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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-80】飛竜直下

 戦闘開始から約3時間半――。

両陣営に疲労の色が見え始めているが、この大規模戦闘はどちらかが折れるまで終わりそうにない。

「『アポローン』の発射を確認! 弾着まであと20秒!」

超兵器ヤマタオロチの主兵装である「アポローン」――炸裂弾頭ミサイルの発射を確認し、作戦行動中の全軍へ警告を行うAWACS(エーワックス)スカイロジック。

「あれが誘導用のドローン……逃がさない!」

その炸裂弾頭ミサイルの最終誘導を担う無人航空機を発見したクローネは速やかに迎撃へ移行。

振り切られる前に愛機シューマッハの試製レーザーカービンでこれを撃墜してみせる。

「ルナサリアンめ、市街地ごと総司令部をやるつもりかよ!」

一方、同じく無人航空機を仕留めたブランデルはルナサリアンの攻撃目標を見抜き、無差別攻撃すら躊躇わないやり方に憤慨する。

ヴワルはオリエント連邦最大の都市にして、彼女自身と姉のレガリアが生まれ育った大切な故郷。

そこを蹂躙することなど決して許せるはずがなかった。


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……弾着!」

スカイロジックによるカウントダウンの直後、相変わらず雲一つ無い蒼空に蒼白い閃光が複数炸裂する。

炸裂弾頭ミサイルは事前情報で存在自体が知られていたためだろうか。

この攻撃に驚く者はもういなかった。

「巡航ミサイルの迎撃には別途戦力を割くべきかもしれない。一発でも撃ち漏らしたら民間人にも被害が出る」

衝撃波で姿勢を崩さないよう乗機シルフシュヴァリエBSTを安定させつつ、炸裂弾頭ミサイルが攻撃目標とみられるオリエント国防軍総司令部まで到達した時の被害を懸念するサニーズ。

総司令部はヴワル海軍基地及び空軍基地の敷地内に存在しているが、基地周辺には非番の軍人相手に商売を行う店が数多く立ち並んでいる。

「サニーズさん、それは我々に任せてください。ブースター付き増加装甲を装備したオーディールの機動力ならば追いつけます」

そこで、彼女のことを尊敬しているセシルは炸裂弾頭ミサイルの迎撃を自ら買って出た。

ブースター付き増加装甲"SG-BOOSTER"を装備するオーディールM2型ならば、確かに機動力を活かした迎撃が期待できる。

「スカイロジックよりゲイル1、貴隊とブフェーラ隊はヴワル市街地を標的とする巡航ミサイルの迎撃を!」

セシルの提案をスカイロジックはすぐさま承諾し、言い出しっぺのゲイル隊とブフェーラ隊に最終防衛ラインでの邀撃(ようげき)を命じる。

「こちらゲイル1、了解した! 全て撃ち落としてやる!」

「ブフェーラ1、了解! 『ドラゴン』の相手はスターライガに任せた!」

それぞれが指揮する小隊を引き連れ、炸裂弾頭ミサイルが通過する可能性が高いエリアへ急行するセシルとリリス。

距離の都合上、この2部隊を「ドラゴン」への攻撃に参加させることは難しい。

「さて……そこまで言われたら、やってみせないとな!」

役割分担をしっかりと機能させるべく、リゲルはコックピットの中でもう一度気合を入れ直すのだった。


 炸裂弾頭ミサイル、サーモバリック巡航ミサイル、広域プラズマキャノンという"三種の神器"が光る「ドラゴン」ことヤマタオロチだが、合計100基近く装備されている各種対空兵器も非常に鬱陶しい。

