表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

218/400

【BTF-28】過去最大の苦戦

「クソッ! こいつはあり得ないぐらい硬いぜ!」

ルミア率いるΔ(デルタ)小隊は4機中3機が近接戦闘向きの機体であり、タケミカヅチのような巨大兵器との相性は最悪と言えた。

バリアフィールドの影響を受けづらいのは唯一の救いだが、攻撃の度にいちいち接近しなければならないのはリスクが高い。

「ああ、まるでゼリーを殴っているみたいだ! 徒手空拳の戦闘スタイルに後悔したのは初めてだよ!」

格闘戦特化の愛機リグエルⅡを誇りとしているリゲルも今回ばかりは火力不足に不満を述べ、16連打パンチ→アッパーカット→回し蹴りと繋ぐ必殺技「月光ファイアフライ」を叩き込んでから離脱を図る。

リグエルⅡの徒手空拳は当然ながら全て物理攻撃なので、タケミカヅチの分厚い装甲を()くには無理があったのだ。

「1小隊につき1機っていうノルマは厳しいぞ! ……ッ、もう弾切れか!」

リゲルと同じく格闘型の機体(アゲハ)を駆るシズハも鋼の巨人の防御力に手こずっており、予備弾倉まで使い切ったショットガンを投棄し格闘戦へ移行しようとしていた。

「姉ちゃん、私のアサルトライフルをあげる! ちゃんと受け取ってね!」

タケミカヅチのミサイル攻撃が飛び交う最中、姉の無茶を懸念したミノリカは自機が装備しているアサルトライフルを茜色のMFに向かって放り投げる。

「マガジンも1個よこ――ミノリカッ! 気を付けろッ!」

ライフルだけでなく予備弾倉も要求しようとしたその時、シズハは妹の機体に迫る複数の対空ミサイルを視認し、それを知らせるべく必死になって叫ぶ。

「へッ……?」

しかし、彼女が大声を出したせいで逆にミサイルアラートの音をかき消してしまい、ミノリカが後方確認した時には既に回避不能な状況となっていた。


 たとえ回避不能だとしても咄嗟にチャフとフレアを散布し、ミサイルが逸れてくれる可能性に期待を懸けるミノリカ。

「きゃッ!?」

だが、彼女の願いも空しくミサイルは吸い込まれるように乗機クシナダの背部に命中。

物理攻撃に強い増加装甲のおかげで致命傷は免れたが、HISのダメージインジケーターが所々赤く表示されており、損傷自体は決して小さいものではないことが分かる。

「ミノリカ! 大丈夫か!?」

「くッ、クシナダの増加装甲を甘く見ないで! 一発なら耐えられるんだから!」

安否確認のため呼び掛けてくるシズハの声に答えるようにミノリカは増加装甲を切り離し、姉を心配させまいとすぐさま反撃に転じる。

バックパックが損傷したことによる出力及び推力の低下が気掛かりとはいえ、まだ慌てるような状況ではない――と甘く見ていたのはむしろ彼女の方だった。

「次はこっちの番よ!」

長らく待ち侘びていた新兵装である左肩部マルチガンランチャーの砲口をタケミカヅチに向け、強烈な一発をお見舞いしてやろうと照準を合わせるミノリカのクシナダ。

「待てッ! そいつのマニピュレータには……!」

「ッ!?」

結局、彼女はルミアが慌てて警告するまで気付けなかった。

タケミカヅチのマニピュレータは指一本一本が中口径レーザー砲となっており、攻撃範囲に立ち入れば5連装×2の10門一斉射撃で薙ぎ払われてしまうことを……。


 次の瞬間、鋼の巨人の指先から蒼く細長い光線が10本同時に照射され、そのうちの1本が琥珀色のMFへと牙を剥く。

「うわぁ! そんなレーザーを積んでるとか聞いてないよぉ!」

ミノリカは悲鳴を上げながらも決死の回避運動で直撃だけは避けるが、運悪く大出力レーザーが装填済みのマルチガンランチャーを掠めたことで誘爆。

「(あ……これはホントにヤバいかも……)」

クシナダの左上半身が損壊するだけに留まらず、誘爆時の爆風を受けるカタチとなったミノリカも負傷が自覚できるほどの大ダメージを受けてしまう。

先ほどの悲鳴を最後に彼女との通信は途切れており、この時点では何が起こったのかΔ小隊の面々は把握できなかった。

「野郎ッ! よくもミノリカをッ!」

たった一人の妹を殺された――と早とちりしたシズハは当然激昂し、愛機アゲハの主兵装である専用ビームサーベルをブーメランのように投擲(とうてき)することでタケミカヅチの指を斬り落とす。

「落ち着けシズ! 彼女はまだ死んでいない!」

「あの当たり方なら大丈夫だ! さっさと妹を回収してやれ!」

一方、墜落したクシナダの姿を目視確認できたリゲルとルミアはコックピットブロックの無事を確信すると、熱くなり過ぎているシズハを窘めつつ彼女が妹を助けられるよう取り計らう。

