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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-70】戦場に鈴が鳴る

 ルナサリアン側の最高指揮官であるオリヒメは自分たち本隊をいきなり突入させる博打は避け、まずは堅実に先鋒で敵戦力を削る作戦を選んだ。

先鋒が戦場を引っ掻き回している間に主力艦隊で構成された本隊が合流し、混乱している敵陣を一気に()く魂胆だ。

「新しい機体の乗り心地はどう?」

「悪くないね……出力も動力性能もこれまで乗ってきたどの機体よりも優れている」

その()えある役目を任されたのは、スズヤとスズランのヨミヅキ姉妹がそれぞれ率いる部隊であった。

特に後者は機動力に優れた新型機"試製オミヅヌ"に搭乗しており、高い操縦技量と合わせて撹乱(かくらん)にはうってつけと言えよう。

「それに、こうして姉さんと肩を並べて戦えるとは夢にも思っていなかった」

正念場となる戦いを前に初めて姉と同じ作戦に参加することができた喜びを語るスズラン。

「誰かさんが皇族親衛隊への異動を拒み続けていたからでしょ?」

「僻地で伸び伸びとやりたかったのさ。『ヨミヅキの妹の方』と言われ続けるのが嫌でな」

姉妹の共闘がなかなか実現しなかった要因についてスズヤから指摘されると、スズランは単純に"優秀な姉と比較されるのが嫌だった"とだけ返す。

「はぁ……お母様がずっと心配しているのよ。この戦争が終わったら本国の部隊に転属しなさいな」

「……私もそろそろ腰を据えたいと思っている。一応考えておくつもりだ」

それを聞いたスズヤは困ったようにタメ息を()き、妹に対していずれは本国で軍務に就くことを勧める。

「予想会敵時間まであと190秒――全機、火器管制装置を戦闘状態へ移行! 我々の任務は本隊到着までに可能な限り敵航空戦力を排除することだ!」

彼女は計器投映装置に表示されているタイマーを確認すると、"妹思いの姉"から"皇族親衛隊隊長"にモードを切り替えて作戦内容を通達。

「我々の戦果が本作戦の可否に影響する可能性を肝に銘じておけ!」

「了解!」

皇族親衛隊隊長ヨミヅキ・スズヤの言葉にスズランを含む各機は力強い返事で答えるのだった。


「スカイロジックより各機、大規模な敵航空戦力を捕捉した! 方位は1-7-6!」

時を同じくしてオリエント国防空軍のAWACS(エーワックス)スカイロジックも敵部隊をレーダーで捉え、管制下の全機に対し警戒を促す。

「艦隊じゃなくて航空隊なの?」

それを聞いたレンカは一つの疑問を抱く。

彼女は後続の艦隊が一気に押し寄せて来ると予想していたが、今日のルナサリアンは少々変則的な戦術を採っているらしい。

「いえ、航空戦力と主力艦隊による時間差攻撃の可能性が高い。航空隊の目的は航空優勢の確保でしょうね」

聡明なスカイロジックも同じことを考えていたようで、ルナサリアンは制空権争い――スターライガとの戦いを重要視しているようだと返答する。

「……後方に控えている艦隊の動きが気になる。スカイロジック、できれば敵主力艦隊の動向にも注意してくれる?」

「了解、不審な点が見られたらすぐに報告するわ」

ルナサリアン側の戦術を読み切るには情報量が足りないと判断し、AWACSに敵主力艦隊の情報収集を頼むレンカ。

「"同胞"だから戦法をある程度予測できるのか?」

