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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-20】更なる高みへ

 収容後直ちに手術を受けたリリーは全治約1か月の重傷と診断され、今は頭と両脚に包帯を巻き病室で眠っている。

機体のコックピットブロックが大きく損壊していたことを考慮すると、軽度の裂傷や骨折で済んだのはまさしく「強運」であった。

「手術は無事に終わったよ。今後の回復次第ではあるが、最低でも1週間は安静にしておくべきだと思う。2週目から経過を見ながらリハビリトレーニングを開始し、4週間後――つまり1か月後に実戦復帰させることを目標にしている」

メディカルチームの総責任者としてメスを握ったテアはサレナの自室を訪れ、手術の成功と今後の治療方針について簡潔に報告する。

「1か月……厳密には重傷と言ったところね」

「ああ、両脚の手術は少し大掛かりなものだった。もっとも、後遺症無しで済むのは不幸中の幸いと言ってもいい。頭部の怪我も思ったほど酷くなかったしな」

「姉さんは昔から幸運体質だから……」

少し休んだことで頭の中を整理できたのか、テアの説明を落ち着いた様子で聞くサレナ。

姉が無事だと確証が取れた途端に皮肉を述べる余裕すら見せている。

「そうそう、サレナさんが提出した戦闘詳報をさっき読ませてもらったんだが……残念ながら私には心当たりが無い。心理学の分野ならそっちの方が詳しいんじゃないか?」

リリーの容態に関する報告が終わったところで、テアは普段読む必要が薄い戦闘詳報へ目を通したことをついでに伝える。

これはイノセンスに関する情報収集を頼まれたからであるが、博識だと思われる彼女もさすがに初耳の概念については何も語れない。

「いえ、姉さんが見せたあの現象は心理学以外の観点からも考察すべきだと思うの。あれが本当に人類の進化に関わっているのならば、ね」

自分は心理学にはそこまで詳しくないと指摘するテアに対し、サレナは「イノセンスは一つの分野で完結するほど単純ではない」と答えるのであった。


「――まず、先日は二人ともお疲れ様。無断出撃したリリーについてだけど……怪我でお灸を据えられたみたいだし、6か月の減給処分以外の処罰は与えないことにしたわ」

スペースコロニー「桃源郷」での戦いから2日後、事態を重く受け止めたレガリアはブリーフィングルームにライガとサレナを召喚。

怪我人なので参加できないリリー本人の代わりとして、不祥事を引き起こした彼女に対する処分を口頭で伝える。

「半年か……やらかしたことの重大さに比べれば寛容だな」

6か月の減給処分――。

内心はそれだけで済んだことに胸を撫で下ろしつつも、表面上はあくまでも「スターライガのリーダー」として処分の寛容さに言及するライガ。

「ええ、本当なら謹慎処分でもハッキリ言って軽いと思うけどね。軍隊だったら軍法会議への出廷を命じられ、下手したら銃殺刑ものよ」

もちろん、自分の決定の甘さはレガリア自身も十二分に理解している。

仮に軍隊で同じ問題が起こった場合、当事者のみならず上官やメカニックまで巻き込んだ一大スキャンダルとして扱われるだろう。

「でも、スターライガは軍隊ではない。問題行動には柔軟且つ厳格に対応すべきだ。俺はお前の対応を支持するよ」

しかし、ライガが言っているようにスターライガは軍隊ではなく「プライベーター」である。

メンバーの問題行動には然るべき対応が必要だが、多少は個人の言い分を聞いてあげてもいいはずだ。

「私も右に同じよ。寛大な処分に留めてくれたことを姉の代わりに感謝するわ」

隣に座る幼馴染の発言にサレナも全面同意し、事の発端であるバカな姉の分まで頭を下げる。

「気にしないで。彼女の独断専行は許されることではないけど、ライラック博士を何とかしたいという決意は嫌というほど伝わったわ。次に無断出撃する時は私たちにも相談してほしいわね」

