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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-45】オデッサは燃えているか

 攻撃態勢に入っていたUAV(無人戦闘機)の胴体を蒼いレーザーが貫き、無慈悲な捕食者は呆気無く爆発四散してしまう。

「援護射撃……ローゼル!?」

突然の出来事で難を逃れたヴァイルは僚友の名前を呼ぶが、ローゼルの射撃技術ではここまで正確な狙撃はできないはずだ。

「何とか間に合ったみたいね……ダメもとで撃った甲斐があったわ」

俊敏なUAVを一度きりのチャンスで仕留め切れる、卓越した技術と精神力――。

ヴァイルを救ったのは撤退を優先しているはずのヒナだった。

「君、ヴァイルっていうのかな? 大丈夫だった?」

彼女は愛機トリアキスをノーマル形態に変形させ、ヴァイルのオーディールM2の左腕を掴むことでこれ以上の高度低下を防ぐ。

直接言葉を交わすのはこれが初めてだが、通信を聞いていたので相手の名前と状況だけは知っていた。

「その……何と言うか、すみません。援護するべき相手に助けられるなんて」

「ううん、気にしないで。元軍人として後輩のピンチを見逃せなかっただけよ」

自身の力不足を嘆いて律儀に謝るヴァイルに対し、穏やかに微笑みながら「後輩を助けるのはOBとして当然のこと」だと答えるヒナ。

「ヴァイル!」

「私の仲間は既に撤退している。さあ、君たちも帰りなさい。次はオデッサへ向かう航空隊の護衛をやるんでしょ?」

その直後にようやくローゼルのオーディールが合流したため、ヒナは戦闘空域からの離脱を促しつつ後のフォローを託す。

「名前は存じ上げませんが……先ほどはありがとうございました」

僚機と合流したヴァイルが再び礼を述べた時、真紅の可変型MFは既に遠くへ飛び去っていた。


「(帰ってきた直後に呼び出しとはな……ったく、レガリアの奴も人使いが荒いぜ)」

心の中でブツブツと文句を言いながらスカーレット・ワルキューレ艦内の通路を歩くルミア。

帰投後のMFドライバーは戦闘詳報の作成などで忙しいのだが、それらに取り掛かるよりも先にCIC(戦闘指揮所)へ来るようにとレガリアから指示を受けていた。

「オズヴァルト以下MF部隊20名、全員帰艦を報告しに参りました」

普段は訪れることが無いCICのドアを専用カードキーで開き、ブロンドの髪を掻きながらルミアは大雑把な報告を行う。

「……んで、急な呼び出しとは一体何事だ? 作戦目標は完璧に達成したはずだが」

少々疲れ気味の彼女が嫌みったらしく尋ねた時、その言葉を向けられたレガリアは浮かない顔をしていた。

……いや、正確にはルミアがCICに来る前からこの表情だった。

「ええ、あなたたちの仕事に文句の付けようは無いわ。でも……」

困難な状況下で作戦遂行を果たしたMF部隊を称賛しつつも、どうにも歯切れがよろしくないレガリア。

「でも?」

それに疑問を抱いたルミアが言葉尻を捕らえると、レガリアは俯きながら衝撃的な一言を告げるのであった。

「オデッサ奪還作戦は当初の目標を達成できなかった」


 目標を達成できなかった――つまり作戦は事実上失敗に終わったということ。

「おい、そりゃどういうことだ?」

「あれを見てちょうだい」

訝しげな表情を浮かべているルミアからの詰問を受け、レガリアはCICの正面スクリーンを指し示す。

「あの映像はオデッサ上空に展開中のウクライナ空軍偵察機から送信されているものよ」

そこには爆撃であちこちに大穴が穿(うが)たれ、地獄のように燃え続けているオデッサ市街地及び港湾施設が映されていた。

「仕方ないとはいえ、町中に随分と爆弾を落としてくれたな……」

「そうじゃないの。友軍が到着した時点で既にこうなっていたらしいわ」

戦後復興を考慮しないウクライナ軍の戦術に憤りを見せるルミアを諭し、これは友軍がやったものではないと即座に訂正するレガリア。

「焦土作戦か……ルナサリアンのファシストどもめ」

「ルナサリアンは早い段階でオデッサを放棄した。そして、そこに駐留していた戦力はどこへ移動したのかしら……?」

それでもなお怒りが収まり切らないルミアを横目に、レガリアはオデッサにいたはずのルナサリアンの行き先について考える。

現時点で把握しているルナサリアンの支配領域と戦略目標を照らし合わせた場合、2個艦隊規模の大戦力が投入される戦場はおそらく……。


 南オリエンティア――。

オリエント連邦やノルキア、ラオシェンといった国々の遥か南方に位置する、オリエント圏の最南端にあたる地域。

「元の世界」におけるオリエント連邦の社会主義体制崩壊の影響が色濃く残り、小規模な未承認国家が乱立する魔境として知られている。

ルナサリアンはその中でも特に反連邦志向が強い「ソフィン王国」と接触し、各種支援を条件に国内への駐留を認めさせる「不可侵条約」を水面下で結んでいた。

「久しぶりね、ユキヒメ」

「うむ、直接会って話すのは約1か月半ぶりか」

38万キロ離れた月からソフィン南部のルナサリアン駐屯地にやって来たオリヒメを出迎えると、姉の長旅を労いつつ駐屯地の司令室へと案内するユキヒメ。

アキヅキ姉妹が同じ場所に居合わせるのは、第2次地球降下作戦に伴いユキヒメが月を離れる時以来であった。

「第2次地球降下作戦におけるあなたの貢献には感謝している。そのおかげで考え得る限り最高に近い条件で交渉に臨めるもの」

