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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-59】脱出

 会談の妨害を図るスーツ姿の男たちが撤退した隙にスターライガの面々は態勢を整え、敵から奪った短機関銃を使って脱出を試みる。

「私とメイヤさんが先行します! 他の人たちは後方と側面をお願い!」

今回は白兵戦の経験が豊富なレンカが自ずと指揮を執ることになった。

彼女は銃器の扱いに精通している自身とメイヤが先行し、それ以外の面々には"お偉いさん"を守るよう指示を出す。

「後ろの方は俺が見ておいてやる! あと一人……シズハ、お前も手伝ってくれ!」

「了解! 残りの奴らは護衛対象を守るように配置!」

所謂"殿(しんがり)"は責任感が強いライガとシズハが引き受け、二人はハンドガンを握り締めながら集団の後方に就く。

「ええ、分かったわ!」

「任せてくれ!」

「訓練で銃を撃ったことはあるけど……」

レガリアとルナール、そしてニブルスは側面をガードできる立ち位置で敵襲に備える。

本当は各家の当主やアキヅキ姉妹にも武器を持ってほしいのだが、何かしらの方法で銃を入手するまで我慢してもらうしかない。

「くッ、煙幕が……!」

先んじてドアを蹴り開けたレンカが廊下に出ると、そこは敵が置いた発煙筒のせいでオレンジ色の煙に包まれていた。

「通路の角に敵だッ! あれは撃つぞ!」

視界が制限される状況の中、イノセンス能力で敵意を察知したライガは迷うこと無くハンドガンの引き金を引くのだった。


 奇襲を図ろうとしていた敵が制圧されたところでシズハとライガは集団を離れ、何か手掛かりが残されていないか手短に探し始める。

「クソッ、こんなに煙幕を焚きやがって! オレンジ軍団じゃあるまいし!」

周辺警戒をライガに任せ、いつまで経っても消えない煙幕に悪態を吐きつつ敵の死体から短機関銃を取り上げるシズハ。

ふと視線を上げると、壁にもたれ掛かるようにぐったりと座り込んでいる人影が見えた。

「おい……あんた、大丈夫か! 生きてるなら返事をしろ!」

「その人は死んでいる……置いていけ」

それを生存者だと思ったシズハは慎重に近付いてから呼び掛けるが、彼女の肩に手を置きながらライガは既に息絶えていることを告げる。

胸元が赤黒く染まっている遺体にはまだ温かさが残っている……少し遅かったようだ。

「このオッサン、確かどっかの国の首相だぞ。なんでこんな所で撃ち殺されてるんだ?」

「……エージェントの職務遂行の邪魔だと判断されたんだろう」

軽く十字を切ってから立ち上がって報告するシズハに対し、目の前の男性が射殺された理由について淡々と推測を述べるライガ。

「拾ったUZI(ウージー)はお前が使え。彼の仇はいつか俺たちの手で取るぞ」

彼はそう言いながら短機関銃の運用を任せ、自らは遺体のジャケットから身分証明書を抜き取って身元を確認する。

「(ポーランドの首相……彼は列強諸国の戦争計画に強く反発し、日米首脳との間に軋轢(あつれき)を抱えていたはずだ。まさかとは思うが……しかし、な)」

東ヨーロッパの小国ポーランドの首相が列強に噛み付く男だったことを思い出し、ライガの脳裏に不安がよぎる。

この男を抹殺したエージェントの"主"は列強諸国――具体的には日本やアメリカではないか、と。


「……さて、ここから脱出する方法は思い付いたかい?」

一方その頃、待機中のルナールたちはホテル・マルチプレックスからの脱出ルートについて議論していた。

「停電時はエレベーターは使えませんし、経路として確実にマークされています。この場合は非常階段から1階まで降りるのがベストかと」