精一杯の謝意を示す彼女に頭を上げるよう促すと、レガリアは冗談を交えながら「メンバーの危機にはスターライガ全員で立ち向かう」という意志を明確にするのだった。


 さて、今回の話し合いの本題はこれで終わったわけだが、大変興味深い話題がまだ2つほど残されている。

「ところで、このネットニュースの記事を見てもらえるかしら。日本語の記事をオリエント語に翻訳したものなんだけど……」

専用タブレット端末を操作し、とあるネットニュースを表示した状態でテーブルの上に置くレガリア。

「ええっと……『衝撃スクープ! 海軍将校が語るスターライガとルナサリアンの疑惑の関係』――ああ、2週間ほど前のアレもマスコミの手に掛かればこう歪められちまうワケだ」

その内容を一通り確認したライガは眉をひそめ、隣に座るサレナにタブレット端末を受け渡す。

真実を歪められた報道など見る価値も無い――少なくとも彼はそう言いたげなようだ。

「そして、こっちはその記事が公開された後にスターライガの公式SNSアカウントに寄せられた批判コメントの一部よ」

タブレット端末を戻されたレガリアはスターライガの公式アカウントにアクセスし、様々な言語で批判が書き殴られているコメント欄を向かい側に座る二人へと見せる。

内容は大半が「報道は事実なのか?」「侵略者と手を組んでいるとしたら絶対に許せない」といったものだ。

「無用な混乱を避けるため、どこの国でも政府主導の情報統制が敷かれているんでしょ? 数少ない情報の内容がこれだったとしたら、翻弄される人々が出てくるのも致し方無いわね」

現在、歴史上でも類を見ない世界的な情報統制が行われていることに言及しつつ、自分たちの行動が原因で多少の混乱を招いてしまったことを認めるサレナ。

「……でも、疑心暗鬼を煽るような情報を流す必要があるかしら?」

「そう言われてみれば……」

だが、レガリアの指摘を受けた彼女は一連の報道の裏に隠された「きな臭さ」に気付く。

地球人類の内部分裂を誘因しかねない、まるでスターライガへの攻撃を意図したかのような信憑性に欠ける記事――。

この情報を売った「海軍将校」と世間一般に公開した「マスメディア」の真意とは一体……?


「とにかく、世間に対する弁明は私名義の声明文で何とかしてみせるわ。SNSの炎上については広報部のスペシャリストに『鎮火』を任せるから、あなたたちは戦いに集中してちょうだい」

タブレット端末を片付けつつ、レガリアは部外者への対応は自分や広報部に任せてほしいと告げる。

戦闘のプロであるライガや学者肌のサレナにはそれぞれ得意分野があり、その能力を活かせない仕事を与えるのは非効率的だからだ。

「話題はそれだけじゃないだろ? まだ『おかわり』があるんじゃないか?」

親友がまだ何か話したそうにしている様子を察したのか、ウィットに富んだ表現で最後の話題を切り出すよう促すライガ。

「ええ、じつはサレナが提出した戦闘詳報に書かれていた『イノセンス』についても少し調べてみたの」

最高責任者として戦闘詳報に目を通したレガリアはここで「イノセンス」という概念を知り、個人的な興味から自力で調査を進めていたのだ。

「何か分かったの?」

「単刀直入に言うとよく分からないの。だけど、知り合いの研究者は『オリエント神話を当たれば手掛かりがあるかも』とは答えていたわ」

目を輝かせるサレナの希望には応えられず、現状における率直な見解を述べるしかないレガリア。

「神話ねぇ……これはまた随分と壮大なスケールの概念が出てきたな」

「少なくとも、現時点で言い切れるのは英語のイノセンス(innocence)とは全く関係無い――ということぐらいかしら」

謎が謎を呼び、神話学の分野にまで足を踏み込ませようとする「イノセンス」に思わず頭を抱えるライガ。

それを見ていたレガリアは苦笑いしていたが、彼女たちも既に「イノセンス」と向き合う運命を定められていることを、まだ未来を見る術を持たないこの時の3人は知る由も無かった。


 数日後、今度はサレナだけを呼び出したレガリアはかねてより要望があった「イノセンス研究を目的とした専門チーム」の設立準備ができたことを伝える。

この専門チームは「イノセンス」という概念について深く考察し、その過程で得られた研究結果を多方面に活かすことを目的としている。

要望書の提出から許可が下りるまでが異常に早く、しかもプロジェクトリーダーのサレナに強大な権限を与えていることからも、イノセンスに対するレガリアの本気度が窺い知れる。

そして、それは人類が更なる高みへの一歩を踏み出す歴史的瞬間でもあった。

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