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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-29】黒は全てを塗り潰す色

 ライガ率いるα(アルファ)小隊とルナが指揮するシモヅキ隊の戦力差は3対9。

主にライガの奮闘で1:3まで縮めたとはいえ、まだ一人につき3機は相手しなければならない計算だ。

当然、3倍もの戦力差があると包囲される状況が生じやすくなり、α小隊は常にロックオンされ続ける厳しい戦いを強いられていた。

「後ろに付かれているぞ、クローネ! 俺が援護するまで耐えてくれ!」

小隊の中で一番未熟なクローネはやはり狙われやすいらしく、彼女が攻撃に晒されているのを視認したライガは速やかにカバーへ入ろうとする。

「合流させるわけには!」

しかし、彼もまたルナサリアンのエースであるルナに狙われており、自機の安全を確保しつつ僚機を援護しに向かうことができない。

「クソッ、指揮官機め! これじゃあ助けに行けん! サレナは何やってんだ!?」

執拗に射撃攻撃を仕掛けてくるルナと連携できない位置で戦うサレナの両方に苛立っているのか、珍しく感情的になり怒声を上げるライガ。

「自力で何とかします! 私だって専用機を任されているんですから!」

それを聞いていたクローネは愛機シューマッハの操縦桿を握り締め、自力で状況打開するべく訓練と実戦で学んだことを思い出す。

「(急減速してオーバーシュートを狙えば……!)」

彼女が真っ先に閃いた答えはオーバーシュート。

自機の後方にいる敵機を急減速などで追い越させ、逆に背後を奪うMF戦の基礎技術だ。

「シューマッハの運動性ならば!」

タイミングを見計らって推力を一気に絞り、身体が投げ出されそうになるほどの急制動で機体を減速させるクローネ。

「やった……! 当たれッ!」

目論見通り改ツクヨミ指揮官仕様の背中を視界に捉えた瞬間、彼女が駆る白いMFは腰部可変速レーザーキャノン(V.S.L.C)を2門同時発射するのだった。


 一方その頃、僚機たちから孤立していたサレナはホワイトハウス周辺まで後退し、同じく単独行動を取っているシモヅキ隊の副官と激しいドッグファイトを繰り広げていた。

「(あの黒いモビルフォーミュラ、私が地上を背にしている時は攻撃してこないな……)」

一騎討ちの最中、副官は漆黒のMF――サレナのクリノスが特定の状況では攻撃を躊躇っていることに気付く。

「(歯がゆいわね……誤射のリスクを考えると今は撃てないか)」

彼女の推測はズバリ正解であり、実際にサレナは市街地への誤射を恐れていた。

運が悪ければ地上の市民に流れ弾が当たる可能性も十分考えられる。

「(ならば、低空に誘い込んでヤツの背後に地上が来るようにすれば……!)」

漆黒のMFは地上への被害を気にしており、自分自身で動きに制約を生じさせている――。

それを見抜いた副官は敵機が地上に背を向けるよう誘導し、すかさず光線銃の連射攻撃を仕掛けることで「答え合わせ」を行う。

「くッ……!」

サレナの技量ならば容易にかわせる程度の攻撃であったが、彼女のクリノスは回避運動を取る素振りさえ見せずにディフェンスプレートで蒼い光線を受け流す。

「(間違い無い、ヤツは地上への被害に配慮し過ぎている! これは勝てるぞ!)」

自分の読みが正しいことを確信した副官は人々の顔が見えるほどの高度まで下降すると、漆黒のMFが追い付いてきたところでトンデモない行動に打って出る。

「悪く思うなよ……だが、卑怯なのは市民に擬装した守備隊を配置しているアメリカの方だからな」

クリノスと相対しながら武装を無反動砲に持ち替える改ツクヨミ指揮官仕様。

その砲口は漆黒のMFではなく、地上から夕焼け空を見上げている市民たちへと向けられていた。


「黒いモビルフォーミュラの搭乗員に告ぐ! 貴官がこれ以上の攻撃行動を図った場合、私は引き金を引くことでそれに答える! 市民の姿を借りた首都防衛隊の命とこの都市が大事ならば、すぐに投降せよ!」

シモヅキ隊の副官は無線周波数を地球で言うオープンチャンネルに切り替え、サレナに対しワシントンD.C.及び市民を盾とした降伏勧告を突き付ける。

彼女が市街地への被害に配慮していることを逆手に取った、卑劣ながらも効果的と思われる脅迫だ。

「何ですって……?」

「我々とて無駄に血を流すことは望んでいない。この無反動砲には広域先制攻撃用の特殊弾頭が装填されている。それが発射された場合、ワシントンが地獄と化すことは明白だ」

あまりにも失礼極まりない要求に困惑するサレナをよそに、特殊弾頭なる大量破壊兵器らしきモノをチラつかせることで彼女を追い詰めていく副官。

「冗談じゃないわ! あそこにいるのは非武装の一般市民なのよ!」

あくまでも「スターライガの一員」でしかないサレナに大局の決定権は無く、その代わりに戦う力を持たない市民の存在を伝えることで無謀な降伏勧告を撤回させようと試みるが……。