「分の悪い賭けはしない――それがルナサリアンの軍事教義(ドクトリン)よ」

敵の出方を訝しむ理由についてリュンクスから単刀直入な指摘を受けると、レンカはその言葉を否定せず"ルナサリアンのやり方はよく知っている"と率直に答える。

「(オリヒメ様、ユキヒメ様……たとえ貴女方が相手であったとしても、私は本気で戦いますから)」

そして、彼女は(たもと)を分かった主君たちに心の中で宣戦布告を行うのであった。


 秋空の色がオリエンティア特有の蒼空に変わる頃、ついにスターライガ+正規軍混成部隊とルナサリアン精鋭航空部隊の間で戦いの火蓋が切られる。

「金1より全機、交戦を許可する! 単独戦闘は禁止、常に連携を意識して行動せよ!」

ルナサリアン側の航空部隊を指揮するスズヤは指揮下の全機に交戦許可を出し、互いにカバーし合えるよう連携を徹底させる。

「敵機インバウンド! あの機体……日本艦隊の戦いでアキヅキ姉妹を護衛していた奴らか!」

最も南側で空中待機していたブランデルは敵部隊を目視確認でき、戦闘開始と同時に相手が日本艦隊との遭遇戦に参加していた部隊であることに気付く。

「皇族親衛隊……まさか、アキヅキ姉妹の腰巾着が地球に降りて来るとはね」

月出身者であるレンカは当然ながら皇族親衛隊の存在を知っており、その印象を少々辛辣な表現で皮肉る。

彼女としては独り言のつもりだったのだが、敵味方が入り乱れる状況では起こりがちな混線で運悪く相手に聞こえてしまったらしい。

「その聞き捨てならない不遜な言動……我々月の民を裏切ったホシヅキ・レンカと見た」

しかも、その発言に反応したのはよりにもよって皇族親衛隊隊長のスズヤであった。

親衛隊隊長は国賊として月で指名手配されているレンカを糾弾しつつ、彼女の乗機ルーナ・レプスを発見するなり先制攻撃を仕掛ける。

「……何とでも言いなさい」

当然、レンカの方も志半ばで敗れるわけにはいかず、冷静沈着に蒼い光線をかわしながら反撃へと転ずるのだった。


「自らの離反行為の言い逃れさえできないか。無様を通り越して憐れでしかないわね」

最低限の動きで攻撃を回避しつつ、相手を罵る言葉と共に光線銃を連射するスズヤのツクヨミ。

「私は月の民の誇りを持った地球人よ! 二つの星の平和のためならば、皇族親衛隊と戦うことも躊躇わない!」

対するレンカのルーナ・レプスは肩部ディフェンスプレートでレーザーを受け流すと、新たに運用できるようになったPDW(接近戦用マシンガン)で強敵を迎え撃つ。

どちらも射撃を得意としているためか、二人は他者が介入できないほど激しい撃ち合いを繰り広げていた。

「特殊工作員なら我ら親衛隊の実力を知っているはず。たった一人で挑むとは愚かな……」

短射程マイクロミサイルをかわし切れず実体盾を失ってもなおスズヤは食らい付き、精鋭揃いの皇族親衛隊と真っ向勝負に臨むレンカを愚かだと断ずる。

だが、重要な事実を見落としている愚か者はむしろ彼女の方だった。

「一人だと決めつけないでちょうだい。今の私にはかけがえの無い仲間たちがいる」

「レンカの言う通りだ! 事実を知った時は確かに驚いたが……それが彼女と共に戦ってきた経験を否定することにはならない!」

レンカが地球で出来た仲間たちについて言及したその時、それに応えるように"仲間たち"の一人であるアンドラが加勢し、小隊長に代わってスズヤのツクヨミの斬撃を切り払う。

