【BTF-77】CONCERTED ATTACK
超兵器ヤマタオロチを放置することは味方の被害拡大に繋がる可能性が極めて高い。
そのため、ライガとレガリアはスターライガチームの総力を懸けた突撃を仕掛けることを決断した。
「逃がしはせん! 貴様らにはこの空で死んでもらう!」
「ヤマタオロチの所には向かわせないわよ!」
当然、切り札たる超兵器を失うわけにはいかないユキヒメとオリヒメは連携攻撃で対応し、スターライガのダブルエースを執拗に妨害する。
「クソッ! 俺のケツを追い回すんじゃねえ!」
2機の高性能機に包囲され自由に身動きが取れないライガのパルトナ・メガミ。
「ライガ、私を使いなさい!」
「よし! ありがたく足として使わせてもらう!」
それを見かねたレガリアは機動力に優れる愛機バルトライヒで運搬することを提案。
二つ返事で承諾したライガの機体を上面に捕まらせると、大型戦闘機レベルの強大な推力を以って一気に離脱を図る。
「そんなに俺と遊びたいっていうんなら、とことん付き合ってやる!」
「このバルトライヒのスピードに追従できるならの話だけどね!」
その前にライガの"提案"について試すため、彼とレガリアはわざとらしい捨て台詞を吐いていく。
これで挑発に乗ってくれれば儲け物だが……。
「フンッ、下らない挑発を……」
冷静沈着な武人であるユキヒメは"下らない"と一蹴したが、時々直感的に行動するオリヒメの反応は真逆であった。
「あ、姉上……姉さん! それでは相手の思う壺だぞ!」
突然スイッチが入ってしまった姉を追いかけるため、急遽スロットルペダルを踏み込み乗機イザナギを加速させるユキヒメ。
「(同士討ちを避けたいという兵たちの配慮……奴らはそれを逆手に取り、我々の周囲を安全地帯にするつもりか)」
彼女は自分たち姉妹を引き付けようとするダブルエースの意図に薄々勘付いていた。
一方その頃、一部メンバーを除いたスターライガチームは友軍艦隊の上空に集結。
一度限りの一斉攻撃に向けて最終調整を進めていた。
「あんなにいたはずの友軍が……これだけしか残ってない」
補給に戻っていたことで難を逃れていたクローネは初めて友軍の被害を目の当たりにし、一目で分かるほどの大損害に唖然とする。
「これ以上減ったらマズいぞ! スターライガ全機、友軍艦隊のエアカバーに回れ! 『ドラゴン』への航空攻撃は指示が出てから一斉に仕掛ける!」
ライガやレガリアが別行動を取っている間、二人に代わって戦線を維持していたのは"第三のエース"であるサニーズだった。
彼女はライガの頼みで一時的に前線指揮を引き継ぎ、引率の先生のようにスターライガMF部隊をしっかりと纏め上げていた。
「サニーズ、また一つ借りができたわね」
「遅いぞ貴様ら! しかも……厄介そうな客まで連れて来やがって!」
そんな苦労を知ってか知らずか遅れて合流してきたレガリア(とライガ)を咎めたうえで、厄介そうな客――アキヅキ姉妹まで現れたことに頭を抱えるサニーズ。
「いや、あいつらの周囲は逆に安地だ! 自国の指導者の頭上に戦略兵器を撃ち込むはずが無い!」
「あなたの言わんとしていることは分かるけど……でも、その直感に付き合わされるこっちの身にもなってよ!」
それについてはライガが持論を展開しようとするが、少し前に合流していたサレナからは遠回しに非難されてしまう。
「ヤマ勘で動くのは姉さんだけで十分なのに!」
直感で好き放題に行動する姉リリーに振り回されることで有名なサレナ。
落ち着いた性格の幼馴染にはもっと論理的に行動してほしい――そう言いたげであった。
「私はライガの直感を信じるよ! そもそも、こっちも人のことは言えないし!」
しかし、妹の胃痛の原因を作っているリリーは幼馴染の理屈を全面的に支持し、それどころか"自分も敵を連れてきた"と明かす。
「ねえ、あんたたち姉妹が戦ってた相手って……」
「フフッ、これだけの淑女が集まるとは壮観ね。奇跡を願って最初で最後の総攻撃を仕掛ける腹積もりかしら」
ラヴェンツァリ姉妹と仲が良いミノリカが恐る恐る尋ねたその時、30年前から聞き慣れた"敵"の声が通信回線に割り込んでくる。