「くそッ、ハリネズミみたいに対空兵器を積みやがって!」

濃密な対空砲火をシールドを構えながら(くぐ)り抜け、リリカのνベーゼンドルファーは正確な射撃で対空兵器を破壊していく。

「行けッ! 『オルファン』!」

時間当たりの火力を更に高めるため、彼女はオールレンジ攻撃も積極的に併用する。

イタリアンレッドのMFから6基の攻撃端末が射出され、コンピュータ制御とは思えない滑らかな機動で母機との連携攻撃を行う。

「(一個ずつ確実且つ迅速に潰していかないとな……!)」

この丁寧な戦い方がリリカの持ち味であり、彼女が"オロルクリフ3姉妹随一の技巧派"と称される所以(ゆえん)である。

「リリカさん! そんなチマチマやってて間に合うのかよ!?」

一方、若くて気が逸りがちなアレニエは敵機に格闘戦を仕掛けながら作戦のペースについて不安を述べる。

「仕方ないだろ! こっちには『ドラゴン』を一発で吹き飛ばせる兵器なんて無いんだ!」

それについては僚友のパルトネルが冷静な分析を以って答えてくれる。

大一番の戦闘中にこれだけ言葉を交わす余裕がある辺り、精神的には意外なほど落ち着いているらしい。

「君たちの言う通りだ。バリアフィールドを無力化できたとはいえ、我々の攻撃力は少し物足りない」

若い連中の会話にルナールも飛び入り参加すると、現状では決め手に欠けていることを認める。

「このままでは弾薬がいくらあっても終わらない……だが、どう打開すればいい?」

通常兵器による攻撃だけでは本当にギリギリの戦いとなる。

かと言って核ミサイルのような強力な兵器は今更準備しても間に合わないし、そもそも都市圏の上空で使っていい物ではない。

「スカイロジックより全機、『ドラゴン』の下面に高エネルギー反応を確認! 艦隊の半分を吹き飛ばしたアレが来るわよ!」

今後の戦局が不安視される中、スカイロジックは高エネルギー反応――広域プラズマキャノンの発射準備を警告するのであった。


「何とか発射を阻止できないのか!? 下手すると艦隊が全滅するぞ!」

補給から復帰した直後を狙ってきた敵戦闘機を返り討ちにしつつ、広域プラズマキャノンの攻撃力を危険視するヤン。

「ねえ……チャージ中に攻撃を加えたら、エネルギーが逆流して大ダメージとかにならないかな?」

「アニメじゃないんだから……そんな都合の良い弱点があれば苦労しないわよ」

バイオロイド軍団と交戦中のリリーは希望的観測を述べるが、姉の発言をサレナはバッサリと切り捨てる。

「いや、あれだけ莫大な量のエネルギーを綱渡りのようなバランスで扱っているんだ。何かしらの要因でそれが崩れたら、自爆する可能性も十分考えられる」

ところが、技術面に精通しているロサノヴァは意外にも"その可能性はあり得る"と肯定的な反応を示した。

「ほら! 技術屋のロサノヴァちゃんがこう言ってるもん!」

「喜んでいるところ悪いけど、航空攻撃程度では暴発は望めませんよ。それこそ艦砲射撃レベルの攻撃でなければ……」

本職の技術者に認められたことでドヤ顔を浮かべるリリーに対し、そこへ水を差すように彼女の妙案の問題点を指摘するロサノヴァ。

プラズマキャノンに転用できるほどのエネルギーの危険性はルナサリアンも分かっているはずなので、暴発時の被害を抑えるための対策はさすがに施されているだろう――と。

「ワルキューレ! 前進するな! プラズマキャノンにやられるぞッ!」

上空にいる面々の遣り取りをよそにスターライガの母艦スカーレット・ワルキューレは前進を続ける。

その状況を視認したナスルは緊急回避を促すが、残念ながら声が届いても間に合いそうにはなかった。


 もちろん、スカーレット・ワルキューレは何も考えずに前進しているわけではない。

「面舵40! 全砲塔仰角最大、レーザー実包装填! 目標、敵超兵器下面のプラズマキャノン砲口!」

艦長のミッコもまた"エネルギーの逆流によるカウンター攻撃"を狙っており、危険を承知の上で艦をヤマタオロチの真下――広域プラズマキャノンの範囲内へと進ませる。

「了解、面舵40! しっかり狙えよ、アルフェッタ!」

「そんなん言うなら、もっと丁寧に操艦せえや!」

操舵士のラウラから声を掛けられたにもかかわらず、砲撃の照準を一身に背負わされているアルフェッタは少しキレ気味に反応する。

「紙コップの水をこぼさないつもりでやっている!」

「船体が傾斜しすぎやで! これじゃ狙いが定まらへん!」

ラウラの操艦が悪いわけではない。

むしろ峠を攻める走り屋のように巧いのだが、この極限状況では数度の傾きでさえ命中精度を落とす要因となるのだ。

「高エネルギー反応、来ますッ!」

