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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-27】ワシントンは陽に暮れて(後編)

 スーペルストレーガの必殺技「クアッドスパーク」の蒼い光は第1機械化巨人大隊からも視認でき、将兵たちの多くは空を焼き尽くさんばかりの攻撃範囲に戦慄した。

今回はミサイル迎撃に使われたからよかったが、あれは敵部隊を一瞬にして消滅させ得るほどの力を秘めている。

「あの光……まさか、スターライガは戦略兵器を運用できるというのか!?」

「あれの直撃を受けたら、タケミカヅチの防御兵装と装甲を以ってしても耐えられるかどうか……」

ルナサリアンの機動兵器にあのレベルの範囲攻撃が可能な機体は無く、ルナと副官は蒼い光の正体がMFの固定武装にすぎないとは想像できなかった。

「うむ、タケミカヅチといえど無敵ではない。集中攻撃で沈められる前に攻撃目標を叩くぞ」

その破滅の光が主力部隊へ向けられたら壊滅は必至――。

2発目が放たれないうちにルナは部隊を前進させることを決断し、主力たる8機のタケミカヅチへ「突撃戦法を使う」という指示を通達する。

「敵は市街地に配慮して全力を出せないはずです。制約に付け入るようで気が引けますが、今日ばかりは状況を上手く利用させて頂きましょう」

副官が指摘している通り、オリエント・プライベーター同盟は市街地への被害を考慮しなければならないハンデがある。

逆に第1機械化巨人大隊は敵地での戦いであるため、摩天楼を薙ぎ倒しながら進撃しても何ら問題無い。

「人々が生き残れば町は再建できるさ……大隊前進! 戦線を一気に押し上げることで早期決着を付ける!」

たとえ町が壊されても人はそれを乗り越えられるとフォローしつつ、大隊に突撃命令を出して速攻を試みるルナ。

しかし、この時の彼女は知る由も無かった。

ワシントンD.C.には多数の市民が残っており、しかも彼らは時間稼ぎのために事実上見捨てられていたことを……。


「トリアキスよりバルトライヒへ、敵主力部隊の前進開始を確認しました!」

「こういう光景、マンガで見たことあるぞ! 確か……何てタイトルだったかな?」

これまで対地ミサイルの発射以外は沈黙を続けていたタケミカヅチ部隊が突如前進を開始し、市内中心部へ急速に迫っていることを報告するヒナとリュンクス。

「ボケてると年俸を下げるわよ! そんなことよりも巨大ロボットの足止めを任されてくれるかしら!」

それを受けたレガリアはふざけているリュンクスを叱責しつつ、ヒナ率いるΗ(イータ)小隊にはタケミカヅチへの攻撃を命じる。

ミサイル以外の攻撃手段や戦闘力についてはまだ分かっていないが、ここで尻込みしていたらあっという間に市内中心部への侵攻を許してしまう。

いずれにせよ、鋼の巨人の実力を確かめるには一度仕掛ける必要がある。

「やってみます! Η各機、前方の巨大ロボットに集中攻撃を仕掛けるわ! 的は大きいから撃てば当たるはず!」

プロである以上「やれません」と言うわけにはいかず、リュンクスを含む小隊各機に対し指示を出すヒナ。

