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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-79】一発限りのImpossible snipe

 ヨミヅキ姉妹の足止めを食らうレンカとカルディアを援護してくれた6機の蒼い可変型MF――。

「お前たち姉妹の相手はこっちだ!」

「マスドライバーの防衛が一段落したと思ったら、なかなかの大物に出くわしたね!」

その正体はゲイル隊を率いるセシルと彼女の指揮下に再編されたブフェーラ隊の分隊長リリスであった。

「ゲイル隊とブフェーラ隊……ヴォヤージュ基地の方で戦っていたはずじゃ?」

「総司令部直々の指示でこの戦域へ回されたのさ。ったく、仕方ないとはいえ上層部は私たちをこき使いやがる」

願っても無い強力な援軍と合流できたレンカがこの戦域に現れた理由を尋ねると、ゲイル隊の3番機を務めるアヤネルは肩をすくめながら"上の命令"だと答える。

「愚痴は程々にしなよ、アヤネル。ええっと……とにかく、あの敵部隊はゲイル及びブフェーラの二個小隊が引き受けます」

「そういうことですから、貴女たちは『ドラゴン』の所へ向かってくださいませ!」

同じくゲイル隊に所属するスレイとブフェーラ隊2番機のローゼルは自分たちが敵を引き付けることを伝え、レンカとカルディアには移動を優先するよう促す。

「ルナサリアンの離反者としてアドバイスしてあげる。あの姉妹は相当の手練れだから気を付けてね」

連戦で疲れている状況でありながら援護を買って出てくれた若者たちへの助言として、ヨミヅキ姉妹は一筋縄ではいかない強敵であることを教えるレンカ。

「相手がどれだけ強かろうと時間稼ぎぐらいはできます!」

「頼んだわよ……! ルーナ・レプスよりクオーレへ、一気に敵部隊を突破する!」

ブフェーラ隊の3番機を担当するヴァイル――以前オデッサで助けてあげた女性士官の力強い返事に安心し、レンカはカルディアと共に攻撃可能ポイントへ急行するのだった。

「(頼もしい若手が育ってきている……レガリアさんが命を懸けようとした理由が分かった気がするわ)」


 一方その頃、スターライガチームは「ドラゴン」の周囲で厳しい航空戦を繰り広げ続けていた。

「レンカたちが近付いてきた……スターライガ各機、攻撃位置に就け!」

機上レーダーで"銀の弾丸"を確認したレガリアはスターライガ全機を集結させ、バリアフィールドを破るための下準備に取り掛かり始める。

「総攻撃などさせるものか!」

「同じ射撃機同士なら戦いようはある! デアデビル隊、何としてでも奴を押さえるわよ!」

その意図を察したオリヒメは直ちに妨害のための攻撃を仕掛けるが、ニュクス率いるデアデビル隊3機に阻まれてしまう。

「プロキオン1より各機、俺たちもできることを精一杯やるぞ!」

「隊長機め、男のくせにやってくれる……! これでは姉上の援護に回れん!」

フェルナンド以下プロキオン隊も勇猛果敢にユキヒメの行く手を塞ぎ、アキヅキ姉妹の合流を可能な限り阻止してみせる。

「困ったわねぇ……カバーしたいのはやまやまだけど、こうも一般部隊と防空艦が邪魔をしてくるとは」

「私たちもいることを忘れるなよ! 行くぞドラグーン隊!」

そして、ライラックとバイオロイド軍団の相手は名前も分からない航空部隊や残存艦隊が引き受け、それにリティスのドラグーン隊が遊撃の要領で加勢していく。

「空の方はそちらに任せる! 降り掛かる火の粉は自力で払うわ!」

総攻撃のタイミングは上空のレガリアに一任し、ミッコは戦力的に厳しい残存艦隊のサポートに徹する。

「トリアシュル・フリエータ、対空警戒を厳としつつ前進! 少しでも弾幕の足しになれば……!」

「総員、ここが踏ん張り所だ! MF部隊の帰る所を守るぞ!」

各プライベーターの母艦の艦長であるノゾミとシリカ・ブレスも艦を激戦の真っ只中に突っ込ませる。

