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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-32】夜中の太陽

巨人たちに与えられた役目は世界の浄化――。

そのために彼らは文明を焼き払い、人々を灰燼に帰したのである。

残された勇者たちは浄化完了を防ぐため、人間の可能性を示すべく鋼鉄の巨人との戦いに臨む。

その先に未来が広がっていると信じて……!

※「新訳オリエント神話-第9章 砕月編-」より抜粋

 現在時刻は午後7時半――。

完全に日没を迎えたわけではないが、作戦開始時よりも空は明らかに暗くなっていた。

「バルトライヒよりパルトナへ、包囲網を突破した敵機が市内中心部へ直進しているわ!」

2機のタケミカヅチが二手に分かれたことを確認したレガリアはすぐにライガへ通信を入れ、超兵器の片割れが市内中心部――おそらくホワイトハウス周辺へ向かっていることを伝える。

「ああ、こちらからもよく見えている! あいつは突入自爆するみたいだぜ!」

戦闘の様子自体はライガたちがいる場所からも視認でき、彼は返答代わりに先ほどリリーから聞いた「タケミカヅチ部隊の最終手段」をレガリアへと教える。

「何ですって!?」

「だから集中攻撃で足止めしようってんだよ! そっちも少しでいいから戦力を割いてくれ!」

戦友が見せた粗方予想通りのリアクションはスルーしつつ、効果的な集中攻撃のために援軍を寄越すよう求めるライガ。

後方に控えていたキリシマ・ファミリーやトムキャッターズも援護してくれるとはいえ、彼女らとα(アルファ)小隊だけでは火力不足に陥る可能性が高いからだ。

「分かってる……! 私とルナールさんの部隊がそちらへ向かうわ!」

タケミカヅチの無駄に高い防御力はレガリアも十二分に実感しており、ルナールを巻き込むカタチで自ら支援要請に応じるのであった。


「ターゲットロック! シュートッ!」

その声と同時にヤンのハイパートムキャット・カスタムからMF用空対地ミサイルが切り離され、対空砲火を見事掻い潜った3発がタケミカヅチへと直撃する。

彼女が率いるトムキャッターズは一撃離脱を徹底することで損害を抑えており、厳しい戦いながら誰一人欠けること無く戦闘を継続していた。

「よーし、こっちも続けていくぜ!」

同業者の活躍に刺激されたマリンも愛機スーペルストレーガのレーザーバスターライフルを構え、負けじと強力な連続砲撃を叩き込む。

キリシマ・ファミリーはリーダーのマリンがあえて前に出ることでターゲティングを引き付け、後方の僚機を守る作戦を取っている。

「クソッ! バリアのせいでライフル並みの威力にまで落ちちまう!」

しかし、光学兵器主体のスーペルストレーガはバリア持ちとの相性が悪く、タケミカヅチの防御兵装「ショウマキョウ」に阻まれ連続砲撃のダメージを軽減されてしまう。

「へッ、光学兵器に頼り過ぎるのも考え物だな」

「言ってろ! それよりもアレのパイロットの覚悟は相当なモノだぜ? でなきゃ躊躇いの無い特攻なんてできるワケがねえ」

それをからかうヤンを適当にいなしつつ、タケミカヅチの突撃が特攻に等しい行為であることを指摘するマリン。

「……あの超兵器に乗ってる奴にも戦う理由があるんだろう。カミカゼと揶揄されてでも為すべきことがな」

一方、元軍人のヤンは事実上の特攻を命じられたであろう敵に同情していた。

タケミカヅチのパイロットは祖国と愛する人々を守るため、地球人と同じく自分を捨てて戦っているのだと……。


「へぇー、これは確かにロボットアニメだねえ」

アニメ好きで知られるリリーは超兵器の姿を初めて見た瞬間、それはそれは嬉しそうな反応を示す。

「アニメじゃないんだよ、これが。あの要塞みたいな攻撃力と防御力に俺たちは随分苦戦させられている」

「そのうえ並の兵器を上回る機動力を持っているんです。手間取っているとあっと言う間に逃げられてしまいます」

他方、その手強さを知っているライガとクローネはツッコむ気すら無いらしく、二人はタケミカヅチの驚異的な能力について淡々と説明する。