音質がかなりクリアであることから、スターライガが使用している無線周波数にキッチリ合わせているのだろう。
「……悪いけど、私にも立場というモノがあるの。それを守るためにお邪魔させてもらうわよ」
奇跡的な総攻撃に懸ける地球側の姿勢を称賛しつつも、ルナサリアンに与する者としてそれを成功させるわけにはいかないと宣言するライラック。
それと同時に彼女は個人的に連れてきた戦力(バイオロイド)を展開し、更には個人所有の航空戦艦「ネバーランド」まで前線に出すという本気ぶりを見せる。
「正気かよライラック博士! 仮にもこの国はあんたの生まれ故郷なんだろ!?」
曲がりなりにも同じオリエント人としてシズハは"本当に祖国を滅ぼすつもりか"と問い質すが、ライラックからの返事は無かった。
……あるいは大戦力を展開したことが彼女の答えだったのかもしれない。
絶体絶命、背水の陣、前門の虎後門の狼――。
言い方はいくらでもあるが、いずれにせよ地球側は本作戦における最大のピンチを迎えようとしていた。
「前方には超兵器、後方にはバイオロイド……進むも地獄、退くも地獄とはまさにこのことか」
「側面からはルナサリアンの一般部隊が仕掛けてくるぞ。ここは地獄の一丁目の始まりに過ぎないのさ」
自分たちを狙って四方八方から敵がなだれ込んで来る状況をリゲルとリリカは共に"地獄"と表現する。
「一斉攻撃の指示はまだなの!? そろそろ動かないと包囲網に押し潰されてしまうわ!」
また、この勢いで包囲網が狭まっていくことをメルリンは危惧しており、そうなる前に一斉攻撃を開始すべきだと苦言を呈する。
「攻撃タイミングの合図は正規軍に任せています! それまでは友軍艦隊の直掩及び航空優勢確保に集中!」
「さっきの攻撃で艦隊の3割はやられている! これで火力は足りるんだろうな?」
それに対してレガリアは正規軍の指示を待つよう繰り返すが、やはりパルトネルのように不満を露わにする者は少なくなかった。
「『ドラゴン』のバリアフィールドは物理攻撃すら防ぐ強力なものです。しかし、展開可能時間には限りがあるため、バリア展開後のクールタイムはほぼ無防備となるはずです」
「北アメリカで戦った時と同じやり方だな」
攻撃面の疑問については「ドラゴン」ことヤマタオロチとの交戦経験を持つニュクスが数少ない弱点を示唆し、フェルナンドもその発言に同意する。
北アメリカ戦線では総攻撃でバリアフィールドを消耗させた後、出力が落ちたところに波状攻撃を掛けることで無理矢理突破した。
今回も同じ戦法が通用するはずだ。
「スカイロジックより全機、第8艦隊から一斉攻撃の目処が立ったという報告を受けたわ! 作戦行動中の各機は攻撃態勢へ移行し、次の指示を待て!」
戦局が泥沼化の様相を呈し始める中、AWACSスカイロジックに航空部隊に一斉攻撃の準備を命じるのであった。
「艦隊前進! 敵艦隊を突破し攻撃ポイントまで急行する!」
第8艦隊を率いるサビーヌ中将は進行方向に立ちはだかるルナサリアン艦隊の強行突破を図る。
「撃ち方始めッ! 敵主力艦に砲撃を集中させなさい!」
対するアスナ艦長は真っ向から迎え撃つべきだと判断し、第8艦隊の先鋒を担う戦艦部隊に砲撃戦を仕掛ける。
戦艦同士の撃ち合いは近年では滅多に見られない光景であり、地球の国家間戦争ではまずお目にかかれないだろう。
「さ、サングリエが……あッ!」
砲撃戦による正面衝突は双方に少なくない損害を与え、第8艦隊もサビーヌが見ている前で戦艦サングリエが大破炎上してしまう。
ただでさえ火力と手数が求められる状況でこれは手痛いダメージだ。
「中将……我が艦の被害甚大……ですが……最後に道だけは拓きます……!」
覚悟を決めたサングリエの艦長は上官へ最期の通信を送ると、一矢報いるべくルナサリアン艦隊への突撃を敢行する。
「あの戦艦、特攻を仕掛けてくるつもり!? くッ……回避運動を行いつつ迎撃を!」
命知らずの艦砲射撃を撃ち込んでくる超弩級戦艦の気迫に圧倒されつつも、乗艦シオヅチのブリッジクルーたちに的確な指示を下すアスナ。
