表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/400

【BTF-23】発動! 第2次地球降下作戦!

 戦艦シオヅチ――。

ルナサリアンの軍事を司るユキヒメの座乗艦にして、攻防共に優れた性能を誇る世界最強クラスの超弩級戦艦である。

「兎は舞い降りるッ! 我ら月の民の誇り高き指導者オリヒメ様は決断された! 未だ無益な戦争を続ける野蛮人どもに完全敗北を突き付けるべく、我々は大いなる決意と共に再び蒼い惑星へと降り立つ!」

第2次地球降下作戦の開始を前にユキヒメは艦内に特設された演説スペースへと向かい、そこで作戦参加予定の全軍に対し奮起を促す。

彼女はあまり弁が立つタイプではないため、この演説は事前に作成しておいたカンペを見ながら行っている。

「勇敢なる月の民の戦士諸君、これは我々の未来を懸けた聖戦であるッ! 光り輝く未来を勝ち取るために諸君らの命を今一度預け、悪あがきを続ける野蛮人どもに鉄槌を下すのだッ!」

自身をしっかりと捉えているカメラに視線を送りながら右手を握り締め、映像通信越しに見ているであろう将兵たちへ力強い言葉で訴えかけるユキヒメ。

「全軍、錨を上げろッ! 現時刻を以って第2次地球降下作戦を発動する! これより作戦計画に従い地球上に展開している戦力と合流し、各国の主要都市へ直接攻撃を行う! ()くぞッ!」

