【BTF-25】ワシントンは陽に暮れて(前編)
Date:2132/08/15
Time:18:22(UTC-4)
Location:Washington,USA
Operation Name:BEAST METROPOLIS
事態は急を要しています!
偵察活動により発見されたルナサリアン超兵器部隊は現在ワシントンD.C.の東方約30km地点を移動しており、議会議事堂やホワイトハウスといった中心部――ナショナル・モールを既に射程圏内に収めていると考えられます。
また、不運なことに本日8月15日は平和祈念のメモリアルデーであり、ナショナル・モールに大勢の市民が集結しているとの情報もあります。
本来市民を守るべきアメリカ軍は限られた戦力でルナサリアン艦隊と交戦しているため、超兵器部隊と真っ向勝負で渡り合えるのは私たちだけです。
我々オリエント・プライベーター同盟はすぐに戦闘態勢へ移行し敵戦力と交戦。
都市部と一般市民への被害を抑えつつ、敵超兵器を全て撃滅してください。
この世界にとって8月15日は極めて重要な日だ。
20世紀最悪の戦争として語られることが多い第2次世界大戦――。
保守的な日英同盟と急進的なアメリカ陣営による覇権争いはその日終わりを迎え、結末はどうであれ地球人類は戦いに終止符を打った。
「8.15」は世界共通の終戦記念日となり、「恒久平和を実現させるために努力し続けることを誓う日」として今も受け継がれている。
「誰がギーズ大統領の代わりをやっているんだ!? 俺たちは何も知らされていないんだぞッ!」
8月15日にホワイトハウス前へ大量の市民が殺到し、平和主義者による抗議デモが起こるのは例年通りの光景だ。
「政府関係者が市民を見捨てて疎開したって噂は本当なのか!? ニュースじゃルナサリアンが世界各地に同時攻撃を開始したって……!」
しかし、今年のメモリアルデーは市民たちが一方的に怒号を飛ばす異様な雰囲気で始まっていた。
「情報開示を要求するわ! それができないのなら、せめてホワイトハウスから顔を出しなさいよ!」
「チクショウ! 最悪の終戦記念日だ!」
固く閉ざされたゲートの前に集まり、ギーズ政権に代わる暫定政権の情報開示を求める市民たち。
幸運にも難を逃れた閣僚たちにより発足された暫定政権は「セキュリティ対策」を理由に人員構成などを一切公開しておらず、それにアメリカ国民の大半は不信感を抱いていたのだ。
「み、みんな……あっちを見てくれ! ほら! 議事堂の方向だよ!」
そんな中、暫定政権に対する抗議目的でホワイトハウス前に来ていた一人の黒人男性は「揺れて見えるビルの影」が気になり、大声を上げながら連邦議会議事堂の方角を指し示す。
だが、彼の声は暴徒化した群衆の怒号に呑み込まれ、この時点では誰の耳にも届くことは無かった。
その時、まるで人々の声を遮るかのように甲高い高音が聞こえ始め、しかもその音はどんどんナショナル・モールへと近付いて来る。
「ん……飛行機か? いや、飛行機の音はもっと迫力があるよな……」
確かに、現代のジェット機は高音を響かせながら大空を飛ぶが、飛行機のエンジン音にしては少し繊細な音のようだ。
「MFだ! 軍のMF部隊が来てくれた!」
次の瞬間、先ほどまでとは一転して静まり返った民衆の頭上を多数のMFが通過していき、例のソプラノのような高音を残しながら議会議事堂の方向へと飛び去っていく。
飛んでいるMFを見分けるのは困難とはいえ、多くの人々はMF部隊がアメリカ軍の所属だと勘違いしていた。
「でも、アメリカ軍の機体じゃないぞ。ルナサリアンでもなさそうだし……あれはどこの所属なんだ?」
「誰かミリタリーマニアはいないのか!?」
一方、それなりに航空情報をかじっているマニアは飛び去った機体がアメリカ軍のFM-10Aとは異なることを訝しみ、スマートフォンのカメラでその正体を確かめようとする。
「スターライガ……!」
そして、自他共に認めるミリタリーマニアである青年は、誰よりも早く謎のMF部隊がスターライガの個性的な機体群だということに気付いていた。
オリエント・プライベーター同盟の混成部隊が巡航している高度500mからはワシントンD.C.の町並みを一望でき、眼下の道路を走る車や人の動きもある程度は捉えられる。
「戦時下でどれだけの人数を集めやがったんだよ、クソ大統領代行め!」
当然、市民が大量に集まっているホワイトハウス前の光景は上空からでも大変目立ち、それを目の当たりにしたブランデルはアメリカ大統領代行の非常識さに怒りを抱く。
「あそこに流れ弾が向かったら地獄になる。可能な限り早い段階で巨人たちを止めなくては!」
彼女の姉であるレガリアも市民と都市に対する被害を懸念しており、市内中心部への到達前に敵を食い止めたいと考えていた。