「私たちは別の奴をやる! その代わりツクヨミの相手は頼んだぜ!」

一連のやり取りを聞いていたルミアも巨人駆逐に参加することを表明し、指揮下のΔ(デルタ)小隊を前進させるのであった。


 Η小隊はそれなりに高火力な機体が揃っており、4機で攻撃を集中させれば強大な超兵器にも有効打を与えられる可能性が高い。

もっとも、タケミカヅチがバリアフィールドのような防御兵装を搭載していた場合、有効な攻撃手段は限定されてしまうのだが。

「みんな、まずは私が接近してみるわ。機動力が高い機体に乗っているから、捕捉されても振り切れる自信があるもの」

今一番必要としている情報はタケミカヅチの武装とその攻撃範囲、そして防御兵装の有無や装甲が薄い箇所も探り当てたい。

実際に交戦しなければ得られないデータを収集するため、ヒナは愛機トリアキスと共に危険な仕事を自らの手でこなす。

彼女が駆る深紅のMFは機動力に優れた可変機であり、敵の攻撃をかわしながら情報収集するにはうってつけの機体だ。

「へッ、言ってくれるじゃん。んじゃ、私たちは可変機乗りの実力を見学させてもらうよ」

「余裕こいてる場合じゃないだろ? その間ボクたちはヤツの足止めをする必要がある」

「わ、分かってるよ……冗談だって」

戦場という極限状況でアレニエとパルトネルが軽口を叩き合えるのも、真面目で腕が立つ小隊長に対する信頼の証なのだろう。

「フフッ、牽制攻撃はあなたたちに任せるわよ。私は可能な限り接近して敵機の情報収集に努めるからね」

「「「了解!」」」

図太い神経が持ち味の傭兵トリオに思わず苦笑いすると、彼女らの実力を知っているヒナは改めて散開を指示するのだった。


「(戦いの基本は敵の頭上を取ることよ!)」

ファイター形態に変形したヒナのトリアキスは持ち前の大推力で一気に高度を上げ、タケミカヅチの頭部を狙うように急降下攻撃を仕掛ける。

「ファイア、ファイア!」

しかし、深紅のMFのレーザーライフル連射攻撃は蒼い光の壁――光学防壁「ショウマキョウ」に容易く阻まれてしまう。

「バリアフィールド……!? くッ、トリアキスのライフルじゃ貫けないわね……」

超兵器らしい強力な防御兵装の存在に険しい表情を浮かべるヒナ。

動力性能を重視しているトリアキスのレーザーライフルは軽量タイプの専用品であり、残念ながらバリアフィールドを貫けるほどの出力は持ち合わせていない。

一応、バリアフィールドの内側からならばレーザーを直接当てられるが、タケミカヅチのような人型ロボットは球状の範囲を有効活用できるため、そもそもMFが飛び込めるほどの隙間は無かった。

「(対空ミサイルのせいで接近も容易ではないか……ならば!)」

ヒナのように空から襲い掛かる敵への対策と思われる対空ミサイルをかわしつつ、彼女はバリアフィールドの影響を受けない実体系兵器による攻撃を試みる。

「ミサイル、シュート!」

トリアキスのバックパックに設けられたハードポイントから複数の大型対地ミサイルが切り離され、鋼の巨人に向かって飛翔していく。

ところが、自信を持って放ったその一撃はタケミカヅチが散布したチャフに撹乱(かくらん)された挙句、それに惑わされなかったミサイルも迎撃によってかなり落とされてしまった。

