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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-82】タイムリミットは60秒

 ヴォヤージュ航空宇宙基地――。

オリエント連邦西部の都市ヴォヤージュに位置する空軍基地で、西部国境線の防衛及び宇宙開発拠点として機能している。

敷地内の2基のマスドライバーは軌道エレベーターと並ぶオリエント連邦の科学技術力の象徴である。

「オーライ、オーライ、オーライ……よし! 固定作業開始!」

そのマスドライバーのうち南側に設置されている「β(ベータ)マスドライバー」では、大気圏離脱用カプセルの打ち上げ準備が急ピッチで進められていた。

「重さと密度が重要になるわ! それらの条件に適う鉄屑を持って来て!」

ただし、これは通常の打ち上げではない。

ペイロードの管理を担当する女性スタッフが鉄屑――重金属の破片の搭載を指示していることからも異様さが窺える。

「ったく、大気圏離脱用カプセルを砲弾代わりにするなんて正気の沙汰じゃないな」

資材置き場から回収された大量の鉄屑を小型ダンプに積載しつつ、ドライバーを務める男性兵士は軍上層部の無茶ぶりを愚痴る。

「基地司令が総司令部に急かされて承認したんだとさ。超兵器の重装甲をぶち抜くために使うらしい」

一方、同じ車両の助手席に乗り込んだ女性兵士は事情を把握しているらしく、同僚に対し荷台の鉄屑の用途を説明する。

「お前たち、喋ってる暇があったら動け! 8分で準備を終えないと間に合わないんだぞ!」

それを見た"鬼軍曹"と呼ばれている別の女性兵士はダンプトラックのドアを叩き、さっさと作業中の2番マスドライバーへと向かうよう急かす。

「(この基地を防衛してくれた連中が今はヴワルの方で戦っている。少しでもその恩返しをしたいんだ)」

彼女だけではない。

ヴォヤージュ基地に勤務する全員が超兵器撃墜のために協力してくれているのだ。


「スカイロジックより全機、今からマスドライバーの射線をH.I.Sに表示させるわ。『ドラゴン』がその範囲上に入ったところで"砲弾"を発射し、一撃必殺を狙う算段よ」

ヴォヤージュ基地から情報を受け取ったAWACS(エーワックス)スカイロジックは戦術データリンクを更新し、各機のH.I.S(ホログラム・インターフェース)に予測攻撃範囲を割り込み表示させる。

