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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-75】復活の戦乙女

 現在、オリエント連邦最大の都市圏であるヴワル上空では総力戦が繰り広げられている。

にもかかわらず、オリヒメは自ら戦場に立つ身でありながらその激戦を"宴"と称していた。

「"絶望の宴"だと?」

「絶望的な光景など見慣れているわ! 今この瞬間にも絶望と隣り合わせの状況で戦っている!」

互いにカバーし合うように戦いながらオリヒメ――いや、彼女と共にやって来る"絶望"へ抗う姿勢を見せるライガとレガリア。

「フフッ、こんなモノではなくてよ。あなたたちの前に現れるのは……戦意を徹底的に挫くための超兵器なのだから」

「貴様たち地球人は多くの超兵器を撃破してきた。それは確かに予想以上の戦いぶりだった……しかし、今回はそう簡単にやらせはしない!」

スターライガのツートップに対抗するべくオリヒメとユキヒメも今回ばかりは連携を徹底し、姉妹らしい抜群のコンビネーションで隙を一切見せない。

「スカイロジックより全機へ緊急報告! 南部のハインツ=ハラルド空軍基地が空襲により壊滅した模様! アキヅキ姉妹が言う超兵器とやらの仕業かもしれないわ!」

そんな中、一進一退の本土防衛戦を的確に管制していたAWACS(エーワックス)スカイロジックは"味方基地の壊滅"という一報を受け取り、その出来事とオリヒメの余裕が繋がっている可能性に気付く。