司令室に入るや否や部屋の隅に置かれていた折り畳み椅子を持ち出し、それに腰を下ろしながらオリヒメは妹の仕事ぶりを高く評価する。

彼女が地球に来た目的はただ一つ。

ユキヒメがもたらしてくれた圧倒的優勢を背景に地球側と交渉を行い、無条件降伏を受け入れさせるためだ。

上手くいけば9月中には戦争を終わらせることができるだろう。

「それで戦争が終われば良いのだがな……姉上は地球人が素直に降伏勧告を受け入れると思うか?」

しかし、軍事的には既に地球上の大部分を押さえているとはいえ、武闘派であるユキヒメは「話し合いによる戦争終結」に懐疑的な見解を示す。

「分からないわよ。だから、この私が直々にオリエント連邦を訪れることで説得力を高めようというわけ」

それについてはオリヒメも部分的に同意せざるを得なかったが、いずれにせよ月に地球が屈する日は近いだろうと確信していた。


「というわけで、はい。これが会談の日程表よ。あなたにも付いてきてもらうから、ちゃんと確認してね」

暫しの沈黙の(のち)、鞄の中から取り出した一枚のメモ用紙を妹に手渡すオリヒメ。

彼女は公的書類以外では随分と可愛らしい丸文字を書くことで知られていた。

「し、仕事が早いな……」

姉の仕事の早さに苦笑いするユキヒメだったが、その表情はメモの内容を確認したことで一変する。

「……姉さん、会談が目的のわりには寄り道が多い気がするのだが」

「別にいいんじゃない? オリエント連邦のことは博士から聞いていて、個人的に訪れたいと思っていたのよ」

会談前の数日間にかけて予定が詰まっていることをユキヒメに指摘されると、オリヒメは明後日の方向を見ながら「不自然なスケジュール」について開き直る。

本人は博士――個人的な協力関係にあるライラック・ラヴェンツァリの影響だと言っているが……。

「むぅ……トランシルヴァニア島やヴォヤージュ市は分からんでもない」

もう一度メモ用紙に目を落とし、姉が行きたがっている場所の戦略的価値を再考するユキヒメ。

トランシルヴァニア島にはスターライガ本部、ヴォヤージュ市にはマスドライバーという重要施設がそれぞれ存在している。

交渉決裂の際に脅威となり得るこれらを事前調査しておくのは悪いことではない。

「だが、ライガ・ダーステイと直接会う必要があるとは思えん!」

問題はオリエント連邦入り2日目を丸々使っている「ライガと直接会ってお話しする♡(意訳)」という用事だ。

普段は姉のやることにあまり口出ししないユキヒメと言えど、こればかりはさすがに許容できなかった。


「まあまあ、落ち着きなさいな」

いきり立っている妹を何とか宥めると、オリヒメは一呼吸置いてから「オリエント連邦視察計画」の詳細説明を始める。

「会談時はもちろん、それ以外のお忍びでも複数名の護衛を付けていくつもりよ」

「……」

彼女は敵国内で行動中は常に護衛を付けるつもりだとフォローするが、それだけではユキヒメは納得できないらしい。

護衛戦力に対する不安か、あるいは視察計画そのものへの反発か……。

「ライガと会う時は大掛かりな護衛は連れて行けないけど、その代わりとしてあなた自身に警護を任せるわ」

「あの男が少しでも不埒(ふらち)を働いた時は、迷わず斬り殺してよいのだな」

その様子を見かねたオリヒメが妥協案――ライガとの「密会」への立ち会いを提示すると、ユキヒメは相変わらず険しい表情ながらも少しだけ態度を軟化させる。

「そういうこと。まあ、そうなる可能性は低いから気楽に考えてちょうだい」

「その根拠はどこにある?」

数日後に敵国へ乗り込むというのに随分と楽観的な姉が心配になり、そういった言動が飛び出す理由について尋ねるユキヒメ。

「フフッ、彼は紳士的な殿方よ。地球人であることが惜しいほどにね……」

だが、オリヒメから返ってきた答え――「ライガだから大丈夫」はあまりにも説得力が無く、妹が望んでいた言葉とは程遠かった。


 ソフィン王国駐屯地ではアキヅキ姉妹以外にも、別の姉妹が約半年ぶりの再会を果たしていた。

「――分かってる、次の作戦が終わったら月に戻るつもりだよ」

「地球側にもはや戦力は残されていない。遅かれ早かれ戦争も終わると思うわ」

地球侵攻部隊所属のスズランと皇族親衛隊所属のスズヤは実の姉妹であるが、配属先が異なるため共闘したことは一度も無かった。

しかし、オリエント連邦本土決戦では精鋭部隊の多数投入が決定された結果、開戦以来初めてヨミヅキ姉妹の揃い踏みが実現したのだ。

「だが、オリエント国防軍は相当強いぞ。それにスターライガの存在も気がかりだ」

スズラン率いる紺部隊(ヨミヅキ隊)はこれまで通りユキヒメの指揮下で戦い、対エース部隊用の切り札として運用される。

「ええ……だから、上層部は新型機の大量投入を決断したのでしょう?」

一方、スズヤを隊長とする皇族親衛隊はオリヒメが直接動かせる部隊であり、アキヅキ姉妹を狙う敵を排除するのが主な役目となる。

「これが……噂の可変型サキモリ……!」

姉と話しているうちに格納庫へ辿り着いたスズランを待っていたのは、紺色の夜間迷彩に塗装された異形のサキモリ。

新たに配備される機体については予め聞かされていたが、実機を見るのはこれが初めてだ。

「オミヅヌ――次期主力機の試作型を実戦投入できるよう急遽改修した、あなたのために用意された特別な機体よ」

呆気に取られている妹の左肩に手を置くと、スズヤは巡航形態で駐機中の可変型サキモリ――試製オミヅヌについて説明を始めるのだった。

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