レーダー画面上に新しく出てきた黄色い部分がそれだ。

「賢明な作戦だと思うけど……問題は『ドラゴン』をおびき寄せる方法ね」

情報を取得したヒナは作戦内容自体は適切だと評価するものの、その実現方法については懸念事項を述べる。

「ああ、(やっこ)さんには明確な攻撃目標がある。そう簡単にホイホイとは動いてくれないだろうな」

彼女の僚機を務めるリュンクスが指摘している通り、(あらかじ)め攻撃目標を決めていると思われる「ドラゴン」の動きを変えるのは至難の業だ。

「現在の針路を維持された場合、最終防衛ラインまでに射線上へ入れることはできない。もう少し西側に逸れてくれれば……」

スカイロジックの論理的計算によると、このままではせっかく設定した射線上に敵が入らないという。

一度でも攻撃チャンスを作るには、マスドライバーの延長線上に超兵器を誘導しなければならない。

「……左翼側のエンジンを破壊しましょう」

そこでレガリアは「ドラゴン」のエンジンにダメージを与え、機動力を奪うことを提案する。

「推力のバランスを崩すことで針路を維持できなくする――というわけですね」

その意図を察したロサノヴァも技術者としての観点から太鼓判を押し、これ以外の方法はおそらく無いとAWACSに伝える。

「計算上は針路を最低でも30°以上西側に逸らせば、一度だけ8秒間の攻撃チャンスが生まれるわ」

レガリアの提案を基に再計算を行い、ロサノヴァの主張が正しいことを計算結果で証明するスカイロジック。

「ただし、約60秒以内に成功させないと針路を変える術は無くなるわよ」

最大の問題はタイムリミットがあまりにも厳しすぎることだが……。


「60秒……MF戦の世界じゃ気が遠くなるような時間じゃないか」

タイムリミットは約60秒――。

それを聞いたライガは珍しく不敵な笑みを浮かべ、愛機パルトナ・メガミ(決戦仕様)と共に単独で突出する。

「ライガさん!?」

「ここは俺にやらせてくれ! レンカやミッコ艦長が無茶で道を抉じ開けたんだ! リーダーの俺が体を張らないでどうする!」

僚機に指示を出さない独断専行にクローネが驚いていると、その理由をライガ自身が答えてくれる。

比較的大人しい性格の彼がここまでの気迫を見せることは非常に珍しい。

「スカイロジックよりパルトナ、今から攻撃すべきターゲットを――」

「何をやるべきかは分かっている!」

他に志願者が現れなかったことからスカイロジックはデータリンクの更新を行おうとするが、ライガのパルトナは既に行動を開始していた。

「何をするつもりか知らないけど……簡単には進ませないわよ!」

単独行動中の白と蒼のMFの行く手を阻むべく、本気のライガを知らないオリヒメは無謀にもタイマン勝負を挑んでしまう。

「オリヒメ! お前に構っている暇は無い!」

「こ、このまま突っ込んで来るつもり……!?」

空中衝突しかねないほどの速度で接近する敵機に困惑しつつも、乗機イザナミの長銃身大型光線銃でこれを迎え撃たんとするオリヒメ。

「邪魔だッ! どけぇぇぇぇッ!!」

しかし、両者の技量差は歴然としていた。

二条の蒼く太いレーザーをかわしながらライガのパルトナは新型シールド先端部のクローを展開。

すれ違いざまにイザナミの腰部へ食い込ませると、運動エネルギーを活かしそのまま真っ二つに切り裂くのだった。


「きゃあああああッ!」

上半身と下半身に分断され、為す術無く姿勢を崩すオリヒメのイザナミ。

イザナミは下半身側にメインスラスターを集中配置した構造のため、そちらを失うと姿勢制御に著しい支障をきたすのだ。

「姉さんッ!」

せめて姉が乗っている上半身側だけでも回収するため、ユキヒメのイザナギはフルスロットルで白と紫のサキモリを追いかける。

「大丈夫か! 怪我はしていないかッ!?」

「ええ、身体の方は大丈夫……」

オリエント国防軍及びスターライガが追い打ちを好まない、高潔な騎士道精神の持ち主たちであることは幸いだった。

イザナミのバックパックを愛機の右腕で掴みながら身を案ずるユキヒメに対し、首を横に振りつつ"問題無い"と答えるオリヒメ。

実際には機体性能ではカバーできない技量と覚悟の差を見せつけられ、問題しかなかったのだが……。

「とにかく……その損傷状況では戦闘続行は不可能だ。今日はここまでのようだな」

姉の機体が酷いダメージを負っていることから、ユキヒメは自機の補給も兼ねて一時撤退を決断する。

「親衛隊長、私は姉上と共に一度帰艦する。戦線に復帰するまでの間は貴様ら姉妹に任せるぞ」