「カウントダウン! 5、4、3、2、1……ファイア! ファイア! ファイア!」

友軍が敵を押さえ込んでいる間にレガリアはカウントダウンを開始。

5秒という短いカウントの(のち)、彼女はラストチャンスとなる一斉攻撃の号令を下すのであった。


「このバリアフィールドが割れるなら、全弾ここで撃ち込んでやる!」

武装がほぼ全て実体弾系の射撃武器であることを最大限活かし、その言葉通り全弾発射を行うリュンクスのスタークキャット。

「オフィクレイド・フルパワー! いっけぇぇぇぇッ!」

それに負けじとメルリンのユーフォニアムも腹部を変形させ、ジェネレーター直結式腹部内蔵型レーザーキャノン「オフィクレイド」を最大出力で発射する。

「ありったけを叩き込むよ、姉ちゃん!」

「遠距離攻撃は苦手だが……この状況ではそうも言ってられないな」

左肩部マルチガンランチャー「スサノオ」から砲弾を撃ち出しているミノリカのクシナダに付き合い、格闘機であるアゲハを駆るシズハも今回ばかりはアサルトライフルで鉛玉をばら撒いていく。

「遠慮せずにぶっ放すわよ! 弾薬もエネルギーも惜しまないんだから!」

また、火力が求められる局面はチルドのスーパースティーリアの開発コンセプトに見事合致しており、肩部レーザーキャノン2門とマイクロミサイルを惜しげもなく乱れ撃っていた。

「少しでもダメージソースになれば……ミサイル、シュート!」

純然たる重射撃機に比べたらニブルスのベルフェゴールは非力な機体だが、それでも彼女は各種ミサイルを撃ち尽くすつもりで攻撃を加え続ける。

「これが俺とパルトナの最大火力だ! 食らいやがれッ!」

そして、ライガのパルトナ・メガミは二丁のレーザーライフルと腰部可変速レーザーキャノンに加え、オプション装備側のマイクロミサイルと左肩部中射程レールガン、12連装MF用ロケット弾×2を織り交ぜた一斉射撃を繰り出す。

「エネルギーチャージ150……この一撃をレンカに繋げる……!」

最後の総仕上げとしてカルディアのクオーレが攻撃位置に就き、レーザーバスターランチャーのチャージを開始。

チャージ率150は機体強度上ギリギリの数値であり、まさに"多少の無茶は承知の上"としていることが窺える。

「……ファイヤーッ!」

機体が悲鳴を上げ始める寸前、カルディアは普段の雰囲気からは想像できない叫び声と共に操縦桿のトリガーを引くのだった。


 上がるべき舞台は既に整えられている。

「こちらルーナ・レプス、これより狙撃態勢に入ります! 周囲のフォロー願います!」

ようやくスターライガ本隊と合流したレンカは速やかに狙撃態勢へ移行し、同時に自分を狙う敵機への対処を要請する。

「お膳立ては整えてやったんだ! スナイパーなら決めてくれよ!」

「特殊高速徹甲榴弾をサプレッサーブレーキに装着……よし! 続いて安全装置のロックを解除……よし!」

"お膳立て"で搭乗機の追加装備を使い切ってしまったヤンからの期待に応えべく、特殊高速徹甲榴弾――通称「フルメタルジャケット」をMF用スナイパーライフル(実体弾タイプ)に装填するレンカ。

この一発で確実に決めなければならない。

「レンカさんを狙う敵機を追い払うぞ!」

「ああ、分かってる! ボクたちでもそれぐらいのことは!」

「(この位置取りならヤタノカガミの薄い部分を貫通し、ヤマタオロチ内部の発生装置まで弾丸を到達させることができるはず……!)」

ナスルとショウコが敵機を引き付けている間にレンカのルーナ・レプスは微調整を行い、常に動き続けるターゲットとの位置関係を完璧にアジャストさせる。

「バリアフィールドが再形成され始めている! どれだけ強力な核融合炉を積んでいるんだ!?」

「レンカ……!」

ヤマタオロチのヤタノカガミが元に戻り始めているというレカミエからの報告を受け、シリアスな声で小隊長の名前を呟くカルディア。

「一発あれば十分よッ!」

狙撃成功に必要な条件は全てクリアされた――!

