自分たちの役目はあくまでも露払いだと答える。

「全艦、対艦戦闘用意! 対艦ミサイルによる飽和攻撃を仕掛ける!」

その言葉を実行するかのように彼女は指揮下の水雷戦隊に"対艦戦"の指示を出す。

「VLSに対艦ミサイル装填完了! いつでも発射行けます!」

「随伴艦より入電! 全艦攻撃準備完了とのことです!」

火器管制官のフランチェスカ・コバト中尉が的確に兵装準備を進めつつ、オペレーターのエミール・カザマ少尉は随伴艦隊「第6駆逐隊」の状況を艦長へ伝達する。

「攻撃指示のタイミングを本艦に一任! カウントダウン5秒前!」

報告を聞いたメルトは号令は自身が引き受けることを宣言し、そのままの勢いでカウントダウンを開始。

「3、2、1……撃てーッ!」

意味が無さそうなほど短いカウントの(のち)、彼女はヘッドセットマイクに向かって力強く叫ぶのだった。


 時を同じくしてこちらは第8艦隊旗艦アカツキのCDC(戦闘指揮所)。

「第27戦隊より入電! 『我ガ艦隊ハ旗艦ヲ失イ壊滅状態ニアリ。付近ノ味方艦隊トノ合流許可ヲ求ム』!」

「第27戦隊の残存艦隊は直接指揮下に入れる! こちらへ合流するよう返信せよ!」

オペレーターから巡洋艦主体の第27戦隊が壊滅したという一報を受け、速やかに残存艦隊の再編成を指示するサビーヌ。

激戦が長く続いているためか、気が付くと自身の指揮下へ移した僚艦が大量に増えていた。

ちなみに、本来彼女が直接指揮を執るのは空母アカツキ及びその随伴艦で構成される「第9空母機動艦隊」だけである。

「相手は動き方を変えてきましたね。少しでも我々と『ドラゴン』を引き離す作戦でしょうか」

「こちらの消耗もかなり激しい。目の前の敵主力艦隊を突破するのは難しいだろう」

敵艦隊が防御重視の戦い方に切り替えてきたことを指摘するコーデリア副長に同意し、サビーヌは自分たちの戦力を考慮した分析結果を述べる。

「……だが、ここで沈むわけにはいかない。あと2分耐えればマスドライバーの砲撃が飛んで来るはずだ」

そのうえで彼女は更に付け加える。

この2分間を凌げば必ず勝機はある――と。

「意外と熱い女じゃないか、艦隊司令官さん。あんたの言う通りこの2分が勝負所だよな」

決意に満ちた言葉を聞き遂げたシリカはサビーヌを"熱い女"と評すると、乗艦のトムキャッターズ母艦ケット・シーを前進させる。

「正規軍と比べたら貧弱な戦力ではありますが、微力ながら我々も手伝わせていただきます」

一方、ロータス・チームのノゾミも戦闘向きとは言い難い母艦トリアシュル・フリエータで前線に飛び込み、第8艦隊への助太刀に入る。

「この状況では正規軍もプライベーターも関係ありません。未来を信じる気持ちは同じですから……!」

所属の違いなど今はどうでもいい。

それを身を以って示してくれた二人に感謝しつつ、サビーヌは自分たちの前を塞ぐ敵艦隊旗艦を睨みつけるのであった。

「全艦、ルナサリアンに教えてやれ! 追い詰められたオリエント人はオオカミよりも狂暴だということを!」


 愛機イザナミを中破させてしまったオリヒメは何とかルナサリアン艦隊旗艦シオヅチへ戻り、専属トレーナーと共に更衣室で心身のクールダウンに努める。

「お疲れ様です、オリヒメ様。機体が中破したと聞いたときは不安でしたが……よくご無事で」

「……」

敗北のショックがよほど大きかったのか、彼女は専属トレーナーの呼び掛けに答えることができない。

「あの……大丈夫ですか?」

「え? あ、ええ……ちょっと一人にさせて。今は気持ちを落ち着かせたいの」

2回目の声掛けでオリヒメはようやく驚いたように反応し、一人になりたいという理由で専属トレーナーを部屋から追い出す。

「分かりました。御用があるときはお呼びください」

「ふぅ……」

更衣室のドアが閉じられたところで彼女は深く息を吐き、戦闘服を脱ぎながらベンチの上に横たわる。

「(文官上がりで本職の人間には劣る自覚があるとはいえ、ああまでコテンパンにされるとは……)」

自身のために作られた専用機の華々しい初陣と苦い敗北を頭の中で振り返るオリヒメ。

妹と異なり元々傑出した戦闘技術を持っているわけではないが、シールドバッシュの一撃で叩きのめされたのはさすがに想定外だった。

「(彼に勝つにはどうすればいい? 機体性能をもっと向上させるべきなの? いえ、まずは自分の腕を磨くべきかしら?)」

そのうえで彼女は考える。

彼――ライガと互角に戦い、勝利を収める方法を必死に探す。

ロールアウトから間もないイザナミにはまだまだ性能向上の余地がある。

そして、それを駆るオリヒメ自身にも"エイシとしての伸び代"が残されているはずだ。

「(いずれにせよ、指導者として文武両道の"強者"にならなければ……!」

強敵に勝ちたいという純粋な願い、月の民が指導者たる自分に求めている要素――。

誰にも相談できないプレッシャーの中、彼女もまた"覚醒"の兆候を見せ始めていた。


 空で戦っている面々は最善を尽くしている。

だからこそ、ヴォヤージュ航空宇宙基地のスタッフたちもできることを精一杯やらなければならない。

「管制センターより通信班、回線の確保はできているか?」

「有線、無線、伝令――三重にバックアップしていますよ!」

「これより最終確認を実施する。各班は報告を行え」

打ち上げ管制センターの最高責任者を務めるブルース・マクネアリは通信システムの状態を確認した(のち)、今回の"打ち上げ"に携わる各部署に状況報告を求める。

「各班の主任より入電……全て問題無いとのことです」

「よし、誘導班及び制御班は照準の最終調整を! チャンスは一度だけだ!」

誘導、航法、制御、計測、通信、航空力学――。

各部署から準備完了の報告が上がってきたため、ブルースは失敗の許されない打ち上げにゴーサインを出す。

「カウントダウン! 15、14、13、12、11――」

「(網に掛かったな……! この一撃で沈んでくれよ!)」

オペレーターのカウントを聞きながら祈るように大型スクリーンを見つめるブルース。

画面上で黄色く表示されている射線に敵超兵器は誘い込まれている。

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……ファイヤッ!」

カウントダウンが終わった次の瞬間、別の画面に映っている大気圏離脱用カプセルが蒼い電流を(まと)いながら射出される姿が見えた。

「大気圏離脱用カプセル加速中!」

「CP1通過! CP2通過! CP3通過!」

即席の徹甲弾として用いられるカプセルは順調に加速していき、マスドライバー上に設定されている3つのチェックポイントも無事通過。

「……総員、よくやってくれた」

自分たちができることは完璧にやり遂げた――。

ようやく肩の力が抜けたブルースは管制センターのスタッフたちを労いつつ、引き続き状況の監視を続けるのだった。

【戦闘服】

ルナサリアンのエイシ用戦闘服は地球のコンバットスーツと異なり、プロテクターを内側(ボディスーツと上下一体型インナーの間)に装着する。

この構造上着用者のボディラインが浮き出やすいが、ルナサリアンは女性しかいないので問題視されていないらしい。

頭部及び頸部を保護するヘルメットやHANS(頭部前傾抑制具)との併用は地球と同じである。

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