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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-21】最果ての狙撃手(前編)

2132/04/15

14:30(UTC-3)

Thule,Greenland

Operation Name:ICEBERG

 難攻不落と恐れられていた超兵器潜水艦「ナキサワメ」を見事撃沈し、国防軍上層部から「本戦争において必要不可欠な存在」と最大級の賛辞を贈られたゲイル隊。

だが、戦争は彼女らに一日の休息さえ許さない。

再編制を終えたオリエント国防海軍第8艦隊が夜が明けてからやって来たアメリカ海軍第2艦隊と合流し、ルナサリアンのチューレ前線基地を奪還するためだ。

最低限の整備及び補給、そして短時間の仮眠を済ませたセシルたちは疲れが抜け切れないまま戦場へと向かっている。


「ったく、戦場にとんぼ返りとは勘弁してくれよ……!」

オーディールの狭いコックピット内で肩をほぐしながらアヤネルは愚痴っていた。

体力的には絶頂期の24歳とはいえ、ハードな連続出撃をしていればさすがに疲れが出てくるのだろう。

「まあ、そう思っているのはお前だけじゃないさ。昇進おめでとう、アヤネル『中尉』」

「それはこっちのセリフですよ、セシル『中佐』。27歳――存命での中佐昇進は史上最年少だそうで」

そう、先日のモビーディック作戦における驚異的な戦果を考慮された結果、ゲイル隊及びブフェーラ隊の6人は全員昇進を果たしたのだ。

4月6日に27歳の誕生日を迎えたセシルは、史上最年少の国防軍中佐として歴史に名を刻むこととなる。

一方、手続きの都合で正式に階級章が変わるのはもう少し後になるが、スレイとアヤネルにとっては初めての昇進でもあった。


「……二人とも、疲れてないの? 私は正直言ってクタクタなのに――あっ! すみません、隊長……!」

無意識のうちについ愚痴を漏らしていたことに気付き、自らの失言を詫びるスレイ。

だが、セシルはそれを特に咎めなかったばかりか、むしろ彼女の心情に理解を示していた。

「私もアヤネルも……いや、戦争が起こって元気になる奴なんていない。だが、職業軍人というものは命令が下されたら任務に就かなければならないんだ」

じつを言うと「部下たちとブフェーラ隊の面々は休ませてほしい」とセシルは出撃前にサビーヌ中将へ直談判していたのだ。

サビーヌも連続出撃による疲労の蓄積に対し懸念を示していたが、アメリカ海軍の進軍要求や前線の兵士たちの士気高揚のため、苦渋の決断を下さざるを得なかった。

出撃を命じる時に見せた、彼女の苦しそうな表情と「隊長としてあの娘たちを守ってやってくれ」という言葉は未だ忘れられない。

結局、ゲイル隊はチューレ前線基地奪還、ブフェーラ隊はフォート・セバーン潜水艦基地制圧へそれぞれの母艦と共に駆り出されたのである。


 そうこうしているうちにゲイル隊はチューレ前線基地が目視できる距離まで近付いていた。

「ゲイル3より各機、友軍が攻撃中の敵基地を確認した」

HISのズーム機能で敵基地及び防衛艦隊の状況を探るアヤネル。

「ねえ、なんで敵艦があんなにいるのよ? 私たちが超兵器と戦っている間に第8艦隊が沈めたんじゃないの?」

スレイの言う通り、確かに第8艦隊は得意の夜戦で敵戦力のおよそ4割を撃沈するという戦果を挙げていた。

ところが、基地周辺にはルナサリアンの残存艦隊が集結し、堅牢そうな防衛ラインを展開しているのだ。

あの濃密な対空砲火を突破するのはなかなか骨が折れるかもしれない。

「こちらの作戦は勘付かれているようだな……いいか? 我々の任務は敵施設の破壊及び航空優勢の獲得だ。艦隊の相手は対艦ミサイルを持っている友軍に任せ、自分たちの役割へ集中しろ」