仲間たちとの"約束"とスナイパーとしての"誇り"を右手の人差し指に託し、レンカは全身全霊を懸けた魂の狙撃を決行するのであった。


「くそッ! やらせるかッ!」

一発の弾丸に気付いたユキヒメは愛機イザナギを盾にしようとするが、残念ながら拳半分ほど距離が足りなかった。

「命中箇所で小規模な爆発が……やったか?」

「こちらスカイロジック、バリアフィールドと思われるエネルギー反応が急激に弱まっているわ! これならば攻撃が普通に通るはずよ!」

超兵器の胴体で起きた小さな爆発をロサノヴァが目撃した直後、AWACS(エーワックス)スカイロジックはバリアフィールドの出力が低下し始めていることを報告する。

「凄い……! 何て言ったらいいんだろう……とにかく信じられない!」

「私は信じてたぜ! あれでこそ超一流のスナイパーなのさ!」

沸き起こる歓声――。

不可能と思われた狙撃を見事成功させた仲間に対し、ランとルミアは掛け値無しの称賛の言葉を贈った。

「アカツキより全艦、スターライガのエースが突破口を切り開いてくれた! このチャンスを無駄にしないため、我々はもう一度総攻撃を仕掛ける!」

味方の損害の大きさでネガティブになっていたサビーヌ中将もこれで戦意を取り戻したのか、艦隊全軍に向けて三度目の正直となる一斉攻撃の指示を下す。

「文字通り"魔弾"が戦局を引っ繰り返そうとしている……!」

絶望的な光景を正確無比に撃ち抜き、戦線を復活させた同僚の活躍をヒナはこう表現する。

「総司令部より入電! 全ての残存戦力は『ドラゴン』に攻撃を集中させ、これを撃墜せよ! 敵はまだ戦闘能力を残している……油断せずにみんなで生き残りましょう!」

スカイロジックは今更になって送られてきた総司令部からの命令を通達すると、ここからが本当の勝負所だと発破を掛けるのだった。


 ヤタノカガミという強力な防御兵装を打ち破られたにもかかわらず、ヤマタオロチの乗員たちに動揺は見られない。

「艦長! ヤタノカガミの発生装置に深刻な損傷発生! これでは防御障壁を展開することができません!」

「こいつの重装甲なら簡単には沈まない! 応急修理を急がせろ!」

発生装置のダメージに関する報告を受け、愛用の鉄扇をパチンと畳みながら的確な指示を出すエンジュ。

どんな時でも豪放磊落(ごうほうらいらく)で弱さを見せない彼女の姿は兵士たちの拠り所となっていた。

「クロヅキ艦長、敵艦隊は(わたくし)たちで引き付けますわ! そちらは敵司令部への攻撃を優先してください!」

「ああ! 今回ばかりはその言葉に甘えさせてもらうぜ!」

近くで艦隊戦を繰り広げている戦艦シオヅチのアスナ艦長が援護を買って出てくれたため、その厚意を無駄にしないようエンジュは強気な前進を決断する。

「(総司令部を落とせばこちらの勝ちだ。しばらくは残存戦力による抵抗が続くだろうが、それはじっくりと鎮圧すればいい)」

無論、それは彼女なりに戦局を見極めたうえで下した判断であった。

「対空警戒を厳としつつ炸裂弾頭誘導弾の発射準備! 超長距離攻撃で敵司令部を直接叩く!」

アスナとの通信を終えたエンジュは艦長席に腰を下ろし、今度は火器管制官に攻撃方法及び目標の準備を求める。

「しかし……炸裂弾頭の攻撃範囲では市街地を巻き込む可能性が……!」

火器管制官の返事は"了解"ではなく否定的な反応。

「……これは戦争なんだ」

部下の至極当然な反論には思うところがあったのか、エンジュは特に叱責することなく思考停止の言葉を紡ぐしかなかった。

【サプレッサーブレーキ】

日本語訳すると「消炎制退器」。

大口径の実体弾射撃武器に装着されるパーツであり、その名の通りサプレッサーとマズルブレーキの役割を担っている。

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