そして、彼女は会議室の壁に掛けられている時計を確認すると全艦隊に抜錨を指示し、文字通りの総力戦となる第2次地球降下作戦の発動を宣言するのであった。

「(今回の地球降下作戦に与えられた期間は4週間……我が軍の総力を結集したこの戦いで主要国を攻め落とし、各国首脳を和平交渉の場へ引きずり出さなくては)」

第2次地球降下作戦の目的は各国の主要都市を陥落させ、首脳たちに降伏勧告――いや、事実上の無条件降伏を受け入れさせることだ。


 低軌道上に集結したルナサリアン艦隊の大半は大気圏突入を行う戦闘艦であるが、補給物資の投下だけで自らは地球に降りない輸送艦隊の姿も多数確認できる。

その中でも一際目を引くのは、底部に外付け式の大気圏突入用コンテナを複数牽引している特別改造輸送艦「第二十四号輸送艦」だ。

「全ての大気圏突入殻の投下準備完了! いつでも行けます!」

コンテナ投下までのタイムリミットが迫る中、各班から作業完了の報告を受けた作業員は上官にもその旨を通達する。

「よし、全作業員の収容は終わっているわね!?」

「ハッ! 点呼で全員健在を確認済みです!」

全ての部下が艦内に戻っていることを確認できた上官は内線電話の受話器を手に取り、コンテナ投下の実行権限を持つ艦長へ準備完了を伝える。

「艦長、大気圏突入殻の準備が完了しました。作業員の退避も既に終了しています」

「分かった、作業員たちには突貫作業で働かせた分休んでいいと伝えておいてくれ」

彼女の報告を聞いた艦長は突貫作業で頑張ってくれた作業員たちを労うと、コンテナ内に待機しているルナと話すため通信回線を切り替える。

ルナサリアンは地球の軍隊のような階級制度こそ設けていないが、指揮系統の優先順位は軍規に基づいて設定されている。

指揮系統表においては艦長よりもルナが上位であるため、少なくともコンテナ投下に対する最終判断はルナに委ねられていた。

「シモヅキ隊長、敵の迎撃が来ないうちに大気圏突入殻を投下します。問題ありませんか?」

「問題無い。そちらの判断で投下願う」

「了解しました……姿勢安定、座標合わせ確認!」

ルナから判断を一任された艦長はクルーに船体の安定及び投下ポイントの座標を再確認させつつ、適切なタイミングが訪れるまで辛抱強く待ち続ける。

「大気圏突入殻、投下ッ!」

「投下ッ!」

そして、全ての条件を満たした瞬間に彼女がコンテナ投下を命じると、火器管制官はその指示を復唱しながら3つのボタンを押し込むのであった。


「クソッ! 哨戒任務用の装備じゃここまでか!」

「あれだけの規模の艦隊を大気圏突入させるなんて……ルナサリアンもいよいよ本気みたいね」

同じ頃、偶然にも哨戒任務に当たっていたルミアとヒナはそれぞれの小隊員と共に接敵を試みたが、推進剤不足により深追いを断念していた。

もっとも、今の彼女たちの装備は航続距離を最重要視したセットであり、仮に交戦できたとしても艦艇相手に有効打は与えられなかっただろう。

「ルミア、ヒナ! 速やかに帰艦してちょうだい! あなたたちが戻り次第すぐに地球へ降下するわよ!」

Δ(デルタ)小隊、了解!」

「こちらΗ(イータ)小隊、了解しました」

ルナサリアン艦隊の追跡が急務だと判断したミッコはすぐさま帰艦命令を出し、それと同時に艦内放送で全乗組員に大気圏突入を行うことを通達する。

「ルナサリアンめ、私たちの迎撃を避けるように大戦力を送り込んできたわね。私もあちらの立場だったら同じことをする」

その時、どこかで放送を聞いていたレガリアがブリッジに現れ、相手が一枚上手だったことを渋々認めながら艦長席に座るミッコに対し状況報告を求める。

「艦長! 今から大気圏突入するとして、最も早くルナサリアンと接敵できる地域はどこ!?」

「離脱中の輸送艦隊が投下したコンテナの軌道から推測するに……アメリカ東海岸の沖合を目標地点にしている可能性が――」

専用タブレットに観測データを基に算出したシミュレーション結果を表示し、アメリカ東海岸付近に降下すれば見失うこと無く追撃できる可能性を示すミッコ。

だが、彼女が話を終える前にレガリアは気付いてしまう。

「まさか……ワシントンを直接攻め落とすつもり!?」

アメリカ東海岸にはニューヨークやワシントンD.C.といった主要都市が複数点在している。

おそらく、ルナサリアンが宇宙から直接戦力投入を図った目的は……。


 アメリカ東海岸にあるデラウェア、メリーランド、バージニアの三州を跨ぐデルマーバ半島――。

ルナサリアン第1機械化巨人大隊はこの半島から約200km沖合に降下し、海面下を西進しながら攻撃目標となるワシントンD.C.を目指していた。

「深度150、周辺に敵影無し」

「あたしたちの大気圏突入は目撃されているはずだ。敵の偵察部隊が出ているつもりで慎重に行動しようぜ」

わずか30時間の機種転換訓練でタケミカヅチに乗せられた懲罰兵たちは移動中も慣熟を重ねつつ、アメリカ軍の防衛ラインに掛からないよう暗い海の中を進んでいく。

ツクヨミの5倍近い大きさを持つタケミカヅチは制御システムが複雑化しており、尚且つ少数生産の超兵器ということで並列複座式を採用している。

左側に座るのが姿勢制御及び出力調整を担う主操縦者、右側に座るのがそれ以外の役割をほぼ全て引き受ける操縦補佐官だ。

「こんなのに乗せられた時はどうなることかと思ったが、乗り心地は案外悪くない。操縦席が広いってのはやはり正義だな」

「その点、ツクヨミに乗ってる監視役の人たちは気の毒だ。陸に上がるまでクソ狭い操縦席から出られないんだからな」

当然、左右方向に2人分のスペースを確保しなければならない都合上、タケミカヅチの与圧機能付きコックピットブロックは5m級の機動兵器よりも広く設計されている。

そのおかげで小規模な居住スペースやモジュール式脱出装置が採用可能となり、快適性に関しては文句無しの100点満点であった。


 一方、今回より本格的に投入されたツクヨミ指揮官仕様の改良型「改ツクヨミ指揮官仕様」は水中行動用ユニットを装備しているため、ただでさえ狭いコックピットが更に窮屈になっていた。

ユニット自体は「水中に潜れない」というサキモリの欠点を克服できる優秀なオプション装備なのだが……。

「貴様ら、作戦行動中だぞ! 私語は慎め! この通信が傍受されている可能性を頭の片隅に入れておけ!」

居住性が悪いせいで普段よりイライラしているのか、シモヅキ隊の副官は随分と呑気な懲罰兵たちを八つ当たり気味に叱っている。

「彼女の言う通りだ。これは敵国首都に奇襲を掛ける博打のような作戦――成功させれば晴れて原隊復帰だが、失敗すれば機密保持のため自決してもらうことになるぞ」

その言動にルナも同意しつつ、彼女はここで初めて第1機械化巨人大隊の作戦目的と失敗時の「自己破壊」について言及する。

一般市民が残っている可能性もある都市部に直接攻撃を仕掛けるなど、本来ならば決して許されない行為だろう。

だから、無事に生還してもこの作戦について語ることは許されず、失敗したら自らの死を以って証拠隠滅を図らなければならない。

「(無論、誰もそのようなことは望んでいない。君たちを少しでも生き延びさせるために私は最大限の努力をしよう)」

記録に残らない「謳われぬ戦い」が目前に迫る中、ルナは大いなる決意を固める。

帰れるかも分からない旅に巻き込んだ責任として、できる限り部下たちを守ってみせる――と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