「……コックピットは首の下辺りね。あそこから人の気配を感じる」

彼らの話を一通り聞いた後、へらへらとした表情を引き締め説明には無かった「コックピットの位置」について言及するリリー。

彼女のイノセンス能力は既に「見えないモノを見る」というレベルに至っているらしい。

「狙うのは簡単じゃないぞ。だが、そこを潰すのが一番手っ取り早くもある」

幼馴染の指摘を肯定したライガはハンドサインで合図を送り、小隊各機に対し一斉攻撃を指示するのであった。

「各機、ここが正念場だ! 何としてでも巨人の息の根を止めるぞ!」

タケミカヅチの現在位置と平均速度から算出された残り時間は1分30秒――。


 レガリア率いるβ(ベータ)小隊は持ち前の機動力ですぐに超兵器へ追いつき、速やかに攻撃態勢を整える。

ただし、消耗が激しいニブルスとソフィは後退させているため、戦力が半減している状態では火力不足は明らかだ。

「ブラン! 連携攻撃で一気にダメージを入れるわよ!」

「OK! 奴らに姉妹の絆を叩き込んでやろう!」

それを少しでも補うためレガリアは姉妹連携攻撃――コードネーム「トランシルヴァニア」の使用を提案。

妹のブランデルは若干食い気味に賛成し、姉の愛機バルトライヒと共に大量のマイクロミサイルを発射する。

シャルラハロート姉妹はどちらも格闘戦を得意としているので、このミサイル攻撃は間合いを詰めるための牽制にすぎない。

「装甲が分厚いんなら、無理矢理引き剥がせばいいのさ!」

まずはブランデルのプレアデスが先行してタケミカヅチの背部に取り付き、2基のフレキシブルアームで装甲板を引き剥がしていく。

「槍を放て、姉さんッ!」

適当に装甲を壊したところで彼女はレガリアに攻撃を促し、自らは同士討ちを避けるため一旦後退を図る。

「飛べッ、ジャベリンッ!」

人型形態へ変形した深紅のMFは投擲用アタッチメント「アトラトル」を装着したビームジャベリンを握り締め、妹が作ってくれた「傷口」に向かって蒼い光の槍を投げつける。

「こいつもくれてやる!」

連携攻撃の締めはブランデルが担当することになった。

彼女が駆る真紅のMFは主兵装のバスタードソードを構えると、大推力を活かした突撃で銀色の大剣をタケミカヅチへと突き入れる。

「クソッ、これでもまだ倒れないのかよ!?」

自分の攻撃で起こった爆発から逃れつつ、未だ健在である鋼の巨人の耐久性に悪態を()くブランデル。

シャルラハロート姉妹の連携攻撃は完璧だった。

ただ、それ以上にタケミカヅチの防御力が高すぎたのだ。


 少し遅れて合流したルナール指揮下のε(エプシロン)小隊も鋼の巨人を目視確認し、射撃武器をリロードしながら攻撃態勢へと移る。

4番機担当のレカミエは帰艦しているため不在だが、この部隊は元々「オロルクリフ3姉妹withレカミエ」のような構成なのであまり変わらない。

「あれが噂の『トランシルヴァニア』か。フッ、私たちも負けていられんな」

シャルラハロート姉妹が披露した連携攻撃に感銘を受けたのか、自分たちも独自の合体技を披露したいと提案するルナール。

「その口振り……こっちもあの技を試すつもりかい?」

「せっかくだからやってやろうよ!」

姉の性格を知っているリリカとメルリンは特に反論すること無く提案を承諾し、指示が出るよりも先に散開していく。

「私たちの曲目は『プリズム・アンサンブル』だ! 事前打ち合わせ通りに行くぞ!」

ルナールが満を持して連携攻撃の発動を宣言した時、妹たちは既に攻撃位置へと就いていた。

「了解! 序曲からフルパワーで飛ばすわよ!」

序曲――つまり牽制攻撃を担当するのは射撃武装が豊富なユーフォニアムを駆るメルリンだ。

彼女はその宣言通り愛機の腹部に隠されたジェネレーター直結式レーザーキャノンを展開させ、マイクロミサイルの一斉射撃と同時に最大出力で発射する。

光学兵器という特性上バリアフィールドの影響は受けてしまうが、元のエネルギー量が大きいので減衰を考慮しても十分な威力が期待できる。

「間奏は私が引き受ける! 行けッ、『オルファン』!」