「――方位1-8-0より接近する所属不明艦を捕捉……いえ、これは超巨大航空機? なんて大きさなの!?」

だが、冷静沈着な彼女もレーダー画面上で分かる巨大な敵には動揺を隠せなかった。


「あれが……超兵器……!?」

戦域の南から現れた超兵器の巨体を最初に目視したのはランであった。

「うわぁ……噂では知ってたけど、実物はやっぱりデカいわねぇ」

その巨大さにはチルドも驚きの声を上げるが、彼女はランと異なり超兵器のことを知っているらしい。

「チルドさん、あれを知っているんですか?」

「あそこまで巨大な兵器だからな。話のタネにならないわけが無い」

「北アメリカ戦線にルナサリアンが投入していた超巨大航空要塞……『ドラゴン』なんていう洒落(しゃれ)たコードネームで呼ばれているわね」

最年少メンバーの質問に対し"噂程度だが存在自体は聞いたことがある"と答えるサニーズとチルド。

正規軍の噂話に精通している辺りはさすが元軍人の夫婦といったところか。

「北アメリカの機体は第8艦隊とアメリカ軍がやっとの思いで沈めたらしい。おそらく、その姉妹機がここにやって来たんだ」

両者の一人娘であるロサノヴァも「ドラゴン」について自力で調べていたらしく、技術者としての立場から"今回投入されたのは同型機だろう"という独自の見解を述べる。

「この国の運命を(もてあそ)び、歴史ごと焼き尽くすために……か」

数か月前に北アメリカの都市を焼き払った純白の飛竜を眺めながらサニーズは呟く。

「(ルナサリアンも正真正銘の本気というわけか。文字通り死力を尽くさなければ勝てない戦いだな……!)」

百戦錬磨の絶対的実力者として知られるサニーズが不安感を露わにするほど、今日のルナサリアンからはこれまでにない本気度が滲み出ていた。


「フフフ……感じる、感じるわよ! あなたたちの心に絶望が迫りつつある!」

戦局を一変させることが可能な超兵器の参戦に不敵な笑みを浮かべ、剣を交え続けている娘たちに絶望を突き付けるライラック。

事実、「ドラゴン」の登場と同時にオリエント国防軍の将兵たちの間には動揺が広がっていた。

「勝手に決め付けないで! 絶望を希望で塗り替えるために私たちは戦う!」

「あれは人が作った物……この世界に壊れない人工物など存在しないことは、あなたが一番よく分かっているはず!」

しかし、母親からの指摘にリリーとサレナは決して惑わされない。

ラヴェンツァリ姉妹の底力は逆境でこそ発揮されるモノであり、たとえ超兵器が相手でも決して挫けないと啖呵を切る。

「その通りだぜ! 『ドラゴン』が何度復活しようがまた叩き落としてやる!」

「私たちは北アメリカで実際に戦ったのよ! あれの特徴はよく知っている!」

「それは頼もしいね! アテにさせてもらうよ!」

その言葉に後押しされたフェルナンドとニュクスは「ドラゴン」との交戦経験の提供を進言し、逆に戦ったことが無いリティスも彼らの経験を頼りに立ち向かう闘志を示す。

「艦隊前進! 敵艦隊を突破しながら『ドラゴン』へ砲雷撃戦を仕掛ける!」

純白の飛竜に対する攻撃チャンスを作るべく、第8艦隊を率いるサビーヌは乗艦アカツキを中心とした輪形陣で艦隊を前進させる。

第8艦隊は複数の戦艦及び正規空母を擁する強力な布陣であり、ルナサリアン艦隊と対等に戦えるだけの戦力を有している。

「北アメリカでヤマタオロチを沈めた第8艦隊……確率論的に奇跡は二度と起こらないことを教えてあげる!」

その様子を確認したライラックは第8艦隊の実力に一定の評価を下しつつも、無謀と紙一重の艦隊突撃を嘲笑いながら戦闘を継続するのだった。


 ルナサリアン艦隊の旗艦を務めるのは戦艦シオヅチ。

ユキヒメの座乗艦にして46cm3連装砲5基を主砲とする、ルナサリアン最強と名高い超弩級戦艦だ。

「旗艦シオヅチより全艦へ通達! 我が艦隊は敵主力艦隊との砲雷撃戦へ移行します! ヤマタオロチには指一本たりとも触れさせてはなりませんわ!」

自ら戦場に立つユキヒメの代理を任されたメイヅキ・アスナ艦長は指揮下の全艦に対し艦隊前進を指示。

「目標、敵空母! 旗艦を狙いなさい! 全砲塔一斉射撃準備……撃てッ!」

彼女が号令を出した次の瞬間、シオヅチを筆頭とする複数隻による艦砲射撃が敵空母――アカツキへと襲いかかる。

「面舵一杯! 回避運動急げッ!」

「ダメです! かわし切れません!」

自艦が狙われていることを察知したサビーヌはすぐに回避運動を命じるが、操舵士が操舵輪を目一杯回しても間に合いそうにない。

実戦慣れしているブリッジクルーたちは被弾を覚悟し、サビーヌ艦長と操舵士を除いて耐衝撃姿勢を取り始める。

その直後、アカツキに迫りつつあった複数本のレーザーを別方向から飛来してきた蒼い光線が阻み、両者はぶつかり合いながら膨大なエネルギーを大気中に拡散させていく。

「か、艦長! 後方から戦艦級の艦砲射撃が……!」

耐衝撃姿勢を解いたコーデリア副長は今の艦砲射撃が戦艦級の大出力だったことを報告する。

レーザー同士が接触すると弾き合うようにエネルギーを拡散する現象(ビダン=イカリ効果)はよく知られているが、これをある程度狙って起こすのは艦砲射撃の攻撃精度では難しい。