「奇妙だな……我々が入手している情報によると、アメリカ政府閣僚は防衛隊に守られたうえで籠城しているそうだが?」

副官の口から出てきたのは、スターライガ側が把握している情報とは真逆の情報。

何が間違いで何が正しいのか――真実を知る者はこの戦場にはいなかった。


 人質を取られたも同然の状態で降伏勧告を迫られ、進退窮まったかと思われたサレナ。

「……あなた、嘘を()いているでしょ?」

しかし、彼女は相手の発言に嘘が含まれていることに気付き、珍しく不敵な笑みを浮かべながらそれを指摘する。

「な、何を根拠にそう言えるんだ?」

「一つは随分と多くの情報を与えてくれること。そして、もう一つは機体の左手で私を指差していること。それらは人が噓を吐く時にやりがちなミスよ」

心理学の研究をしているサレナは副官が見せた二つの言動に着目した結果、それらがハッタリであることを見抜いたのだ。

中でも「特殊弾頭」について話していた時の様子が最も怪しかったため、少なくとも特殊弾頭云々は嘘を吐いている可能性が極めて高い。

「(まあ、本当は直感的に察した点も否めないのだけれど)」

もっとも、今回に限っては姉のような「直感」が判断の決め手となったのだが……。

「アハハ、参ったなぁオバサン! あんたが心理学に長けていたとは予想外だったよ」

嘘を見破られた副官は苦笑いし、意外なほどあっさりと事実を認めてしまう。

「……でも、投降しないのなら引き金を引くことは本当だッ!」

だが、すぐに表情を引き締めた彼女は操縦桿のトリガーを引き、地上の人々に向けて無反動砲を発射するのだった。


「くッ、いけないッ!」

無反動砲から砲弾が放たれるのを視認したサレナはすぐに機体を加速させ、固定式機関砲で迎撃を試みようとするが、操縦桿のボタンを押そうとした段階である問題に気付く。

「(射撃で撃ち落とそうとしたら地上まで攻撃が届く……でも、そうしなければ大勢の人が死ぬ!)」

機関砲弾による掃射を全弾命中させない限り、流れ弾が地上に向かってしまうのだ。

そして、MFの固定式機関砲は命中精度を重視した武装ではなく、残念ながら「最低限の攻撃で目標を撃ち落とす」という使い方には向いていない。

自分の攻撃が逆に被害を与えてしまう可能性と葛藤した挙句、思考停止に陥ったサレナは有効な迎撃行動を取ることができなかった。

「戦場での迷いは自分を殺すことになるぞ!」

「あうッ!?」

その結果、僅かな隙を見抜いたシモヅキ隊副官による不意討ちまで食らってしまい、漆黒のMFは黒煙を吐きながらフラフラと高度を下げていく。

「(メインスラスターをやられた!? でも、姿勢制御できるだけの推力は絞り出せるはず……!)」

まだ生きているサブスラスターを駆使することで辛うじて姿勢制御に成功し、ホワイトハウス敷地内の庭園へと不時着するサレナのクリノス。

「こ、これは……こんなことって……!」

改ツクヨミ指揮官仕様を迎え撃つべく立ち上がろうとしたその時、周囲確認を行った彼女は最も見たくなかった光景を目の当たりにしてしまう。

人間の「何か」らしき黒焦げの物体が多数散乱し、それ以外にも大勢の人々がうずくまっている着弾地点を……。


「(あの人たちにだって家族や未来があったはずなのに……クソッ! クソォッ!)」

自らの迷いがもたらした代償を突き付けられ、これまで感じたことが無いほどの激しい怒りに駆り立てられるサレナ。

普段冷静な彼女がここまで激昂するのはハッキリ言って異常だ。

「飛行能力を失ったのなら好都合! 地球人は地べたを這いずり回っていればいいんだ!」

クリノスが空を飛べなくなったことを見抜いた副官はそれを好機と捉え、漆黒のMFにトドメを刺すべく頭上から強襲を仕掛ける。

だが、その判断は少々焦り過ぎだったのかもしれない。

「くッ、何だこの捕獲用装備は!?」

間合いを詰めようとした次の瞬間、彼女のツクヨミの両足首にワイヤーのような物が巻き付けられ、黒いサキモリはそのまま地上へと叩きつけられてしまう。

面食らった副官は光刃刀でワイヤーを切り裂くことですぐに自由を取り戻すが、メインスラスターにダメージを受け長距離飛行ができなくなっていた。

「誰彼構わず巻き添えにして……そんなに戦争がしたいのか、お前たちはッ!!」

互いに地上戦を強いられる事になったクリノスと改ツクヨミ指揮官仕様。

両者にとって想定外の状況が起きる中、先に仕掛けたのは怒りに憑りつかれたサレナの方であった。


 目覚めなさい……。

「(くッ、この忙しい時に誰が話し掛けているの……!)」

目覚めなさい、サレナ・ラヴェンツァリ……。

「(しかも私の名前を知っている? 声に聞き覚えはあるけど、まさかあの人なわけは……)」

目覚めなさい、禁じられた力を行使するために……。

「(禁じられた力……はっ!?)」

目覚めなさい、禁じられた力――「イノセンス」を行使するために作られた人の子よ……。

「(そうか……私も姉さんと同じだったんだ……!)」

目覚めなさい、「イノセンス」の力を以って未来へと進まなければなりません……。

「(未来……そこへ至るためには力が必要なのか……)」

目覚めなさい、器を失った魂たちの想いを受け継ぐのです……。

「(そうだ……私は……もう迷わない!)」

そして、その果てに待っているのは……。

「(私たちはこの星に生きる人々を守るために戦っているのよッ!)」

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