敵艦隊の規模と自分たちの装備を照らし合わせたセシルは防衛線の強行突破を決断。

最短距離で敵基地上空へ向かえる針路をHISの地図画像へメモし、そのデータをスレイとアヤネルの機体に送信する。

「敵艦隊の中央を突破か……隊長らしい、大胆不敵な作戦だ」

地図画像を見たアヤネルは納得したように頷いている。

ゲイル隊へ配属されたばかりの頃は時としてセシルの無茶な指示に悩まされたものだが、今では不思議と彼女へ追従できるようになっていた。

むしろ、彼女の指揮下でなければ安心して戦うことはできないし、違う人物が隊長だったら反論を述べていたかもしれない。

「ゲイル各機、しっかりついて来い。花火の中を突っ切るぞ!」

「「了解!」」

セシルの指示と同時に3機のオーディールMは推力を上げ、基地を守るように布陣する敵艦隊の中央を目指すのだった。


「各艦、弾幕をもっと厚くしろ! 基地への侵攻を許すな!」

残存艦隊の中にはアゾレス諸島沖、そしてデービス海峡と2度も第8艦隊相手に苦汁を舐めさせられた巡洋艦「ヒコヤイ」とモチヅキ艦長の姿があった。

「ヒコヤイからアシナダカ、お前のところの弾幕が一番薄いぞ! 何をしている!?」

「こちらアシナダカ艦長、対空砲の緊急修理にあたらせています! もう少しで復旧できるかと……!」

メインスクリーンに映っている駆逐艦「アシナダカ」の艦長へ怒鳴っていた時、若い通信士が申し訳なさそうな顔をしながら1枚の紙をモチヅキへ手渡す。

傍受した通信の中で気になる遣り取りがあったら紙へ出力するよう事前に命じていたため、何か重要な情報でも掴んだのかもしれない。

戦闘指揮所の艦長席に腰を下ろし、モチヅキは紙へ出力された通信内容に目を通す。

彼女は地球侵攻作戦以前に訓練の一環としてオリエント語を学んだほか、開戦後に捕虜となった地球人同士の会話などから英語やスペイン語もある程度覚えてしまったため、多少は敵の言葉を理解することができるのだ。