元陸軍特殊部隊員――いや、現役の特殊工作員としての知識を持つレンカは非常階段による移動を提案する。

ルートを特定しやすいエレベーターでの移動は待ち伏せを受けやすく、そもそも停電時は使用できないからだ。

「8階から下まで行くのはキツイわね」

「でも、窓から飛び降りるのは無謀よ。非常階段経由での脱出以外は難しいと思うわ」

大部屋が置かれている8階からの移動を嘆くミノリカを窘めると、レガリアはレンカの堅実且つ唯一実現可能な提案を承諾する。

「議論している時間は無さそうだな。みんな、先を急ぐぞ」

短時間だけ別行動を取っていたライガ(とシズハ)が合流したことを受け、一行は周辺警戒を厳としつつ8階の非常階段扉を目指すのであった。


 煙幕の中から時々現れるスーツ姿の男を的確な射撃で排除しつつ、視界が悪いホテルの廊下を進んでいく一行。

「きゃあああああッ!」

目的の非常階段扉まで残り十数メートルというところまで来たその時、オリエント人と思わしき女性の悲鳴がフロアに響き渡る。

「ねえ、今の声って!?」

「オフィーリア首相よ!」

声に聞き覚えがあったソフィとニブルスは互いに顔を見合わせ、悲鳴を上げた人物の正体がコーヒーブレイク中に退室したオフィーリアである可能性を指摘する。

「くッ、私が行く!」

それとほぼ同時にレンカは床を力強く蹴り、持ち前の聴力で悲鳴が聞こえた方向を目指し走り出していた。

「レンカさん!」

「そっちの方はお願いします!」

突然の行動を制止しようとするメイヤの方を一瞬だけ振り向き、"お偉いさん"たちの護衛を頼み込むレンカ。

「(銃声は聞こえなかった。まだ間に合うはず……いや、オフィーリア首相を助けないと戦争終結の目処が立たなくなってしまう!)」

彼女は敵に気付かれるようにわざと足音を立てながら走り、一秒でも早くオフィーリアの所へ向かおうとしていた。

今のレンカは「月の特殊工作員」であると同時に「スターライガのメンバー(=地球側の一員)」なのだから……。


 袋小路となっている廊下の角を曲がった時、レンカはついにスーツ姿の男たちの集団を発見する。

彼らは行き止まりでピンク髪の女性を取り囲み、今まさに撃ち殺さんとしていた。

「「……!」」

「遅い!」

敵襲に気付いた3人のエージェントは咄嗟に振り向き撃ちを試みるが、それよりも先にレンカは男たちの頭部を撃ち抜いてみせる。

短機関銃の恩恵に(あずか)ったとはいえ、彼女は早撃ちに関しては世界一という自負を持っていた。

100分の1秒だけ反応時間に差があった――ただそれだけだ。

「お怪我は無いですか、オフィーリア首相?」

「あ、あなたは……」

エージェントの死体を足で弄ることで生死を確認しつつ、涙目になっているオフィーリアに対し手を差し伸べるレンカ。

「名乗るほどの者ではありません。私は通りすがりのスターライガメンバーですよ」

彼女は自己紹介をすることは避け、極めてシンプルに「スターライガのメンバー」であるとだけ伝える。

「ここから先は何が起こるか分からないから、早めにお礼を申し上げるわ……ありがとう」

「……無事脱出できた時にもう一度聞かせてください。さあ、行きましょう」

ようやく落ち着きを取り戻したことで礼を言う余裕が出てきたオフィーリアの手を握り締め、レンカはもう一度その言葉が聞きたいと告げる。

「私はレンカ・イナバウアーといいます。だけど、本当の名前は……」

そして、少しでも信頼してもらえるように彼女は耳打ちで自分の名前――ルナサリアンとしての本名を教えるのだった。


「オフィーリア首相! 大丈夫ですか!?」

レンカに肩を支えられているオフィーリアの姿を見たレガリアはすぐに駆け寄り、彼女の健康状態を確かめる。

「ええ、貴女の優秀な部下に助けられました」

「それは良かった……あれは優秀な人材ですから」