「分かった……少し席を外すことになるが、後は頼む」

妹の生存が判明したことでシズハは落ち着きを取り戻し、タケミカヅチの攻撃を掻い潜りながら大破・擱座(かくざ)しているクシナダの隣へと向かうのだった。


「そのマニピュレータは厄介だな! 悪いが手は潰させてもらう!」

オータムリンク姉妹が後退するための時間を稼ぐべく、ルミアは対空砲火に臆する事無くタケミカヅチへと接近。

「あらよッと!」

愛機シャルフリヒターの大型戦斧を力強く振り回し、鋼の巨人のマニピュレータを右手首ごと斬り落とす。

これで先ほどミノリカを落とした5連装レーザー砲はもう使えないはずだ。

「腕の可動域分だけ射角を変えられる連装レーザー砲とはね……こいつらはまだ使いこなせていないようだが、直撃を貰ったらミノリカと同じ(てつ)を踏むことになるな」

一方、刀剣類を装備していないリゲルのリグエルⅡは徒手空拳でタケミカヅチに立ち向かい、レーザー砲となっている左手の指を潰していくことで無力化を図る。

分厚い装甲が特徴的な鋼の巨人と言えど指はさすがに紙装甲であり、リグエルⅡの手刀でも容易に内部機構を損傷させることができた。

「火力も防御力も高いとか、マジで面倒くせぇ奴だぜ。こういうのってゲームとかだと必ず弱点があるのによ」

もっとも、両手をダメにしただけではタケミカヅチの勢いを止めるには至らず、軍艦並みのタフネスぶりにルミアは思わず悪態を()く。

「僕たちの戦争はゲームじゃないのさ。弱点を見せてくれるような都合の良い事など――」

それに対してリゲルが「ご都合主義に期待するな」と言い返そうとしたその時、彼女の言葉を遮るかのようにタケミカヅチの首筋付近で爆発が起こる。

「援護攻撃……? しかも、今の一撃で巨人を沈黙させたのか……!?」

自分やルミアからは狙えない位置への攻撃に驚くリゲルだったが、それよりも重要なのは今の援護攻撃だけでタケミカヅチが完全に沈黙したことについてだ。


 Δ小隊から比較的近い位置で戦っていて、尚且つ一点を狙う精密射撃ができる人物――。

思い当たるのは一人しかいない。

「おいおい、私たちが頑張ってたのに横取りは無いんじゃないの? レンカちゃんよぉ?」

「ごめんなさい。そのお詫びとしてタ――超兵器の弱点が分かったので教えてあげます」

獲物を横取りされるカタチとなったルミアが冗談交じりに責め立てると、援護攻撃でトドメを刺してしまったレンカは「お詫び」という名目でタケミカヅチの弱点を説明し始める。

「人間と同じで頸椎(けいつい)に神経が集中しているのか?」

「そういうわけじゃ無いんですけど、あの超兵器のコックピットブロックは首の下辺りに存在するみたいです」

武術を心得ているリゲルによる「惜しい見解」を訂正しつつ、先ほど自分が狙撃した箇所の位置情報をΔ小隊含む全ての味方機へと転送するレンカ。

この行動はルナサリアンの特殊工作員「ホシヅキ・レンカ」ではなく、スターライガの一員「レンカ・イナバウアー」としての意思に基づくものだ。

「見た感じでは前面に乗降口は無かった。つまり、お前が狙撃した所は構造上脆弱な部分であり、コックピットまで攻撃が届くというわけだな」

大まかな説明と自身の経験を照らし合わせた結果、ルミアは「タケミカヅチは背面側に乗降口を持ち、その関係で少しだけ防御力が低い」という答えに辿り着く。

「ええ、ただし脆弱なのはあくまでも他の部分に比べてという話で、装甲を貫けるだけの火力が無いと恐らく届きませんよ」

彼女の発言を概ね肯定したレンカは「弱点を突くには高火力が必要」とだけ言い残し、自らの戦いへと戻るのであった。


「――そうか、ならば巨人どもの駆逐は任せるぞ。サキモリ部隊の相手は俺の小隊で引き受ける」

レガリアから「タケミカヅチの弱点が分かった」という趣旨の報告を受け、そちらの相手は任せたいと伝えるライガ。

彼が率いるα(アルファ)小隊の相手はまだ11機も残っているシモヅキ隊だ。

「超兵器の弱点が分かったみたいね」

「ん? レガリアと話していたのが聞こえてたのか?」

通信終了のタイミングを見計らい話し掛けてくるサレナに対し、ライガは首を傾げながら遠回しに「もしかして声が漏れてた?」と聞き返す。

「いえ、そう感じたの」

幼馴染から返ってきたのは、理論派と云われる彼女にしては珍しい曖昧な言葉。

「……お前、何だかリリーみたいだぜ。まあいい、欠席してるアイツの分も俺たちが頑張らないとな」

もう一人の幼馴染が言いそうな答えを聞いたライガは軽く笑い飛ばすと、今回不在であるリリーの分も頑張れと仲間たちに発破を掛ける。

この時の彼はまだ気付いていなかったのかもしれない。

「(この嫌な感じ……何だろう、これから怖い事が起こりそうな気がする……)」

サレナもまた、姉と同じく「覚醒」の時を迎えつつあることを……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