「なになに……『シキベツシンゴウをカクニン――エングンはゲイル!』……ゲイルだって!?」

驚きのあまりモチヅキはつい声を上げてしまい、乗組員たちの視線に晒される。

だが、彼女らの注目はやがて艦長の姿よりも「ゲイル」という言葉へと移っていく。

「ゲイルって……ナキサワメを沈めたって噂になっている、あのゲイル?」

「ええ、ヨーロッパではヨミヅキ隊やユキヒメ様とも互角以上に渡り合ったらしいわ」

名前を聞いただけでも恐ろしい強敵を前にし、乗組員の間に不安感が広がる。

艦長としてはこの悪い空気に対処しなければならない。

「……総員、落ち着け。敵が誰であろうと作戦内容に変わりは無い。気持ちは分からんでもないが……お前たちが全力を尽くさなければ、この(ふね)が沈むことになるぞ」

狼狽え始める乗組員たちを落ち着いた口調で一喝するモチヅキ。

その一声のおかげで冷静さを取り戻したのか、戦闘指揮所は再びピリピリした雰囲気へと戻るのだった。

「(今回は我々の防衛戦力にも『撃墜王』がいるのでな。彼女の狙撃技術で『蒼い悪魔』を撃ち抜いてくれることを願おうじゃないか)」


 敵味方の対艦ミサイルや対空砲火が頭上を飛び交う中、アシナダカの乗組員数名は故障した対空機関砲の修理を行っていた。

「むぅ、弾詰まりじゃないのか……電気系統を確認してくれ」

「そこは既に確認済みよ。もっと別の部分を――」

その時、対空機関砲の外装をチェックしていた別の乗組員が突然叫び声を上げる。

「う、うわぁぁ!」

「どうしたの!?」

「て、敵機が……突っ込んで来る!」

彼女が指差す先には3機のMFらしき飛行物体がおり、そうしている間にも凄まじい速度でこちらへと接近している。

そのスピードは「特攻してくるんじゃないか」と思わず錯覚してしまいそうなほどだ。

「みんな伏せろッ!」

リーダー格の乗組員が指示を出し、甲板上に突っ伏した直後であった。

3機の蒼いMF――オーディールMがベイパーコーンを発生させながら頭上を一瞬で通過していく。

直後、遅れてやって来た轟音が乗組員たちに襲い掛かる。

「素通りしていったか……どうやら、奴らの目的はあくまでも基地らしいな」

そう呟くリーダー格の乗組員は見逃していなかった。

――飛び去って行くMFに描かれていた「雪の結晶」の国籍マークと「疾風を抽象化した」部隊マークを。


「各機、地上施設に対しては攻撃命令が出ている。ただし、滑走路には可能な限り被害を与えるな――とのことだ」

火器管制システムのセーフティを解除しながらセシルは注意事項を部下たちへ伝える。

「滑走路は攻撃しちゃダメなんですか?」

「ああ、敵が沈黙したら資材を積んだアメリカ軍の輸送機が降りるらしい」

また、スレイが抱くちょっとした疑問に対しても答えておかなければならない。

ルナサリアンの手で大規模な改修が施されてしまったとはいえ、元々はアメリカ空軍が所有していた最北端の基地である。

「自分たちが造ったモノは是が非でも取り返し、士気高揚に繋げたい」というのが本音なのだろう。

「しかし……滑走路以外は結構派手にやっているな。管制塔や格納庫は安上がりということか……敵の物だから徹底的に破壊するのか」

火災を起こす地上施設を確認しながらアヤネルは肩をすくめた。

「……サキモリや戦闘機を優先的に狙いつつ、可能であれば地上の対空兵器も制圧しろ」

彼女の発言に少なからず思うところはあったが、セシルは迎撃部隊の相手をするよう僚機へ指示を出すのだった。


 ナキサワメを沈めたゲイル隊の存在はチューレ前線基地へ真っ先に伝わり、ここから他の基地やマダガスカル島に置かれる地球侵攻作戦司令部――そして38万km先の月面都市にまで届いていた。

「全機、敵戦力の中にナキサワメを沈めた奴が紛れ込んでいるらしい。警戒しろ」

「連中の搭乗機は珍しいモビルフォーミュラだからすぐに分かるはずだ。会敵したら単独戦闘を避け、必ず僚機と共に追い込め」

地球侵攻作戦開始から約1ヶ月が経過し、ルナサリアンも地球側の軍事力に関する詳細なデータの収集を継続している。

それらを纏めた資料には各国の精鋭部隊や強力なプライベーター「スターライガ」が注意すべき敵戦力として掲載されており、つい最近「ブラックリスト」の仲間入りを果たしたエース部隊がいた。

……もはや言うまでもないが、ゲイル隊のことである。

しかも、アメリカ陸軍の「グリーンベレー」やロシア軍の「スペツナズ」といった精鋭部隊がデータを基に要注意戦力へ指定されているのに対し、スターライガやゲイル隊は総司令官たるユキヒメが「本戦争において最も警戒すべき存在」として直接言及しているのだ。