幸いにもオフィーリアに目立った外傷は無く、それを確認できたことで安堵の表情を浮かべるレガリア。

もし、優秀なレンカがいなければどうなっていたか……あまり考えたくはない。

「羨ましいわね。私もあなたのような逸材が親衛隊に欲しいわ」

「は、はぁ……ところで親衛隊の皆さんは?」

彼女の正体を知っているはずのオリヒメもマイペースなボケを披露し始め、対応に困ったレンカは苦笑いしながらアキヅキ姉妹を守る皇族親衛隊の居場所について尋ねる。

「他の出席者を刺激しないよう、建物内には連れて来なかった。この事態を察していればあちらから突入しているかもしれないが……」

その疑問に答えてくれたのはユキヒメであった。

本気で戦争終結を考えている出席者への配慮から親衛隊の同伴を避けていたが、不測の事態とはいえ今回はそれが仇になってしまったらしい。

「救援を待っていても埒が明きません。我々の方から合流を目指しましょう」

皇族親衛隊が精鋭の集まりであることは知っているけど、初めて訪れる建物での行動は難しいはず――。

そう判断したレンカは無礼を承知の上で「積極的な移動」を提案し、アキヅキ姉妹を含む全員に同意を求める。

……返ってきたのは沈黙という名の肯定であった。

「(レンカの奴、随分とルナサリアン訛りが出ていたな……それにしても流暢な喋り方だぜ)」

話を聞いていたライガも提案自体は素直に受け入れたものの、彼はこの時点でレンカの正体について勘付いていたのかもしれない。


 敵から奪った短機関銃で装備の強化を図りつつ、一行は誘導灯が点いていない真っ暗な非常階段を慎重に降りていく。

少人数ならばすぐに降りられるのだが、護衛対象が多い"集団行動"の状態では如何せん移動に時間が掛かる。

「ケホッ……随分と息苦しくなってきたな……」

「この煙は……皆さん、少し待っていてください」

灰色の煙を吸い込んで咳き込むルナッサの様子を怪訝に思ったメイヤは、他の人たちを待機させ単独で非常階段扉の先を確かめに行く。

「大変です、このフロアは火災が発生しています! 速やかに脱出しなければ私たちも焼かれてしまいますわ!」

1~2分後に戻ってきた彼女はハンカチで口元を押さえつつ、火災により極めて危険な状態であることを報告する。

かく言うメイヤ自身も少し前から上着を脱いでおり、火災に伴う室温上昇の影響が大きいことを窺わせる。

「ッ! やっと携帯電話が繋がったか……!」

その時、通信妨害で使い物にならなかったルナールの携帯電話がバイブレーションで着信を知らせる。

「メルリンか? ああ、私と父上は無事だ。今は他の生存者と共に非常階段を降りている。外から建物の様子を確認できるか?」

通話相手は妹のメルリンであり、どうやら外部から見ても異常を感じたことで何度も連絡を試みていたらしい。

「――なるほど、状況は芳しくないか。ありがとう、生きていたらまた会おう」

現状で出来る限りの情報交換を行い、感謝の言葉を告げてから電話を切るルナール。

「外にいるメルリンからの電話だ。1、2、3階が燃えているのが見えているらしい」

「この辺りからは火の海を突っ切ることになるか……でも、上の階に戻っても退路は無いわね」

ルナールによる報告を受けたレンカは火災が起きているフロアの強行突破を検討する。

上層階に一旦退避すれば火の手からは逃れられるだろうが、そこから外へ逃げる方法が思い付かない。

「2階にはビアガーデン用の広いバルコニーがあるわ。"分の悪い賭け"になるかもしれないけど、最悪且つ最短の脱出ルートよ」

非常階段にも火災の熱が伝わってくる中、このホテルを度々訪れているレガリアは思い切った方法――2階バルコニーからの飛び降りを提案するのだった。

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