彼女は通信回線を開くと、親衛隊長ことスズヤ及びその妹スズランに戦線の維持を命じる。

「はッ! このヨミヅキ姉妹、必ずやご期待に添えてみせます!」

「(私まで巻き込むなよ……まあ、いいんだけどさ)」

ヨミヅキ姉妹の反応には温度差があったが、二人ともまだまだ長期戦に堪え得るだけの余力を残していた。


 難敵を突破したライガのパルトナ・メガミは濃密な対空砲火の弾幕をも(くぐ)り抜け、ついに超兵器ヤマタオロチの懐まで肉薄する。

「(見た目通り装甲は分厚そうだ。闇雲に攻撃してもダメージは期待できないだろう)」

せっかくここまで近付けたので一応防御力を確認してみるが、やはりMFの攻撃力では簡単にはいかない相手のようだ。

「タイムリミットまで32秒! 急がないと間に合わないわ!」

「移動とオリヒメの相手で少し時間を食ったな……!」

攻撃可能位置までの移動に要した時間は約30秒。

スカイロジックに急かされつつライガはタイムロスの原因を冷静に分析し、速やかに攻撃態勢へと移行する。

「だが、そのタイムロスは効率的な攻撃でカバーする!」

彼の機体は中距離での撃ち合いを得意としており、KNM106"アキツシマ"ウェポンモジュール装備時はその傾向が更に強まる。

今回のように複数の目標に対し攻撃を行わなければならない状況との相性は悪くない。

「一斉射撃だ! 降り注げ、星の光!」

ヤマタオロチの左翼側の複合サイクルエンジン6基をマルチロックオンすると、白と蒼のMFは俗に「スターダスト・アレイ」という技名で呼ばれる一斉射撃を放つ。

「残り20秒!」

「これだけ撃ち込んでもダメか……まだ終わっちゃいない!」

AWACSによるカウントダウンが冷酷に進む中、ライガは残弾数に余裕が無い愛機に鞭打って攻撃を継続する。

「お前が狙っている場所には母さんがいるんだよ! 弾丸の一発も通すわけにはいかないんだッ!」

生まれ育った祖国と愛する家族――そして何より、女手一つで育ててくれた母親を守るためにも彼は諦めない。

「残り10秒ッ!」

「V.S.L.C、フルパワーモード! ファイアッ!」

10秒間で取れる選択肢は自ずと限られてくる。

その状況下でライガが選んだのは、決戦仕様時のみ可能な腰部可変速レーザーキャノンの最大出力発射であった。


「ふぅぅぅぅぅぅ……」

ライガが大きく息を吐くのと連動するようにパルトナ・メガミの全身から白い湯気が上がり、内蔵エネルギーを使い切ったウェポンモジュールをパージする。

V.S.L.Cのフルパワーモードは今回が初使用だったため、まだまだ調整が必要なようだ。

「や、やったのか……!?」

わずか60秒の間の出来事に呆気に取られているヴァイル。

「データ測定中……凄い、予想値よりも針路が大きくズレている! 大成功よ!」

あまりにも展開が速すぎたためか、スカイロジックが成功報告を行っても今回は歓声が上がらなかった。

「傑出した技術と勇気で奇跡を呼び起こす――スターライガのトップエースの姿、しかとこの目に焼き付けましたわ」

とはいえ、幸運にも一部始終を見届けることができたローゼルは"生ける伝説"の実力を直に感じ取り、自分もいつか同じ領域に辿り着きたいと感想を述べる。

「今の状態ならマスドライバーの照準合わせに使える時間が12秒になる。4秒も猶予が増えるのは大きいわよ」

それはともかく、スカイロジックはライガの奮闘のおかげで4秒の時間的余裕が生まれたことをついでに伝える。

「ライガ……大丈夫?」

「年甲斐もなく張り切り過ぎたかもしれん……でも、戦闘続行に支障は無い。もう一度編隊を組み直すぞ」

外から見て分かるほどのオーバーヒートを心配するサレナに対し、幼馴染を不安にさせないよう笑いながら集合指示を出すライガ。

「ルナサリアンは知らないんだよ。人類と"中央"は無礼(なめ)ちゃいけない――ってことをね」

もう一人の幼馴染であるリリーはホッと胸を撫で下ろすと、どこかのゲームかマンガの名台詞を引用しつつ気合を入れ直す。

本土決戦は少しずつ……そして確実に終局へ向かおうとしていた。

【大気圏離脱用カプセル】

マスドライバーでの打ち上げに特化した宇宙輸送用コンテナ。

形状は空気抵抗と断熱圧縮の軽減及びペイロード確保を意識した卵形である。

簡易的なサブスラスターが数基装備されており、射出後も管制センターからの遠隔操作による姿勢制御が可能。

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