「構うな! 撃ち方始めッ!」

オペレーターのキョウカの警告をあえて退け、回避運動ではなく艦砲射撃の指示を優先するミッコ。

「(敵の懐にチャンスあり――これが戦艦の火力と装甲を活かした突撃戦法よ!)」

彼女にはこの判断を成功させる自信があった。

近代化改修でパワーアップしたワルキューレの性能と優秀なブリッジクルーたち――。

これらの要素が揃っていれば決して負けない。

「ええい、ままや! ファイアーッ!」

自身の右手に"必中"の願いを託しつつ、アルフェッタは全砲塔一斉射撃用のボタンを押し込むのだった。


 プラズマキャノンの凄まじいエネルギーがスカーレット・ワルキューレの巨大な船体を揺らす。

「くッ……回避運動! 面舵一杯ッ!!」

一時的に視力を奪うほどの閃光から目を庇いつつ、ミッコは左旋回による回避運動を指示する。

「ラウラ、サイドスラスターも使うんや!」

「お前に言われるまでもない!」

アルフェッタからのアドバイスよりも先に操舵輪の左パドルを引き、船体に設置されている姿勢制御用スラスターをフル稼働させるラウラ。

普段は接岸・離岸時の微調整に使う機能だが、戦闘時には最小旋回半径を発揮しなければならない状況で用いられる。

「『ドラゴン』の状況は!?」

「確認します……『ドラゴン』は大爆発を起こしているようです!」

少しでも回避運動が遅かったら危なかったが、どうやら最大の危機は脱したらしい。

ペットボトルの水を飲んでいるミッコから状況報告を求められ、キョウカはヤマタオロチが中破炎上している映像を全周囲スクリーンに回す。

「さすがですね、先輩。あの状況で正確に命中させるなんて」

「ふぅ……ま、ウチの実力ならこんなもんやで」

「へッ、私が船体を修正していたことを忘れるなよ」

対空兵器を制御していたフィリアから称賛されたアルフェッタは胸を張るが、そこへラウラによる珍しいツッコミが入る。

「これでプラズマキャノンを破壊したうえ、大ダメージを与えることもできた。引き続き攻撃を継続するわよ!」

"三種の神器"のうち一つは排除された――。

それでもなお純白の飛竜は空に踏みとどまっており、ミッコはより一層気を引き締める。

この戦場で生き残っている味方戦艦は、彼女が指揮するスカーレット・ワルキューレだけなのだから……。


 リリーやミッコの目論見通り、被弾の影響でエネルギーチャージに異常を起こしたヤマタオロチは自爆ダメージを受けてしまう。

「だ、第二十四区画で火災発生! 電離気体砲の周囲です!」

「消火班を向かわせろ! 応急修理急げ!」

切羽詰まっているオペレーターからの報告を受け、被害拡大を抑えるべくダメージコントロールの指示を出すエンジュ。

第二十四区画には電離気体砲と核融合炉を繋ぐエネルギー供給路が敷設(ふせつ)されており、延焼を起こすと致命傷に至る可能性が極めて高いからだ。

「ダメです! 第二十四区画との通信繋がりません!」

しかし、現場が既に壊滅しているのかオペレーターは通信不能だと答える。

「このまま火が燃え広がったらさすがにマズイぞ! 第九及び第十区画の連中を消火作業に回せ!」

その対応策としてエンジュは食堂及び調理場の面々を第二十四区画へ移動させ、被害状況の確認と救助活動を行うよう通達する。

「地球人どもめ……思った以上に粘ってくれるじゃないか」

楽な戦いでないことは初めから覚悟していたが、それにしてもここまでの苦戦は想定以上だと彼女は呟く。

「(場合によっては特攻も止む無しか……しかし、それはあくまでも最終手段だな。軍人は生き残ることも仕事だ)」

任務遂行だけが目的ならばヤマタオロチを敵司令部に特攻させ、基地施設諸共吹き飛ばしてしまうのが手っ取り早い。

だが、それは言い換えれば一つしかない命を投げ捨てることでもある。

「総員、狼狽えるなッ! 敵司令部に一発でも戦略兵器を撃ち込めばこちらの勝ちだ!」

一人でも多くの部下を生き延びさせることが上官の役目――。

そのうえで勝利を収めるため、エンジュは全乗組員に更なる奮起を促すのだった。

【Tips1】

カービンの原義は「歩兵用小銃より短い騎兵用小銃」を意味する。

MF分野では「ハンドガン以上アサルトライフル以下のサイズの射撃武器」を指すことが多い。


【Tips2】

作中世界の軍艦の主砲は実体弾とレーザーの撃ち分けが可能だが、後者はジェネレーター直結式ではなく「レーザー実包」と呼ばれる触媒の一種を利用する方式である。

MFの光学兵器も一部を除きこの方式を用いている。

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