続いて中継ぎを務めるリリカがタケミカヅチへと肉薄し、レーザーライフルとオールレンジ攻撃端末を織り交ぜたパターンアタックで堅実にダメージを与えていく。

「オルファン」が活動限界を迎えたところで赤いMFは攻撃を終え、ルナールのストラディヴァリウスにターンを回す。

「これが君に捧げる終曲だ……鎮魂歌(レクイエム)を聴きながら眠れ!」

メルリンが焼きを入れ、リリカが叩く――。

そうして仕上げを託された黒いMFは大型両手剣ギガント・ソードを振りかざすと、鋼の巨人の左脚に鋭い回転斬りを叩き込むのだった。


 人型を採る機動兵器にとって脚部は極めて重要な部位だ。

タケミカヅチの両脚は支柱のように太いが、与えられている機能自体はMFやサキモリと同じである。

「き、脚部損傷! 姿勢制御に支障が出ている!」

「ここで止まってたまるかよ! この程度なら手動制御で持ちこたえられる!」

左脚の損傷に関する操縦補佐官からの報告を受け、シノは姿勢制御システムを一部マニュアル操作に切り替えることで機体の転倒を防ぐ。

「あんた……それだけの操縦技術がありながら、なぜ軍規違反なんか犯したんだ?」

「前にも言ったろ? 私は自分の命を惜しむ臆病者なのさ」

一連の手際の良さに感心した相方の質問に対し、単刀直入に「自分は臆病者だった」とだけ答えるシノ。

兵士としては十分すぎる能力を備えていながら、自己中心的な考え方だけは軍隊という組織に向いてなかったのかもしれない。

「だが、その臆病者とも今日でお別れだ」

しかし、今の彼女は原隊にいた頃のカレハヅキ・シノとは違う。

「なぜ乗降口を開けた?」

コックピットの後方に位置する乗降口が突然開放されたことに驚き、その行動の意図について眉をひそめながら問いただす操縦補佐官。

「お前はあそこから飛び降りて生き延びろ! ここから先は私一人で十分だ!」

タケミカヅチの脱出装置はコックピットブロック自体を射出するタイプであり、本来は2名の乗員を同時に脱出させられるというメリットを持つ。

逆に言えば片方の操縦席だけを射出することはできないため、シノは自分が残ることを前提に乗降口を開けたのだ。

「早くしやがれッ! 落下傘無しで突き落としてやろうかッ!?」

戸惑いながらもパラシュートを背負った相棒の脱出を見送ると、乗降口を閉じたシノは火器管制を含む全コントロールを自身の操縦席へ移すのであった。

「(連れション感覚で特攻へ連れて行くことはできない。だから……お前は必ず長生きしろよ)」


「あーあー、私の声が聞こえているかな? スターライガの諸君」

無線装置の周波数を受信機さえあれば傍受可能なオープンチャンネルに切り替え、戦っている相手であるスターライガとの会話を試みるシノ。

「超兵器のパイロット……! オープンチャンネルで話しかけてくるとは、私たちを挑発しているつもりなの!?」

一方、長時間の市街戦で神経をすり減らしていたスターライガの面々は疲労が見え始めており、敵の声を聞いたレガリアは珍しくイライラを露わにする。

タイムリミットが迫る中、オープンチャンネルで話し掛けてくることは挑発行為としか感じられなかったのだ。

「いや、これは警告だよ。もうお前たちに本機の特攻を止めることはできない。命が惜しければ直ちに戦闘空域から離脱することだ」

「小娘が……ナメてると潰すぞ!」

シノによる事実上の勝利宣言に何人かは強く反発し、特にライガは「小娘」と毒づくなど爆発寸前の状態に陥っていた。

「待ってライガ! あの()の言う通りにした方が良いよ! 怖い事が起こるから……!」

そんな彼の精神状態を知ってか知らずか、相手の言葉は素直に受け入れるべきかもしれないと忠告するリリー。

「何だ? 一体何が起こるって――!?」

幼馴染の最後の一言に不安を抱いたライガが聞き返そうとした次の瞬間、夜の(とばり)を切り裂くほどの蒼白い閃光がワシントンD.C.を包み込む。

真っ白な世界と猛烈な爆風波がようやく収まった時、スターライガの眼下に広がっていた光景とは……?

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