「この距離からでもよく見えるぞ。なんて大きさだ……!」
「アイツって25mあるんでしょ? MFでどうやって戦えばいいのさ?」
しかし、敵部隊の本命たる超兵器タケミカヅチは全高25mの巨大ロボットであり、その5分の1しかないMFとは人間と中型犬ほどのサイズ差がある。
それなりに強気な性格をしているシズハとミノリカの姉妹も、さすがに今回ばかりは躊躇いを隠すことができない。
「覚悟を決めろ、あらゆる手を尽くすんだ。あれも人の手で造られたモノならば、壊れないということはあり得ない」
「リゲルの言う通りだぜ。不可能を可能にするために足掻くのがスターライガだろ?」
そんな彼女たちと同い年ながら実戦経験豊富なリゲルとルミアは二人でオータムリンク姉妹に活を入れ、タケミカヅチの護衛戦力と思われる16機のサキモリ部隊を睨みつける。
「まずはツクヨミのお出迎えか。どうやら、奴らをシカトするのは難しそうだ」
取り巻きを片付けなければ超兵器への攻撃に集中できない――。
そう判断したルミアは火器管制システムのセーフティを解除し、まずは敵編隊の先頭を飛ぶ改ツクヨミ指揮官仕様に狙いを定めるのだった。
「全機散開ッ! タケミカヅチと接触される前に数を減らす!」
複数機からロックオンを受けたルナは回避運動を取りつつ僚機を散開させ、先制攻撃による損害を未然に防ぐ。
第1機械化巨人大隊は援軍無しで任務遂行しなければならないため、いつも以上に戦力を温存しつつ戦う必要がある。
「アメリカ軍とは識別信号が違う! 何者なんだこいつらは!?」
自分の小隊を集め直したシモヅキ隊副官はすぐさま反撃へと転じるが、捕捉した敵機がアメリカ軍以外の識別信号を発していることに疑問を抱く。
事前情報では作戦エリア付近に展開しているのは「アメリカ軍の小規模な防衛戦力」だけのはずだが……。
「スターライガだと……! 数時間前に確認した所属不明機は彼女らの偵察機だったか!」
自身と同じ隊長機である可能性が高い白と蒼のMF――ライガのパルトナ・メガミと交錯した瞬間、ルナは今戦っている相手が最強最悪の連中だということに気付かされる。
数時間前、大隊の様子を窺うように単独行動を取っていたMFもおそらくはスターライガの所属だったのだろう(厳密には異なるが)。
「チッ、考え得る限り最悪の相手ですね……」
「うむ……しかし、彼女らを倒さずして任務を果たすのは難しい。ここは同じ土俵に立てる我々で相手取ろう」
これまでに数多くの同胞を葬ってきたという強敵の登場に悪態を吐く副官に対し、その強敵を倒せるのは自分たちだけだと覚悟を示すルナ。
「全機、生き残って我が隊の名声を上げる!」
「「「了解!」」」
彼女の鼓舞に副官以下15人のエイシたちは力強い返事で答え、機体性能・操縦技量共に格上であるスターライガ+αへ勇猛果敢に立ち向かうのであった。
一方その頃、第1機械化巨人大隊の主力である8機のタケミカヅチは進軍を一時中断し、戦線の後方からサキモリ部隊とオリエント・プライベーター同盟の戦いを見守っていた。
「サキモリ部隊が押っ始めやがったな」
「どうする? 指示があるまでこのまま待機するのか?」
タケミカヅチの乗員は全て軍規違反者で構成されており、監視役に当たるサキモリ部隊の指示から逸脱した行動を取ることは認められていない。
超兵器への搭乗が許されたのも「先行量産型の超兵器に正規兵を乗せるのはリスクが高い」と上層部に判断されたからだ。
つまり、軍規違反者たちは能力云々よりも「使い捨てが利くか否か」を基準に選抜されていたのである。
「……タケミカヅチ全機、対地誘導弾の発射用意!」
命令違反、素行不良、誤射、皇族批判、敵前逃亡――。
それら前科持ち集団のまとめ役を押し付けられている懲罰兵カレハヅキ・シノは指示が出ないことに痺れを切らし、何を思ったのか独断でタケミカヅチ部隊に号令を発してしまう。
「待て! 懲罰兵による独断専行は絞首刑ものだぞ!」
「命令を待ってたらサキモリ部隊が全滅する! 生き延びるためには命令なんてクソ食らえだ!」
彼女の隣に座る操縦補佐官は更なる処罰を恐れて再考を促すが、敵前逃亡により有罪判決を受けているシノはあくまでも「生き残ること」が最優先だと反論する。
「……」
懲罰兵らしからぬ正論には何も言い返せず、沈黙というカタチで肯定を示すしかない操縦補佐官。
「ホワイトハウスとやらをぶっ壊せば作戦成功なんだろ? だったら中の人間ごと吹き飛ばしてしまえばいい!」
作戦内容を再確認したシノは火器管制システムの権限を無理矢理移譲させると、タケミカヅチ部隊全機に対し改めて攻撃指示を下すのだった。
「あたしの合図で目標地点に対地誘導弾を一斉射撃! 3、2、1……撃てーッ!」