「私たちは4人でチームなのさ!」

「そう……レンカは一人じゃない。私たちやスターライガのみんながいるから」

少し離れた所で戦っていたコマージとカルディアもすぐに追いつき、レンカを執拗に狙う藤色のサキモリに連携攻撃を仕掛ける。

「月へ帰るためにはここで立ち止まるわけにはいかないのよッ!」

接近戦も止む無しと判断したレンカはアンドラのアマテラスからビームソードを投げ渡され、普段の姿からは想像できないほどの凄まじい気迫を見せるのであった。


 一方その頃、正規軍主体のチームは皇族親衛隊ではない方の敵部隊――スズラン率いる新生ヨミヅキ隊との交戦に突入する。

ヨミヅキ隊は地球上における長期戦でかなりの人的被害が生じており、今回の大規模作戦を前に人員を掻き集めて再編成を行っていた。

「デアデビル1より各機、敵部隊の中に見たことが無い機体が混じっている」

大部隊同士が入り乱れる乱戦が展開される中、ニュクスは謎のサキモリが紛れ込んでいることを報告する。

そうしている間にも紺色のサキモリは一機また一機とオリエント国防空軍の機体を追い詰め、正確な攻撃で確実に食っていく。

「見た感じ可変機のようだが……しかし、バイオロイド専用機とは別物みたいだ」

その機体と一瞬だけ交錯したリティスは形状から可変機だと推測すると同時に、バイオロイド専用機――リガゾルドではないと結論付ける。

また、朝陽の逆光でハッキリとは分からなかったが、機体にはルナサリアンの国籍マークと部隊章が描かれているように見えた。

「気を付けろよ、敵の新型機かもしれねえ。しかも、新型を任されるのは大抵エースっていうのがお約束だからな」

ニュクスとリティスの話からフェルナンドは敵機が"未知の新型機"だと判断し、戦友たちに最大限の警戒を呼び掛ける。

「来やがった……! よし、あの機体は私たちが引き受ける!」

紺色のサキモリは次なる標的をドラグーン隊に定めたらしい。

それを察知したリティスは先制攻撃を受けないよう速やかに臨戦態勢へ移行。

「おう! カバーは任せてくれ!」

「りょ、了解!」

フォルカーとレンコも隊長機を援護できる位置に就き、強敵である可能性が高い紺色のサキモリ――スズランの試製オミヅヌに挑むのだった。


「(速いぞコイツ! 増加装甲を付けているオーディールじゃドッグファイトは無理か!)」

ドラグーン隊はおろかオリエント国防空軍の中でもトップクラスの技量を誇るリティスだが、彼女の実力を以ってしても増加装甲を(まと)っているオーディールA2型では試製オミヅヌに追従できない。

機動力は高いが運動性で負けているため、急旋回されると容易に振り切られてしまうのだ。

「背後を取った! 叩き落としてやるぜ!」

それでも3機の巧みな連携によって何とか敵機の逃げ道を塞ぐことができ、ついにフォルカーのオーディールA2がベストポジションを奪う。

しかし、彼の想像以上に試製オミヅヌを駆るスズランは強いエイシだった。

「フォルカー! 油断するな!」

「ッ……!?」

敵機の挙動に違和感を抱いたリティスが警告を発した次の瞬間、紺色のサキモリは機首を一気に上げて失速状態へ移行。

その場で高度を変えずに宙返りする"クルビット"でフォルカーのオーディールをオーバーシュートさせ、すれ違いざまに白黒ダズル迷彩のMFへ専用光線銃による一撃を叩き込んでから離脱していく。

一連の動作はわずか3秒ほどの時間で行われていた。


「フォルカー中尉ッ!」

「ドラグーン2……フォルカー! 応答しろ!」

被弾箇所はコックピット付近――最悪の事態も考えられる中、試製オミヅヌを捕捉しながら仲間の安否を気遣うレンコとリティス。

フォルカーのオーディールは飛行し続けており命に別条は無さそうだが、それはそれで怪我の有無が気になる。

「被弾した! 増加装甲が無かったらヤバかったな……!」

幸いにもコックピットブロック自体への被弾は免れていたらしく、フォルカーからの応答は概ねいつも通りの感じであった。

とはいえ、声が少し震えているので今回ばかりはさすがに死を覚悟していたのかもしれない。

「戦闘続行に支障は無さそうか?」

「簡単にくたばってたまるかよ。だが、ヤツは相当手強いぞ。もしかしたらお前と互角のエースかもしれない……」

落ち着きを取り戻した彼はリティスの問い掛けに力強く答えつつ、同時に相手が自分の上官と同等の実力者である可能性を危惧する。

「(あのポストストールマニューバに紺色のカラーリング……間違い無い、アレに乗っているのはルナサリアンのエースだわ!)」

そして、離れた位置で戦闘を目撃していたニュクスは卓越した戦闘機動(マニューバ)に見覚えがあり、その戦い方が知り合いのセシルやリリスが以前話していた"ルナサリアンのエース"と同じことに気付くのだった。

【Tips】

リティス、セシル、リリスの3人は現在のオリエント国防空軍で最も優れたMFドライバーとされており、彼女たちは俗に「オリエンティアの三羽烏(スリークロウズ)」と呼ばれる。

なお、3人はいずれも2106年生まれ(=26歳)であるためか、この世代の人材は当たり年とも云われている。

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