「フェルツァーとサングリエは前に出しているんだろ!? しかし、今の援護射撃はあの人のタイミングに似ている……」

そもそも、第8艦隊の戦艦2隻はいずれも前方に配置されているため、アカツキを後方から援護することは不可能なはずだ。

それらを考慮したうえでサビーヌは自分たちの窮地を救った援護射撃に見覚えがあった。

経験豊富なサビーヌが言う"あの人"の正体は……。


 第8艦隊の後方に姿を現したのは一隻の超弩級航空戦艦。

無彩色をベースとした冬季迷彩風のカラーリングは正規軍のパターンには存在しない。

「こちらスターライガ旗艦スカーレット・ワルキューレ! これより戦闘に参加し第8艦隊の援護を行います!」

「ワルキューレ……ミッコ先輩!」

そして、通信回線に割り込んできた懐かしい声を聞いたサビーヌは新兵時代のような姿に戻ってしまう。

その頃の彼女は国立大学の防衛学科を卒業したばかりの士官候補生だったが、今では一個艦隊を任されるだけの提督にまで出世した。

「新型原子炉の始動に少し手間取ってしまったけど、今のところは正常に稼働しているわ。攻守共にこれまで以上の力を発揮できるはずよ」

「先輩――いえ、ミッコ艦長。早速ですが私の艦隊の進軍を支援していただけないでしょうか?」

出撃準備の遅れと引き換えに得られた性能向上を自慢するミッコに対し、失礼は承知の上で自身が率いる第8艦隊の援護を求めるサビーヌ。

この戦い、使えるモノを全て使うつもりで臨まなければ勝ち目は無い。

「戦局は出撃準備中から逐一確認していたわ。あなたほどの指揮官がここまで手こずるとは意外ね」

「おだてないでください……! 奴らを突破しなければ『ドラゴン』との交戦距離に到達できないんですよ!」

年長者らしい余裕で"最後の教え子"の成長を喜ぶミッコを真面目に叱りつつ、サビーヌは目の前の敵艦隊を何とかしなければ超兵器に近付くことさえできないと訴える。

「……ワルキューレ、最大戦速! 対空警戒を厳としつつ砲雷撃戦の用意急げ!」

後輩に怒られたことで少しだけ気を引き締めたのか、現役時代を彷彿とさせる凛とした声音でスカーレット・ワルキューレを前進させるミッコ。

超弩級航空戦艦から発せられるオーラを感じ取った正規軍艦隊は無意識のうちに進路を開けていく。

「先輩……!」

「あなたに教えるべきことは何も無い! これからは同じ船乗りとして(くつわ)を並べて戦いましょう!」

正規空母アカツキと航空戦艦スカーレット・ワルキューレ――。

二隻は所属という垣根を超え、祖国を守るために艦隊決戦へと臨むのだった。


「主砲3番4番に徹甲榴弾装填! 続けて対艦ミサイル発射準備!」

レーザー対策に有効なバリアフィールドを展開しつつ攻撃を行うため、ミッコはバリアの影響を受けない実体弾の装填を指示する。

「了解! 主砲3番4番に徹甲榴弾装填!」

「対艦ミサイル発射準備完了!」

砲塔の操作を担当するアルフェッタとミサイル類担当のフィリア・ペルサキスは的確に指示を遂行し、指定された兵装の準備を速やかに整える。

「撃ち方始めッ!」

「ファイアーッ!」

「シュート!」

ミッコから号令が出された瞬間、アルフェッタとフィリアは符丁を発しながら担当兵装を発射。

スカーレット・ワルキューレと砲撃戦を繰り広げていたルナサリアン巡洋艦を中破させることに成功する。

「艦長! 10時方向より多数の敵航空機が接近!」

「対空砲火を左舷に集中させつつ副砲1番3番に"N弾"装填!」

オペレーターのキョウカからの報告を受け、今度は左舷側の兵装による対空迎撃を指示するミッコ。

「ッ! 弾幕薄いぞッ!」

今日の彼女はおそらく"本気モード"だ。

普段の穏やかな口調は消え失せ、かつての職業軍人時代の姿が見え隠れしている。

「N弾装填完了! 艦長、いつでもイケるで!」

大気圏内での対空迎撃に特化した特殊弾の装填を完了し、いつもの南部訛りで攻撃指示を請うアルフェッタ。

「撃ち方始めッ!」

「ファイアーッ!」

そして、望んでいた指示が出たことでアルフェッタは副砲のトリガー型コントローラーを操作するのであった。

【ビダン=イカリ効果】

異なる方向から発射されたレーザーが接触した場合、互いを弾き飛ばすようにエネルギーを拡散させる現象のこと。

弾かれたレーザーはエネルギー量が急激に減少し消滅してしまう。

軍事用の高出力レーザーでのみ起きる現象であり、光学兵器の実用化から程無くして二人の博士により発見・命名された。

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