「輸送機が安全圏に到達するまでの時間稼ぎさえできればいい……全機、散開!」

1機の指揮官仕様に率いられていた複数機のツクヨミが編隊を解き、それぞれ手近な敵機へ襲い掛かるのであった。


 爆装した友軍機を付け狙うツクヨミや全領域戦闘機「ヤタガラス」を仕留めつつ、ゲイル隊は脅威となる対空兵器や地上施設の破壊を行っていた。

「隊長、何かおかしいと思わないか?」

「どうした、ゲイル3」

敵機との撃ち合いを制した後、アヤネルは作戦の中で思い浮かんだ疑問をセシルへ告げる。

「それなりに大規模な基地のはずなのに、迎撃機以外の航空戦力が全く見当たらない。輸送機やアメリカ本土空襲用の爆撃機ぐらい置いてあってもいいはずだがな」

「敵襲を察して退避したんじゃないの?」

「仮にそうだとしたら、『じゃあ、前の戦闘から間隔を置かない奇襲作戦の情報をどうやって知った?』という話になる」

「うーん、そう言われてみれば……」

スレイが指摘した通り、大型機が見受けられないのは単にどこか安全な場所へ退避しているからだろう。

しかし、モンツァやジブラルタルの戦いでもそうだったが、ルナサリアンは奇襲作戦に対する反応が妙に素早いことがある。

まるで、敵襲の情報を事前に察していたかのように。

「……地球側も一枚岩というワケではない」

セシルの一言――そこに含まれているであろう意味をアヤネルとスレイはすぐに悟った。

「ふむ、帰ったら姉さんに探りを入れてもらうか。この戦争……想像以上に思惑が絡んでいるかもしれん」

そう呟きながらも彼女は斬りかかってくるツクヨミ指揮官仕様の一撃をビームシールドで防ぎ、敵機が硬直している隙にビームソードをコックピットへ突き刺していた。

「キナ臭い話はやめておけ。それよりも作戦に集中しろ」

一介のドライバーが議論するような内容では無いと判断し、セシルは部下たちに仕事へ戻るよう促す。

「(地球人の裏切り者、か……)」

だが、話の内容が気になっていたのは他ならぬ彼女自身であった。


「フフフッフッフーン♪ フフフフーフフフーフ♪ フフフッフッフーン♪ フフフフーフフフー♪」

綺麗な鼻歌を奏でながら火器管制システムのチェックを行うエイシがいた。

彼女の名はミナヅキ・ニレイ。

ルナサリアンの間では「星を()る者」という異名で呼ばれる、傑出した射撃技術を持つエイシだ。

ニレイが率いる部隊は狙撃を得意としており、緒戦の「星落とし」と同時に実行された北アメリカへの降下作戦でも数多くの敵機を仕留めた結果、チューレ基地制圧の原動力となったことはよく知られている。

「隊長、本当に鼻歌を歌うのがお好きですね」

隊長機の隣で双眼鏡を持ちながら基地の状況を確認する副官。

ニレイとはそれなりに長い付き合いであり、彼女からは厚い信頼を寄せられている。

この2人が搭乗するツクヨミは自分の推力で空を飛んでいるのではない。

「ああ、狙撃の時に呼吸を合わせやすいからね。それに、大船に揺られながら鼻歌を聴くのは心地良いモノでしょ?」

リズムにノリながら爽やかな笑顔で答えるニレイ。

彼女のツクヨミ指揮官仕様と副官のツクヨミは全領域戦略輸送機「アメハヅチ・キ-39 ゲンブ」の上面に座るようなカタチで輸送機側と接続されており、その手には超大型狙撃銃と思わしき武器が握られていた。

殿(しんがり)を務める味方部隊に対する援護――それがニレイと彼女の副官に与えられた任務だ。

そもそも、2人の機体が接続されているゲンブの貨物室は超大型狙撃銃用のエネルギー供給装置を設置しており、特に貨物は積んでいない。

「さて……今日も狩りを始めるとしようか!」

計器投映装置に表示された照準器で敵機の位置を確認し、ニレイは舌なめずりしながら操縦桿の引き金を引くのだった。


「エリダヌス1より各機、敵戦力は瀕死だ。一気に畳み掛けるぞ」

正規空母アカツキを母艦とするオリエント国防空軍第3航空師団第10戦闘飛行隊「エリダヌス」はローマ防衛戦やジブラルタル攻略作戦に参加していた部隊であり、今回も航空戦力の一角として最前線へ投入されている。

敵機に追われたりしながらも対地兵装を無事に使い切り、残された基本武装で作戦終了まで立ち回ろうとするが……。

「……ん? 隊長、いま空が光っ――!」

部隊で最も若いドライバーであるヴァイル・リッター少尉が叫ぶのとほぼ同時だった。

遥か彼方から飛来してきた蒼い光線がエリダヌス1の機体――アークバード・FA21 スターメモリーを呑み込み、跡形も無く消滅させる。

レーザーライフルよりは強力だが艦砲射撃に比べたら弱い、それでもMFを撃墜し得るだけの破壊力を持つ攻撃だ。

「指揮は私が継ぐ! ヴァイル、退避し――!」

エリダヌス2が後輩へ退避を促した直後、彼女の機体もまた蒼い光線の餌食となってしまう。

「ルナサリアンめ……どこからスナイプしてきやがった!? どこへ飛べばいいんだ……!」

隊長と先輩を一瞬で喪い、戦場に取り残されてしまうヴァイル。

途方に暮れる彼女は遥か彼方のニレイが虎視眈々と狙っていることに気が付かなかった。

計器投映装置

地球側でいう「ホログラム・インターフェイス・システム(HIS)」に相当する技術。

ルナサリアンはこの装置の信頼性に絶対的な自信を抱いているため、緊急用の航空計器は高度計、姿勢指示器、速度計、方位磁針の4種類しか搭載していない(地球製モビルフォーミュラはもう少し多い)。

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