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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-58】仕組まれた会談

 ビジネスマナーを知っていれば当然分かることだが、一般的に上座は入り口から最も遠い位置とされている。

今回の会談で上座に席を充てられているオフィーリア首相と筆頭貴族関係者は、下座の人間がある程度()けてから大部屋の入り口へと向かい始める。

「はぁ、私も少し体をほぐしたいわ。ライガはどうするの?」

「……」

次の議題の確認を済ませたレガリアは背筋を伸ばしつつライガに声を掛けるが、当のライガは不安げな表情で天井を見上げており、親友の声が聞こえているようには見えない。

「ねえ、ライガ! 聞いて――」

タメ息を()きながらレガリアが再度呼び掛けようとしたその時、突如として大部屋が真っ暗闇に包み込まれる。

会談の舞台であるホテル・マルチプレックスは計画停電の対象から外されているはずなので、この停電は少々不自然だ。

その証拠として、停電時も点灯していなければならない非常灯及び誘導灯が機能していない。

「あら、停電かしら?」

「いや……ただの停電じゃない!」

紅茶を飲んでいたレティシアが随分と落ち着いている一方、先ほどから不安感を隠していなかったライガはこれが異常事態だと即座に見抜く。

「君の言う通りだ! 普通の停電ならすぐに予備電源が作動するはずだ!」

彼の発言にルナールも同意し、予備電源による電力復旧が遅すぎることを指摘する。

「どうするんだいお二人さん? 私はいつでも銃を抜けるぞ!」

「身構えとけよシズ! この状況で部屋に入ってくるのが味方だとは思えん!」

妹ミノリカの補佐役として出席しているシズハから指示を請われ、彼女を含むスターライガメンバーに対し戦闘態勢への移行を命ずるライガ。

果たして、彼の指示は正しい決断なのだろうか……?