命中弾は与えたものの、背部の最終装甲を損傷させただけで内部機構にダメージは及んでいないようだ。

「(近接防空ミサイルによる迎撃とは……やるわね。数発は命中させたけど、これは相当骨が折れそうだわ)」

一撃離脱戦法の鉄則に従いタケミカヅチから離れると、その防御力の高さにヒナは心の中で弱音を吐く。

「当てられた!? わぁぁぁぁぁぁッ!」

「ッ! アレニエ! 何があったの!?」

そんな彼女の意識を現実へ引き戻したのは、アレニエの只事ではなさそうな悲鳴であった。


「クソッ! 正面から挑もうとした私が迂闊だったよ!」

アレニエの愛機アラーネアは近接戦闘向きの機体であり、一気に肉薄しようとしたところタケミカヅチの胸部大口径機関砲及び速射光線砲による一斉射撃を浴びて被弾。

幸運にも致命傷は免れたが、よりによって敵機の前方という最悪の場所に不時着してしまっていた。

「大丈夫か!? 声を聞く限り身体は無事みたいだが……」

「怪我してないのはツイてたよ……でも、機体の操縦系統をやられたみたいだ。スロットルペダルを踏んでも反応が無い」

珍しく真面目に身を案じてくれるパルトネルに対し、自分よりも機体の方が重傷だと伝えるアレニエ。

怪我をしなかったのは本当に幸運だったが、バックアップも含めた操縦系統が壊れるのは逆に不運であった。

「それじゃあダメだ! 回収してやるから今すぐ脱出しろ!」

セピア色のMFの損傷状況を目視確認したリュンクスは戦闘続行不能と判断し、アレニエに機体を捨てて脱出するよう促す。

大事なのは機体よりも人命である。

「ああ、アイツにアリみたいに踏み潰されるかもしれないけどね……!」

しかし、当のアレニエは放置車両を吹き飛ばしながら迫り来るタケミカヅチの進路上で立ち往生しており、たとえ脱出しても退避できない可能性が極めて高かった。

「(身構えている時は死神は来ないって言うけどさ……お呼ばれが今日とは勘弁してほしいね)」


 戦友たちの会話を聞いていたパルトネルは咄嗟に行動を起こす。

彼女が駆るテレイアは注意を引き付けるためにあえて敵の眼前へと移動し、自機を追うように動くタケミカヅチの頭部に背部レールキャノンの照準を定める。

「この手のロボットは大抵頭にセンサー類が詰まっているんだろ!? だったら……レールキャノン、ファイアッ!」

蒼い電流を(ほとばし)らせた砲身から2発の徹甲弾が射出され、ゴーグル型の保護パーツが特徴的な巨人の頭を正確に撃ち抜く。

パルトネルの予想が正しければ、センサー類が集中している重要部位を破壊することで多少の目潰しにはなるだろう。

「リン! お前は脚を撃って足止めしろ!」

「あいよッ!」

敵の頭上で目立つ機動(マニューバ)をしつつ彼女はリュンクスに脚部への攻撃を指示し、少しでも足止めになってくれるよう託す。

動きさえ止めれば後はフリーで行動可能なヒナが何とかしてくれるはずだ。

「全弾持って行けぇぇぇッ!」

戦友からの頼みを受けたリュンクスは巨人の脚部に狙いを定め、愛機スタークキャットの全射撃武装を撃ち込むことで硝煙(しょうえん)を発生させつつダメージ蓄積を図る。

中でも本作戦より使用可能となった左肩部折り畳み式マルチガンランチャーの火力は絶大であり、命中さえすれば鉄壁の装甲を誇るタケミカヅチに明確な損傷を与えていた。

「スモーク散布!」

そして、タケミカヅチが怯んだ隙に急降下してきたヒナのトリアキスはすかさずスモークグレネードを発射。

煙幕が立ち込めている間にアレニエのアラーネアを回収し、スラスターを目一杯噴かしながら離脱を図るのだった。


「ヒナ……!」

「CF(チャフ・フレア)散布からの回避運動! 急いでッ!」

窮地を脱したことで安堵するアレニエを急かすように防御兵装の使用を促し、彼女の機体を庇いながら回避運動を行うヒナ。

だが、タケミカヅチから発射された複数の対空ミサイルは2機のMFを完全に捉えており、重量約4tのアラーネアを引っ張っているトリアキスはかわし切ることができず直撃弾を貰ってしまう。

「ヒナッ! 直撃したけど大丈夫かい!?」

アレニエはまたしても悪運に助けられた。

直撃弾の爆発は当然彼女にも襲い掛かったが、深紅のMFが壁になったおかげでダメージは皆無だったのだ。

「ええ、何とかね……小さな破片が刺さっただけよ」

一方、文字通りその身を呈するカタチとなったトリアキスは左半身が中破し、搭乗者のヒナも飛散した破片で腕や太股(ふともも)に怪我を負っていた。

本人は「小さな破片」と言っているが、そのわりには傷口から随分と出血しているように見える。

「アレニエ、その機体は応急修理じゃ済みそうにないわ。今日は戦線離脱して後方支援に徹した方が良さそうね」

「……悔しいけど、私もそう思う」

損傷状況を確認したヒナは自身の応急手当も兼ねて一時後退することを提案し、アレニエもその指示を素直に受け入れるのであった。

「(今回はかなりの持久戦になるかもしれないわね……)」

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