次の瞬間、シオヅチを含むルナサリアン艦隊の複数隻から蒼く太い光線が発射され、その集中砲火を浴びたサングリエはさすがに耐え切れなかった。
「戦艦サングリエ……轟沈していきます……!」
脱出艇を降ろしながら墜落していく僚艦の最期をコーデリア副長は"轟沈"と報告する。
「……味方の突撃で生まれた隙を無駄にはできない! 生存者の救出活動は陸軍に任せろ!」
そして、サングリエの特攻で切り拓かれた進路を塞がれないよう、サビーヌ指揮下の第8艦隊はとにかく前進を続けるのだった。
相変わらず熾烈な航空攻撃と敵艦隊の迎撃を何とか突破し、第8艦隊を主軸とする正規軍・プライベーター混成部隊は攻撃可能ポイントまで辿り着く。
サングリエの轟沈は痛かったが、それでも当初の予想よりは少ない損害で済んでいる。
……無論、ここからの激戦で一気に損害が拡大する可能性も否定できないが。
「アカツキよりスカイロジック、これより一斉攻撃のカウントダウンを開始する! 航空部隊にもこの通信を中継してくれ!」
「こちらスカイロジック、了解しました。上の方は首を長くして待っていますよ」
一刻も早く総攻撃を仕掛けたいサビーヌからの要請を受け、スカイロジックは皮肉を述べながら手際良く作業を進めていく。
「スターライガよりアカツキ、我々はいつでも行けます! カウントダウンはそちらのタイミングでお願いします!」
その言葉通り上空のスターライガチームは既に攻撃準備を終えており、指揮権を返してもらったレガリアが代表して自分たちの状況を伝える。
「カウントダウン! 10、9、8、7、6――」
これ以上の先延ばしはできない。
艦長席に設置されているコンソールパネルで無線システムを調整すると、サビーヌはCIC(戦闘指揮所)内のデジタル時計を見ながらカウントダウンを開始。
「――5、4、3、2、1……撃てーッ!」
「ファイア! ファイア! ファイア!」
10秒のカウントの後、彼女は指揮下の全艦艇及びプライベーターの各母艦に一斉攻撃の号令を下す。
第8艦隊の頭上ではレガリアの合図で航空部隊もありったけの火力を叩き込んでいる。
「やったか!?」
「いや、全く効いていない! ヤツのバリアフィールドは前評判通りのようだ!」
海(?)と空からの圧巻の飽和攻撃にリティスが戦果を期待した直後、それを否定するかのようにレカミエはヤマタオロチのバリアフィールドが健在だと指摘する。
もっとも、1回の総攻撃でバリアを無力化できないことは以前の実戦データから明らかであった。
「アカツキより全艦、もう一度一斉攻撃を仕掛けるぞ! データ通りなら次の攻撃でバリアフィールドを一時的に破れるはずだ!」
バリアフィールドの出力が回復しないうちに畳み掛けるべく、全戦力に対し二度目の一斉攻撃の指示を出すサビーヌ。
「中将、後方の敵艦隊の動きが変わったわ! 急に私たちから離れて様子見をしている!」
「退いたのならば好都合! カウントダウン! 10、9、8、7、6――」
共同戦線を張っているミッコから気がかりな報告が上がるが、サビーヌはその発言を軽視しカウントダウンを強行する。
「おい、『ドラゴン』の腹が光ってるぞ! どう見てもヤバいんじゃないか!?」
「艦長! 『ドラゴン』から高エネルギー反応が……これは危険な数値です!」
だが、この判断は間違っていたのかもしれない。
上空で戦っているアレニエはヤマタオロチの胴体下面に光が集まっていることを指摘し、それに続いてアカツキのオペレーターも高エネルギー反応の危険性を伝える。
「くッ、カウントダウン中止! すぐに攻撃へ移る!」
ここに来て判断ミスの可能性を後悔しつつも、超兵器の行動を阻止するべくサビーヌは臨機応変な対応を試みるが……。
「チャージなどさせるものか! 撃ち方始――な、何だ……!?」
【Tips】
可変型MFの上に別のMFを乗せる行為は「リフター」と呼ばれる。
2100年代のオリエント国防空軍で使われ始めた俗語とされているが、詳しい由来はよく分かっていない。
現在は他国の軍隊やプライベーター、ミリタリーマニアの間でも広まっている模様。