 突然の停電からたった十数秒後、計算され尽くしたかのようなタイミングで大部屋のドアがバンッと開かれる。

「……」

部屋に入ってきたのはサングラスを掛けたスーツ姿の男たち。

人種は白人・黒人・東洋系と様々だが、少なくとも欧米系であることは確かだ。

また、お揃いのアタッシュケースを携行している点も外見的特徴と言える。

「姉上ッ!!」

「くッ……!」

そのケースに違和感を抱いたユキヒメがオリヒメを庇うように立ち上がった次の瞬間、けたたましい発砲音と共にマズルフラッシュが大部屋を照らす。

当然、暗闇と銃声により会場はたちまち混乱状態に陥ってしまう。

「レガリアさん! こんなの聞いてないわよ!」

「私も知らないわッ! 一体何がどうなっているの!?」

悲鳴と怒声と銃声が混じって響き渡る中、円卓の下に伏せたレンカはこの状況についてレガリアに問いただす。

しかし、これは会談実現に尽力してきたレガリアにとっても想定外の事態であった。

()めたな、貴様らッ!」

その会話に姉を庇いながら逃げてきたユキヒメも合流し、会談という名目で自分たち姉妹を排除するつもりだったのかと疑いを掛ける。

「ユキヒメ様……!」

「奴ら、引き金を引くのに迷いが無かった。我々を狙っているのは明白だったな」

レンカは目線でそれを否定しようとするが、ユキヒメの怒りは至極当然だ。

たとえ、これが地球側にとってもアクシデントだったとしても、命の危機に晒されていることは変わりないのだから。

「……とにかく、このままでは蜂の巣ですよ。あの人たちを何とか説得しないと」

そんな中、最年少の出席者であるソフィ(22歳)は冷静沈着に打開策を提示するが……。


 円卓を構成しているテーブルにはセラミックプレートが内蔵されており、緊急時にバリケードや遮蔽物として転用可能な設計が為されている。

しかし、激しい銃撃戦にいつまでも耐えられるという保証は無かった。

「待て、早まるな。説得ができる相手とは思えん」

自分たちが敵ではないことを知らせるべくソフィが立ち上がろうとしたその時、彼女のスカートの裾を引っ張りながらライガは勝手な行動を慎むよう促す。

「なぜです? 同じ地球人じゃないですか」

「日欧米諸国はルナサリアンに徹底抗戦する方針を固めているそうよ。そして、彼らにとっては戦争の平和的解決を目指す私たちも……」

諦観するライガに対してソフィは若者らしい反論を述べるが、彼女の父親であるリアは非情にも水を差す。

「何で……ルナサリアンに少しでも情を抱いたら、その時点で『地球の裏切り者』扱いされるなんて……!」

「……それが政治なのよ、ソフィ。隙あらばあらゆる手を使って邪魔者を排除する――彼らは訪れるかも分からない未来に先行投資している」

父の言わんとしていることを察して怒りに震えるソフィを窘め、皮肉を込めた言い回しで現実の残酷さを教えるレガリア。

ルナサリアンとの戦争に負けたら国家という概念自体が消滅するかもしれないのに、一部の国々は戦後世界の主導権を握るべくあれこれと画策している。

……そのようなやり方がまかり通る世界を是正できていないのは、レガリアのような"大人"があまりに不甲斐無いからだ。

「申し訳ないが、私もライガやレガリアの意見に同意する。その根拠を今から見せてあげよう」

世界の汚さの一部分を垣間見せるため、ルナールは燕尾服のジャケットを頭上に向かって脱ぎ捨てる。

その直後、ジャケットはスーツ姿の男たちの一斉射撃に晒され、弾痕だらけの黒い布切れとなってルナールの手元に戻ってくるのだった。


「君がこのような姿になるのは見たくない。外部と連携しながら脱出を図るほかあるまい」

蜂の巣にされたジャケットを羽織り直すと、ルナールはスマートフォンを取り出して妹メルリンとの連絡を試みる。

この危機的状況を外部へと知らせれば支援を受けられるかもしれない。

「……クソッ、圏外なはずは無いだろ。みんなの携帯電話はどうだ?」

だが、ルナールのスマートフォンの画面は"圏外"を示しており、電話はおろかショートメッセージさえ送受信できない。

「建物ごと通信妨害の範囲内になっているみたいね。随分と手の込んだ罠ですこと」

オリヒメを含む他の者たちの反応を見る限り、この建物のほぼ全体へ影響するように通信妨害が行われているようだ。

とにかく、現状では外部と連絡を取ることは極めて難しい。

「私が先行して脱出ルートを確保します」

スーツ姿の男たちが先ほど撃ち漏らしたアキヅキ姉妹を探している中、勇敢にも先鋒を志願したのはレンカだった。

「貴様がやるのか?」

「こういった荒事には慣れていますので」

彼女は驚き気味のユキヒメに向かって不敵な笑みを浮かべると、ボディチェックをすり抜けられるよう隠し持っていたハンドガンの安全装置を解除する。

「レンカさん、私もお供いたします。銃器の扱いは一応訓練を受けておりますから」

それに同調したのは意外にもメイヤであり、ブリーフケースの中からレンカが握っている物と同型のハンドガンを取り出していた。

レガリアに雇われる以前の記憶が無いというが、MFの操縦技術や銃の使い方を知っている辺りは相変わらず謎多き女性だ。

「メイヤさんは向こう側をお願い。私はこっち側から接近している目標を片付ける」

「ええ、互いに気を付けましょう」

レンカとメイヤは二手に分かれて敵を迎え撃つことを決め、互いの無事を祈りながら静かに行動を始めるのであった。


「ここであたしを殺って何になるんだい?」

スーツ姿の男にアタッシュケース型の銃を向けられているにもかかわらず、オブライエン家当主のアヴェルスは毅然とした態度を貫いていた。

「……答える気は無いか。でもね、たった一人の妹だけは命に代えてでも守るよ」

「姉さん……!」

生気を感じさせないマトリックス的な男からの返答には期待せず、6歳年下の妹ニブルスを守るように立ちはだかるアヴェルス。

「……」

「ニブルスッ!」

「れ、レンカちゃん!」

終始無言を貫き通すスーツ姿の男がケースの取っ手――に擬装された引き金を引こうとしたその時、間一髪のところで間に合ったレンカが声を上げながら距離を詰め、持ち前の射撃技術で男のこめかみに鉛弾を撃ち込む。

「二人とも伏せて!」

ヘッドショットを決めたので一発で仕留めたはずだが、確実なトドメとしてレンカはもう一発だけ死体の頭部を撃ち抜く。

オブライエン姉妹の目の前で死体撃ちはしたくないし、実際にニブルスは口を押さえながら首を横に振っているが、この場を切り抜けるためには"汚れた姿"を見せることもやむを得なかった。


 向かい側の敵を排除しに行ったメイヤも上手く事を進めているらしい。

突然の反撃に驚いたスーツ姿の男たちは速やかに後退し、仲間の死体など気にも留めること無く部屋から撤収していく。

とりあえず、この場は何とか凌げたと言っていいだろう。

「助かったよ……良い腕をしているんだね」

妹と違い流血沙汰をある程度見慣れているためか、アヴェルスはレンカの"冷徹さ"を純粋に評価していた。

「奴らはおそらく日欧米のエージェントです。この会談を失敗させることでオリエント連邦に政治的ダメージを与えつつ、世論を自分たちの方へ傾けるために……」

それについて特に反応することはせず、死体を調べながら敵の正体及び目的について淡々と推測を述べるレンカ。

彼女はアタッシュケースの中から「マイクロUZI(ウージー)」短機関銃とマガジンを取り出し、ハンドガンよりも高威力な武器として鹵獲することを決める。

構成員の人種は多種多様だが、使用武器はイスラエル製――これだけでは敵の所属組織を絞ることができない。

「それが事実ならば随分と身勝手だね。あたしたちの努力を無下にした挙句、この期に及んで地球の覇権争いに執着するとは」

「本当に愚かですよ、地球人は……」

地球人のまとまりの無さを嘆くアヴェルスに対し、レンカは月の特殊工作員「ホシヅキ・レンカ」としての本音を漏らす。

20年以上に亘る潜伏生活で地球の良し悪しは学んできたつもりだが、今回の暴挙はさすがに理解の範疇(はんちゅう)を超えていた。

「え!? これを私に?」

「ここを脱出して真実を知らせなければ。そして、アキヅキ姉妹ごと私たちを排除しようとしている黒幕を見つけ出さないと」

……今はそんなことを考えている場合では無い。

ついさっきまで使っていたハンドガンをニブルスに投げ渡すと、レンカは改めて「この状況を打開して真実を暴く」という意志を明確にするのであった。

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